この記事は、専門家向けではなく、設立間もない会社や消費税を初めて申告する会社などの自分で消費税を理解したいという一般の方を対象としています。
すべての方のために向けて説明するといたずらに難しくなってしまうので、一般の方が消費税を自分で申告するために必要な情報に的を絞って元国税調査官がわかりやすく解説していきます。
今回、取り上げるのは「課税売上割合」となります。
課税売上割合は、消費税の計算を行う上で、欠かせない用語になります。
また、消費税の計算で出てくる用語、計算要素の中でも誤りの多いところになりますので、例などを使って、しっかり解説していきたいと思います。
それでは、誰でもわかる素人のための消費税シリーズの14回目「課税売上割合」始めていきましょう。
課税売上割合とは?
課税売上割合とは
まず、課税売上割合というのは、課税期間中に国内で行った資産の譲渡等の対価の合計額のうちに課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいいます。
もっと簡単に言うと、課税期間中の「売上高」のうちに「課税売上高」が何%占めているのかを示す割合です。
課税売上割合の計算方法
課税売上割合の計算式は次の通りです。
聞きなれない用語が出てきてますので、以下の通り、内容を簡記してますのでご覧ください。
※2「課税売上高」…
消費税がかかる売上の合計額 + 輸出取引等の免税となる売上の合計額
もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
※2「免税売上高」
国内から輸出として行われる資産の譲渡などの取引のことです。
海外で消費されるため消費税が0%となるだけであり、取引の内容は「課税売上」です。
よって、「課税売上割合」の計算上は「課税売上」として計算されます。
詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
※3「非課税売上高」
本来は課税取引であるが、政策的な配慮や消費という概念になじまないなどの理由から、消費税が課せられない取引です。
詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説していますのでご覧ください。
ここで、具体例に沿って「課税売上割合」を計算してましょう。
課税売上割合の算出例
売上げ等は以下の表の通りにして、計算していきましょう。
取引区分 | 金額 |
課税売上高 | 15,000,000円 |
免税売上高 | 1,000,000円 |
非課税売上高 | 4,000,000円 |
合計 | 20,000,000円 |
となり、課税売上割合は80%となります。
課税売上割合は何のためにあるのか。
どこで「課税売上割合」を使うのか。
「課税売上割合」の算出の仕方について、説明してきましたが、「課税売上割合」は何のためにあるのでしょうか。
「課税売上割合」は主に、
- 仕入税額の按分計算の要否の判定を行う。
- 仕入税額の按分計算を行う。
際に、使います。
具体的にどういうことか見ていきましょう。
1.仕入税額の按分計算の要否の判定を行う。
消費税の計算は、簡単に次のように言うことができます。
「売り上げなどで受け取った消費税」 ー 「仕入れなどで支払った消費税」 = 消費税額
なお、消費税の金額の計算にあたり、仕入等で支払った消費税を控除することを「仕入税額控除」と呼びます。
しかし、すべての会社において「仕入れなどで支払った消費税」の全額を「仕入税額控除」として控除することができるわけではありません。
ここで必要となるのが「課税売上割合」です。
課税売上割合によって、支払った消費税の全額を仕入控除できるのか、それとも別の方法で按分計算する必要があるのかが、決まります。
課税売上割合で、仕入税額の計算方法が変わると述べてきましたが、具体的にどのように変わってくるのでしょうか。
次のいずれかの要件に該当する場合は、仕入税額について按分計算を行う必要があります。
- 当課税期間中の税抜課税売上高が5億円を超える場合
- 当課税期間中の課税売上割合が95%未満の場合
課税売上割合が95%以上の場合
課税売上割合が95%以上で、なおかつ当課税期間中の課税売上高が5億円以下であれば、「仕入れなどで支払った消費税額」の全額を仕入税額控除することができます。
課税売上割合が95%未満の場合
課税売上割合が95%未満または、当課税期間中の課税売上高が5億円超の場合は、
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
のどちらか計算方法で仕入税額控除の金額の按分計算を行う必要があります。
