一括償却資産とは?一括償却を使う場面は限られる!元国税・税理士が解説

 

一括償却資産とは?一括償却のメリット 注意点 実務での活用方法

 

この記事を書いた人

税理士(元国税調査官)

税務署に12年間勤務。主に法人税の調査に従事。

現在は、クラウド税務ソフト「全力法人税」、「全力消費税」や「全力電子帳簿」等を提供するジャパンネクス株式会社の代表を務める。

税務署側の視点を交えながら、主に法人税・消費税について一般の方に向けて実務に直結した税務情報を分かりやすく解説します。

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一括償却資産とは

 

法人税法、所得税法に一括償却資産の3年償却の取り扱いというものがあります。

それは取得価額が20万円未満の固定資産ならどんな種類のものでもそれを一括して3年間で均等に償却できるという制度です。

 

3年で均等償却する

 

簡単に言うと通常の減価償却の方法によらず、「取得価額 × 1/3」の金額を1年間の償却費とするということです。

例えば180,000円のパソコンを2台購入したとします。

2台のパソコンを一括して

360,000 × 1/3 = 120,000円 を3年間均等に償却します。

 

経過年 1年目 2年目 3年目
償却費 120,000円 120,000円 120,000円

 

つまり1年間120,000円ずつ3年間にわたって償却します。

ほとんどのケースはこの理解で問題ありませんが、正確にいうと下記のようになります。

償却額 = 取得価額合計※ × 事業年度の月数/36

※事業年度ごとにその事業年度内に取得した一括償却資産の取得価額の合計額

1/3ではなく、正確には「事業年度の月数/36」事業年度の月数は通常12ヶ月なので12/36で1/3で計算されることがほとんどです。「事業年度の月数/36」であることの注意点は後述します。

 

一括して償却する

 

一括償却資産の3年償却の特徴として、3年で償却するというポイントの他に「一括して償却する」という点もポイントとして挙げられます。

先の例でも180,000円のパソコンを2台購入した場合、180,000 × 1/3という計算を2回するわけではなく、2台をまとめて計算します。

360,000 × 1/3 = 120,000円

1会計期間の中で取得した一括償却資産をすべてまとめて3年で償却するという特徴があります。

 

勘定科目の「一括償却資産」とは

 

会計ソフトの勘定科目に「一括償却資産」が登録されている場合があります。

一括償却資産として3年間で償却する資産を管理する勘定科目が「一括償却資産」です。

基本的には一括償却資産として3年償却を適用する資産については「一括償却資産」という科目を使用することを勧めます。

なぜならば詳細は後述しますが、一括償却資産として3年償却を適用するための要件があり、その要件が、例えば所得税の場合は決算書に一括償却資産として償却していることを明記しなければならないこと、そして一括償却資産の明細を示す固定資産台帳を保存しておく必要があるからです。

この要件を満たすために、勘定科目で「一括償却資産」として管理しておけば通常はこの要件を満たすからです。

 

一括償却資産の3年償却を適用するメリット

 

続いてなぜこのような制度があるのかを考えてみましょう。

通常の減価償却によらず一括償却資産の3年償却を適用するメリットは何なのでしょう。

 

一括償却資産の3年償却を適用するメリット

償却を早められるので費用を前倒しできる

 

20万円未満の固定資産に該当しそうな器具備品の耐用年数を見ると3年を超えるものが多くあります。(国税庁の提供する耐用年数表はこちら)

例えば、事務机が8年、カメラが5年、パソコンですら4年などです。

しかしながらこの一括償却資産の3年償却を適用すれば、元々設定されている耐用年数が3年を超えるものであっても3年で償却できます。

耐用年数が短いほど費用の額が大きくなることを鑑みれば、短い分だけ費用を前倒しして多く計上できるというメリットがあります。

 

耐用年数を調べる労力が省ける

 

固定資産には様々な種類があります。減価償却をするためにはその種類を特定して、決められた耐用年数を適用する必要があります。

(参考)減価償却や耐用年数について詳しくお知りになりたい方は次の記事をご参照ください。

耐用年数を新たに調べるというのは骨の折れる作業です。

しかし、一括償却を選択すれば耐用年数を調べる必要がありませんので事務効率的です。

 

一括償却資産の3年償却の注意点

 

続いて、一括償却資産の3年償却を適用する上で注意すべき事項を押さえておきましょう。

大きく4つあります。

  1. 一括償却資産の3年償却は申告時に手続きを踏まないと損金or必要経費に算入されない
  2. 「事業年度の月数/36」を乗じる
  3. 除却しても一括償却を続ける
  4. 一括償却資産は備忘価格は不要

一括償却資産の3年償却の注意点

 

❶ 一括償却資産の3年償却は申告時に手続きを踏まないと損金or必要経費に算入されない

 

法人税の場合

条文では「確定申告書等に一括償却対象額の記載があり、かつ、その計算に関する書類を保存している場合に限り、適用される」(法人税法施行令133の2第12項)となっています。

具体的には、別表16(8)を確定申告書に添付する必要があり、かつ、会計ソフト等で作成できる一括償却資産の明細がわかる固定資産台帳やその計算方法がわかる減価償却計算表を保存している必要があります。

別表16(8)「一括償却資産の損金算入に関する明細書」記載例

別表16(8)「一括償却資産の損金算入に関する明細書」記載例

所得税の場合

 

条文では「一括償却資産を業務の用に供した日の属する年分の確定申告書に一括償却対象額を記載した書類を添付し、かつ、その計算に関する書類を保存している場合に限り、適用する。」(所得税法139条2項)なっています。

