法人税の確定申告書の添付書類の一つ「買掛金(未払金・未払費用)の内訳書」の書き方や注意点を元国税調査官で税理士がわかりやすく解説します。
「買掛金(未払金・未払費用)の内訳書」を作成するには、勘定科目「買掛金」「未払金」「未払費用」を理解している必要がありますので、まずはこの3つの科目を理解するところから始めます。
買掛金、未払費用、未払金を理解する
買掛金とは
本業の販売用の商品や製品製造に必要な材料などを掛けで仕入れたときの債務を買掛金と呼びます。
本業に関わる仕入れであることが重要です。
後述しますが、これが未払金との違いになります。
【仕訳例】(小売業)商品を100万円掛けで仕入れた
仕入 100万円 /買掛金 100万円
仕入をいつ計上するのか
仕入れを行った時にそれをいつ計上するかというのも重要なポイントです。
なぜなら税金の計算が変わってくるからです。
例えば、X年3月決算の法人が3/31に仕入れ100万円を計上していたとします。
税務調査で調べてみると実は4/15に計上すべきものだったことがわかりました。4/15は次の決算ですので、この100万円は次の決算であるX1年の仕入れに計上することになります。
そうするとX年3月決算は費用が100万円少なくなりますので、利益(法人税法の所得)が100万円増えて、税率が30%だとすると100万円×30%=30万円追徴される。とこんなことになり得ます。
売上原価となる仕入れた商品や材料をいつ計上するのかについては、次の記事で解説した売上計上基準を仕入る側からみたときと同じ考え方になります。
つまり納品基準を採用するなら、商品が納品されたときに仕入を計上し、検収基準を採用するなら商品の検収が完了したときに仕入を計上することになります。
未払費用とは
未払費用とは、一定の契約に従って、継続して役務(サービス)の提供を受ける場合、すでに提供された役務に対して、まだ代金を支払っていないもののうち、支払期日が来ていないものを未払費用と呼びます。
分解してみます。未払費用とは次のいずれにも該当する金額を処理する勘定科目です。
- 一定の契約に従って、継続して役務(サービス)の提供を受けることとなっている
- すでにサービスが提供されている
- まだ代金を支払っておらず、支払期日が来ていないもの
例として給料、社会保険料、借入金の支払利息、賃借料などが挙げられます。
例えば給料が月末締めの翌月25日払いの場合を前述の3つの条件に当てはめて考えてみましょう。
- 雇用契約に従って会社のために仕事をすることになっている
- すでに前月分の仕事は完了している
- 25日までは支払われていない
翌月25日が到来するまでは給料の未払分は未払費用ということになります。
【仕訳例】月末締めの給与100万円が決算期末時点で支払日前のため未払いとなっている
給与 100万円 /未払給与 100万円
未払金とは
未払金とは、すでに債務として支払の義務があるが、代金の支払いが完了していない買掛金以外のものを未払金と呼びます。
分解して意味ます。未払金とは次のいずれにも該当する金額を処理する勘定科目です。
- すでに債務として支払いの義務がある
- 代金の支払いが完了していない
- 買掛金以外のもの
例として、外注加工費、宣伝広告費、支払手数料や固定資産の購入代金の未払い等が挙げられ、買掛金や未払費用に比べ幅広く使われます。
【仕訳】車両200万円が納品されたが、決算期末時点で未払いとなっている。
車両運搬具 200万円 /未払金 200万円
未払金と未払費用との違い
未払費用との違いは、一定の契約に従って継続して役務を提供するものかどうかという点です。
契約に基づいた継続した取引でない債務の未払いのものは、未払金で処理します。
契約に基づいた継続した取引でる債務の未払いのものは、未払費用で処理します。
未払金の例)車が納車されたが、代金は未払い
未払費用の例)雇用契約に基づいた給与の支払いや金銭消費貸借契約に基づいた借入金の利息の支払い
未払金と買掛金との違い
未払金と買掛金の違いは、本業の売上に直接かかわる支払かどうかがポイントです。
本業の売り上げに直接かかわる支払いで支払いが行われていないものは買掛金です。
例)商品の仕入れや原材料・部品の仕入れ
本業の売り上げに直接かかわない支払いで支払いが行われていないものは未払金です。
例)固定資産の購入や販売手数料、水道光熱費の支払い
未払費用と未払金は区別しなくても実務上問題ない
未払費用と未払金の区別がわかりにくいと感じた方は多いと思います。でもぶっちゃけた話をすると上場企業でもなければあまり気にする必要はありません。
