ある法人が決算期末日に実際に実地棚卸をやる段になって、
棚卸資産の金額はどうしたらいいんだろう?
調べてみたら評価方法がたくさんあるわ。
どうしよう。
となった場合、
あなたの会社の棚卸資産の評価方法は「最終仕入原価法」と決まってます!
と声を大にして言います。
えっ!?
それはなぜか、数多くの調査を実地に行ってきた元国税調査官・税理士が解説します。
この記事は中小法人向けとなっています。
実務での棚卸資産の評価方法は最終仕入原価法一択
棚卸資産の評価方法は大きく原価法と低価法に分けられ、原価法は個別法、先入先出法、総平均法、、、と通常の説明は続いていきますが、簿記の試験を受けるのでもなければこんな説明に意味はありません。
なぜなら実務では、
だからです。
簿記の試験を受けたい方と大会社に関わりがある方はこのサイトではありません。中小企業の実務について知りたい方だけ先に進みましょう。
なぜ最終仕入原価法1つだけなのか
なぜ実務では最終仕入原価法一択なのか、その理由を説明します。
税務署への届出が必要
棚卸資産の評価方法のうち自社がどの方法で評価するかを、実は事前に税務署に届け出ておく必要があるのです。
ちなみに期限は
- 設立の年度・・・その年度の申告書提出期限まで(通常年度末から2ヶ月以内)
- 変更する年度・・・変更する年度の開始日の前日まで
設立の年度ならその年度の申告書の提出期限までに出せばよいので届出を提出しやすいですが、それ以外の場合は、決算期末に棚卸資産を評価するときに選択するのでは遅すぎるのです。
(参考)棚卸資産の評価方法の届出(国税庁HP)
届出をしていない場合
届出をしていなかったり、期限に間に合わない場合はどうなるのでしょうか。普通の会社さんは届出なんかしていませんのでみなさんこう思うでしょう。
届出をしていなかった場合は次の方法で評価することになっています。
これが冒頭の話になります。
大半の会社さんは棚卸の評価方法について届出を出すほど暇ではないので最終仕入原価法を気づかないうちに実は取ることに決まっています。
だから学ぶのは最終仕入原価法についてだけで十分なわけです。そして最終仕入原価法が最も簡単に棚卸資産を評価できるのです。
最終仕入原価法とは
例えば、期末在庫となった部品Aの評価をするにあたって、決算期末に一番近いときに仕入れた部品Aの価格で評価するということです。
3月決算の法人で次の表のように3回仕入れたとしましょう。最終仕入原価法で評価する場合の部品Aの価格はいくらになりますか?
仕入日→ | 1/13 | 2/15 | 3/16 |
---|---|---|---|
部品Aの価格 | 900円 | 910円 | 920円 |
決算期末3/31に一番近い仕入日は3/16なので920円で評価します。部品Aが100個在庫として残っていれば部品Aの期末棚卸高は920円×100個=92,000円となります。
万能な最終仕入原価法
このように最終仕入原価法は非常に把握が簡単な評価方法です。
実務では最終仕入原価法で棚卸資産を評価しておけばまず間違いないわけです。税務調査で棚卸しの評価の仕方で争いになる確率が最も低いです。最終仕入原価法では棚卸資産の評価ができないということはほぼないでしょう。私が税務署での現役時代も棚卸資産の評価の届出をしている会社さんをほとんど見た記憶がありません。
例えば不動産販売会社においても、特に個別法を使わなくても、期末に残っている物件を「その種類の異なるごと」を広く捉えて物件ごとに個別に評価すればいいですし、製造業だって税法上は原価計算を求めていませんので、例えば期末に在庫となった材料を最終仕入原価法で評価し、期末材料費/期首材料費+材料仕入高の割合を労務費やその他経費に乗じることで仕掛品を計算しても継続適用していれば特に問題ないでしょう。
平均を取ったり、資産ごとに原価率をかけたり、時価と比べてどっちがなど(そもそも時価っていくら?)手間がかかってしようがありません。
自社の業態からどうしてもこの評価方法が適切だという確固たるものがなければ実務では最終仕入原価法に落ち着く流れになっているのです。
まとめ
このように最終仕入原価法で棚卸資産の評価はたいてい乗り切れます。そして簡単です。したがって冒頭申し上げたとおり、棚卸資産の評価については、実務では「最終仕入原価法」だけ知っていればいいのです。他の5種類の原価法や低価法の勉強コストもばかになりません。
他の記事は、万能的な回答をしようと満遍なく説明していますが、実務においてはどれを選択すればいいのか迷わすだけで、害があるだけです。試行錯誤して「自社に一番適した評価方法は売価還元法だ!」と決めたところで届出の提出期限が過ぎていて適用できなかったなんていうのがオチでしょう。
みなさんもたくさんの記事がある中で有用な情報にたどり着くまでたいへんだと思います。地道に頑張りましょう。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作
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