勘定科目内訳明細書の「役員給与等の内訳書」の「使用人職務分」ってなんだろう?
法人税法では役員と使用人兼務役員で報酬の取り扱いが違うらしいなど、使用人兼務役員っていったいなんですか?という方向けに0から説明していきます。
使用人兼務役員の判定を誤ると多額の税負担を強いられる可能性もあります。
逆にこの記事をしっかり読んで2つのポイントを抑えれば何も恐れることはありません。
使用人兼務役員とは
世間一般で言われる使用人兼務役員とは
法人税法上の使用人兼務役員を世間一般的に言われるようにゆるーく捉えると、取締役経理部長や取締役営業部長といった使用人(従業員)としての肩書を持っているけれど役員でもあるという者のことをいいます。
こういう者のことを使用人兼務役員と呼ぶんだなというイメージをまず持ってください。
次に法人税法はこのようにゆるーくは捉えませんので、法人税法で細かく決められている規定を見て修正していくことにしましょう。
法人税法上の使用人兼務役員とは
法人税法では使用人兼務役員を「部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事している者」と定義しています。
「使用人としての職制上の地位を有する」とは、支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等法人の機構上定められている使用人たる職務上の地位を持っているということです。
また、太字にしましたが常時使用人として職務に従事しているということなので非常勤役員は使用人兼務役員にはなれないということになります。この点に注意してください。
さて、それではこの条件に当てはまる役員がすべて使用人兼務役員になれるか、といえばそうではありません。使用人兼務役員になれない役員が決められています。
ポイント1 使用人兼務役員となれない役員とは(使用人兼務役員の判定)
次に挙げる5つに当てはまる役員は使用人兼務役員になれません。
- 社長、理事長、代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人
- 副社長、専務、常務その他定款等の規定または総会や取締役会の決議等により、その職制上の地位が付与された役員
- 合名会社、合資会社、合同会社の業務を執行する役員
- 委員会設置会社の取締役、会計参与、監査役、監事
- 下の図解で「使用人兼務役員になれない」に該当する役員
使用人兼務役員判定フローチャート
株主グループについては、下の表をご覧ください。
法人税の別表2「同族会社等の判定に関する明細書」の下段「判定基準となる株主等の株式数等の明細」の「順位」「株式数等(議決権等の欄に数字があればそちら)」欄で順位が同じになっていれば同じ株主グループになります。
税金一郎と税金花子が順位が1位となっていますので、同じ株主グループということになります。
上位3位に入っているかはその記載されている順位で判断します。
税金二郎が2位となっていますので、この会社の例では、株主グループは2位までということです。
所有割合は
税金一郎と税金花子のグループが8,000/10,000=80%
税金二郎のグループが2,000/10,000=20%
上の図解に当てはめて税金一郎が使用人兼務役員になれるかを判断してみます。
税金一郎とその配偶者である税金花子の所有割合は80%です。
① 両者の所有割合が5%超 80%なのでYes
② 株主グループの所有割合が10%超 80%なのでYes
③ 株主グループは所有割合で3位以内か 1位なのでYes
④ 使用人兼務役員になれません。
このように判断すれば他の二者も使用人兼務役員になれないという結果になります。
この1〜5までに示した使用人兼務役員になれない条件を鑑みると、その会社の主要なポストにいる役員は使用人兼務役員にはならせないよ、という規定になります。
なお、別表2の簡単な作成方法を次の記事で紹介していますのでよろしければ参考にしてみてください。
ポイント2 使用人兼務役員とその他の役員との違い
使用人兼務役員の判断がつき、使用人兼務役員となった場合に、ではそれでどうなるんだ?という疑問が湧くと思います。
使用人兼務役員をわざわざ役員と区別する理由はなんでしょうか。
使用人兼務役員になるメリット
実は使用人兼務役員になると通常の役員と比較してメリットがあるのです。
法人税法では役員に対する給与を損金(法人税法上も費用)とするのに厳しい規制をかけています。
損金がわからない方は次の記事を参照すると理解が深まります。
役員報酬と役員賞与には厳しい規定がかかっていますが、それを知らない方は次の記事を参照すると理解が深まります。
しかし、使用人兼務役員の使用人部分には次のとおりその規制がかかりません。つまり損金に参入できます。
- 通常役員の報酬は毎月同額でないと損金(法人税法上も経費)に算入されないが、使用人兼務役員の使用人部分の給与は同額でなくても損金に算入できる。
- 通常役員に賞与を支給する場合は、事前に税務署へ届け出をしないと損金に算入されないが、使用人兼務役員の使用人部分に対する賞与は損金に算入される。(ただし、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額は損金に算入されないのでその点は十分ご注意ください。)
このように通常の役員と比較して使用人兼務役員であれば損金算入の規制がゆるいので、割と自由に給与を決定することができるのです。
規制がかからないのは、使用人兼務役員の使用人部分のみという点にも注意が必要です。
使用人兼務役員になれない役員を規定している理由
使用人兼務役員になれない役員を規定している理由は、法人税法は役員報酬や役員賞与に前述のように厳しい規定を設けて利益を操作されないようにしています。
一方で使用人兼務役員に対する給与は厳しく規制されていないため、自分を使用人兼務役員にしてその給与で利益を操作してやろうという発想が生まれます。それを防ぐために、社長などの主要なポストの役員は、使用人兼務役員にはなれませんよという規定が必要ということです。それが理由になります。
税務調査での否認事例
ある会社の取締役兼営業部長は定額の役員報酬とそれに加えて営業成績によって決まる能力給を支給されています。
この会社は定額の役員報酬は定期同額給与とし、能力給は使用人兼務役員の給与としてすべての金額損金に算入しています。
定期同額給与を知らないという場合は次の記事を参照してください。
しかしながらこの取締役兼営業部長は代表取締役の息子で株式を20%所有しています。
ここが問題です。
先の使用人兼務役員になれない条件の5つ目に該当しています。
本人が5%超を所有し、株主グループは代表者のグループに属しグループの所有割合は100%、株主グループの順位は1位です。これでは使用人兼務役員になれません。
すると、この取締役兼営業部長の能力給のすべてが損金不算入になります。
損金不算入は次のようなイメージです。
税務調査では最大で5年遡りますので能力給相当額×5年分の金額が否認される(法人税法上の利益が増える)という恐怖を味わうことになります。
まとめ
このように使用人兼務役員の規定を知らないと税務調査でとんでもない打撃を受けることもあります。頻出する事項ではありませんが、法人税法上は重要な項目です。
もう一度整理すると使用人兼務役員についてのポイントは2つです。
- 使用人兼務役員に該当するかどうか
- 使用人兼務役員と役員との違い。
i.で判断を誤って、本当は使用人兼務役員でない者に賞与を支給していたり、歩合給や残業手当など毎月同額とならない給与を支給しているとそれが法人税法上は費用とならず、その分利益が増えて税金が多く課されるという結果になります。
ii. 正しく使用人兼務役員と判断できれば、他の役員と違って、柔軟に報酬や賞与を支給できるようになる。
以上2点が使用人兼務役員を考えるときには押さえておきたい重要なポイントになります。この点を押さえていれば使用人兼務役員について十分に理解していると言えます。
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