消費税の確定申告では、還付になるケース(中間還付を除く)で「消費税の還付申告に関する明細書」という書類の提出が求められます。
なぜ還付の時だけこのような書類が必要になるのかといった作成する趣旨を理解すると、この書類の重要性がわかってきます。
元国税調査官ならではの視点を交えながら税理士が解説します。
消費税の還付申告に関する明細書とは
消費税の還付申告に関する明細書とはどのような書類なのか、まずは様式から確認していきましょう。
消費税の還付申告に関する明細書の様式
国税庁のHPで様式が公開されています。
消費税の還付申告に関する明細書は2枚で構成されています。
1枚目
2枚目
消費税の還付申告に関する明細書の提出要件
どのような場合に消費税の還付申告に関する明細書の提出が必要になるのか。
消費税の申告書を作成し、控除不足還付税額がある場合には、消費税の還付申告に関する明細書を提出する必要があります。
控除不足還付税額がある場合って?という疑問が浮かぶことでしょう。
控除不足還付税額があるかどうかは申告書の作成が済んでいれば簡単にわかります。
消費税の確定申告書の第一表の⑧欄がそれに当たります。
消費税の確定申告書の第一表の⑧欄に値がある場合は、消費税の還付申告に関する明細書を作成する必要が出てきます。
このように消費税の還付申告に関する明細書は控除不足還付税額がある場合にかぎって提出の必要があるのであって還付申告の場合に必ず必要というわけではありません。
控除不足以外で還付となるケースは中間税額が確定申告の納付税額より多い場合がそれです。
還付となる原因が中間納付還付税額が発生することのみの場合は、消費税の還付申告に関する明細書を提出する必要がありません。
中間納付還付税額とは、すぐ上の第一表の画像の(12)欄に値がある場合です。
消費税の還付申告に関する明細書に提出義務があるのか
控除不足還付税額がある場合には、消費税の還付申告に関する明細書を提出する義務があるのか?というと当然にあります。
法的根拠は、消費税法施行規則第22条3項に次のように規定されています。
3 法第四十五条第一項第五号に掲げる不足額(控除不足還付税額のこと)の記載のある前項に規定する申告書(消費税の確定申告書のこと)を提出する者は、同項に規定する書類のほか、次に掲げる事項を記載した書類(消費税の還付申告に関する明細書のこと)を当該申告書に添付しなければならない。
ということで
なぜ「消費税の還付申告に関する明細書」提出が必要なのか
なぜ消費税の還付申告に関する明細書をわざわざ作成して提出しなければならないのでしょうか。
これが元国税調査官ならではの解説です。初めて世に出ます。
国税庁2021レポートの「1適正・公平な課税」の中で次のように述べています。
次の点に注目してください。
特に、虚偽の申告により不正に還付金を得ようとするケースについては、調査などを通じて還付原因となる事実関係を確認し、不正還付防止に努めています。
実は、国税庁が重点的に取り組んでいる事項の中に「不正還付防止」を挙げているのです。
これは2021年に限ったことではなく、毎年毎年国税庁の重点施策として挙げられており、私も現役の税務職員の時は毎年聞かされていました。
要するに仕入れ税額控除の金額を不正に水増しして消費税の申告すると現金が手に入ることになります。これを防止するということを重点的に税務署では行うということを言っています。
不正の還付申告でないかをこの還付申告に関する明細書で確認しようとしているのです。
したがって控除不足還付税額があってこの還付申告に関する明細書の提出がない場合は税務署から提出を求められるのは必至です。
なぜ「消費税の還付申告に関する明細書」が重要なのか
税務署ではこの重点施策に則って一定金額以上の控除不足還付税額がある場合は、還付処理を保留します。
第一段階として消費税の内部事務処理をしている部門でこの還付申告に関する明細書をみて還付してよいかどうかを審査します。確認が必要な場合は、おたずね文書を会社に送付したり、行政指導という形で担当者が電話や実地に赴き疑問点を質問するなどして内容の解明を測ります。
還付が止められている場合は、審査の結果還付してもよいと判断された場合に還付が行われます。
