消費税を調べていたり、消費税の申告書を作っていると課税売上高という言葉にしばしば出くわすことと思います。時には法人税の申告書を作っているときにも事業概況説明書で出会ったりもします。
課税売上高は消費税を計算する上で超超重要な言葉です。
なぜならこの言葉の意味を知らないと、大きく税金の計算を誤る可能性があるからです。
この言葉を知らないで消費税の世界にいる、いや事業経営をしているということはほとんど恐怖です。(税理士に依頼している場合は除きます。)
事業を営んでいる方、特に売上が1,000万円を超えるような事業者の方は絶対に知っておかなければいけません。
それでは、心して課税売上高を理解していきましょう。
なお、当記事は元国税調査官による、消費税についてよく知らない、専門家でない一般の方に向けたものです。
すべての方に向けて網羅的に説明すると市販の参考書のようにわかりにくいものになりますので、中小企業向け、一般の方向けに的を絞ってわかりやすく解説します。
1 課税売上高とは
1-1 課税売上高の基本
課税売上高は、簡単に表現すると次のように表現することができます。
消費税がかかる売上が疑問だという場合は、次の記事で詳しく解説していますのでこちらをご覧ください。

免税となる売上が疑問だという場合は、次の記事で詳しく解説していますのでこちらをご覧ください。

まずはこれを基本式として理解してください。
この基本式に加えて次のことに注意してください。
1-2 課税売上高の注意点
1-2-1 課税売上高に含まれないもの
1-2-1-1 消費税
課税売上高には消費税は含まれません。
したがって課税売上高を計算するときは税込の金額から消費税額を差し引きます。
(説例)
消費税がかかる売上の合計額(10%税込) 11,000,000
消費税 1,000,000※
※10%の消費税込の金額から消費税を求める計算式
11,000,000 × 10 / 110 = 1,000,000
このような場合は、課税売上高は以下のようになります。
(課税売上高の計算式)
11,000,000 – 1,000,000 = 10,000,000
なお、2019年10月現在消費税は10%ですが、一般的にいう消費税は税法では消費税と地方消費税に別れています。その内訳は消費税7.8%、地方消費税2.2%となっています。この記事でいう消費税は消費税と地方消費税のことを指しています。
【注意】免税事業者の課税売上高
消費税を納める義務のある事業者が課税売上高を求める場合は、上記のように消費税額を差し引きます。ただし、消費税の納税義務がない期間(免税事業者のとき)の課税売上高は消費税込みの金額になります。
消費税の申告義務のない期間(免税事業者のとき)の課税売上高を求めます。
(説例)
消費税がかかる売上の合計額(税込) 11,000,000
消費税 1,000,000
(答え)
免税事業者の課税売上高は、税込金額そのままの11,000,000となります。
消費税を納める義務のある期間の課税売上高は税抜きにしますが、消費税を納める義務のない期間の課税売上高は税込の金額であることに注意してください。
1-2-1-2 売上を返還した金額(税抜)
売上返品、売上値引や売上割戻し等を行なった場合は、消費税のかかる売上と免税となる売上からそれぞれその返金した金額を差し引きます。
なお、差し引く際は税抜き金額を差し引くことにご注意ください。
(説例)消費税を申告する義務のある期間
①消費税がかかる売上の合計額(10%税込) 11,000,000
②免税となる売上の合計額 3,000,000
③消費税がかかる売上の返金合計 1,100,000(10%税込)
④免税となる売上の返金合計 100,000
(課税売上高の計算)
① 11,000,000 – 1,000,000 (税抜きにする)
② 3,000,000を加える
③ 1,100,000 – 100,000 を差し引く (返金額を税抜きにして差し引く)
④ 100,000 を差し引く (元々税抜きなのでそのまま差し引く)
①10,000,000 + ②3,000,000 – ③1,000,000 – ④100,000 = 11,900,000
【注意】免税事業者は税込の金額を差し引く
ここでも消費税を納める義務のない期間の課税売上高の計算では、売上を返還した金額(税込)から消費税額を差し引く必要はありませんので、この点に注意してください。
もし先の例が消費税の納税義務のない事業者の課税売上高を求める場合は次のような計算結果となります。
11,000,000 + 3,000,000 – 1,100,000 – 100,000 = 12,800,000
すべて税込金額で計算します。
課税売上高を求める上で知っておくべき知識は以上になります。
1-3 会計ソフトを使用している場合の課税売上高の効率的な把握の方法
ここで、実際の実務の現場でどのように課税売上高を求めればいいのかという疑問が生じるかと思います。
会計ソフトを使用している場合は、効率的に課税売上高を把握することができます。
その方法は次の記事を詳しく解説していますので、こちらをご参照ください。

