2024年1月からスタートする令和5年改正電子帳簿保存法では、オンライン上で請求書や領収書等の電子取引データを受け取ったり、交付したりした場合には、それを出力して紙で保存するのではなく、電子取引データをデータのまま保存することが義務付けられました。
(ここで取り扱う電子帳簿保存は、スキャナ保存や会計帳簿等の電子帳簿保存とは異なり、電子取引データに関してのみになります。)
電子取引データをデータのまま保存するにあたって、ただ単純にデータで保存すればいいというものではなく、電子帳簿保存法では、次の3つの要件を満たして電子保存することが求められています。
- コンピュータ、ディスプレイとプリンタの備え付け
- 検索機能の確保(不要になるケースあり)
- 不正な改ざん防止策を講じる(不要になるケースあり)
ここでは、3つ目の要件である「不正な改ざん防止策を講じる(真実性の要件)」についてわかりやすく解説していきます。
なぜこのような措置が必要かというと、デジタルの領収書や請求書は改ざんが紙のものより容易です。
複製も簡単にできますし、記載内容を編集することも容易にでき、そして編集されたものかどうかを見た目だけで判断するのは困難です。
そこで、事業者の方で、改ざん防止策を講じることが求められています。
ただし、この要件がいらなくなるケースが2024年に設けられました。
それも後述しますので、「不正な改ざん防止策を講じる(真実性の要件)」を理解した上で、必ず確認してください。
1 真実性の(改ざん防止策を講じる)要件とは|電子帳簿保存法
それでは電子取引データのやりとりがあった場合、どのような改ざん防止策を講じる必要があるのでしょうか?
次の4つの方法が挙げられています。
- タイムスタンプが付与された後の授受
- 7営業日以内に(又は最長2ヶ月+7営業日以内に)タイムスタンプを付与する
※ 括弧書の取扱いは、取引情報の授受からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。(超難関) - 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
- データの訂正削除を行った場合にその記録が残る又は訂正削除ができないクラウドサービス等を利用して取引データをやりとりする
一つ一つ確認していきましょう。
この要件が免除するケースも後述しますので、4つの方法を確認後、必ず確認するようにしましょう。
1-1 タイムスタンプが付与された後の授受
1つ目の方法の「タイムスタンプが付与された後の授受」から確認していきましょう。
タイムスタンプが付与された後に電子取引データをやり取りすれば、交付した側の控えとして残すデータも受領した側のデータもその両方が改ざん防止策が講じられたものとして扱われます。
例えば請求書を電子的にやり取りする場合、請求書を作成する側が、その請求書データにタイムスタンプを付与していれば交付側のデータも受領した側のデータもOKという意味です。
こちらがある取引データを交付する時にタイムスタンプを付与できるシステムがあれば、それを行い、受領側は、受領した取引データにタイムスタンプが付与されていれば、それをそのまま保存すればよいことになります。
取引データを交付する側にタイムスタンプを付与できるシステムがあれば、そのデータをそのまま保存すればいいのですが、取引データを受領する側を考えると、相手側がタイムスタンプを付与できなければ、この方法は使えないので、この方法ですべての取引データの保存を実施することはできません。
1-2 7営業日以内に(又は最長2ヶ月+7営業日以内に)タイムスタンプを付与する
2つ目は、次の方法で改ざん防止策を講じます。
- 7営業日以内に(又は最長2ヶ月+7営業日以内に)タイムスタンプを付与する
- 電子取引データを保存する者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておく
受領した取引データにタイムスタンプを付与すればOKというものです。
これを実際に実施する場合、何らかのサービスを利用して、そこに領収書等の電子取引データをアップロードして、タイムスタンプを付与するといった形態になろうかと思います。
タイムスタンプを付与できるソフトに電子取引データをアップロードしてしまえば、要件を満たすので、とても手軽であるというメリットがあります。
ただし、大きなデメリットがあります。
それが、原則7営業日以内にタイムスタンプを付与しなければならないという期限がある点です。
7営業日以内に(又は最長2ヶ月+7営業日以内に)タイムスタンプを付与する
すべての取引データを7営業日以内に処理するというのは、やろうと思えばできなくもないとは思いますが、1年に少なくとも1回は必ずこの期限を過ぎるケースが出てくるだろうというのは、容易に想像がつきます。
期限を過ぎたらこの方法では要件を満たさないのです。
この方法では、期限がネックということで、取引情報の授受からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合は、最長2ヶ月+7営業日までタイムスタンプ付与期限を伸ばすこともできます。
しかしながら、この「取引情報の授受からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている」という条件が、極めて面倒で煩雑であり、事実上対応不可能ではないかと思えるほどハードルが高くなっています。
その理由を含め、タイムスタンプだけで要件を満たすのは難しいという面に焦点を当てて解説した記事がありますので、この点を深く知りたい方は次の記事をご覧ください。
受領した取引データにタイムスタンプを付与する方法は、受領した取引データにタイムスタンプを付与すれば、改ざん防止策を講じることになるので、あらゆる取引データに対応できるのですが、原則7営業日以内にタイムスタンプを付与できないと改ざん防止策を講じることになりません。
