法人税について話す上で最初に頭に入れて置かなければいけない言葉があります。それが「損金」です。損金という言葉がわからないと法人税の申告をする上で絶対に困ることになります。
ここで損金とはどのようなものなのかをしっかりつかんで法人税の申告に備えましょう。
損金とは
損金とは平たく言うと法人税法上も費用となる金額を意味します。
法人税法上も費用??と思われるかもしれません。
実は法人税法上の費用(損金)と会計上の費用は一致しません。
両者の違いから見ていきましょう。
費用と損金の違い
会計では利益を算出するのに次の計算式により求めます。
一方、法人税法の場合は次の計算式で求めます。
なぜこのように会計と法人税で利益の計算式を分けて考えるのでしょうか。
それは、日々帳簿をつける中で費用として経理したものが、そのまま法人税法上も所得を計算する上で損金として差し引けるかというと、そうではないからです。
それはなぜでしょう。
法人税法と企業会計はその目的が違う
実は、法人税法と企業会計ではその目的が違います。
法人税法の規定は、課税の公平や適正な税負担等を目的として定められています。
企業会計は正しい経営成績と財産状態を開示することを目的としています。
目的が違うからといって企業会計の原則に従って日々経理してきた利益と法人税法が規定する所得金額が全然違うものだとしたら2つも帳簿をつけなくてはならずとてもたいへんです。
したがって法人税法は基本的には企業会計に基づいて算出された利益を採用するものとしています。法人税法の規定では益金と損金は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によって計算されるものとしています。(法人税法第22条第4項)
基本的には企業会計の利益を法人税の所得計算のベースにするんだけど、それをそのまま当期純利益=法人税法の所得金額にはしないよという作りになっています。
少しわかりづらいと思いますので例を出して考えてみることにしましょう。
ある会社が決算期末が近づいてきて企業会計に基づいた利益を試算しました。利益が大きく出ることが予想されました。このままでは法人税を多く課せられてしまうと考え、決算期末に役員に賞与を支給して法人税を少なくしようと考えました。
これは企業会計上は何ら問題がありません。しかしながら法人税法では利益を調整して法人税を少なくされることを嫌います。
そのため役員賞与に法人税法で規定を設けて、損金にするのに条件をつけよう、という考え方が出てくるわけです。それはずるい、不公平だ、だから規制しようということです。
会計上は費用だけど、法人税法上は費用(損金)にはしないぞ、となるわけです。(ズルをしていないものは企業会計で計算したものでいいよ。)
損金算入とは・損金不算入とは
このように企業会計上は費用だけど、法人税法上は損金としないことを「損金に算入しない=損金不算入」と呼びます。
会社計算(決算書)上では費用だけど、法人税を計算する場合は、損金にはならないということを意味します。
逆に法人税法上も費用とすることを「損金に算入する=損金算入」と呼びます。
この言葉を覚えておくと、法人税法について書かれた記事や書籍を読みやすくなるので後々役立つと思います。ここで覚えてしまいましょう。
反対に企業会計上は収益だけど法人税法上の益金にしないという「益金不算入」といい、企業会計上は収益だではないけど法人税法上の益金にするという「益金算入」といいます。
しかし「益金算入」「益金不算入」は「損金算入」「損金不算入」ほど法人税の申告で出てきませんので、まずは頻出する「損金算入」「損金不算入」に力を入れてここでは理解するのが先決と考え「損金算入」「損金不算入」にフォーカスして説明を続けていきます。
損金不算入になるとどうなるのか?
