この記事は、専門家向けではなく、設立間もない会社や消費税を初めて申告する会社などの自分で消費税を理解したいという一般の方を対象としています。
すべての方のために向けて説明するといたずらに難しくなってしまうので、一般の方が消費税を自分で申告するために必要な情報に的を絞って元国税調査官がわかりやすく解説していきます。
今回取り上げるのは「非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例」です。
非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例は、少しマイナーで、関係がある方は少ないかもしれませんが、消費税の申告書や会計ソフトの税区分に出てくる用語です。
「あれ?非課税資産の輸出って何だろう。」と消費税の申告書を作成している際に、躓かないよう知っておきたい用語の一つですので、是非最後までご覧ください。
それでは、誰でもわかる素人のための消費税シリーズの18回目「非課税資産の輸出等」について始めていきましょう。
非課税資産の輸出等を行った場合の特例とは
「非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例」とは、車椅子や補聴器などの身体障害者用物品を国外に輸出したり、非居住者である国外銀行に預け入れた預金の利子を収受した場合は、消費税法第31条「非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例」の規定により輸出取引等を行ったものとみなされ、非課税資産の輸出売上高は課税売上割合の計算上分子に算入されます。
消費税の取引の分類を行う上で、下記の図のように、非課税取引かどうかの判定は、免税取引の判定より先に行われるため、身体障害者用の物品などの非課税資産の譲渡等は、国内販売、輸出販売に係らず「非課税取引(※)」に分類されることになります。
(※)非課税取引…
消費税の非課税取引とは、課税取引となる可能性のあるものから、消費税法で特別に課税取引から除外されている取引のことをいいます。
非課税取引については、こちらの記事で詳しく解説しています。
よって、身体障害者物品等の非課税資産を輸出販売した場合、本来であれば、「非課税取引」に該当するものとして納付税額の計算を行うことになります。
しかし、非課税資産の輸出販売を非課税取引として控除対象仕入税額の計算を行うと非課税売上にのみ対応する課税仕入れは、原則として、仕入税額控除ができないため、その分が価格に転嫁されてしまうおそれがあるため、消費税法第31条「非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例」規定により、非課税資産の輸出は輸出取引とみなして、免税売上げとし、仕入税額控除ができるよう納付税額の計算を行います。(詳しくは後述)
(非課税資産の輸出等を行つた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
第三十一条 事業者が国内において第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされる資産の譲渡等(以下この項において「非課税資産の譲渡等」という。)のうち第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等(以下この項及び次項において「輸出取引等」という。)に該当するものを行つた場合において、当該非課税資産の譲渡等が輸出取引等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたときは、当該非課税資産の譲渡等のうち当該証明がされたものは、課税資産の譲渡等に係る輸出取引等に該当するものとみなして、前条の規定を適用する。 消費税法第31条1項 引用
非課税資産の輸出となる取引
非課税資産の輸出の取扱いの対象となる取引は例えば、次のようなものがあります。
- 身体障害者用物品の輸出
- 教科用図書の輸出
- 貸付金の利子でその借入者が非居住者であるもの
- 手形の割引による収入で、割引を受けた者が非居住者であるもの
非課税資産の輸出とならない取引
逆に非課税資産の輸出の取り扱いの対象とならない取引もあります。
次の通りになります。
- 有価証券の輸出
- 金銭債権の輸出
- 抵当証券の輸出
以上の通り、有価証券及び支払手段、金銭債権の輸出は、この非課税資産の輸出の特例の取扱い対象となりません。
非課税資産の輸出を行った場合の課税売上割合の算出
先程、非課税資産の輸出は輸出免税取引とみなして、納付税額の計算を行うと説明しましたが、具体的にどのような計算を行うのか。
それは、課税売上割合(※)の計算の際に使います。
(※)課税売上割合…
課税売上割合というのは、課税期間中に国内で行った資産の譲渡等の対価の合計額のうちに課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいいます。
