
最近、同業の社長から『賃上げ促進税制を使うと節税できるよ』って言われたんですけど……
 正直、名前を聞いたことがあるだけで、何をどうすればいいのか全然分からなくて。
ある日、取引先との打ち合わせの中で耳にした「賃上げ促進税制」という言葉。
何となく「社員の給料を上げると税金が安くなる仕組み」くらいは分かるけれど――
「中小企業でも本当に節税になるの?」
 「大企業向けの制度じゃないの?」
 「条件が厳しくて結局使えないのでは?」
 「計算方法が複雑そうで、自分でできるのかな?」
 「別表が必要だって聞いたけど、どうやって書くの?」
「賃上げ促進税制」と一言で言っても、色々な疑問や不安が出てくると思います。
たしかに「税制」という言葉を聞くと、税理士しか分からないような難しい仕組みをイメージしがちです。
 ですが、実際には中小企業こそメリットを受けやすく、節税効果が大きい制度でもあります。
とはいえ、賃上げ促進税制にはメリットもあれば実際にはデメリットもあります。
 また、「よく分からないけど節税になるなら使おう」と安易に適用すると、要件を満たせずに否認されてしまったり、無理な賃上げで資金繰りを悪化させてしまうリスクもあります。
たとえば――
- 教育訓練費の範囲を誤解して、対象外の費用を計算に入れてしまった
- 要件を満たさず、控除が全額認められなかった
- 無理に給与を増やした結果、固定費が膨らみかえって経営が苦しくなった
こうした「賃上げ促進税制の落とし穴」も、仕組みを正しく理解していれば防ぐことができます。
本記事では、「賃上げ促進税制とは何か?」という基本から、
- 2024年度(令和5年度)の改正ポイント
- 適用要件や対象企業の違い
- 控除率と計算方法
- 必要書類や別表の書き方
- 繰越制度の仕組み
といった点まで、元国税調査官の視点からやさしく丁寧に解説していきます。
読み終える頃には、あなたの会社が賃上げ促進税制を活用できるかどうかを判断でき、申告の準備を迷わず進められる知識が手に入ります。
ぜひ最後までご覧いただき、節税と人材育成を同時に叶える経営の第一歩を踏み出してください。
最近、取引先との会議で『賃上げ促進税制を使うと節税できるよ』って聞いたんですけど、正直うちの会社に関係あるのかどうかも分からなくて、、、
 節税になるなら使いたい気もするんですけど、要件とか複雑そうで不安です。
その気持ち、よく分かります。
 賃上げ促進税制は「賃上げした企業を税制面で支援する仕組み」ですが、確かに要件や控除率が細かく分かれていて、最初はとっつきにくいテーマなんです。
そうなんですね。
 しかも2024年に改正されたって聞いて、ますますハードルが高い気がして……。本当にうちの会社で使えるのか、自分で判断できる自信がなくて。
その、もやもやを解消するために、これから制度の基本から改正ポイント、適用要件やメリット・デメリット、そして実務での注意点まで、順を追ってわかりやすく整理していきましょう。
ありがとうございます。
 しっかり勉強します!
目次
1.賃上げ促進税制とは?

ここでは、「賃上げ促進税制」を初めて学ぶ方のために、以下の点に着目して制度の内容をわかりやすく整理していきます。
- 制度の基本的な仕組み
- 制度導入の目的
- 2024年度改正で何が変わったのか
- 中小企業・中堅企業・大企業ごとの違い
1-1 賃上げ促進税制の概要とその目的
賃上げ促進税制って、そもそもどんな制度なんですか?
簡単に言うと、給与や教育投資を増やした会社に「税額控除」というご褒美を与える仕組みです。
 中小企業も大企業も対象ですが、優遇度は規模によって違いますよ。
賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与を引き上げたり、教育訓練費に投資した場合に、法人税や所得税から一定の税額控除を受けられる制度です。
この制度の対象は、以下のいずれかに該当する事業者です。
- 中小企業者等 ※1
- 青色申告書を提出している常時使用従業員数1,000人以下の個人事業主
※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち以下のいずれかに該当する法人 (ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は本税制適用の対象外)
- 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人 ※2
- 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
※2 ただし以下の法人は対象外
- 同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは 出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本 金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配 関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。)から2分の1以上 の出資を受ける法人
- 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
中小企業者等についての詳細は、「中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック(経済産業省)」の2ページ目をご覧ください。
これらの事業者が前年度よりも給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から税額控除できる仕組みとなっています。
賃上げ促進税制の趣旨
給料を上げたり、教育訓練費を払ったら税額控除を受けられるんですね。
 でも、なぜこんな制度があるのでしょうか?
