この記事は中小企業向けに書かれています。
会計ソフトを使っていて固定資産台帳へ資産を登録する時に必ずと言っていいほど取得した日とは別に「事業の用に供した日」や「事業供用年月日」を聞かれることと思います。
この「事業の用に供した日(事業供用年月日)」とは、なんのことなのでしょうか。
事業の用に供した日(事業供用年月日)とはどのような意味か
なぜ「事業の用に供した日」や「事業供用年月日」が経理に必要かというと「減価償却費を経費として計上し、所得(税法上の利益)を減らし始めていい日は、購入した日ではなくて実際に使い始めた日です」と税法に規定してあるからです。
事業の用に供した日とは、実際に事業で使い始めた日というほどの意味です。
したがって、購入した日と実際に使い始めた日が異なっていた場合、購入した日から減価償却費を計算して経費にすると、実際に使っていない日も含めて経費に計上することになるので、購入した日と使い始めた日の差だけ早く経費にしていることになり、決められた会計期間の中ではその分経費が多くなっていることになります。
経費が多くなっているということは、その分所得が少なくなっていることになり、結果として申告を誤っていることになります。
例でみてみましょう。
12月決算 1年間の減価償却費 120万円
減価償却を開始した日 | 減価償却費 |
---|---|
取得年月日(1/1)で減価償却を開始した場合 | 120万円 × 12/12ヶ月 = 120万円 |
事業供用年月日(3/1)で減価償却を開始した場合 | 120万円 × 10/12ヶ月 = 100万円 |
取得したのは1月1日だったが、実際に事業で稼働し始めたのが3月1日になったケースです。
この場合、取得年月日で減価償却の計算を開始した場合の方が事業供用年月日で開始した場合に比べて20万円多く減価償却費を計上することになります。つまり20万円所得(税法上の利益)が少なくなり、税金も少なくなります。
さらに詳しく「事業の用に供した時期」とは
国税庁が示している事業の用に供した日の説明を参考までに見てみることにしましょう。
以下のように説明されています。長いですがすべて引用することにします。さらっと読んでみてください。
…資産を事業の用に供したか否かは、業種・業態・その資産の構成及び使用の状況を総合的に勘案して判断することになります。
「事業の用に供した日」とは、一般的にはその減価償却資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいいますので、例えば、機械等を購入した場合は、機械を工場内に搬入しただけでは事業の用に供したとはいえず、その機械を据え付け、試運転を完了し、製品等の生産を開始した日が事業の用に供した日となります。
なお、事業の用に供した日とは、資産を物理的に使用し始めた日のみをいうのではなく、例えば、賃貸マンションの場合には、建物が完成し、現実の入居がなかった場合でも、入居募集を始めていれば、事業の用に供したものと考えられます。
以上のように具体例は載っているとはいえ、文面は抽象的ではっきりと言ってくれません。
当局側からすれば「事業形態から総合的に勘案して判断してください。個々の事情により異なります。ご自身で判断してください。もし誤っていれば税務調査のときに訂正しますので。」というほどの意味でしょうか。真剣に検討すれば答えのない質問に答えを出さなければならない問題のようにも見えます。
実務ではこのような問題に足を踏み入れることは決して多くないと言っていいのではないでしょうか。その理由をみていきましょう。
事業の用に供した日(事業供用年月日)を間違えたらどうなる?
事業供用年月日で申告を誤るのはどのようなケースか、それは減価償却を始める時期が早すぎるといった一点に絞られます。つまり、問題となりうるのは、減価償却費を計上し始める時期の問題だけということになります。
それでは、時期を誤った場合どのような影響があるのでしょうか。
時期を誤った場合の影響は?
時期を誤って大きな問題となりうる注意すべき点は一点で、その他ほとんどの小規模の会社では問題は小さいと言えるでしょう。たとえば機械を例に考えてみしょう。
12月決算の法人を例にして、令和1年12月5日に売買契約を結んで機械を購入し、令和1年12月20日に納品になり、試運転等を終え、令和2年1月15日に稼働し始めたとしましょう。
取得年月日が12/20で、事業の用に供した日が1/15です。
大きな問題となりうるケース
大きな問題になるのは、税額控除又は特別償却を適用することができるケースです。
税額控除又は特別償却を適用するには、その決算期のうちに事業の用に供していることが条件になります。したがってこのケースでは、令和1年12月31日までに事業の用に供していませんので、令和1年度中には税額控除又は特別償却を適用することができず、節税の機会を失って損を被るということも考えられます。
次の決算期が赤字が見込まれていて、当期は黒字の場合、当期中に事業の用に供していたら法人税のうち20%の税額控除を受けれたのにーという場合は、結構な痛手になるかと思います。
例えば中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)を例にとってみると、「この制度は、青色申告書を提出する中小企業者などが平成10年6月1日から令和3年3月31日までの期間内に新品の機械及び装置などを取得し又は製作して国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却又は税額控除を認める」となっています。
取得年月日が申告決算期内でも事業の用に供した日がその翌年度になる可能性がある場合は、全力でどちらに帰属するか判断する必要があります。
あまり問題とならないケース
税額控除又は特別償却を適用しない場合には、ケースバイケースですがあまり大きな問題とはならないケースが多いと思われます。
機械の価額が300万円で耐用年数を仮に8年として、1月分の減価償却費を計算すると62,500円です。令和1年分の申告にはこの金額を載せてはいけません。しかし、たかだか6万円です。誤る税金はさらに少なくその所得金額に税率をかけた金額になります。仮に法人税率を例にとって15%とすると9,000円ほどです。
元国税調査官の立場から言えますが、これを指摘する調査官はいません。
この誤りが所得金額ベースで何十万円にもなれば修正を求められるケースもあるかもしれません。
しかしながら通常購入した日から稼働する日まで1月を超えるケースがどれほどあるのでしょう。
減価償却の月割計算は1月のうち1日でもあれば切り上げて1月とカウントするので1月以上差がなければ差ができないケースも多々出てきます。事業供用年月日を本当に検討したら実際に購入した日と3日ずれていたなんてことがあったとしてもほとんど意味をなしません。
取得年月日=事業の用に供した日でいいケースが多い
以上のことから中小企業で事業の用に供した日について注意を払って検討するということは決して多くないと思います。
注意を要するのは、
1)税額控除又は特別償却を適用する場合
2)取得した日と実際に使い始めるまでに何ヶ月も差がある場合と購入した資産が高額で取得した日と実際に使い始める日の差の月数の減価償却費が多額に及ぶ場合
この2点に限られると言っていいでしょう。
したがって、費用対効果であまり時間をかけるところではないという意味で、これら注意を要するケースでなければ「取得年月日=事業の用に供した日(事業供用年月日)」と判断するのが合理的と言えるでしょう。
税務調査官の視点
税務調査官としても事業の用に供した日で大きな不正や誤りを指摘できる可能性が小さいので、税額控除や特別償却を適用している場合にチラッと見るくらい。そして金額の大きい固定資産を取得しているときに暇があったら確認する程度です。
税務調査官としてモチベーションが上がるポイントではないということが言えます。
繰り返しになりますが、事業の用に供した日を誤ることによって多額の税額が発生するときだけ注意すれば良い論点といえます。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作
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