決算が間近に迫り、利益が予想以上に出たために、何か節税する方法はないかとギリギリになって考えることはよくあることかと思います。その際に考えられる節税の方法の一つとして従業員に対する決算賞与を未払いながら計上するという方法があります。
元国税調査官・税理士が詳しく解説していきます。
決算賞与による節税とは
決算賞与による節税とはどういうことかというと、元々決算が好調なため、従業員に対して賞与を支給するということを予め考えていた場合には、決算終了後に賞与を支給して翌年度の費用とするのではなく、その決算に未払いの状態で賞与を費用として組み込んでしまおうというものです。
要するに費用の先出しです。
未払いによる決算賞与を計上する効果
決算賞与を当期の費用とすることで、実際にどれくらいの節税効果があるか、数字を使った例で考えてみましょう。
単年度で考えた節税効果
【前提】
当期の利益:1000万円
実効税率:30%
決算賞与:300万円
【ケース1】 賞与が決算に含まれなかった場合の税額
1000万円 × 30% = 300万円
実効税率30%を乗じて当期の税金は300万円となります。
【ケース2】 賞与が決算に含まれた場合の税額
(1000万円 – 300万円) × 30% = 210万円
賞与を当期の決算に含んだ場合の税金は210万円です。
ケース1の場合の税額は300万円でケース2の場合の税額は210万円ですので、決算賞与を決算に組み込んだ場合、90万円の節税になるということになります。
複数年度で考えた節税効果
同じ前提条件で2年間トータルで考えるとどうなるかを下の図で見ていきましょう。
ケース1は2020年度に決算賞与を未払で計上したケースで、ケース2は決算賞与を2021年度に支給したケースです。
ケース1 | ケース2 | |||
年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2020年度 | 2021年度 |
利益 | 1,000万円 | 1,500万円 | 1,000万円 | 1,500万円 |
賞与 | 300万円 | 300万円 | ||
税額 | 210万円 | 450万円 | 300万円 | 360万円 |
2年合計税額 | 660万円 | 660万円 |
両者は同じ結果になります。
節税の方法として費用の先出しをする場合は、すべてこのような結果となります。
さて、2年を通せば同じ税額納めるので意味がない、ということになるでしょうか。
ケース1の場合は、2020年度が終わった時点でケース2よりも90万円手元資金が多いわけです。これを1年多く事業に投下・運用できますので、その分徳をすることになります。少なくとも1年分の利息分は得することになります。
経営者ならケース1を選ぶべきでしょう。
節税の効果はわかりました。次に決算賞与を支給するにあたっての注意点を確認していきましょう。
決算賞与を支給する場合の注意点
決算賞与のデメリット 手元現金の減少
決算賞与を支給すると、税金は少なくなりますが、当たり前ですが、トータルの手元現金は支給しないときに比べて少なくなります。
先の例と同じ条件で考えて見ましょう。
当期の利益:1000万円
実効税率:30%
決算賞与:300万円
決算賞与支給ケースの手元現金
1000万円 – 300万円(賞与) – 210万円(税金) = 490万円
決算賞与支給しないケースの手元現金
1000万円 – 300万円(税金) = 700万円
このように決算賞与を支給しない時の方が、手元現金は210万円(700万円 – 490万円)多くなります。
当たり前の話ですね。賞与を支給すると翌期ですが、現金が流出するので、その分手元現金は減るわけです。
何が言いたいかというと、この節税策は、決算賞与を支給してもよいと考えている場合のみに使える方法であるということをここで確認しておきましょう。
デメリットとしてはこの点に尽きるかと思います。
従業員への賞与のみに使える方法 役員はダメ
この決算賞与は従業員のみに対するもののみ節税策として採用できるということも確認しておきましょう。
役員の賞与は、利益が出たからといって決算期末に支給を決定しても損金(法人税法上の経費)として認められません。
役員の賞与を損金にするためには、税務署に予め一定の期間内に、誰それにこの時期にこの金額を支給するという届出を提出している必要があります。このように支給される賞与を「事前確定届出給与」と呼びます。
「事前確定届出給与」について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
損金の意味については、次の記事を参照してください。
