この記事は、専門家向けではなく、設立間もない会社や消費税を初めて申告する会社などの自分で消費税を理解したいという一般の方を対象としています。
すべての方に向けて説明するといたずらに難しくなってしまうので、一般の方が消費税を自分で申告するために必要な情報に的を絞って元国税調査官がわかりやすく解説していきます。
今回、取り上げるのは「個別対応方式」となります。
個別対応方式は、消費税の計算の中でも重要な仕入税額控除の算出方法の一つであり、大変重要な用語になりますので、計算例などを出しながらしっかり解説していきたいと思います。
それでは、誰でもわかる素人のための消費税シリーズの15回目「個別対応方式」始めていきましょう。
はじめに
個別対応方式は、仕入税額控除の額の算出方法の一つですので、まずは消費税の仕組みと仕入税額控除の概要について説明します。
消費税の仕組み
始めに、消費税の計算は、簡単に次のように言うことができます。
消費税の金額の計算にあたり、仕入等で支払った消費税を控除することを「仕入税額控除」と呼びます。
仕入税額控除を算出する3つの方法
この仕入税額控除の額を算出する方法には、3つ方法があります。
それは、次の3種類です。
- 全額控除
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
まず、この三種類の仕入税額控除の額を算出する方法のなかで、一番有利な方法は「全額控除」です。
「全額控除」を行うには、要件が2つあります。
- 当課税期間中の税抜課税売上高が5億円以下の場合
- 当課税期間中の課税売上割合が95%以上の場合
の2つが要件となります。
ですが、この2つ要件のうち、一つでも当てはまらない場合、別の方法で仕入税額控除の算出を行わなければなりません。
その方法が、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」となります。
今回の記事では、「個別対応方式」にフォーカスした記事となります。
なお、「一括比例配分方式」について、詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
個別対応方式とは
個別対応方式とは、課税仕入れを「課税売上げにのみ要するもの」、「非課税売上げにのみ要するもの」と「課税売上と非課税売上に共通して要するもの」に明確に区分している場合に選択できる仕入控除税額の計算方法の一つです。
個別対応方式での仕入税額控除の計算方法
個別対応方式の仕入税額控除の計算方法は、課税仕入れを3つのグループに分けてそれぞれ、仕入れ税額控除の金額を個別に計算する方法になります。
課税仕入れのグループというのは、
- 課税売上げにのみ要する課税仕入れ
- 非課税売上げにのみ要する課税仕入れ
- 課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ
の3つとなります。
まず、課税仕入れの中の「課税売上げにのみ要する課税仕入れ」については、全額を仕入税額控除の対象にすることができます。
しかし、「非課税売上げにのみ要する課税仕入れ」については、消費税を預かっていない売上げである非課税売上げに係る課税仕入れであるため、控除対象とすることはできません。
つぎに、「課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ」については、課税売上げと非課税売上げに共通して要するものであるため、課税売上割合を乗じた金額を控除対象とすることができます。
課税売上のみ | 非課税売上のみ | 課税売上・非課税売上共通 | |
仕入税額控除 | 全額 | できない | 課税売上割合相当分 |
個別対応方式を計算式
② 課税売上げと非課税売上げに共通して係る課税仕入れ等の税額 × 課税売上割合
控除対象仕入税額 = ① + ②
個別対応方式を選択するための3種類の区分とは
課税売上げにのみ要する課税仕入れ等
課税売上にのみ要する課税仕入れ等というのは、課税売上を発生させるのに必要だった課税仕入れのことです。
例えば、以下のようなものがあります。
- そのままほかに譲渡される課税資産
- 課税資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包装紙、機械及び装置、工具、用具、備品等
- 課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、カタログ印刷費、支払手数料又は支払加工賃
たとえば、フィギュアショップを運営している会社があるとします。
このフィギュアを販売するための、費用である。
- フィギュアの仕入代金
- ネット販売での送料
- フィギュアの販売のための、チラシ等の宣伝費用
- 店舗販売がある場合は、その店舗の家賃や建築費用
等が「課税売上にのみ要する課税仕入れ等」になります。
逆に、この課税仕入れに対応する売り上げは課税売上か?と考えた方が解かり易いかもしれません。
非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等
非課税売上にのみ要する課税仕入れ等というのは、非課税売上を発生させるのに必要だった課税仕入れのことです。
また正しい法律用語としては、「その他の資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等」といいます。
例えば、
⑴ 土地の売上は非課税売上になります。
土地の販売に要した次の費用が非課税売上にのみ要する課税仕入れ等に該当します。
- 更地で販売する土地の造成費用
- 更地で販売する土地の取得又は譲渡に係る仲介手数料
⑵ 居住用住宅の賃貸は非課税売上になります。
居住用住宅の賃貸のために要した次の費用が非課税売上にのみ要する課税仕入れ等に該当します。
- 賃貸用住宅の建築費、入居に係る広告宣伝費や仲介手数料
- 従業員から使用料を徴収する社宅の建築費、修繕費、維持管理費用
⑶ 有価証券の売買は非課税売上になります。