賃上げ促進税制は、単なる節税策ではありません。物価上昇や人材不足を背景に、国が「企業の収益を人材や給与に回してほしい」として設けた制度です。
この制度の狙いは大きく以下3つに整理できます。
賃上げ促進税制の制度の狙い
1. 従業員の生活安定と消費拡大
- 給与の増加によって家計に余裕が生まれる
- 日常の消費活動が活発になり、景気全体の底上げにつながる
2. 教育訓練費投資によるスキルアップと生産性向上
- 単なる給与増加にとどまらず、人材育成にも重点を置く
- 従業員のスキル向上が企業全体の持続的成長に直結する
3. 収益の積極活用による経済の好循環
- 内部留保に偏らず、人材や賃上げに収益を還元
- 企業の取り組みが経済全体の循環強化につながる
つまり賃上げ促進税制は、企業の負担を減税で和らげながら従業員の生活向上を実現し、その先に日本経済全体の成長と安定をもたらすことを目的とした仕組みなのです。
賃上げ促進税制を適用できる対象と適用期間
これはいい制度ですね。
 どんな事業者が対象なのでしょうか?
賃上げ促進税制は、中小企業や個人事業主も対象となる制度です。
 さらに、令和4年度から令和7年度(2022年度〜2025年度)に開始する事業年度・課税期間が適用の対象となっている時限的な制度となっています。
「時限的」とはいえ、元々は2013年から始まり、改正を重ねながら継続運用されており、今後も同制度がさらに延長・見直される可能性が十分にあると考えられます。
 たとえば、令和6年度の税制改正では、控除率の上乗せ要件の緩和や制度対象年度の見直しが行われています。
対象事業者
- 中小企業者等
- 青色申告を行っている、常時使用従業員数1,000人以下の個人事業主
適用期間
- 適用期間は 2022年度から2027年3月31日まで。
賃上げ促進税制は、大企業だけでなく中小企業や個人事業主も対象です。
 労働市場全体の底上げを図るため、中小企業にも「賃上げによる人材確保・定着」のインセンティブを与える狙いがあります。
町工場、地域の飲食業、サービス業、小規模スタートアップなども活用可能で、令和7年度開始分までの期限付き制度です。
 期限は延長される可能性が高いですが、賃上げして税制優遇を受けるにあたって、対象となっているかを確認しつつ、期限があることは意識しておく必要はあるでしょう。
賃上げ促進税制の制度の仕組み
なるほど、、幅広い事業者が適用できるんですね。
 では、実際にどのように制度を適用するのでしょうか?
 単純に給料を上げるだけでいいのでしょうか?
