法人税や所得税の中で簡単で有効な節税方法としてよく挙がってくる規定として「少額減価償却資産の特例」というものがあります。
この規定があるかないかで節税の観点でも影響が大きいだけでなく、税務の事務効率的にもまったく変わってきます。
10数万円のタブレットを購入した場合、通常の減価償却を行っていくとすると4年間にわたって減価償却費を計上し続ける必要があります。
面倒だし1年間に数万円しか費用にできないというのは「ちーん」という感じですよね。
それを全て解決してくれるのがこの「少額減価償却資産の特例」です。
元国税調査官で税理士がこの規定に関して知っておくべきことすべてを全部解説、かんたん解説します。
それでは始めていきましょう。
少額減価償却資産の特例とは
少額減価償却資産の特例とは、どのような制度か、その概要からみていくことにしましょう。
少額減価償却資産の特例とは
少額減価償却資産の特例とは、ある要件を備えた法人または個人事業主が、取得価額が30万円未満である固定資産を事業で使用を開始した場合には、一定の要件のもとに、通常の減価償却の方法によらず消耗品費等の科目で全額を費用化してよいという特例です。
例えば、会社Aが28万円のカメラを買ったとします。パソコンは器具備品で一般的には耐用年数が5年なので、5年かけて減価償却する必要があります。
耐用年数5年の定率法の償却率が0.5なので、購入初年度に1年間償却費を計算できたとして次の金額がこのパソコンを当期に費用化できる金額になります。
280,000 × 0.5 = 140,000
通常であれば、5年かけて費用化していくことになります。
こんな少額の資産を5年かけて管理・計算していくなんてバカらしいと思いますよね。
そこで、
「30万円未満の固定資産はその使い始めた日に全額費用にしていいですよ。」
という少額減価償却資産の特例規定が設けられました。
この規定は期間が限定されているのですが、期限が来るたびに延長されています。当分の間この規定はあり続けるとたいていの人は判断していると思います。一応平成18年4月1日から令和4年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合に適用されるということに執筆時点ではなっています。
少額減価償却資産とは
少額減価償却資産の特例の「少額減価償却資産」とは、用語としてどのような意味かもおさえておきましょう。
「少額減価償却資産」とは、少額減価償却資産の特例の対象となる取得価額が30万円未満の※減価償却資産を指します。
※減価償却資産とは、使用することによって価値が減っていく固定資産を指します。(減価償却資産の詳細については後述します。)
少額減価償却資産の特例を適用するメリット
この少額減価償却資産の特例を適用するメリットはおおきく2つあります。
- 節税効果がある
- 事務負担の軽減
一つ一つみていきましょう。
節税効果がある
少額減価償却資産の特例の最大のメリットは、費用を前倒して計上できるという「節税効果がある」ということです。
例えば先の例の会社Aが28万円のパソコンを通常の減価償却を行ったとして今年度の所得計算をして所得が140,000円だったとします。
中小企業を例に実効税率が法人税や地方税を含め30%だとすると、140,000×30%で42,000円納付することになります。
しかし、140,000円の減価償却費のかわりに280,000を全額費用とした場合、140,000円費用が増えますので、会社Aの所得金額は0になり、税金も0になります。42,000円節税したことになります。
通常の減価償却を適用 | 少額減価償却資産の特例を適用 | |
償却費差引前利益 | 280,000円 | 280,000円 |
償却費 | 140,000円 | 280,000円 |
所得金額 | 140,000円 | 0円 |
税額 | 42,000円 | 0円 |
少額減価償却資産の数が、10あったとすればいくらの節税になるでしょう?