審査の結果調査が必要という場合は、しかるべき部署の税務職員が実地に調査にいってその還付申告が正しいものかを確認することになります。
つまり税務署が納得しない場合は、ずっと還付されないということになります。
極端なことを言えば、還付申告に関する明細書が提出されない限り還付が行われることはありません。
内容が空欄ばかりであったり、記載事項に極端な誤りがあれば税務署から問い合わせがくるでしょうし、悪ければ税務調査が来るといったことになりかねません。そしていつまでたっても還付されないということになりかねません。
還付申告に関する明細書がわかったところでこの書類の書き方を見ていくことにしましょう。
消費税の還付申告に関する明細書の書き方(記載例)
還付申告に関する明細書の書き方と記載例は国税庁で公表しているものを元にしています。
課税期間、所在地、名称
確定申告書に記載した「課税期間※」、「納税地」、「名称」をそれぞれ記載します。
※ 課税期間とは、納付すべき消費税額の計算の基礎となる期間をいいます。
法人の課税期間は、原則 事業年度(会計期間)になります。
例)令和3年4月1日から令和4年3月31日
還付申告となった主な理由
還付申告となった理由のうち該当する主なものに○を付します。
輸出等や設備投資に該当しない場合は、「その他」に円を付し、その理由を簡潔に記載します。
例)期末に多額の棚卸資産を購入したため
主な課税資産の譲渡等
主な課税資産の譲渡等には収入となる取引のうち、消費税を受け取っている取引について必要事項を記載します。
消費税がかかる収入の中で、取引金額(税抜)が100万円以上のもののうち上位10番目まで記載します。
共通の取引先に継続して売り上げている場合は、申告対象の課税期間中の取引金額を合計します。合計した場合は、「譲渡年月日等」欄には「継続」と記載します。
「資産の種類等」欄は次のように記載します。
- 商品を販売した場合は、その内容(「機械用部品」、「建設機械」 等)を記載
- 事務所用賃貸物件の貸付けの場合は「事務所貸付け」と記載
- 売上対価の返還の場合 は「対価の返還」と記載
- 課税資産の譲渡等に伴う貸倒れについても「貸倒れ」 と記載
「取引金額等」欄は、自社で採用している消費税の経理方式によって税込・税抜のいずれかに○を付します。単位は千円単位であることに注意しましょう。
繰り返しになりますが、この欄には税抜金額で100万円以上のものを記載します。同じ取引先に複数の取引がある場合は、その金額を合計します。
主な輸出取引等の明細
主な輸出取引等の明細には、消費税が免税になる輸出取引について必要事項を記載します。
申告対象の課税期間中に行った消費税が免税になる輸出取引のうち、取引先別の取引金額の合計額が上位10番目までのものを記載します。
「取引金額等」欄は、千円単位であることに注意しましょう。
「主な取引商品等」欄は次のように記載します。
- 商品を輸出した場合は、その内容(「機械用部品」、「建設機械」等)を記載
- 非居住者に対する著作権等の貸付けの場合は「著作権等の貸付け」と記載
「所轄税関(支署)」欄は、同一取引先の取引で複数の税関を利用している場合は、そのうちの主なものを記載します。
「主な金融機関」欄には、輸出取引等に利用する金融機関のうち主なものを記載します。(ゆうちょ銀行の場合は口座番号欄に記号・番号(又は店番・口座番号)を「○○○○○‐○○○○○○○○」 と「‐(ハイフン)」で区切って記載します。)。
「主な通関業者」欄には、輸出取引等に利用する通関業者のうち主なものを一つ記載します。
仕入金額等の明細
次のいずれかの申告書類の「課税仕入れ等の税額の合計額⑮」欄の計算の基礎となった金額の明細を記載します。
- 申告書付表2-1「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を 含む課税期間用〕」
- 付表2-2「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表〔経過措置対象課税資 産の譲渡等を含む課税期間用〕」
- 付表2-3「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」