相手が税務署であるならどちらも損金(法人税法上の経費)になるので実質どちらでも良いのです。会計原則では区別しろと言っていますが区別してもしなくても税金は変わりません。
ですから、あまり気にする必要はありません。それよりも次の要件をしっかり意識しましょう。
販売費及び一般管理費や営業外費用、特別損失をいつ計上するか
売上原価となるもの以外の販売費及び一般管理費や営業外費用、特別損失となる取引はいつ計上すべきなのか。仕入れをいつ計上するかで解説しましたが、税金の計算に影響がある部分です。当期の決算の費用なのか次の決算の費用なのかが重要だからでしたね。
次の要件を満たしたときに未払金または未払費用として費用計上します。
- 会計年度末までに債務が成立していること。
- 会計年度末までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
- 会計年度末までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
(参考)販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定(国税庁HP)
給料を例にこの条件を考えてみましょう。
月末締めの翌月25日払いであった場合、月末まで雇用関係があれば1の債務として成立しています。そして月末まで働いていれば2の具体的な給付をすべき原因となる労務を提供しているという事実が発生しています。金額も雇用契約で決められた金額を支払うわけですので3も合理的に算定できます。したがって費用として計上することになります。
雇用契約に基づいて継続して働きますので、ここでは未払費用として費用計上します。
簡単に言えば支払うべき債務が確定していてその金額も算出できるときに費用にしようということを言っているわけです。発生主義という言葉を知っている方にとっては当たり前のことに感じると思います。
買掛金(未払金・未払費用)の内訳書を作成する
勘定科目内訳明細書の共通する基本的な書き方やそもそも勘定科目内訳明細書とはどんなものかについてを先に知っておくと理解が深まりますので、次の記事を先に一読しておくことをおすすめします。
記入上の注意点
法人税の申告書に添付する勘定科目内訳明細書の買掛金(未払金・未払費用)の内訳書には、これまで説明した買掛金、未払金、未払費用についてそれぞれ次のように記入します。
- 買掛金、未払金、未払費用の取引先別の残高を抽出します。
- 残高が50万円以上のものについては、取引先ごとに、科目、取引先名、住所、残高を記入します。( ただし、50万円以上のものが5口未満のときは金額の多いものから5口程度を記入)その他は一括して記入します。
- 未払金については、その取引内容を「摘要」欄に記入します。
貸借対照表との照合
内訳書に記入された買掛金、未払金、未払費用の各科目の合計金額が貸借対照表の各科目の金額と同じになっているか確認しましょう。
下の記載例の買掛金の合計は3,400,000円です。したがって、貸借対照表の買掛金も3,400,000円である必要があります。未払費用なら貸借対照表の未払費用が1,000,000円になっているということです。
買掛金(未払金・未払費用)の内訳書の記載例
未払配当金勘定に残高がある場合はその支払いが確定した日ごとにその年月日と残高を記入します。
また、未払いとなっている役員賞与があればその支払いが確定した日ごとにその年月日と残高を記入します。なお、この役員賞与には使用人兼務役員の使用人職務分は含まれません。
使用人兼務役員がわからない場合は、次の記事を参照してください。
まとめ
債務の確定している買掛金、未払金、未払費用を拾い出すという作業も決算で最も大切なものの一つです。それによって原価を算出する作業に移れますし、原価以外の費用はこの作業で確定することになります。
また、この拾い出しもれがあると、費用が少なくなりますので税金を多く支払うことにもなりかねません。
時間のかかる地味な作業ですが、確実に拾い出すようにしましょう。決算の時に毎年やる作業なので、どの書類をどのように確認するかをマニュアル化するなどして効率的に処理できるようにしましょう。
16種類すべての勘定科目内訳明細書を通してその書き方の基本的な部分を説明した記事がありますのでそちらも参照するとより理解が深まると思います。
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