かなりインパクトのある節税効果が見込めることがお分かりになるかと思います。
なお、この規定が適用できるのは「取得価額が30万円未満である減価償却資産」になりますので、先の例の器具備品に限らず、機械装置や工具など、広く「減価償却資産」に適用することができます。
減価償却資産とは
「減価償却資産」が何かについての詳細は、国税庁のHPで次のように解説しています。
事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。他方、土地や骨とう品などのように時の経過により価値が減少しない資産は、減価償却資産ではありません。
次の記事でもわかりやすく解説しています。

事務負担が軽減される
2つ目のメリットとしては、1度にその取得価額を全額費用にできるので、先のカメラの例でいけば減価償却資産として5年も管理しなくていいという事務負担の軽減になるという点もメリットです。
固定資産には様々な種類があります。減価償却をするためにはその種類を特定して、決められた耐用年数を適用する必要があります。
減価償却や耐用年数について詳しくお知りになりたい方は次の記事をご参照ください。

耐用年数を新たに調べるというのは骨の折れる作業です。そして耐用年数の期間固定資産台帳に載せて、減価償却費の計算をし続けるというのは事務コストがかなりかかります。
しかし、少額減価償却資産の特例を適用すれば耐用年数を調べる必要もなく、何年にもわたって管理する必要もなく、減価償却費を計算する必要もありませんので事務効率的です。
このように少額減価償却資産の特例は素晴らしい規定なのですが、この規定を適用するには実は条件があります。
その条件とは、どのようなものでしょう。この条件を満たさない場合は、この規定が適用できませんので確実におさえておく必要があります。
少額減価償却資産の特例の適用条件とは
少額減価償却資産の特例を適用する上で条件は大きく4つあります。
- 青色申告を提出していること
- 資本金または従業員数の制限
- 会計期間1年間で、少額減価償却資産の購入費用の合計額が300万円に達するまでが限度
- 確定申告時で一定の手続きが必要
一つ一つみていきます。
第一条件
少額減価償却資産の特例を適用するには、申告の対象期間において青色申告を提出していることが必要です。
第二条件
法人のケース
- 大規模法人(資本金又は出資金の額が1億円超の法人等)から2分の1以上の出資を受ける法人
- 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
- 常時使用する従業員の数が500人を超える法人※
- 税制の適用を受けようとする事業年度における平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が年 15 億円を超える法人 (平成31年4月1日以降に開始する事業年度決算から適用)
- 連結法人
個人事業主のケース
常時使用する従業員の数が500人以下の個人
※令和2年3月31日以前に取得などする場合は1000以下の個人とされています。
第三条件
(会計期間が1年に満たない場合には300万円を12で割り、これにその会計期間の月数を掛けた金額。月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月となります。)
先の会社Aが25万円のパソコンを12台購入した場合は、12台の合計300万円とも費用化できます。しかしながら25万円のパソコンを13台購入した場合、その13台目はこの規定を適用できません。
最後にもう一つ注意を要する点があります。
これを忘れるとこの規定の適用を受けることができず、税務調査で修正を受ける、なんてことがあるかもしれませんので注意してください。
確定申告時で絶対にするべき手続き(第四条件)
これまで説明した方法で経理していたとしても、何もしないと税法上はこれを費用とは認められず申告を誤ることになります。
この方法を適用するには
が要件となります。
その明細書は、法人と個人事業主では下記のとおり様式が異なります。
1. 法人の場合・・・別表十六(七)を添付する
2. 個人事業主・・・青色申告決算書等に次の事項を記載して確定申告書に添付して提出し、かつ、該当の少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管する(国税庁のホームページから引用)
- 少額減価償却資産の取得価額の合計額
- 少額減価償却資産について租税特別措置法第28条の2を適用する旨
- 少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管している旨
なお、弊社ジャパンネクスの提供する「全力減価償却」をご利用いただいていれば、固定資産台帳を出力すると下の画像のように出力され、自動でその要件をクリアしていますのでこの固定資産台帳を青色決算書に添付して税務署に提出すればいいようになっています。
少額減価償却資産の特例を適用する上での注意点
少額減価償却資産の特例を適用する上で注意すべき事項を3つ挙げて解説します。
- 10万円未満の固定資産は元々全額費用にできる