「(イ) 決算額・資産の取得価額」欄は、自社で採用している消費税の経理方式によって税込・税抜のいずれかに○を付します。ここも単位は千円単位であることに注意しましょう。
「(ロ) (イ)のうち課税仕入れにならないもの」欄は①〜④・⑥〜⑧の区分に応じて「(イ)決算額」のうち消費税のかかっていない支払い金額を集計してきます。
また居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限の規定の適用を受ける場合には、該当の居住用賃貸建物の取得価額を合わせて(ロ)欄に記載してください。
「(イ) – (ロ) 課税仕入高」欄で前述の「(イ) 決算額」から「(ロ) (イ)のうち課税仕入れにならないもの」を差し引いて課税仕入高(消費税のかかっている支払い金額の合計額)を算出する仕組みになっています。
損益科目の「商品仕入高等①」欄には、申告対象の課税期間中の商品仕入高及び製造原価に含まれる消費税のかかっている支払い(課税仕入れ)金額を記載します。
資産科目の「資産の取得価額」欄は、、貸借対照表から申告対象の課税期間中に取得した資産の取得 価額を⑥〜⑧の区分に応じて記載します。棚卸資産、有価証券及び金銭債権等の記載は不要です。
「課税仕入れ等の税額の合計額⑩」欄には、「課税仕入高」欄の⑤欄と⑨欄の合計額に対する消費税 額と保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された(又は課されるべき)消費税額の合計額を 記載します。
この金額は、消費税法第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》の規定の適用がある場合を除いて、前述の申告書類付表2-1、付表2-2又は付表2 -3の「課税仕入れ等の税額の合計額⑮」欄の金額と一致します。
主な棚卸資産・原材料等の取得
前述の3⑴「仕入金額等の明細」の損益科目の①「商品仕入高等」の「(イ) – (ロ)課税仕入高」に記載した金額のうち、取引金額(税抜)が合計100万円以上の取引を上位5番目まで記載します。
「取引金額等」の単位は千円単位であることに注意しましょう。
共通の取引先から継続して取得している場合は、申告対象の課税期間中の取引金額を合計します。合計した場合は、「譲渡年月日等」欄には「継続」と記載します。
「資産の種類等」欄には、次のように記載します。
- 棚卸資産や原材料を取得した場合には、その内容(「機械用部品」、「製品原料」等)を記載
- 外注費等の役務の提供の対価を支払った場合には、その内容(「下請加工」、 「支払手数料」等)を記載
主な固定資産等の取得
前述の3⑴「仕入金額等の明細」の資産科目の「(イ) – (ロ)課税仕入高」に記載した金額のうち、固定資産等の取得に要した取引金額(税抜)が合計100万円以上の取引を上位10番目まで記載します。
取引金額等の単位はここも千円単位であることに注意です。
「資産の種類等」欄には、取得した資産(店舗の改装等を含む。)の種類(例えば、「建物」、「車両」)を記載します。
当課税期間中の特殊事情
次のいずれにも当てはまるような事情がある場合に記載します。
- 通常の営業サイクルでは起きないような事情
- 還付申告となる要因の一つとなった事情
例えば、輸出がメインの事業であれば、毎回還付になりますので、輸出による還付は特殊事情には当たりません。
例えば、多額の設備投資を行った場合や多額の貸倒損失が発生した場合、多額の売上対価の返還等が発生した場合など、その課税期間に普段起きないような事情で、かつ還付の要因の一つとなっている事情を記載します。
消費税の還付申告に関する明細書 まとめ
「消費税の還付申告に関する明細書」は、税務署側がその控除不足還付税額が本来申告者に還付すべきものかを判断するための資料となる書類です。
この書類のみで判断できれば還付され、この書類だけでは足りない場合は、書面や電話により追加の情報を求められたり、時には実際に訪ねてきて還付の原因の説明を求める場合もあります。
早期に還付されるようこの書類に還付が正当のものであることがわかるよう可能な限り丁寧に作成することが肝要です。
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