絶対に期限内にタイムスタンプを付与できれば、使い勝手的には申し分ないのですが、1度でもタイムスタンプを付与できない場合は、他の方法で改ざん防止策を講じなければならないのと、人間がやることなので、必ず期限をすぎることが想定されることを考えると、結局他の方法を使うことになるので、他の方法の方が使い勝手がよければ、この方法を選択する意味がない、といった特徴をもっています。
そして実際にこの方法よりも使い勝手が良くてあらゆる取引データに対応できる方法があります。それが3つ目の方法です。
1-3 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
この方法は、
というたったこれだけです。
「訂正・削除防止の事務処理規程」と名称だけ聞くと面倒そうですよね。
でも安心してください。面倒なものなら誰もやらないですよね?
全事業者に強制的に適用される制度を、税務当局はやってもらわないと困ってしまいますよね?
当局は誰でもできる方法を用意しないと国民から大バッシングですよね?
そういうことでとても簡単に対応できる方法が用意した、その方法がこの3つ目の方法です。
この方法を使えばタイムスタンプすら不要になります。
事務処理規程のサンプルが公式に用意されており、それをほぼコピペすれば終わりです。
ではそのサンプルを紹介します。
個人事業主用と法人用で2つ用意されています。
【サンプル1】個人事業主用 事務処理規程サンプル
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程
この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を適正に履行するために必要な事項を定め、これに基づき保存することとする。
(訂正削除の原則禁止)
保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。
(訂正削除を行う場合)
業務処理上やむを得ない理由(正当な理由がある場合に限る。)によって保存する取引関係情報を訂正又は削除する場合は、「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、当該取引関係情報の保存期間に合わせて保存することをもって当該取引情報の訂正及び削除を行う。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
この規程は、令和○年○月○日から施行する。
【サンプル2】法人用 事務処理規程サンプル
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程
第1章 総則
(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。
(適用範囲)
第2条 この規程は、○○の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。
(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●とする。
第2章 電子取引データの取扱い
(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
一 EDI取引
二 電子メールを利用した請求書等の授受
三 ■■(クラウドサービス)を利用した請求書等の授受
四 ・・・・・・
記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください
(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ内に△△年間保存する。
(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
一 見積依頼情報
二 見積回答情報
三 確定注文情報
四 注文請け情報
五 納品情報
六 支払情報
七 ▲▲
(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX
二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX
(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。
(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。
4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。
5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。
附則
(施行)
第10条 この規程は、令和○年○月○日から施行する。
次のページ(国税庁HP)からこれらのサンプルをダウンロードできます。
参考資料(各種規程等のサンプル)
ポイントは、削除・訂正は、原則禁止であり、削除・訂正する場合は、「取引情報訂正・削除申請書」を作成し、削除訂正内容を記録として残すという点です。
訂正・削除内容を事後に確認できる体制を整えることによって信頼性を担保しようとしています。
具体的には、次の内容を含む規程とする必要があります。
- データの訂正削除を原則禁止
- 業務処理上の都合により、データを訂正又は削除する場合の事務処理手続(訂正削除日、訂正削除理由、訂正削除内容、処理担当者の氏名の記録及び保存)
- データ管理責任者及び処理責任者の明確化
個人事業主は、個人事業主用として簡単なサンプルが用意されているので、これをコピペしてしまえば事務処理規程は完了です。
しかも国税庁のお墨付き付きです。
法人の場合は、サンプルを見ると、課長や係長まで登場しているので、中堅・大企業まで想定して作成されたものと想像できます。
法人用のサンプルは経理処理を複数人でやっていることが前提となっているので、経理を一人で処理しているようなマイクロ法人や小規模法人も個人事業主用のサンプルを使用すればよいでしょう。