課税売上割合については、こちらの記事で詳しく解説しています。
非課税資産の輸出があった場合、非課税資産の輸出売上の金額を、資産の譲渡等の対価の合計額(分母)と課税資産の譲渡等の対価の額の合計額(分子)の両方に含めて計算します。
ちなみに非課税資産の輸出にならず、非課税取引であるだけだと分母に含めるだけで分子には含めません。ここに違いがあります。
計算式で表すと下記の式の通りになります。
消費税の申告書上(付表2-3)では、以下のように記載します。
非課税資産の輸出の特例は何のためにあるのか。
先程、特例がある理由について、
非課税資産の輸出販売を非課税取引として控除対象仕入税額の計算を行うと非課税売上にのみ対応する課税仕入れは、原則として、仕入税額控除ができないため、その分が価格に転嫁されてしまうことがある。そのため消費税法第31条「非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例」の規定により、非課税資産の輸出は輸出取引とみなして、免税売上げとし、納付税額の計算を行う。と書きましたが、「仕入税額控除ができないため、その分が価格に転嫁されてしまう」とはどういうことなのでしょうか。
なぜ、非課税資産の輸出の特例が必要なのか詳しく説明していきます。
まず消費税というのは、国内において消費されたものやサービスに課税する税金です。
しかし、非課税資産を輸出した場合に、もし消費税法第31条の規定が適用されない場合、国外において外国人が日本の非課税資産を購入したにも係らず日本の消費税を負担するような状況が起こってしまうことがあります。
例えば、日本で身体障害者用の物品を製造しているA社があり、その会社は外国にその物品を10,000万円で販売していたとします。
A社は商品を作るために材料費として5,500万円(税込み)を部品のメーカーに支払いを行いました。
A社は課税事業者であり、すこし極端な例ですが、課税期間において、この取引だけを行ったとします。
このような例の場合で、非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例の適用がない場合、材料費としていた5,500万円は非課税売上対応課税仕入れとなり、仕入税額控除を受けることができません。
そうするとA社の利益は売上高10,000万円から材料費5,500万円(税込み)を差し引いた金額である4,500万円が残ることになります。
しかし、5,500万円の材料費のうち、500万円は消費税であるため、取り戻したいと考える事業者が出てきて、消費税分である500万円を本来の販売価格から値上げすることで、材料費に係っていた消費税を仕入税額控除できなくても、A社は500万円を値上げした売上高10,500万円から材料費5,500万円(税込み)を差し引いた金額である5,000万円を利益として残すというようなことをしてしまう可能性があります。
この場合だと、実質的に外国にいるの消費者(非居住者)が材料費に係っている日本の消費税である500万円を負担していることになってしまいます。
このようなことが起きると、消費税の趣旨とも反しますし、健全な輸出入取引がされているとは言えない状況となってしまいます。
このような価格の転嫁が起こさないために、非課税資産である商品の輸出販売を、輸出取引等に該当するものであるとみなすことにより、非課税資産である商品の材料費も課税売上対応課税仕入れとすることができ、また、課税売上割合の計算上も非課税資産の輸出額は免税売上げと同様に扱うため、輸出販売額は分母及び分子にそれぞれ算入されます。
すると、材料費である5,500万円は課税売上対応課税仕入れとなることで、課税売上割合が100%になるため、材料費の5,500万円を仕入税額控除とすることができるようになり、A社は税務署より500万円の還付を受けることになります。
A社としては売上高10,000万円から材料費である5,500万円を差し引いた金額4,500万円が利益に加えて500万円を税務署から還付を受け取ることができ、結果として5,000万円がA社の手元に残る計算となるなり、外国の消費者が日本の消費税を転嫁することなく非課税資産を輸出販売することができます。
まとめ
以上が、非課税資産の輸出等を行った場合の特例についての概要になります。
非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例は、車椅子や補聴器などの身体障害者用物品を国外に輸出するなど、特殊な状況において、適用される法律であり、関係のある事業者は少ないかもしれませんが、該当する場合は、消費税の計算が違ってきますので、注意が必要です。
会計ソフトでも、税区分に「非課税資産の輸出」の分類があります。非課税資産の輸出等を行った場合は、帳簿で必ず区分する必要があります。
最後まで記事をご覧いただきありがとうございました。
コメント