- 消費税の経理方式による違い
- 償却資産税の対象になる
一つ一つ確認していきましょう。
❶ 10万円未満の固定資産は元々全額費用にできる
次のいずれかに該当する場合は、特に税務的な手続きの必要なしにその全額を費用とすることができます。
- 購入代金が10万円未満
- 使用可能期間が1年未満であるもの
したがって、この場合は少額減価償却資産の特例を用いずにこちらの方法で経理することになります。30万円未満の方法を適用する場合は上限が300万円と決まっているのでこちらには加えないということに注意が必要です。
❷ 消費税の経理方式による違い
固定資産1単位あたり30万円という金額、また合計の300万円という金額の基準は、税込経理方式を採用していれば税込で、税抜経理方式を採用していれば税抜で判断することになります。
したがって、税抜経理方式を採用している方が、消費税分多く計上できるので、300万円に達するようなケースでは、得することになります。現在は消費税の税率が10%ですので、影響はバカにできないと思います。
❸ 償却資産税の対象になる
最後にこれまで国税の話だけしてきましたが、地方税の償却資産税として申告対象となるかについて言及したいと思います。
結論は少額減価償却資産は償却資産税の申告対象です。
全額税務上の費用として落とせるので、償却資産税の申告対象ではないと思いがちですが、申告対象ですので、忘れずに申告書に載せるようにしましょう。
一括償却資産と少額減価償却資産との関係
早期に減価償却資産を費用化できる制度として、少額減価償却資産の特例の他に一括償却資産の3年償却というものがあります。
両者をどのように使い分けたらいいかという点について比較検討したいと思います。
一括償却資産の3年償却とは
簡単にいうと取得価額が20万円未満の減価償却資産ならどんな種類のものでもそれを一括して3年間で均等に償却できるという規程です。
例えば180,000円のパソコンを2台購入したとします。
2台のパソコンを一括して360,000 × 1/3 = 120,000円 を3年間均等に償却します。
一括償却資産の3年償却については次の記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

一括償却資産の3年償却と少額減価償却資産の特例の使い分け
費用を早く出して節税したいと考える際、一括償却資産の3年償却と少額減価償却資産の特例をどのように実務で使い分けたらよいのでしょうか。
青色申告の場合と白色申告に分けて説明します。
青色申告者の場合
青色申告書を提出している場合は、議論の余地なく少額減価償却資産の特例を適用し、30万円未満の減価償却資産を一時の費用として全額費用化します。
ただし、少額減価償却資産の特例は合計で300万円に達するまでしか適用できませんので、300万円を超える場合は、10万円以上20万円未満の減価償却資産をピックアップして一括償却資産の3年償却を適用します。
10万円未満の減価償却資産はそもそも固定資産として減価償却する必要がありませんので、少額減価償却資産の特例の300万円の中には含めないことに注意しましょう。
白色申告者の場合
白色申告書を提出している場合は、少額減価償却資産の特例の要件「青色申告書を提出している」を満たしませんので、少額減価償却資産の特例を適用することはできません。
減価償却資産の費用を前倒しして計上するという観点からは、一括償却資産の3年償却と10万円未満の減価償却資産の全額費用化しか使える方法がありません。
したがいまして、取得価額が10万円未満の減価償却資産については、消耗品費等の科目で一時の費用として落とし、10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一括償却資産の3円償却を適用するという形になります。
節税の観点からは白色申告者は、少額減価償却資産の特例を適用できないのでかなりの痛手と言えるかもしれません。
一括償却資産の3年償却と少額減価償却資産の特例を表で比較
最後に少額減価償却資産の特例と一括償却資産の3年償却の償却する上での特徴を一覧表でもう一度確認しましょう。
取得価額 | 通常の減価償却 | 一括償却資産 | 少額減価償却資産 |
10万円未満 | ※減価償却不要 | ※減価償却不要 | ※減価償却不要 |
10万円以上20万円未満 | ◯ | ○ | ○ |
20万円以上30万円未満 | ◯ | × | ◯ |
償却資産税 | 対象(10万円未満は対象外) | 対象外 | 対象 |
少額減価償却資産の特例のまとめ
30万円未満の減価償却資産の全額費用化できる少額減価償却資産の特例の規定は条件さえ満たせば簡単に適用することができ、この規程を使わない場合と比較して、断トツに早期に減価償却資産を費用化でき、事務負担も減る上に、節税効果があるという優れた方法です。
これは使わない手はありません。白色申告者で適用できないという場合は、早期に青色申告者になる必要があると言えるでしょう。
青色申告者の場合は、要件を確実におさえて、本文で挙げた注意点を踏まえた上で少額減価償却資産の特例を確実に適用していくことが肝要です。