一般的な中小の同族会社の場合、何も考えずに従業員と同様に役員に賞与を支給すると、その金額が法人税法上は費用と認められず、支給金額×税率分余計に課税されることになります。税務調査を受けて真っ青なんていうことがないように、これから解説する役員に賞与を支給する場合に押さえておかなければいけない点を確実にチェックしていきましょう。
税理士を雇っていない方は税金を余計に支払わないためにこの部分は絶対押さえておかなければいけません。この規定をスルーしたときの打撃は相当大きいです。本当に要チェックです。
それでは本当に0から解説していきます。
まず、事前確定届出給与の内容に入る前に知っておかなければいけない用語があります。
それは「損金」と「損金不算入」という用語です。
損金とは 損金不算入とは
「損金」と「損金不算入」という用語は、知らないと法人税法の話を理解することができないというほどの超基本ワードです。逆にこの2つの用語を知っていれば話は理解できます。あとはその規定を知っているか知らないかだけの話になります。この2つの用語を知らないとその話自体が意味不明で理解できない状態になってしまいますので、まずはこの用語の理解から始めましょう。
少し遠回りになりますが、次の記事を読んでこの2つの用語を理解してから続きをご覧いただければと思います。
事前確定届出給与とは
役員に賞与※を支給するときには、事前に所定の届出書を、決められた期限までに税務署に提出し、その届出どおりの金額を支給していないと、その支給した金額を損金に算入することができません。
※ここでいう賞与は、毎月支給される報酬と退職給与を除いた役員に支給する報酬のことを指しています。したがって、通常の夏期・冬期のボーナス以外にも四半期や半期ごとに支給される報酬も該当します。ここではわかりやすいように賞与という言葉に一本化して話を進めていきます。
例えば、届出を提出せずに夏と冬で100万円ずつ役員に賞与を支給していたとすると、それだけでその会計年度の所得を200万円押し上げることになります。会計上は費用になりますが、法人税法上は損金に算入されず賞与の金額の200万円がそのまま所得に加算されます。つまり、税率が20%だとすれば200万円×20%=40万円の税負担が増えるという計算になります。
このように知らないだけで取り返しのつかない悪夢のような規定なのです。法人税法の規定の中では脱税をした訳でもないのにこのように取り返しがつかない規定はそう多くはありません。ここまででもう3度目ですが、それだけ要チェックの規定なのです。
このように事前に支給する役員賞与の内容を期限までに届け出て、その届出どおりの金額を支給する給与のことを法人税法では事前確定届出給与と呼んでいます。
事前確定届出給与であれば全額損金に算入されます。逆に言えば、役員に支給する賞与で損金に算入されるのは同族会社では事前確定届出給与しかありません。
事前確定届出給与に関する届出の提出期限が要注意!
届出は一定の期限内にする必要があります。
その期限に間に合わなければ、支給した賞与はすべて損金に算入されませんのでこの提出期限は最重要事項です。
届出の提出期限は次の表のとおりです。
⑴ ある会計期間で初めて届出をする場合
区 分 | 届出提出期限 |
---|---|
①株主総会、社員総会等の決議により所定の時期に所定の金額を支給することを定めた場合 | 次のうちいずれか早い日
a.その決議の日から1月を経過する日 b.会計期間開始の日から4月を経過する日 |
②新たに設立した法人が所定の時期に所定の金額を支給することを定めた場合 | その設立の日以後2月を経過する日 |
③臨時改定事由※により新たに事前確定届出給与の定めをした場合 | ①の届出期限と臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日とのうちいずれか遅い日 |
⑵ 既に事前確定届出給与の届出をしている法人が賞与の内容を変更する場合
区分 | 届出提出期限 |
---|---|
臨時改定事由※により変更する場合 | 臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日 |
業績悪化改定事由※により減額する場合 | 次のうちいずれか早い日a.業績悪化改定事由により事前確定届出給与の変更に関する株主総会等の決議をした日から1月を経過する日
b.aの決議をした日以後最初に到来する直前届出に基づく支給の日の前日 |
※臨時改定事由について、詳しくは「役員報酬を減額するにはどうすればいいか?元国税税理士が0から解説」の「臨時的な理由による減額」の部分を、業績悪化改定事由については「業績悪化による減額」の部分をご参照ください。
役員賞与を支給するときの注意点は所定の時期に所定の金額を支給する届出を提出期限内に提出することに尽きます。逆にこの点を押さえてしまえば役員賞与を支給する場面で危険な点をすべて理解していると言ってよいでしょう。
さて、ここまで役員に賞与を支給する場合に損金に算入する方法をご説明してきました。ここからは実際に賞与を支給するときに必要となる手続きについて説明していきます。
事前確定届出給与を決議した議事録のサンプル
役員に賞与を支給する場合には会社法で株主総会の決議が必要と決められています。
ここでは、最も事例が多いと思われる定時株主総会で事前確定届出給与の支給を決議することを想定したサンプルを参考までにお示しします。
雛形を以下よりダウンロードできますので、ご活用ください。
Private File - Access Forbidden事前確定届出給与の書き方(記載例)
それでは、続いて届出の書き方を次の記載例を見ながら確認していきましょう。
この届出書は本表と付表からなっています。
事前確定届出給与に関する届出書(本表)の記載例とその書き方
この届出書は、所定の時期に一定の額を支給する定めごとに作成します。つまり株主総会等で役員賞与を支給すると決議したその決議ごとに作成します。
「①事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等」欄には、「株主総会」、「取締役会」などの機関等の決議により事前確定届出給与に関する決議をした日とその決議をした機関等の名称を記入します。