賃上げ促進税制の基本は、「前年より給与総額を一定割合以上増やす」ことです。これを達成した企業に対して、給与を増やした額の一部を法人税や所得税から控除できる仕組みになっています。
この制度の大きな特徴は、賃上げに加えて「人への投資」を広げるほど税制優遇が手厚くなる点です。
 給与アップにとどまらず、教育訓練や子育て・女性活躍を支援する制度の認定取得などを組み合わせることで、控除率が上乗せされます。
 では、実際にどのように控除額が変わるのか、具体例を見てみましょう。
具体例(中小企業の場合)
【ケース1】:賃上げのみ
 ある中小企業が、従業員給与を前年度比2%引き上げた場合、基本の控除率 15% が適用されます。
 つまり、引き上げた給与の金額の15%を法人税から控除できるのです。
【ケース2】:賃上げ+教育訓練費の増加
 同じ企業が、給与を2%引き上げたうえで、教育訓練費も前年度比10%増加させた場合、控除率は 25%に上乗せされます。
【ケース3】:賃上げ+教育訓練費増加+認定取得
 さらに、「えるぼし」や「くるみん」の認定を受けている場合には、控除率は最大45%に達します。
 これは、前年度と比較して増加した給与等支給額に対して最大45%を乗じた金額を、法人税額から控除できるという仕組みです。
たとえば、給与総額が前年より100万円増加した場合、最大で45万円を税額控除できる計算になります。
このように、中小企業であれば、給与を増やした額の最大45%の税額控除 を受けられる可能性があります。
 これは強力な節税効果であり、国が「人への投資」を後押ししている証拠です。
賃上げ促進税制は、簡単に言えば 「給与を増やせば税金が減る制度」。
 ただし、控除率や判定基準は企業規模ごとに異なるため、まず自社が「中小企業」・「中堅企業」・「大企業」というカテゴリー(後述)のうちのどれに該当するかを確認し、最適な条件で賃上げや教育投資を行うことが重要です。
制度の基本的な仕組みや目的を理解したうえで、さらに注目すべきは近年の改正内容です。
 特に2024年度(令和5年度)の改正では、中小企業にとっても大企業にとっても使いやすさやメリットが広がるような仕組みが新たに導入されました。
 ここからは、その改正のポイントについて見ていきましょう。
1-2 2024年度改正(令和5年改正)のポイント
2024年度税制改正に伴い、賃上げ促進税制には重要な変更が加えられました。
 特に注目すべき大きなポイントは次の2つです。
制度の改正の2つのポイント
- 子育て・女性活躍支援による控除率上乗せ制度の新設
- 「中堅企業」区分の新設
- 控除しきれなかった金額を翌年度以降に繰り越せる制度の新設
これまでの「給与を引き上げれば税額控除が受けられる」という仕組みに加え、人材育成や働きやすい職場づくりを支援する方向へ制度が拡充されたことが大きな特徴です。
 ここからは、これらの改正ポイントについて詳しく見ていきましょう。
① 子育て・女性活躍支援による控除率上乗せ制度の新設
2024年度改正により、子育て支援・女性活躍推進に取り組む企業は、賃上げ促進税制で控除率が上乗せされる仕組みが新設されました。
これまで賃上げ促進税制の適用には、以下の2つのステップがありました。
従来の賃上げ促進税制の適用のための2つのステップ
- 必須要件:給与等の総額を前年度比で一定割合以上増加させること
- 上乗せ要件:教育訓練費の増加など追加の取組によって控除率をさらに引き上げること
このような2段階の仕組みになっていました。
今回の改正では、この「上乗せ要件」に子育て両立支援・女性活躍支援に関する認定制度が加えられました。
厚生労働省が認定する以下の認定を取得している企業については、通常の控除率に5%上乗せが適用されます。
税額控除額が増加する2つの認定と加算率
- 「くるみん」認定(子育てサポート企業)
- 「えるぼし」認定(女性活躍推進企業)
| 認定制度 | 内容 | 加算率 | 
|---|---|---|
| くるみん認定 | 子育て支援に積極的な企業を認定 | +5% | 
| えるぼし認定(2段階以上) | 女性の活躍を推進する企業を認定 | +5% | 
ただし、これらの認定には複数の段階(基準水準)があり、どの段階を満たせば対象になるかは企業規模によって異なる点に注意が必要です。
中小企業の場合の控除は以下のように変わりました。
【中小企業の控除率イメージ】
資本金1億円以下、または従業員数1,000人以下の中小企業では、以下のように控除率が最大45%まで拡充されました。
| 賃上げによる控除率 | 上乗せ要件① | 上乗せ要件② | 最大控除率 | 
|---|---|---|---|
| 1.5%賃上げで15%控除 | ― | ― | 15% | 
| 2.5%賃上げで30%控除 | 教育訓練費5%増加で+10%控除 | 子育て両立・女性活躍支援で+5%控除 | 45%控除 | 
つまり、給与の引き上げに加えて「子育て支援」や「女性活躍」に取り組み、国の認定を受けるほど税制優遇が厚くなる制度に変わったのです。
法人税額のうち45%も控除されるなんてすごいですね!
