自分で法人税の申告書を作成するときに、やたらと記載事項が多い法人事業概況説明書はできるかぎり効率的に作成したいものです。
そこで、どの程度のものを作れば良いかが大きな関心事になると思います。
完璧なものを目指せばそれだけ時間がかかりますが、この程度でいいということがわかっていればメリハリをつけて対処できます。ここでは、その関心に応えるため法人事業概況説明書の書き方、記載例そして無料で効率的に作成する方法を元国税調査官の立場から解説していきたいと思います。
法人事業概況説明書は、コロナウィルスへの自粛による打撃へ対応策として講じられた持続化給付金等の添付資料としても採用されたこともおり、注目を浴びることとなりました。持続化給付金の添付資料として利用する際の注意点も追記しました。
なお、このブログは小規模の法人で自分で申告書を作成したいと考えている方向けに書かれています。
法人事業概況説明書とは
まずは法人事業概況説明書とはどんなものか、その様式を確認しておきましょう。
法人事業概況説明書は両面で印刷されることを予定された書類です。
表と裏の2枚で構成されています。
法人事業概況説明書の様式
令和3年4月1日以後終了事業年度分の最新様式をお示しします。
法人事業概況説明書(表)
法人事業概況説明書(裏)
事業概況説明書様式 令和3年4月1日以後終了事業年度分(国税庁)PDF形式
法人事業概況説明書とはこのような書式となっており、税務署で書式をもらってくると表と裏で1枚の書類となっています。PDF形式のものを両面で印刷しない場合は、2枚となります。
一般的に1枚目と2枚目と呼ばずに表裏と呼ぶことが多くなっています。
次になぜ法人事業概況説明書を提出しなければならないか、というそもそもの部分を見ていきたいと思います。
法人事業概況説明書を提出する理由
法人事業概況説明書は法人税法施行規則第35条の4号で確定申告書に添付して提出しなければならない書類の一つとして規定されていますので、提出が義務付けられています。
したがって、この法人事業概況説明書は提出しなければいけません。
ではなぜ、この書類の提出が義務となっているのでしょうか。
調査先の選定のため
税務署で法人税の調査に携わってきた立場から言えば、その第一義的な理由は、調査先を決める材料として効率的に法人の情報を収集したいというものです。
また調査に実際に訪れたときに確認する事項を一から聞き取る必要がなく、お互いに省略できるという利点もあるでしょう。
実際に税務署では提出された法人事業概況説明書をOCRで読み込み、データベース化します。
そしてそのデータを解析し、調査候補を抽出しています。調査先の多くはその候補とされたデータから決定されることになります。
繰り返しますが、この記事は小規模で自分で申告書を作る方に向けています。そこで別の視点から見てみましょう。
調査対象とならない法人とは
おおまかにですが、調査対象とならない法人を以下に挙げてみます。
- 売上が年間3,000万円に満たない小規模
- 赤字
- 設立から2年以下
この条件を同時に2つ満たせばかなりの確率で調査を受けることはないでしょう。(元国税調査官の経験です。)
法人事業概況説明書の内容はほどほどでいい?