「② 事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日」欄には、事前確定届出給与の支給の対象となる職務の執行を開始する日(定時株主総会の開催日など)を記載してください。
「③ 臨時改定事由の概要及びその臨時改定事由が生じた日」欄には、例えば会計期間の途中で新たに選任された役員などについて、この届出書を提出する場合に記入します。なお、既に事前確定届出給与の届出書を提出している役員に臨時改定事由が生じた場合は別様式の「変更届」を提出することになります。
「④ 事前確定届出給与等の状況」欄の「(No. ~No. )」には、付表に付した一連番号の最初と末尾の番号を記載します。
「⑤ 事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由及び事前確定届出給与の支給時期を付表の 支給時期とした理由」欄には、これらの理由を具体的に記入します。
「⑥ その他参考となるべき事項」欄には、新たに設立した法人がその役員のその設立の時に開始する職務について事前確定届出給与を届け出る場合に、「設立年月日 平成○年○月○日」等と記入するほか、株主総会の決議内容など参考となる事項を記入しますが、株主総会等の議事録を添付することで代えられます。
「届出期限」欄は、定時株主総会等で決定されるような通常の事前確定届出給与の場合はイに記入します。新設法人の場合はロに記入します。臨時改定による場合はハに記入します。
もっと詳しい書き方をご覧になりたい方は「事前確定届出給与に関する届出書(国税庁ホームページ)」の2枚目をご参照ください。
付表(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))の記載例とその書き方
事前確定届出給与対象者ごとにこの付表を作成する必要があります。その場合には、右上端の「No. 」欄に一連番号を付してください。
「事前確定届出給与にかかる職務の執行を開始する日」欄は事前確定届出給与の対象となる職務の執行を開始する日(定時株主総会の開催日など)と職務執行期間(定時株主総会の開催日から次の定時株主総会の開催日までの期間など)を記入します。
「当該(連結)事業年度」欄には、この届出をする事業年度を記入します。「当該(連結)事業年度開始の日の属する会計期間」欄も通常は会計期間も事業年度も1年であることから同じ値が入ります。
「事前確定届出給与に関する事項」「届出額」欄は、前回以前の届出で当期に支給することとしていた事前確定届出給与の届出に記載した支給時期と支給金額を記入します。
「事前確定届出給与に関する事項」「支給額」欄は、⒊で届け出た給与を実際に支給したその時期と金額を記入します。
「今回の届出額」欄には、今回の届出により、当期及び翌期に支給する事前確定届出給与の支給時期と支給金額を記入します。
「事前確定届出給与以外の給与に関する事項」の「支給時期(年月日)」欄及び「支給金額(円)」欄には、事前確定届出給与の支給対象者に対して支給した、又は支給しようとする事前確定届出給与以外の給与※について、届出の時に予定されている支給時期及び支給金額を記入します。
※事前確定届出給与以外の給与には、退職給与や使用人兼務役員に対する給与を含みません。同族会社であれば定期同額給与の金額がこれに該当します。定期同額給与については次の記事をご参照ください。
もっと詳しい書き方をご覧になりたい方は「付表(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))」をご参照ください。
事前確定届出給与に関する届出書とその付表をシステムでスマートに作成しよう
事前確定届出給与に関する届出書とその付表を無料で簡単に作成するためのツールを紹介します。この記事で使用しているサンプルもこのツールで作成しました。
そのツールとは、法人税の知識不要のクラウド税務ソフト「全力法人税」です。
事前確定届出書作成画面のUIはこんな感じです。
「全力法人税」は、法人税の知識がなくてもかんたんに法人税の申告書が作成できるというものをコンセプトとしたソフトです。かなりの高機能にもかかわらず無料で利用できます。これほど高機能で無料で利用できるものを他に知りません。これまでアカウントの登録数は16,000を超えています。
元国税調査官・税理士が監修しており、お客様レビューでの高評価数550件越えで信用できます。
全力法人税で届出書を作成する方法については、次の記事をご覧ください。
平成29年6月様式に対応しています。
まとめ
役員に対する賞与は期限までに事前確定届出給与の届出と付表、そして議事録を添付して提出し、その届出どおりに役員賞与を支給すれば全額損金に算入されます。くどいようですが、それ以外は全額損金不算入になります。
この規定を知らないと本当に恐ろしい出来事が起きてしまうかもしれませんが、この記事をお読みのみなさまならすべてを把握して役員への賞与支給に対応することができます。面倒なだけで恐怖はないはずです。役員に賞与を支給するときには提出期限を守って届出を提出すればよいのですから。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作
コメント
事前確定届出給与の書き方(記載例)の記載例の届け出期限の日が、経過する日ではなく、経過した日になっていましたよ。
例の場合、経過する日は28年6月27日が、経過する日になると思います。
ご指摘ありがとうございます。
ご指摘を受け、平成28年6月27日に修正しました。
分かりやすいご説明ありがとうございます。
1点、届出期限ですが、例だと6/26が期限にならないでしょうか?
「株主総会等の決議をした日(令和1年5月27日)から1月を経過する日」は、国税通則法10条1項1号の「期間の計算は…期間の初日は、参入しない。」という原則に則って、令和1年5月27日の翌日から起算して1月を経過する日なので、令和1年6月27日となります。