会計上の繰延資産と税務上の繰延資産の種類を合わせるとかなりの数になりますが、一般の中小企業であれば「創立費」「権利金」に注意しておけばまず十分です。
元国税調査官・税理士が解説します。
繰延資産とは
法人税法では、繰延資産を次のように定義しています。
支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので、資産の取得に要した金額とされるべき費用と前払費用を除くもの
費用収益対応の原則という考え方があって、ある会計期間の収益獲得に貢献した費用だけをその会計期間の費用にしましょうという会計上の決まりごとがあります。
したがって、支出の効果が1年以上に及ぶなら今期の収益獲得に貢献する分だけを費用として、残りは将来の収益獲得に貢献するので翌年度以降に繰延資産という形で繰り延べようと考えるのです。これが繰延資産の考え方の基本です。
このような考えを基に具体的に創立費から見ていきましょう。
創立費とは
創立費とは、法人の設立登記までに法人の設立のために要した費用をいいます。
具体的には定款作成費用や定款認証費用、登記に必要な登録免許税、設立事務に使用する使用人の給与、その他法人設立に要した費用が該当になります。
このような費用は支出時だけでなく、将来に効果が及ぶと考えるのです。したがって繰延資産の定義に当てはまるので創立費は繰延資産として扱われます。
【仕訳例】
発起人が立替払いした設立登記費用等200,000円を現金で支払った。
創立費 200,000円 /現金 200,000円
創立費に似た繰延資産で「開業費」というものがあります。
法人税法上の開業費とは、法人設立後から実際に開業するまでの間に支出した開業準備のために特別に支出した費用をいいます。
法人設立までの費用が「創立費」で設立から開業までの費用が「開業費」ということになります。
税務上の開業費は特別に支出した費用なので、事務所の家賃などは当てはまらないですし、固定資産になるものも当てはまらないので、通常はあまり開業費になるものは少ないかと思います。よほど多額な調査費や広告費等を支出してしばらく赤字なので、繰延資産として将来の費用として繰延べたいということでなければあまり実務では登場しにくい科目です。したがってこの記事ではスポットライトを当てません。
創立費とすべきものをしていないがために起こる誤り例
3月決算の法人が5月1日に設立した。
4月25日定款認証手数料を50,000円支払った。
この場合、仕訳を登録する日付は、4/25ではなく5/1に次の仕訳を登録します。
会計期間開始日は設立日以降になるので、4/25で仕訳するというのは誤りです。
日付 | 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
5/1 | 創立費 | 50,000 | 現金 | 50,000 | 定款認証手数料 |
創立費の償却方法とは
創立費として繰延資産として繰り延べた支出を費用にすることを繰延資産を償却するという言い方をします。(開業費も同様です。)
その償却の方法は2つあります。
- 5年間にわたって均等償却
- 好きな時に随時償却
均等償却
均等償却とは同じ額を償却するという意味です。具体例で説明しましょう。
創立費が200,000円の場合には、200,000円を5年で割って、1年間40,000円を5年間にわたって費用化(償却)していきます。
【仕訳例】
創立費償却 40,000円 /創立費 40,000円
随時償却による節税
創立費は好きな時にその創立費の金額までなら好きな金額を費用化できます。これを随時償却と呼んでいます。
好きな時に償却できますので、赤字の間は償却せず、黒字になったら償却して費用化するという方法が取れるので節税効果があります。
なお、全額を一度に費用化する場合には「即時償却」と呼ぶ場合もあります。
創立費の論点は以上です。
それでは次は権利金について解説していきましょう。
税務上の繰延資産の代表格「権利金」
税務上の繰延資産
税務上の繰延資産に該当する権利金で代表的なものは次のものです。
建物を賃借するために支出する費用
具体的には建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用を指します。
なお、建物を賃借する際に支出する権利金、敷金などのうち変換されない部分が繰延資産になりますが、不動産業者に支払う仲介手数料は繰延資産にも費用にもできます。
役務の提供を受けるための費用
具体的にはフランチャイズチェーンの加盟一時金や技術指導等のノーハウ設定の頭金等がこれに該当します。
償却期間
税務上の繰延資産である権利金に該当する場合に何年で償却するかは次の表のとおりです。
区分 | 償却期間 | |
---|---|---|
建物を賃借するために支出する権利金等 | ⑴建物の新築に際し支払った権利金等がその建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、建物の存続期間中賃借できる状況にあるもの | その建物の耐用年数の7/10に相当する年数 |
⑵建物の賃借に際して支払った⑴以外の権利金等で、借家権として転売できるもの | その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数 | |
⑶⑴と⑵以外の権利金等 | 5年(契約による賃借期間が5年未満で、契約の更新時に再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間) | |
役務の提供を受けるための権利金等 | ノーハウの頭金等 | 5年(設定契約による有効期間が5年未満で、契約の更新時に再び一時金又は頭金の支払を要することが明らかであるときは、その有効期間) |
【仕訳例】
3月決算の法人で10月15日にフランチャイズチェーン店に加盟し、6,000,000円の加盟一時金を支払った。なお、契約期間は7年間であった。
(支払時)
10/15 長期前払費用 6,000,000円 /普通預金 6,000,000円
(決算期末)
3/31 長期前払費用償却 500,000円 /長期前払費用 500,000円
償却費計算式 6,000,000円 × 6/60ヶ月 = 500,000円
※権利金は一般的に「長期前払費用」または「権利金」という勘定科目で処理されます。
まとめ
創立費はどのような法人でも支出する費用であり、節税にも使えるためピックアップしました。
また、権利金については現役時代に税務調査で繰延資産処理をしていなかったために指摘したことがある項目でしたのでピックアップしました。
その他の繰延資産は一般の中小企業ではあまり遭遇することのない支出だと思いますので今回は割愛しました。費用対効果を考えて効果的なものから潰していきましょう。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作
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