 黒字であればあるほど控除される税額が大きくなっていくわけですね。
② 「中堅企業」区分の新設
2024年度(令和6年度)の税制改正では、これまでの「大企業」と「中小企業」の二分構成に加えて、
 その中間に位置する「中堅企業」区分が新たに創設されました。
この変更により、賃上げ促進税制を適用できる事業者の範囲がよりきめ細かく整理され、
 企業規模に応じた支援が受けやすくなっています。
| 区分 | 法人の基準 | 個人事業主の基準 | 
|---|---|---|
| 大企業 | 資本金1億円超かつ従業員数2,000人超 | 従業員数2,000人超 | 
| 中堅企業(新設) | 資本金1億円超かつ従業員数2,000人以下 | 従業員数1,000人超~2,000人以下 | 
| 中小企業 | 資本金1億円以下 | 従業員数1,000人以下 | 
この改正によって、賃上げ促進税制は「大企業」「中堅企業」「中小企業」という3区分の制度となり、企業規模や人員構成に応じたより柔軟な税制運用が可能になりました。
中堅企業にとっては、新たに自社規模に適した控除率や要件が適用されるため、これまで制度対象外だった企業も新たに賃上げ促進税制の恩恵を受けられる可能性があります。
③ 控除できなかった金額の繰越制度の新設
 2024年度改正により、中小企業を対象に税額控除の繰越制度が新設されました。これにより、赤字企業でも将来黒字化すれば控除を利用できるようになります。
従来は、赤字で法人税額や所得税額が発生しない企業は、賃上げ促進税制を適用しても控除の恩恵を受けられませんでした。
 この問題を解消するため、未控除額を翌年度以降に繰り越せる仕組みが設けられ、一時的な赤字でも制度のメリットを享受できるようになりました。
具体的には、以下のようなとおりになります。
改正で新設された繰越制度の内容
- 賃上げ要件を満たした年度に控除しきれなかった金額は、最長5年間繰り越し可能
- 将来黒字となった年度に、その繰越分を控除に充てることができる
- また、法人税や所得税の控除限度額(税額の20%まで)を超えた分についても、翌期以降に繰り越して利用可能
この改正により、赤字だから制度を活用できない、という制約が解消されました。
 中小企業にとっては、安心して賃上げに踏み切れる後押しとなり、将来的な節税効果も期待できます。
1-3 企業の規模による制度の違い
賃上げ促進税制は、すべての企業に同一の条件で適用されるわけではなく、企業の規模に応じて適用条件や控除率などが変わる仕組みになっています。
本記事では中小企業向けの賃上げ促進税制を中心に解説しています。
 企業の規模によって制度の内容(適用要件・控除率など)が異なりますので、ご自身の企業区分がどこに該当するかを確認したうえで、適切に制度を活用してください。
 なお、中堅企業・大企業についての詳細な解説は割愛しております。
以下は、企業規模ごとの制度の主な違いを簡単にまとめた比較表です。
| 区分 | 対象企業の目安 | 賃上げ要件(給与総額増加率) | 控除率(最大) | 上乗せ要件 | 繰越制度 | 
|---|---|---|---|---|---|
| 中小企業 | 資本金1億円以下など | 1.5%以上 | 25~35% | 教育訓練費増加、「くるみん」等認定取得 | あり(最長5年) | 
| 中堅企業 | 資本金1億円超~10億円以下など | 2.5%以上 | ~20%程度 | 教育訓練費増加など | なし | 
| 大企業 | 資本金10億円超 | 3.0%以上 | ~15%程度 | 教育訓練費増加、認定取得など | なし | 
賃上げ促進税制を活用するためには、一定の要件を満たすことが前提条件となります。
 単に給与を引き上げるだけではなく、賃上げの水準や教育訓練への投資状況など、国が定める基準に適合しているかどうかが重要です。
要件を正しく理解しておかなければ、せっかく賃上げを行っても制度を適用できない可能性があります。
 ここでは、中小企業・中堅企業・大企業それぞれに共通する基本要件と、企業規模ごとの違いについて整理していきましょう。
2.賃上げ促進税制の適用要件

賃上げ促進税制を活用するためには、国が定める適用要件を満たしていることが前提となります。
 この要件は「賃上げを実行しているかどうか」を客観的に判断するための基準であり、満たしていなければ控除を受けることはできません。
中小企業・中堅企業・大企業のいずれも基本的な考え方は共通していますが、適用のハードルや控除率には違いがあります。
 特に中小企業の場合は、大企業よりも条件が緩やかで利用しやすい設計になっている点が特徴です。
ここからは、賃上げ促進税制の適用要件を「必須要件」「上乗せ要件」、そして設立2期目の会社における取扱いという3つの観点から整理していきます。
2-1 賃上げ促進税制適用の必須要件
賃上げ促進税制を利用するための第一条件は、給与等支給総額を前年度比で一定割合以上増加させることです。
 これを満たしていなければ、他の条件を整えても制度を適用することはできません。
賃上げ税制の要件は下表のとおりです。
| 区分 | 賃上げ要件(給与等支給額の増加率) | 
|---|---|
| 大企業・中堅企業 | 前年度比 3.0%以上の増加 | 
| 中小企業 | 前年度比 1.5%以上の増加 | 
中小企業の場合、たとえば前年度の給与総額が1億円であれば、
 翌年度に1億150万円(=1.5%増)以上支給していれば要件を満たします。
給与と言っても、賞与とか退職金とかありますよね?
