この記事は、専門家向けではなく、設立間もない会社や消費税を初めて申告する会社などの自分で消費税を理解したいという一般の方を対象としています。
すべての方のために向けて説明するといたずらに難しくなってしまうので、一般の方が消費税を自分で申告するために必要な情報に的を絞って元国税調査官がわかりやすく解説していきます。
今回取り上げるのは「一括比例配分方式」となります。
一括比例配分方式は、前回、解説した個別対応方式と同じく消費税の計算の中でも重要な仕入税額控除の算出方法の一つであり、大変重要な用語になりますので、計算例などを出してしっかり解説していきたいと思います。
それでは、誰でもわかる素人のための消費税シリーズの16回目「一括比例配分方式」始めていきましょう。
はじめに
一括比例配分方式は、仕入税額控除の額の算出方法の一つですので、まずは消費税の仕組みと仕入税額控除について解説していきます。
消費税の仕組み
始めに、消費税の計算は、簡単に次のように言うことができます。
消費税の金額の計算にあたり、仕入れなどで支払った消費税を控除することを「仕入税額控除」と呼びます。
仕入税額控除を算出する3つの方法
この仕入税額控除の額を算出する方法には、3つ方法があります。
それは、
- 全額控除
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
の三種類です。
「全額控除」を行うには、要件が2つあります。まず、この三種類の仕入税額控除の額を算出する方法のなかで、一番有利な方法は「全額控除」です。
- 当課税期間中の税抜課税売上高が5億円以下の場合
- 当課税期間中の課税売上割合が95%以上の場合
の2つが要件となります。
ですが、この2つ要件のうち、一つでも当てはまらない場合、別の方法で仕入税額控除の算出を行わなければなりません。
その方法が、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」となります。
今回の記事では、「一括比例配分方式」にフォーカスした記事となります。
なお、「個別対応方式」について、詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
一括比例配分方式とは
一括比例配分方式とは
一括比例配分方式とは、仕入控除税額の計算方法の一つで、課税仕入れの総額に対応する税額に課税売上割合を乗じることにより、仕入税額控除の額を算出する方法です。
特徴としては、「個別対応方式」とは違い、課税仕入れ等の用途区分を行う必要はなく、簡単に仕入税額控除の額を算出することができます。
一括比例配分での仕入税額控除の計算方法
個別対応方式の仕入税額控除の計算方法は、課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算する方法になります。
個別対応方式を計算式
本来であれば、課税仕入れ等の用途区分を行う必要はないですが、「個別対応方式」との比較であえて、用途区分を行った場合、下記の表及びイメージ図のようになります。
課税売上のみ | 非課税売上のみ | 課税売上・非課税売上共通 | |
一括比例配分方式の仕入税額控除できる額 | 課税売上割合分 | 課税売上割合分 | 課税売上割合分 |
個別対応方式の仕入税額控除できる額 | 全額控除対象 | 控除対象外 | 課税売上割合分 |
一括比例配分方式での仕入税額控除の計算の要件とは
まず、前提として仕入税額控除は「全額控除」できることが、一番会社として有利な計算方法ですので、「全額控除」できるかどうか、判定します。
次のいずれかの要件に該当する場合は、仕入税額について全額控除することができず、按分計算を行う必要があります。
- 当課税期間中の税抜課税売上高が5億円を超える場合
- 当課税期間中の課税売上割合が95%未満の場合
上記のいずれかの要件に該当した場合は、「個別対応方式」か「一括比例配分方式」での仕入税額控除の計算を行うことになります。
なお「一括比例配分方式」であれば、個別対応方式の用途区分も必要としないため、選択するだけで「一括比例配分方式」で仕入税額控除の計算を行うことができます。
課税期間中の課税売上高(※1)が5億円を超えているか
課税期間中の課税売上高が5億円を超えている場合は、「個別対応方式」もしくは「比例配分方式」を選択していて仕入税額を計算する必要があります。
※1「課税売上高」…
消費税がかかる売上の合計額 + 輸出取引等の免税となる売上の合計額
もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
課税売上割合(※2)が95%以上か
当課税期間中の課税売上割合が95%未満の場合は、「個別対応方式」もしくは「比例配分方式」を選択していて仕入税額を計算する必要があります。
※2「課税売上割合」…
課税売上割合とは、課税期間中に国内で行った資産の譲渡等の対価の合計額のうちに課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいいます。
もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
一括比例配分方式での仕入税額控除の計算例
仕入金額などは以下の表の通りにして、計算していきましょう。
用途区分 | 仕入金額 | 支払った消費税額 |
---|---|---|
課税売上に対応するもの | 10,000,000円 | 1,000,000円 |
非課税売上に対応するもの | 1,000,000円 | 100,000円 |
共通のもの | 5,000,000円 | 500,000円 |
合計 | 16,000,000円 | 1,600,000円 |
課税売上割合 | 90% |
上記の金額で一括比例配分方式での仕入税額控除の金額を計算した場合。
(1,600,000円)×90%=1,440,000円(仕入税額控除の額)
計算式は、課税仕入れ等の合計金額に課税売上割合を乗じた金額が控除できる仕入税額(仕入税額控除の額)となります。
このように、一括比例配分方式での計算の特性上、非課税売上対応の課税仕入れ等が多い業種の事業者の方が、有利になること多いです。
ですが、有利になることが多いだけで、絶対ではありません。
有利な計算方法を適用したい場合、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」どちらの計算方法も行ったうえで、選択するようにしてください。
一括比例配分方式の選択と継続適用
課税仕入れ等の用途区分を行っておけば、個別対応方式と一括比例配分方式の有利な方を選択できますが、一つ制約があります。
それは、課税仕入れ等の用途を区分しているにもかかわらず、一括比例配分方式を選択した場合、2年間以上継続して一括比例配分方式を適用しないと、仮に個別対応方式の方が有利であっても、個別対応方式に変更することはできませんので、当課税期間が有利になるかどうかはもちろん、翌期における有利不利も考えて判断するようにしてください。
なお、逆に個別対応方式から一括比例配分方式への変更はいつでもできます。
まとめ
今回は、一括比例配分方式にのみをピックアップして、説明してきました。
課税売上割合が95%以上かつ課税期間における課税売上高が5億円以下の場合は、課税仕入れ等の全額を全額控除できるため、気にする必要はありませんが、課税売上割合が95%未満又は課税期間における課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式又は一括比例配分方式でのいずれかの方法で仕入税額控除の計算する必要が出てきます。
いずれの計算方法もしっかり理解して、ご自身の会社に合った方法を選び、損をしないように税務知識をつけていましょう。
これからも、知って損をしない税務知識や税務調査に関する記事を掲載していきますので、どうぞご覧ください。
最後まで記事をご覧いただきありがとうございました。
執筆者 ジャパンネクス株式会社 元国税調査官 伊藤 佑馬
コメント