したがって、役員賞与を決算賞与として支給することで節税することはできないのです。
この節税策は、従業員に決算賞与を支給する場合のみ採用できるということに注意が必要です。
ここからが本題といえるのですが、決算賞与を実際には支給していない状態で未払いとして決算に組み込むには税務上厳しい制約があります。
適当な金額を任意に損金とされると税金が少なくなりますので、税務当局としては決算賞与を会社が自由に決めることは許さないのです。
それでは、決算賞与を未払いの状態で支給する要件を確認していきましょう。この要件さえクリアしていれば問題なく未払賞与を計上した決算の損金にすることができます。
決算賞与を未払い計上する要件
決算賞与を未払い計上するための3つの要件
X1期に利益が出たので、決算賞与により節税をしたいと考え、実際に支給するのはX2期だが、X1期の決算にこの決算賞与を未払いの状態で損金としたいという場合には、次の要件をすべてクリアする必要があります。
⑴ 賞与の支給額を、同時期に支給を受ける従業員全員に個別に通知していること
⑵ ⑴で通知した金額を、通知した従業員全員に、⑴で通知した決算期の末日の翌日から1ヶ月以内に支払っていること
⑶ 賞与の支給額を、⑴で通知した決算期で費用計上していること
具体例で確認しておきましょう。
【前提】
決算期:2021年3月31日
従業員数:3人
2021年3月期の決算に、決算賞与の金額を損金にしたいケース
前述の3つの要件に当てはめます。
⑴ 支給対象の従業員3人全員に支給額を通知する(A : 50万円、B : 40万円 、C : 30万円)
⑵ 2021年4月30日までに合計120万円の賞与を実際に支給している
⑶ 2021年3月31日までに(通常は⑴で通知をした日)次の仕訳を仕訳帳に登録している
賞与 1,200,000 / 未払賞与 1,200,000
この3つの要件を全てクリアしていれば、未払賞与の節税が成功です。
この要件が1つでも欠けていたら、税務調査で否認されてしまいます。
⑴の通知をしていないとアウト。
⑵のように2021年4月30日以内に実際に支給していないとアウト。
⑶のように2021年3月期の決算に決算賞与の仕訳を入れていないとアウト。
注意が必要なケース
一見要件を満たしているようにも見えるが、認められないケースを紹介します。
❶従業員に支給額の通知をしたとしても、支給日までに退職した従業員には支給していないケース。
❷支給の通知を受けたとしても、支給日までに退職した場合には、支給をしないと予め決めているケース。
このようなケースは、通知をしたすべての従業員に決算期末の翌日から1月以内に支給していないことになるので、いずれもアウトとなります。
以上説明した要件について、国税庁のHPでも紹介されてますので、併せて確認することをおすすめします。
税務調査対策
未払いの決算賞与は、要件が厳しく決まっていることから高確率で税務調査で確認の対象となります。(私も現役の国税調査官の時は必ず確認していました。)
税務調査で否認されないために3つの要件を守るのはもちろんですが、⑴の通知を口頭ではなく後日通知したことを説明できるように記録しておきましょう。
書面で残すという方法これまでは一般的でしたが、現在では色々なツールがありますので、後々確認できるものであれば構わないでしょう。例えば通知したメールを残すでもいいですし、Slackなどのオンラインのコミュニケーションツールで通知の履歴を残すという方法も取れるかと思います。
まとめ
今回は決算賞与を未払いで計上することによる節税策について解説しました。
資金的な余裕があれば、従業員に対して決算賞与を支給することで節税するというのは、従業員の仕事に対するモチベーションアップにも繋がるでしょう。会社に利益が出れば賞与が支給されるとなれば、従業員が会社の利益に関心を持つことにつながりますので、日頃の勤務態度にもプラスの影響が出るというのは想像に難くありません。
このように節税に加え、生産性向上にも寄与する可能性があるということからも節税策を考える際に一考の価値があると思います。
実際に採用する際には、今回説明した要件を確実にクリアして支給することに注意してください。
最後に要件が厳しいので、未払いではなく、実際に決算賞与を決算期の末日までに支給できるのであれば支給してしまえば間違いないので、支給できるかどうかについての検討も一度はするべきでしょう。
(当記事は執筆時時点の法令に基づいています。)
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表、税理士、元国税専門官 海野 耕作
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