 どんなものがここで言う給与に含まれるのでしょうか?
税制上の「給与総額」には、次のような支給項目が含まれます。
 一方、役員給与や退職金などは除外されるため注意が必要です。
| 含まれるもの | 含まれないもの | 
|---|---|
| 
 | 
 | 
賃上げ促進税制においては、税額控除の対象となる「給与等」には、法人の役員(取締役、監査役、理事など)への給与や賞与は含まれません。
 これは、制度の対象が国内雇用者(雇用保険の一般被保険者)に限定されているためです。
 
役員1人のみの法人や、役員のみが給与を受け取っている場合は、賃上げ促進税制の適用を受けることはできません。
この税制は、企業が従業員の賃上げを行うことで経済を活性化させることを目的としているため、「従業員」への給与増加が前提条件となっていることに注意が必要です。
2-2 賃上げ促進税制適用の上乗せ要件
賃上げ促進税制では、必須要件を満たすだけでも税額控除を受けられますが、さらに特定の取り組みを行うことで控除率を上乗せできる仕組みがあります。
国は、単なる給与の引き上げだけでなく、人材育成や働きやすい環境づくりへの投資を同時に進めてほしいと考えています。
 そのため、教育訓練費の増加や子育て・女性活躍を推進する企業に追加の優遇を与えることで、幅広い取り組みを後押ししています。
なお、賃上げ促進税制の上乗せ要件は2種類あります。
- 教育訓練費:社員を育てる投資をどれだけ増やしたかを評価(=費用の増加率で判定)
- 子育て・女性活躍支援:働きやすい職場づくりをどれだけ制度化したかを評価(=国の認定取得で判定)
何がどのように違うのでしょうか?
教育訓練費と子育て・女性活躍支援は、目的も仕組みも違う制度です。
 簡単に解説すると、教育訓練費の上乗せは、社員研修や資格取得などの教育費が前年度より一定割合(中小企業で+5%以上)増えていると、税額控除率が上乗せされます。
 それに対して、子育て・女性活躍支援の上乗せは厚生労働省の「くるみん」や「えるぼし」などの認定を取得している企業に対して、控除率が「+5%」されます。
それぞれ、具体的に解説していきたいと思います。
2-2-1 教育訓練費の増加による上乗せ
上乗せ要件の1つ目は、教育訓練費の増加です。
 これは、従業員のスキルアップや人材育成を目的とした支出を増やした企業に対して、
 税額控除率を上乗せする仕組みです。
従業員のスキルアップや人材育成を目的とした支出??
 例えばどのようなものでしょうか?