2.仕入税額の按分計算を行う
先程、説明しました判定方法で、仕入税額の按分計算が必要になった場合は、
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
の2種類の方法のいずれかを選択して消費税額を計算します。
この計算をする際に、「課税売上割合」が必要となってきます。
ここからはそれぞれの計算方法について少しだけ解説します。
「一括比例配分方式」を選択した場合は、以下のような仕入税額の計算を行う必要があります。
次に「個別対応方式」を選択した場合は、以下のように仕入税額の計算を行う必要があります。
このように、「一括比例配分方式」と「個別対応方式」では、それぞれ控除対象仕入税額の計算方法に違いがあり、控除対象仕入税額の金額も変わってきますし、当然ですが、最終的に納付すべき消費税も変わってくることになります。
課税売上割合の意義
これまで「課税売上割合」は消費税の計算を行うために、どのような場合に出てくるのかを中心に説明してきましたが、消費税法において「課税売上割合」が必要となっている理由についても少し触れていきたいと思います。
先程説明したとおり、消費税というのは次のように計算されます。
「売り上げなどで受け取った消費税」 ー 「仕入れなどで支払った消費税」 = 消費税額
大多数の会社の売上げは、消費税を受け取る取引(課税売上)が中心になります。しかしながらお医者さんが行う診療収入や身体障害者用の物品を販売、居住用の家の賃貸など一部の売上げは、消費税法上、課税すべきではない取引(非課税売上)に該当しており、消費税を受け取りません。
そうなった場合に、消費税を受け取らない取引のために支出した「仕入れなどで支払った消費税」を控除の対象することは、実態に即しているは言えません。
そこで課税売上割合を算出し、非課税売上が多い事業者の仕入税額を、受け取った消費税分だけ控除できるように按分計算することで、控除税額を適正な金額にする必要があるのです。
逆に言えば、課税売上割合は「課税売上を発生させるために行った仕入れのみを控除するための割合」ということになります。
「課税売上割合に準ずる割合」について
原則として、仕入税額の按分計算を行う上で、必要な「課税売上割合」ですが、この課税売上割合の代わりに「課税売上割合に準ずる割合」というものを使って按分計算を行うこともできる場合もあります。
課税売上割合に準ずる割合というのは、例えば価格が高い土地を売却した場合などで、例年通りではなく著しく低い課税売上割合になってしまった場合に、実態の課税売上割合はもっと高いという合理的な理由がある場合に適用できる割合です。
合理的な理由というのは、例えば、使用人の数又は従事日数の割合、消費又は使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合といったものなどがあります。
これはどういうことかと言いうと、「今期の課税売上割合は低いですが、全従業員のうち、90%以上が課税売上にかかわる仕事をしてます」などの合理的な理由があれば、課税売上割合とは別の方法で仕入税額の按分計算を行うことができるということです。
課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、納税地を所轄する税務署に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して、適用しようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受けておく必要があります。
この申請書を「適用したい課税期間中」に届け出て承認を受けることができれば、その課税期間から準ずる割合を適用することができます。
課税売上割合が事業の実態とかけ離れている場合には、課税売上割合に準ずる割合の適用をした方が良いでしょう。
ちなみに、この「課税売上割合に準ずる割合」を適用できるのは、個別対応方式のみですので、一括比例配分方式を採用している場合は、適用できませんので、ご注意ください。
まとめ
課税売上割合について、理解して頂けたでしょうか?
課税売上割合という言葉自体聞きなれない言葉であり、また、課税売上割合が95%以上になる方が多いため、あまり気にされない方が多いとは思いますが、業種が変わったなどで、課税売上割合が変わり、課税売上割合が95%未満になった場合は、消費税の計算でとても重要な用語となりますので、しっかり理解しておく必要があります。
これからも、知って損をしない税務知識や税務調査に関する記事を掲載していきますので、どうぞご覧ください。
最後まで記事をご覧いただきありがとうございました。
コメント