つまり、自分で申告書を作成しようという方はかなりこの上記条件に当てはまってくるのではないでしょうか。
もし当てはまっているとすれば法人事業概況説明書は調査選定の材料に過ぎないのですからいい意味での”適当”なものでいいと言ってよいのではないでしょうか。
つまり完璧に仕上げなければ!!と肩肘張って取り組むようなものではないということです。はっきり言ってしまえば気楽に作ればいいのです。内容に誤りがあったところで罰金を支払うような性質のものではありません。
なお、調査を受ける規模の会社さんは前期と今期を比較して大きな変化のある勘定科目があれば、「18当期の営業成績の概要」にその理由を記しておくようにするとあらぬ疑いをかけられることを防げるかもしれませんので、会社さんの状況によっては手を抜いてばかりではいられないかもしれません。
また、昨今ではコロナウィルス対策のための補助金の申請に必要なケースが出てきていますので、その場合は、状況が変わってきます。
ここで法人事業概況説明書がコロナウィルス対策として支給される給付金等の添付書類になるケースに少し触れておきます。
(参考)持続化給付金の添付書類として利用する場合の注意点(持続化給付金自体は終了)
コロナフィルス対策として支給される持続化給付金の添付書類として法人事業概況説明書が採用されるようになりました。現在は持続化給付金は終了していますが、他の給付金でも継続して採用されていることから持続化給付金で注意すべきことは他のコロナ対策での給付金と共通すると考えられますので、持続化給付金で注意すべきことを参考までに継続して以下に載せておきます。
コロナ支援での申請に利用する場合は、当然正確性を持って埋めれる箇所はすべて埋めるという姿勢が求められるかと思います。ある程度肩肘張って作成する必要があるでしょう。
持続化給付金の添付書類が「対象月の属する事業年度の直前の事業年度の確定申告書別表一の控え、 及び法人事業概況説明書の控え」となっています。また持続化給付金の給付対象者の要件の一つが「2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月があること。」となっていることから、法人事業概況説明書の控えを提出させるのは、前年同月の売上高を確認する趣旨であることは明らかです。したがって、「18 月別の売上高等の状況」が不正確であったり、ましては空欄であることは論外であることがわかると思います。
「18 月別の売上高等の状況」は最も注意を払って正確を期す必要があります。
また「10 主要科目」の「売上(収入)高」の金額が「18 月別の売上高等の状況」の売上(収入)金額の「計」欄と一致することは最低限確認すべき点だと思われます。(ただし「18 月別の売上高等の状況」は千円未満を切り捨てたものの合計であるため端数分ズレるのは問題ありません。)
正確を記すためには国税庁が提供している「法人事業概況説明書の書き方(3ページ以降)」をすべて読み込み、注意書きがあるところはすべてそのように記載するということが肝要です。
法人事業概況説明書の書き方
さて、法人事業概況説明書との付き合い方がわかったところで注意すべき書き方の解説に移りたいと思います。
書き方についてポイントを絞って確認していきます。
詳しい書き方については国税庁から示されているので詳細まで確認したい方は「法人事業概況説明書の書き方(3ページ以降)」をご覧ください。
(参考)
平成30年4月1日以降終了事業年度分から様式の改定がありました。(国税庁)
共通事項
単位に注意しましょう
金額を記入する欄には必ず単位が示されているので、それに従って記入するようにしましょう。金額を記入する欄のほとんどは千円単位になっていますので注意しましょう。
千円単位の端数処理は、千円未満切り捨てです。百万円単位の場合は、百万円未満を切り捨てます。この切り捨てによって記載すべき金額がなくなった場合は、空欄のままとします。(法人事業概況説明書の書き方の2⑵に説明あり)
個別事項
個別に注意が必要な点を下記表にまとめました。
1 事業内容 | 日本標準産業分類の中分類の3桁の数字の次に記載されている業種を参考に決定するとよいでしょう。 (例:ソフトウェア業) |
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4 期末従業員の状況 | 職種の記載例:工員、事務員、技術者、エンジニア、販売員、労務者、料理人、ホステス等 「計のうち代表者家族等」→同居、別居は問わず。代表者本人は含まず。 |
6 販売携帯 | 「電子商取引」欄で「有・売上」に○をした場合は、「販売チャネル」欄に販売に使用しているホームページについて回答します。 |
8(4) 当期課税売上高 | 簡単に説明すると、消費税抜きの収入金額(収入から消費税がかからない収入は除きます。ただし輸出の金額は含めます。)の総計です。また、当期が消費税の申告を必要としなければ税込金額になります。 |
8(5) 社内監査 | 経理についての社内監査の実施の有無について、回答します。 社内監査にチェックシート等を活用している場合には、( )内にそのチェックシートの名称を記載します。 |