教育訓練費とは、次のような内容を指します。
【教育訓練費に含まれる主な費用】
| 区分 | 内容 | 主な費用例 | 
|---|---|---|
| 法人が自ら教育訓練を行う場合 | 社内で実施する研修や講習会など | 外部講師への報酬、教材費、会場費、通信教育の受講料、eラーニング利用料など | 
| 他者に委託して教育訓練を行わせる場合 | 研修業者・専門機関などに研修を委託する場合 | 委託先への研修費用、講師派遣費、研修プログラム利用料など | 
| 他者が行う教育訓練に参加させる場合 | 従業員を外部セミナー・研修に派遣する場合 | 受講料、授業料、受験料、研修参加費など | 
【教育訓練費に含まれない主な費用】
| 区分 | 内容・例 | 
|---|---|
| 役員に関する費用 | 役員(取締役・監査役など)やその親族等への教育訓練費用は対象外(使用人兼務役員も含む) | 
| 福利厚生目的の研修 | レクリエーションや慰安旅行を兼ねた研修、社内イベントなど | 
| 付随的費用 | 旅費、交通費、宿泊費、食費、懇親会費など(教育訓練費とは別経理) | 
| その他の費用 | 教育訓練と直接関係のない書籍購入費、設備投資費、資格取得後の登録料など | 
教育訓練費の範囲についての詳細は、「中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック(経済産業省)」の13ページ目をご覧ください。
これらの教育訓練費が前年から一定割合以上増加している場合、税額控除率が上乗せされます。
教育訓練費の上乗せの条件と上乗せされる税額控除率は下表のとおりとなります。
| 区分 | 教育訓練費の増加率 | 上乗せ控除率 | 
|---|---|---|
| 大企業・中堅企業 | 前年比 10%以上 | +5% | 
| 中小企業 | 前年比 5%以上 | +10% | 
2-2-2 子育て・女性活躍支援による上乗せ
上乗せ要件の2つ目は、子育てと仕事の両立支援や、女性が活躍できる環境を整えた企業を優遇する仕組みです。
この上乗せは、単に「賃上げをした」だけでは得られません。
 国(厚生労働省)から、子育て支援や女性活躍に関する公式認定を受けていることが条件です。
厚生労働省が認定する次の制度を取得している企業は、税額控除率がさらに5%上乗せされます。
| 認定制度 | 内容 | 
|---|---|
| くるみん認定 | 子育て支援に積極的な企業を認定(「プラチナくるみん」「くるみんプラス」も含む) | 
| えるぼし認定 | 女性の活躍推進企業を認定(「プラチナえるぼし」を含む) | 
これらの認定では、
 「法律を守っているか」「実際にどんな取組をしているか」「社員が働きやすい環境があるか」
 といった点が総合的に見られます。
また、企業の規模に応じて求められる基準が少しずつ違い、取組レベルに合わせて段階的な認定(通常→上位→プラチナ)が用意されています。
企業規模ごとに求められる認定の種類と、それに対応する上乗せ控除率は、下表のとおりです。
| 区分 | 必要な認定 | 上乗せ控除率 | 
|---|---|---|
| 大企業 | ・プラチナくるみん(またはプラチナくるみんプラス)・プラチナえるぼし | 5% | 
| 中堅企業 | ・プラチナくるみん(またはプラチナくるみんプラス)・プラチナえるぼし・えるぼし(3段階目) | 5% | 
| 中小企業 | ・プラチナくるみん(またはプラチナくるみんプラス)・くるみん(またはくるみんプラス)・プラチナえるぼし・えるぼし(2段階目以上) | 5% | 
くるみん認定については、厚生労働省の「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて」をご覧ください。
えるぼし認定については、厚生労働省の「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」をご覧ください。
2-2-3 上乗せ要件のまとめ
以上が、賃上げ促進税制における上乗せ要件の仕組みです。
まとめると下表のとおりとなります。
| 上乗せ要件 | 条件 | 上乗せ控除率 | 
|---|---|---|
| 教育訓練費の増加 | 中小企業:+5%以上増加 中堅・大企業:+10%以上増加 | +10%(中小) +5%(中堅・大) | 
| 子育て・女性活躍支援 | 「くるみん」「えるぼし」などの認定を取得 | +5%(全企業共通) | 
これら2つの上乗せを組み合わせることで、中小企業では最大45%の税額控除が可能になります。
上乗せ要件は「給与を上げれば終わり」ではなく、人材育成や働きやすい職場づくりに取り組む企業ほど税制メリットが大きくなる仕組みです。
 賃上げを単なるコストと考えるのではなく、企業の将来への投資として活用することが重要です。
2-3 設立2期目の会社の取扱い
給与総額が前年より上がっていればいいってことですよね。
 だったら、設立2年目から適用できるってことですね?