具体的には「青色申告決算書(一般用)」等の所得税の確定申告書に添付する決算書の「減価償却費の計算」に「一括償却資産」と記載する。

そして会計ソフト等で作成できる一括償却資産の明細がわかる固定資産台帳やその計算方法がわかる減価償却計算表を保存している必要があります。

「減価償却費の計算」の記載例(国税庁「令和2年分青色申告決算書(一般用)の書き方」より引用)

所得税決算書 減価償却費の計算 「一括償却資産」部分記載例

 

❷ 「事業年度の月数/36」を乗じる

 

注意が必要なのが取得価額に1/3を乗じるのではなく、「事業年度の月数/36」を乗じるという点です。

2つ注意すべき点があります。

1) 一括償却資産は常に「取得価額合計 × 事業年度の月数/36」で償却費を計算する。

通常の減価償却は会計年度の途中で取得した場合は、月数按分をしますが、一括償却は月数按分を考慮せず、一律に「事業年度の月数/36」で計算します。

2) 事業年度が1年に満たない場合は、1/3にならない

設立年度で会計期間が10ヶ月の場合は、10/36を乗じることになります。

また決算月を変更した場合も事業年度が1年未満になることが多くなります。

 

❸ 除却しても一括償却を続ける

 

一括償却を適用した固定資産については、たとえ実際は除却し(処分してなくなっ)ていたとしても一括償却を続けます。

一旦一括償却を適用した固定資産は、自動的に取得価額に事業年度の月数/36を乗じた償却が残高が0になるまで続いていくことになります。

(参考)一括償却資産を除却した場合の取扱い(国税庁HP)

 

❹ 一括償却資産は備忘価格は不要

 

通常の減価償却償却の場合は、償却の終わった資産でも実際に使用している場合は、1円を備忘価格として残します。

一括償却資産の場合は、備忘価格を1円残すことなく3年で全額償却してしまいます。

したがって償却が済んだ場合は、決算書にも固定資産台帳にも載ることはありません。

 

一括償却資産の3年償却の実務での運用。有効?それとも?

一括償却資産の3年償却の実務での運用。有効?それとも?

 

先に述べたように一括償却資産の3年償却には、費用を前倒しできるメリットがあります。

しかしながら実は、償却を早めて費用を前倒ししようと考えればもっと圧倒的に効果的な方法があります。

 

30万円未満の固定資産は全額を費用にできる方法がある

 

青色申告者であれば、30万円未満の固定資産を1年間でその合計が300万円まではその全額を費用として計上することができます。

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例というもので、次の要件のいずれも満たしている必要があります。

  • 中小企業者(法人:主に資本金1億円以下の中小法人で常時使用する従業員の数が1,000人以下(令和2年4月1日以後に取得などする場合は500人以下)/個人事業主:常時使用する従業員の数が1,000人以下)であること
  • 青色申告書を提出している

なお、この規定を適用する場合には確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」という書類を添付する必要があります。法人であれば別表16(7)という書類になり、個人事業主の方は一定の方法で省略が可能です。その方法が国税庁のホームページに記載があり、記載例もあります。

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例についての詳細は、「30万円未満の固定資産(少額減価償却資産)を全額費用化して節税する方法」をご覧ください。

したがって、青色申告書であれば、一括償却を適用するよりもこちらの制度を適用する方が早期費用化の観点からすれば圧倒的に効果的です。

1年間で300万円を超えなければ一括償却は出る幕がないと言っていいでしょう。

 

10万円未満の固定資産は全額費用にできる

 

次のいずれかに該当する場合は、こちらも減価償却することなくその全額を費用とすることができます。

  • 購入代金が10万円未満かどうか
  • 使用可能期間が1年未満であるもの

したがって、10万円未満のものは一括償却を適用することなく全額を費用にすることができます。

たとえば「消耗品費」などの経費で計上することになります。

 

結局のところ一括償却資産の3年償却を適用する場面は

 

以上のことから、一括償却資産の3年償却を適用する場面というのは、下記のようになるでしょう。

1. 青色申告者の場合

30万円未満の固定資産の合計金額が300万円以上となった場合でかつ、価額が10万円以上20万円未満の固定資産を購入した場合

2. 白色申告者の場合

10万円以上20万円未満の固定資産を購入した場合

このように一括償却資産の3年償却は青色申告を提出する場合はかなり出番が少ないということをご理解いただけたのではないかと思います。

白色申告を提出する方は事務効率化から積極的に用いるということになろうかと思います。

 

一括償却資産の3年償却は償却資産税の対象となるのか

 

一括償却資産の3年償却を適用した10万円以上20万円未満の資産は償却資産税の申告の対象となっていません

 

一括償却資産の3年償却のまとめ

 

これまでお話した固定資産の取得価額によってどのように償却できるかを表で表すと次のようになります。

 

取得価額 通常の減価償却 一括償却資産 少額減価償却資産
10万円未満 ※減価償却不要 ※減価償却不要 ※減価償却不要
10万円以上20万円未満
20万円以上30万円未満 ×
償却資産税 対象(10万円未満は対象外) 対象外 対象

※消耗品費等で一時の費用として計上可能なので減価償却をする必要はありません。

 

一括償却資産の3年償却は、少額減価償却資産の全額費用化の特例がインパクトが大きすぎてあまり目立たない存在ですが、少額減価償却資産の全額費用化の特例が適用できない場面では大活躍できる規程です。

貴社の状況に応じて選択の可否を判断し、効果的に償却費を計上していきましょう。

 

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