繰り返しになりますが、法人税法上の所得の計算式は次のとおりです。
これは損金が多くなれば所得は小さくなり、逆に損金が小さくなれば所得が大きくなることを意味しています。
益金 | 100 | 100 | 100 |
損金 | ▲50 | ↓▲30 | ↑▲80 |
所得金額 | 50 | ↑70 | ↓20 |
続いて次の式を見てください。
所得金額 × 税率 = 法人税額
これは実際に支払うことになる法人税額を計算する式です。
所得金額とは税金を計算する元となる金額をいいます。
所得が大きくなれば支払うべき法人税額も大きくなりますし、逆に所得が小さくなれば法人税額も小さくなるわけです。
所得金額 | 50 | ↑70 | ↓20 |
税率 | 30% | 30% | 30% |
所得金額 | 15 | ↑21 | ↓6 |
損金不算入は、税金の計算にどういう効果をもたらすでしょう。
損金不算入は損金に算入しない、という意味なので損金が減るということですよね。ということは所得が増えます。所得が増えるということは税額が大きくなります。
例えば下の図のように役員報酬500万円のうち、200万円を損金に算入しないとすれば、損金が200万円減ります。損金が200万円減れば収入から差し引く金額が200万円減るわけなので、その分所得が200万円増えます。
損金不算入はその金額分所得を押し上げる結果となり、法人税額を増やす効果がある、ということがわかっていただけたと思います。端的に言えば
と覚えてもらってよいと思います。
損金不算入額が200万円だとすれば利益(所得)が200万円増えるので、仮に税率が20%だとすれば200万円×20%の40万円の税負担が増えるんだなと考えられるわけです。
法人税法の所得計算の全体像
ここでここまでのことを一旦整理します。
法人税の計算は次のように行われます。
❶ 益金 – 損金 = 所得金額
❷ 所得金額 × 法人税率 = 法人税額
❷で算出された法人税額を税務署に収めることになります。
❶の「益金 – 損金 = 所得金額」の計算は企業会計とは関係なく0から計算するのかといったらそうではなく、基本的には企業会計で算出した当期純利益を採用します。ということを前述しました。
それでは益金 – 損金 = 所得金額の計算はどうするのかというと、下の図解をご覧ください。
❶ 左側の「企業会計の当期純利益」がベースになります。
❷ 損金不算入となった金額を❶の当期純利益に加算します。(益金算入の金額があればそれも加算します。)
❸ 損金算入となった金額と益金不算入になった金額を❶の当期純利益から減算します。
❹ 法人税法上の所得金額 = ❶ + ❷ – ❸
このように企業会計の当期純利益から法人税法の所得金額が計算されます。
図解の例で計算すると次のようになります。
当期純利益 100 + 損金不算入 25 – 損金算入 10 – 益金不算入 5 = 所得金額 110
この計算を法人税法の申告書の一つ「別表4」という書類が担います。
参考までに実際に別表4を見ておきましょう。
別表4での加算・減算
この書類が別表4です。
1の「当期利益又は当期欠損の額」が企業会計上の「税引後当期純利益」と一致します。
2〜10に損金不算入等で税引後当期純利益に加算する金額を項目ごとに記載します。
サンプルでは加算されている項目が「損金経理した納税充当金(=未払法人税等)」と「減価償却の償却超過額」、「役員給与の損金不算入額」の3つあり、それぞれ税引後当期純利益に加算されています。
12〜20が損金算入や益金不算入等で税引後当期純利益から減算する金額を項目ごとに記載します。
差し引きして所得金額を計算するというスーパー重要な役割が別表4という申告書類にあります。
損金経理という言葉がでてきましたので、ここで損金経理の解説をしておきます。
株主総会の承認等を受け確定した決算で、あらかじめ費用や損失として経理することを「損金経理」といいます。
損金不算入となる法人税の規定具体例
損金不算入がどういったものか、どういう影響があるのかということを理解していただけたかと思います。ここで、理解を深める意味で、法人税法には損金不算入に関してどのような規定があるか、代表的なものを見ていきたいと思います。
役員報酬と役員賞与の損金不算入
なんといっても知らないといけないのはこれです。
知らないだけでたいへんな税金を納める可能性を秘めている規定です。
役員報酬は、次の条件をいずれも満たしている部分の金額を損金に算入できる定期同額給与という規定。
- 支給時期が1月以下の一定の期間ごと
- 会計期間内の各支給期間の支給額が同額
役員賞与は、税務署に予め届け出た時期に届け出た金額を支給しないと損金にならないという事前確定届出給与という規定。
この二つが代表的です。
詳細はこちらをご覧ください。
交際費の損金不算入
法人税法上の交際費は次の金額が損金不算入になります。
⑴ 期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人は次のいずれかの金額
① 年間800万円を超える金額
② 飲食その他これに類する行為のために要する費用の合計の50%の金額を超える部分の金額
⑵ 期末の資本金の額又は出資金の額が1億円超の法人は次のいずれかの金額
飲食その他これに類する行為のために要する費用の合計の50%の金額を超える部分の金額
また、法人税法上の交際費は、会計上の交際費よりも範囲が広く、帳簿上交際費に経理していなくても法人税法上の交際費に該当し、損金不算入となるケースもあります。
