固定資産を購入した場合、それを費用にするには、減価償却をします。その際に必ず必要な情報の一つに「耐用年数」というものがあります。これがわからないと減価償却を計算することができません。
ここでは、この耐用年数とは何かから実務ではどのように決定しているか、そして実務ではどのような位置づけなのかまでを元国税調査官の視点を交えながら経理初心者の方向けにわかりやすく解説します。
減価償却とは
減価償却とは、何か。
一言で言えば、
購入した資産の購入代金を使用する期間にわたって分割して費用とする方法
といえます。
どういうことかというと、建物や車などの有形固定資産は、使用を続けることによって年々その価値は減少していき、やがては使用できなくなります。
価値が年々減少するのだから、買った時に一度にすべて費用にするのではなく、その価値が減少した分だけを段階的に費用にしていこうと考えるのが合理的ではないでしょうか。
このような考え方を減価償却といいます。
例えば100万円のものが5年使えるのであれば、100万円÷5年で、1年あたりの費用は20万円という計算をします。
ここで、資産を購入して、減価償却を使う場合と使わない場合を考えてみましょう。
①一度に費用とする方法 |
②減価償却を考慮する方法 | |||||
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決算 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
売上 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
仕入 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
固定資産 | 90 | 0 | 0 | 30 | 30 | 30 |
利益 | -40 | 50 | 50 | 20 | 20 | 20 |
一つ目は、購入した時にその金額のすべてを費用とする方法です。
この方法で年間の利益を計算すると上の表の①「一度に費用とする方法」のように購入した年だけ資産の費用(90)が多くなるためにその年は損失(−40)が多く算出され、その後の年の利益は多く算出されます。
二つ目の方法は、資産はその利用を通じて会社の営業活動に貢献するため、その貢献する期間にわたって固定資産の購入費用を少しずつ費用として配分しようと考える方法です。
この方法で年間の利益を上の表の②「減価償却を考慮する方法」に当てはめて計算すると、資産の購入費用を90とし、それを3年間使い続けると考えると、90÷3で1年あたり30の費用をそれぞれの年に配分します。すると年間の利益は20ずつで平準化されます。
会計の考え方は二つ目の方法を採用しています。
こちらの方が会社の経営状況を正しく反映していると考えるからです。この資産の購入費用を、利用できる期間に配分するという方法を減価償却というのです。
また、先の例で3年間使うとして、90÷3という計算をして1年あたり30という費用を配分しましたが、この3年という数字を耐用年数と呼びます。
耐用年数とは
その固定資産が何年間使用に耐えうるのかを耐用年数という言葉で表現します。
この用語もよく使われますので覚えておきましょう。
法定耐用年数とは
購入した固定資産が何年間使用できるものなのか(耐用年数)というのは会社がどのように使用しているのかやどのくらい稼働しているかなどから適正に見積もるというのが本来の姿です。
しかしながら、多くの企業がこれをしていません。
なぜなら、税法は、資産の種類や構造によって、その資産の耐用年数を一律に規定しています。
例えば、パソコン(サーバー用以外のもの)は4年と決められています。これを法定耐用年数といいます。
多くの会社が法定耐用年数を採用する理由
企業が仮に適正に見積もった耐用年数で減価償却費を計算している場合であっても、税金の計算をする場合には法定耐用年数で減価償却費を計算し直して申告する必要があります。
そのため多くの企業は、わざわざ骨折って耐用年数を見積もって計算することなく、始めから法定耐用年数を採用して減価償却費を計算することを選択するのです。
法定耐用年数を定める理由
なぜ税法は耐用年数を一律に規定するのでしょうか。
税法の趣旨の一つに公平に課税するという考え方があり、減価償却費の計算を会社の判断に任せてしまうとこのようなことを考えるかもしれません。
「今年は利益が多く出るので、耐用年数を短くして減価償却費を大きくし、利益を小さくすることで節税しよう」
このように利益を操作することも可能になってしまいます。このような会社が故意に利益を操作することを防ぐ目的で耐用年数を一律に規定しています。
減価償却費を計算するために最初にすること
資産を購入し、減価償却費の計算をするために最初にすることは、その資産の法定耐用年数が何年かを調べるところから始まります。
法定耐用年数は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で別表第一から別表第六で定められていますが、購入した資産がこの別表のどこに当てはまるかを判断するのは容易なことではありません。慣れていない場合には、細かい表の端から端まで見てもわからない、なんてことも起こりえます。
耐用年数検索サイトを利用しよう
しかしながらそんなことをしなくても耐用年数を調べることができるたいへん便利なサイトがあります。それが
このサイトでは資産名を入力すると耐用年数を瞬時に教えてくれますのでたいへん便利です。その他機械装置や建物に特有の検索にも対応し、中古資産の耐用年数計算まで簡単に計算できます。耐用年数に関するものはこのサイトで全てまかなえるといってもいいでしょう。
元税務署員EYE
法定耐用年数で減価償却費の金額が決まります。その金額が申告する時の所得金額に影響するので、その耐用年数が合っているかどうかというのは気になるところだと思います。しかしながら、私個人的には耐用年数が合っているに越したことはないのですが、間違っていてもそんなに大きな問題ではないと思っています。
耐用年数は税の専門家である税理士や税務職員でも判断が分かれる場合があるのです。それに耐用年数が1年や2年違っていたところでその資産の額にもよりますが、中小企業であればそう大きく税金の額が変わるわけでもありませんし、もし税務調査で指摘を受けたとしても元々支払うべき税金を支払うだけです。ペナルティの過少申告加算税や延滞税も元々の税額が大きくなければ微々たるものです。赤字であればペナルティさえありません。
それに言ってしえば税務調査において減価償却費という科目は優先度が高くありません。いいえ、はっきり言ってしまいます。低いです。私が税務調査で「今回の調査のテーマは減価償却費だ」なんて思ったこともありません。普通の税務調査官であれば、限られた調査時間の中にあっては売上を故意に申告しないことや架空の経費の計上に目を光らせます。
減価償却すべきものをまったくしていないという点には気を配りますが、耐用年数の誤りについては指摘したところで、長い目で見れば費用の額は同じわけですし、金額の面からも大きく申告額が変わるといったことも少ないのでほとんど気を配りませんでした。
したがって、正しく申告しようとすることはもちろんですが、耐用年数をもし誤ったとしても10年以上違っていたということでもなければそう大きな問題となることはないのではないかと思います。
しかしながら金額の高い低いについては個人差がありますので参考意見としてお聞きいただければという点を最後に付け加えさせていただきます。
まとめ
今回は、減価償却の考え方から法定耐用年数の決定までを説明しました。もう一度おさらいすると、資産を購入した場合には、その資産に費やした金額をその資産が会社の営業活動に貢献する年数にわたって費用として配分します。この配分の方法を減価償却といい、貢献する年数は法定耐用年数を使用します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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