設立2期目の会社でも、賃上げ促進税制を利用することは可能です。
 ただし、給与総額の比較対象をどの年度にするかがポイントになります。
 一方で、設立初年度は比較対象となる「前年度」が存在しないため、制度の適用はできません。
 よって、制度を活用できるのは、2期目以降の事業年度となります。
通常、制度の必須要件は「給与総額が前年度比で一定割合以上増加していること」です。
 そのため、2期目の給与総額を初年度と比較する形で判定することになります。
設立2年目での適用例
- 設立1期目の給与総額:1,000万円
- 設立2期目の給与総額:1,030万円
 → 前年度比で3%増加しているため、必須要件(中小企業なら1.5%以上増加)を満たし、制度を適用できます。
つまり、設立間もない会社でも2期目からは制度の利用が可能です。
 1期目の給与水準をどの程度に設定するかが、翌期の要件判定に直結するため、創業段階から給与設計を意識しておくことが重要です。
なお、設立初年度が1年に満たない場合(短期決算など)は、前事業年度との単純な比較ができないため、月数に応じた按分計算で判定します。
 たとえば、設立初年度が6か月決算であれば、その給与総額を12か月換算したうえで、翌期の給与総額と比較して増加率を算定します。
ただし、設立初年度などで比較対象となる前期が存在しない場合は、増加率の算定ができないため原則として制度の適用を受けることはできません。
設立初年度が1年未満の場合の設例
設立初年度が1年に満たない場合(短期決算など)は、月数に応じて給与総額を12か月換算して判定します。
 たとえば、設立初年度が6か月決算であれば、次のように比較します。
【設例】
| 決算期間 | 給与総額 | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 設立1期目 | 令和6年4月1日~令和6年9月28日(6か月※) | 500万円 | 短期決算(半年) | 
| 設立2期目 | 令和6年10月1日~令和7年9月30日(12か月) | 1,100万円 | 通常1年決算 | 
※1月に満たない月は暦に応じて1月とカウントします。
1期目の給与総額を12か月に換算すると、
 500万円 × 12 ÷ 6 = 1,000万円(換算額) となります。
したがって、2期目の給与総額1,100万円は、換算後の1期目1,000万円と比較して 10%増加 していることになります。
このため、中小企業者等であれば「給与総額が前期比1.5%以上増加」という要件を満たし、制度の適用が可能です。
賃上げ促進税制は、「給与を増やせば税金が減る」というシンプルな仕組みですが、すべての企業や事業者が自動的に対象になるわけではありません。
 制度の趣旨は、経済全体に賃上げの流れを広げることにあるため、対象範囲は中小企業・個人事業主・協同組合に加えて、中堅企業や大企業まで幅広く設けられています。
ただし、企業規模ごとに要件や控除率の水準が異なり、優遇度合いにも差があります。
 特に中小企業については要件が緩やかで控除率も高く設定されており、制度を最も活用しやすい対象といえるでしょう。
ここからは、制度の対象となる企業について整理していきます。
3 賃上げ促進税制の対象企業

賃上げ促進税制は、企業の規模によって適用条件や控除率が異なります。
 本記事では中小企業向けの制度に焦点を当てており、中堅企業や大企業に関する解説は割愛しています。
これまでも賃上げ促進税制の対象については、触れてきましたが、ここでもう一度しっかりと中小企業として賃上げ促進税制の対象となる法人や組織の範囲について確認し、整理していきます。
3-1 中小企業向け賃上げ促進税制の対象者
賃上げ促進税制の対象となる中小企業法人は、青色申告書を提出している法人です。
 青色申告をしていることは、税務上の信頼性や記帳体制が整っていることの証明であり、制度利用の前提条件となっています。
対象法人の範囲は以下のとおりです。
中小企業の適用可能な対象者
- 青色申告適用対象法人
- 資本金または出資金が1億円以下の法人
- 資本や出資のない法人で、従業員数が常時1,000人以下の法人
たとえば、以下のような法人が該当します。
| 対象となる法人の例 | 
|---|
| 株式会社・合同会社 | 
| 医療法人 | 
| NPO法人 | 
| 学校法人 | 
| 一般社団法人など | 
これらの法人が、青色申告書を提出していることが制度利用の前提条件となります。
また、事業年度終了時点で要件を満たしている必要があるため、年の途中で基準を下回った場合などは注意が必要です。
ただし、中小企業よりも条件が厳しく、控除率も低めに設定されています。
| 区分 | 給与増加要件(給与総額の前年対比) | 控除率の目安 | 繰越制度 | 
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 1.5%以上 | 最大25~35% | あり | 
| 中堅企業 | 2.5%以上 | 最大20%前後 | なし | 
| 大企業 | 3.0%以上 | 最大15%前後 | なし | 
たとえば、大企業は給与総額を前年比3%以上増加させないと制度を使えず、繰越制度も利用できません。
 一方、中小企業は条件が緩やかで、税額控除の恩恵も大きくなっています。
3-2 中小企業向け賃上げ促進税制の対象外となるケース
案外、対象者になるのは簡単そうですね。
 対象外となるような法人はないのでしょうか?