有価証券の売買のために要した次の費用が非課税売上にのみ要する課税仕入れ等に該当します。
- 有価証券の売買手数料
- 証券会社等の投資顧問料
非課税取引にはどのようなものがあるか、非課税取引とはどのような取引かといった詳細を確認したい場合は、次の記事を参考にしてください。
課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ等
課税売上と非課税売上に共通した要する課税仕入れ等というのは、課税売上げと非課税売上げの両方に対応する課税仕入れ等、または、明確に対応する売上げがない課税仕入れ等のこといいます。
正しい法律用語としては、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等」といいます。
例えば、以下のようなものがあります。
- 本社の家賃、福利厚生費、交際費等の一般管理費
- 課税資産を贈与した場合のその物品の取得費
- 土地及び建物の一括譲渡に係る仲介手数料
- 企業イメージの広告費
簡単な例として、
会社業務全般に係る
- 本社の家賃
- 本社の水道光熱費
- 企業のイメージアップを狙ったポスター費用
などや、土地と建物を一緒に売却した際の手数料等が、「課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ等に係るもの」になります。
また、課税売上のみと非課税売上のみの判定を行って、どちらにも当てはまらない場合は、この「課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ等に係るもの」として区分してください。
個別対応方式での仕入税額控除の計算の要件とは
まずは「全額控除」できるか。
まず、前提として仕入税額控除は「全額控除」できることが、一番会社として有利な計算方法ですので、「全額控除」できるかどうか、判定します。
次のいずれかの要件に該当する場合は、仕入税額について按分計算を行う必要があります。
- 当課税期間中の税抜課税売上高が5億円を超える場合
- 当課税期間中の課税売上割合が95%未満の場合
上記のいずれかの要件に該当した場合は、「個別対応方式」か「一括比例配分方式」での仕入税額控除の計算を行うことになりますが、「個別対応方式」を選択するには、もう一つ要件があります。
それは、
個別対応方式の用途区分ができているか。
です。
もし、用途区分がしっかりできていなければ、「個別対応方式」を選択することはできず、「一括比例配分方式」で計算を行うことになります。
課税期間中の課税売上高(※1)が5億円を超えているか
課税期間中の課税売上高が5億円を超えている場合は、「個別対応方式」もしくは「比例配分方式」を選択していて仕入税額を計算する必要があります。
※1「課税売上高」…
消費税がかかる売上の合計額 + 輸出取引等の免税となる売上の合計額
もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
課税売上割合(※2)が95%以上か
当課税期間中の課税売上割合が95%未満の場合は、「個別対応方式」もしくは「比例配分方式」を選択していて仕入税額を計算する必要があります。
※2「課税売上割合」…
課税売上割合とは、課税期間中に国内で行った資産の譲渡等の対価の合計額のうちに課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいいます。
もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
個別対応方式の用途区分ができているか
「個別対応方式」で仕入税額控除を計算するのであれば、
- 課税売上げにのみ要する課税仕入れ
- 非課税売上げにのみ要する課税仕入れ
- 課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ
の課税仕入れの用途区分をしっかり区分しましょう。
区分できていなければ、一括比例配分方式で仕入税額控除を計算することになります。
個別対応方式での仕入税額控除の計算例
仕入金額などは以下の表の通りにして、計算していきましょう。
用途区分 | 仕入金額 | 支払った消費税額 |
---|---|---|
課税売上に対応するもの | 10,000,000円 | 1,000,000円 |
非課税売上に対応するもの | 1,000,000円 | 100,000円 |
共通のもの | 5,000,000円 | 500,000円 |
合計 | 16,000,000円 | 1,600,000円 |
課税売上割合 | 90% |
上記の金額で個別対応方式での仕入税額控除の金額を計算した場合。
1,000,000円+(500,000円×90%)=1,450,000円(仕入税額控除の額)
計算式は、課税売上対応の課税仕入れ等の消費税額に、共通対応の課税仕入れ等の消費税額に課税売上割合を乗じた金額を合計した額が控除できる仕入税額(仕入税額控除の額)となります。
まとめ
今回は、個別対応方式にのみをピックアップして、説明してきました。
課税売上割合が95%以上かつ課税期間における課税売上高が5億円以下の場合は、課税仕入れ等の全額を全額控除できるため、気にする必要はありませんが、課税売上割合が95%未満又は課税期間における課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式又は一括比例配分方式でのいずれかの方法で仕入税額控除の計算する必要が出てきます。
いずれの計算方法もしっかり理解して、ご自身の会社に合った方法を選び、損をしないように税務知識をつけていましょう。
これからも、知って損をしない税務知識や税務調査に関する記事を掲載していきますので、どうぞご覧ください。
最後まで記事をご覧いただきありがとうございました。
執筆者 ジャパンネクス株式会社 元国税調査官 伊藤 佑馬
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