課税売上高の求め方は以上になります。
課税売上高の求め方自体は難しくないと思います。自分が受け取る収入に消費税がかかるかどうかの判定さえ済んでしまえば、あとは足し算と引き算で済みます。
続いては課税売上高の重要性について、解説していきます。
2 課税売上高はなんのためにあるのか
課税売上高は消費税額を計算する上では、直接使用することのない概念ですが、なぜこんなものがあるのでしょうか。
それは、課税売上高は、消費税の中で判定基準としてよく使用されるものであるために非常に重要なのです。
以下にその代表的な例を列挙してみます。
2-1 課税売上高が判定の基準となる代表例
2-1-1 納税義務の判定
基準期間(※1)の課税売上高が1,000万円を超える場合は、その課税期間(※2)は消費税を納める義務があります。
※1 基準期間とは、原則個人事業者はその年(判定したい年)の前々年、法人はその事業年度(判定したい事業年度)の前々事業年度をいいます。
※2 課税期間とは消費税を申告するための計算の基礎となる期間で、原則として個人事業者は暦年、法人は事業年度になります。
ここでは詳しくは述べませんが、例えば個人事業者であれば、2019年の前々年(2017年)の課税売上高が1,000万円を超えている場合は、2019年は消費税を納める必要が出てきます。
納税義務があるかないかは、前々年(法人の場合は前々事業年度)の課税売上高で判定します。
消費税を納める義務があるかないかを判定する基準に課税売上高が使用されているということは、課税売上高の計算を誤ると納税義務のありなしの判定を誤るかもしれない。このように大きな影響を持っていることがわかります。0だと思っていたものが、そうではなかったというインパクトです。
2-1-2 簡易課税の適用可否判定
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、簡易課税制度を適用して消費税額を計算することができます。
簡易課税制度を使うと、消費税の計算がかなり楽になりますし、事業者によっては簡易課税制度を適用して計算した方が納める税額が少なくなる場合もありますので、絶対適用したいという事業者も多数あるかと思います。
その簡易課税の適用の可否を課税売上高によって判定しますので、課税売上高の誤りが税額に直接跳ね返ってくる可能性があります。
2-1-3 仕入税額控除の計算方法を判定するための課税売上割合に使用
消費税はもらった消費税から支払った消費税を差し引いた金額を納めることになりますが、支払った消費税の計算方法は課税売上割合によって変わってきます。
課税売上割合は以下のように計算します。
課税売上割合 = 課税期間の課税売上高 / 課税期間の総売上高
課税期間中の課税売上高が5億円以下で、かつ課税売上割合が95%以上の場合は、支払った消費税を全額差し引くことができますが、そうでない場合は特殊な計算を行い、全額を差し引くことはできません。
課税売上高の計算を誤れば、課税売上割合も誤り、ひいては消費税の計算の大きな部分を誤る可能性があります。納める税額が大きく変わってくるという場合も大いに出てくるわけです。
3 まとめ
このように、消費税の計算をする以前の計算方法を決定するための判定基準に課税売上高が使用されていますので、税額を大きく左右するほどの影響を持つ言葉であることがわかったと思います。
税理士にお願いしている場合は、知らなくてもいい言葉かもしれませんが、納税義務の判定や簡易課税が使えるかどうかについては、資金繰りにも影響しますので、知っておいて損はないと思います。
税理士にお願いせずに事業を営んでいる方や税務に携わる人間が課税売上高を知らないというのは恐怖であることが理解できたかと思います。
消費税を申告する際に、随所に課税売上高は出てきますので、しっかりイメージできるようにしておきましょう。課税売上高はよく出てきますので、忘れてしまった場合はその都度この記事を確認して、税額計算に誤りのないよう注意しましょう。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表、税理士、元国税専門官 海野 耕作
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