詳しくは次の国税庁のHPの解説をご覧ください。
減価償却費の損金不算入
減価償却は、会計の発想では、取得した固定資産の取得原価を、収益の獲得のために利用した期間にわたって費用として配分するというものですので、例えば購入したパソコンを3年サイクルで毎回買い換えていれば、耐用年数を3年として3年にわたって費用化していくのが合理的です。
耐用年数3年の償却率が0.833で、取得価額が300,000としましょう。当期のこの資産の減価償却費は次の金額になります。
300,000 × 0.833 = 249,900円
しかしながら、法人税法では、資産によって耐用年数が決まっています。例えば一般的なパソコンなら5年と決まっています。
(参考)耐用年数表(国税庁)
耐用年数5年で償却率が0.5だとすると当期の減価償却費は次の金額になります。
300,000 × 0.5 = 150,000円
決算書上で249,900の減価償却費を計上していた場合、次の金額が損金不算入額として申告する必要があります。
249,900 – 150,000 = 99,900円
つまり99,900円所得が増えるということになります。
なぜこうなるかというと、償却の計算を会社の任意に任せると、利益が多い時に減価償却費を多く計上して、利益を圧縮されるかもしれないという考えと、公平な課税が実現できないという考えからこのような規定となっています。法人税法の規定は、前述のとおり課税の公平や適正な税負担を目的としています。
一定の税金の損金不算入
損金の額に算入されない主な税金は次のとおりです。
- 法人税、地方法人税、都道府県民税および市町村民税の本税
- 加算税、加算金、延滞税、延滞金、過怠税
- 罰金、科料、過料
- 法人税額から控除する所得税、復興特別所得税及び外国法人税
2と3は、罰則として支払っているものが損金になって税金が減るということは、国や地方公共団体が税金を一部肩代わりしていることになるので損金不算入です。
1と4は、税金を計算する上で損金になるのは望ましくないものなので、損金不算入となっています。
詳しくは次の国税庁のHPの解説をご覧ください。
No.5300 損金の額に算入される租税公課等の範囲と損金算入時期
他にも損金不算入の規定はまだまだありますが、損金と損金不算入の理解を深めるという意味で頻出なものを例として挙げてみました。
損金算入となるもの
損金算入になるもののをおさえる必要は実はありません。
先に法人税は、企業会計の当期利益を所得金額計算のベースにしていると話しました。
したがって原則「費用=損金」なのです。しかし別段の定めで損金不算入のものが決められていて、それだけは「費用=損金」にならないよという作りなのです。
なので具体的にこれが損金になるものですとして例を挙げるのはナンセンスです。費用のほとんどが損金なのですから。
損金不算入のものを覚えれば十分ということになります。
損金に算入される例として挙げられるものがありますので、それだけ紹介したいと思います。
それは租税公課です。
損金不算入の具体例で法人税や地方法人税、都道府県民税、市町村民税等の税金を挙げました。そうすると他の税金も全部損金不算入になるのかというとそうではありません。
地方税の中で頻出する事業税が損金に算入される代表格です。
その他で損金に算入される租税公課は以下のとおりです。
- 事業所税
- 酒税
- 不動産取得税
- 自動車税
- 固定資産税
- ゴルフ場利用税
- 軽油取引税
- 法人税から控除しない所得税
まとめ
「損金」という言葉と「損金算入」「損金不算入」という言葉が出てきました。
「損金」という言葉が大切なのは、「損金不算入」という法人税独特の考え方があるからです。
要するに押さえるべきポイントは次のたった2つです。
- 会計では費用となるものが法人税法で費用にならないことがある。
- それを損金不算入と呼ぶという。
この二つの点を押さえれば法人税独特の法人税の基本的考え方をほぼ押さえることができたと言えると思います。
この記事の中でもちらっと出てきた「益金」という言葉があります。
これは損金とは逆に法人税法上の利益となる金額です。所得の計算上加算される金額です。
損金が分かっていれば、益金も容易に想像がつくと思います。
会計では利益になるものも法人税法上は利益にならない場合があるということです。それを益金不算入と呼ぶわけですが、益金不算入の規定は損金不算入の規定に比べれば微々たるものです。そのため、損金不算入を押さえてしまえば法人税の基本的考え方の一番大事な点を押さえたと言えるのです。
損金・益金の考え方を知っていると法人税の書籍や記事がかなり頭に入って気安くなります。これであなたも法人税の専門家の第一歩を踏み出したと言っても過言ではありません。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作
コメント
最高でした!
ありがとうございます。
とても勉強になります!ありがとうごさいます!
某クラウド型の会計ソフトで法人税申告をしている際、
「損金不算入」だの「仮払経理」だのといった難しい言葉の連続で投げ出しそうになった
けれどもこうやって一つずつ解きほぐす様に解説して貰うと、いつかは理解できるのではないか、という気がしてくる。
大変ありがとうございました。
世界で一番わかりやすかったです!!!あなたは私のヒーローです!