10 主要科目 | 該当がある決算書の科目の残高を千円単位で記載するのが原則です。 注意点にご注意ください。
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12⑴ 兼業の状況 | 建設業をやりながら不動産賃貸もしているなどの兼業がなければ空欄でよいでしょう。 兼業がある場合は、従たる事業内容をできるだけ具体的に記載するとともに、売上高に占める兼業種目の売上高の割合を記載します。 |
12⑵ 事業内容の特異性 | 国税庁の書き方では「同業種の法人と比較してその事業内容が相違している事項を記載してください。 」ということでかなり抽象的な書き方になっています。よほど書きたいことがなければ空欄で問題ないでしょう。 |
13 主な設備等の状況 | 国税庁の書き方では「事業の用に供している主な設備等の状況について、名称・用途・型・大きさ・台数・ 面積・部屋数等について以下を参照し、記載してください。 なお、申告書の内訳明細書等に記載がある事項については空欄でも差し支えありません。 (例)
(注) 機械装置の用途は、製造(又は作業)の工程と関連させて記載してください。 」とあります。 固定資産については固定資産台帳を添付していれば大方記載は省略できます。その他の例に挙がっている事項については余力があれば記載する程度の認識でよいでしょう。 |
15 帳簿類の備付状況 | (記載例) 受注簿、発注簿、作業(生産)指示簿、作業(生産)日報、原材料受払簿、商品受払 簿、レジシート、売上日計表、工事日報、工事台帳、出面帳、運転日報、注文書、外交 員日報、客別売上明細表、出前帳、予約帳、部屋割表、取引台帳、営業日誌等。 |
19 当期の営業成績の概要 | 経営状況の変化によって特に影響のあった事項、経営方針の変更によって影響のあった事項などについて具体的に記載してください。 実務では空欄で提出されることが多い箇所ですが、前述のとおり調査を受ける可能性のある規模の法人については前期と今期を比較して大きな変化のある勘定科目があれば、その理由を記しておくようにするとあらぬ疑いをかけられることを防げるかもしれません。 |
法人事業概況説明書の記載例
事業概況説明書の記入例としてサンプル以下に載せておきます。
空欄部分も多いですが、税務署に提出される事業概況説明書はこのレベルのものが一般的です。
「12主な設備等の状況」は、申告書に添付した固定資産台帳で網羅できていれば省略できますし、「11事業形態」の「事業内容の特異性」はなければ記載はなしになりますし、あれば簡単に記載すればよいといったレベルです。
法人事業概況説明書(表面)記載例
法人事業概況説明書(裏面)記載例
✳︎12 主な設備等の状況は、申告書に固定資産台帳を添付しており、必要事項が記載されているという前提で、空欄となっています。
法人事業概況説明書を効率的に作成するには
無料で効率的に作成できる方法はないか
まず、手書きは絶対にやめましょう。
なぜなら、法人事業概況説明書の取引金額を記入する欄や説明を要する欄以外は毎年ほとんど変わらないので、毎年多くの欄に同じ語句を記入し続けることになります。これはかなりの時間的ロスと精神的ダメージをあなたに与えてくるでしょう。
また、帳簿をつけているのに、わざわざ10主要科目や17月別の売上高等を集計して転記するというのはもはやほとんど苦行ではないでしょうか。
法人事業概況説明書だけを作成するだけなら無料でサクッとできるソフトを利用したいものです。
そんな好都合なソフトがあるのでしょうか。
JDLや達人シリーズなどの大手の税務ソフトだと勘定科目内訳書作成機能もついてですか1万円を下りません。エクセルでも無料で作成できるものを私は探せませんでした。
しかし、諦めないでください。法人事業概況説明書を無料で作成できるものが1つだけあります。
法人税の知識がなくてもかんたんに法人税の申告書が作成できるというものをコンセプトとしたソフトです。かなりの高機能にもかかわらず無料で利用できます。これほど高機能で無料で利用できるものを他に知りません。これまでアカウントの登録数は16,000を超えています。
お客様レビューもかなりの数あり、信用できます。
全力法人税で無料で法人事業概況説明書を作成する方法については下記記事で詳しく解説していますのでそちらをご覧の上ご利用ください。

まとめ
いかがだったでしょうか。元国税調査官の立場から言えば、小規模企業の法人事業概況説明書はここで触れた内容を理解していれば十分です。法人税の申告書の作成にお金も時間もかけられない会社さんはいかに効率的に申告書類を作るかがポイントとなります。
今回の記事で触れた申告ソフトなどを使って効率的に法人事業概況説明書を作っていきたいものです。
ただしコロナウィルス対策の給付金等を申請する場合は、正確をきす必要があります。
執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作
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