中小企業に該当する法人であっても、実質的に大企業の支配下にある法人は制度の対象外です。
 適用対象外となるケースは主に以下のような場合となります。
適用対象外となる主なケース
- 同一の大規模法人から 2分の1以上の出資を受けている場合
- 複数の大規模法人からの出資が合計で 3分の2以上に達している場合
たとえば、大企業の完全子会社や、出資比率の高いグループ会社などは中小企業の要件を満たしていないと判断されることがあります。
 また、制度を適用するためには、事業年度終了時点でこれらの要件を満たしていることが必要です。
つまり、青色申告を行っている中小法人であれば広く対象となりますが、大企業の影響下にある法人は適用外となる点に注意が必要です。
3-3 協同組合等も対象に含まれる
賃上げ促進税制は、法人だけでなく、地域経済や産業基盤を支える協同組合等の組織も対象に含まれています。
賃上げ促進税制は、法人や個人事業主に加えて、協同組合やその連合会などの組織も対象に含まれています。
 これは、農業・漁業・商工業など地域や産業を支える組織にも賃上げを広げ、経済全体の底上げを図ることが目的です。
対象となる主な組織は以下のとおりです。
対象となる協同組合等
- 農業協同組合・農業協同組合連合会
- 中小企業等協同組合
- 商工組合・商工組合連合会(出資組合)
- 内航海運組合・内航海運組合連合会
- 生活衛生同業組合(出資組合)
- 漁業協同組合・漁業協同組合連合会
- 水産加工業協同組合・水産加工業協同組合連合会
- 森林組合・森林組合連合会
これらの組織も、法人や個人事業主と同じように、適用を受ける事業年度終了時点で要件を満たしていることが条件です。
つまり、賃上げ促進税制は企業だけに限らず、地域や産業の基盤を担う多様な組織にも広く門戸を開いた制度となっています。
ここまで、賃上げ促進税制の対象者の範囲を整理してきました。
 対象は幅広く、多くの事業者が利用できる制度であることがおわかりいただけたと思います。
では、この制度を活用すると実際にどのようなメリットが得られるのか、また一方で注意すべきデメリットにはどんなものがあるのかを確認していきましょう。
4.賃上げ促進税制のメリットとデメリット

賃上げ促進税制は、企業にとって魅力的な節税効果をもたらす一方で、注意すべき点もあります。ここでは、利用する前に知っておきたいメリットとデメリットを整理します。
4-1 賃上げ促進税制のメリット
賃上げ促進税制を活用することで、企業は単に税負担を軽減できるだけではありません。
 節税効果に加えて、人材確保や企業の評価向上といった経営面でのメリットも得られるのが、この制度の大きな特徴です。
特に中小企業にとっては、人材不足や資金繰りといった課題に直結する効果が期待できるため、活用する意義は非常に大きいといえます。
ここでは、賃上げ促進税制を導入することで得られる代表的な以下の4つのメリットを整理してみましょう。
賃上げ促進税制の4つのメリット
- 強力な節税効果
- 人材確保・定着につながる
- 社会的な評価・信用力の向上
- 赤字企業でも将来活用可能
それでは、代表的なメリットを一つずつ解説していきましょう。
① 強力な節税効果
中小企業であれば、最大で税額の45%を控除できる可能性があります。
 賃上げや教育投資を進めることで、実質的な法人税負担を大幅に軽減できる点は大きな魅力です。
② 人材確保・定着につながる
この制度は単なる税制優遇にとどまりません。
 給与を引き上げることで従業員のモチベーションが高まり、離職を防ぐ効果も期待できます。
 人材不足に悩む中小企業にとっては、従業員の確保と定着につながる大きなメリットといえるでしょう。
③ 社会的な評価・信用力の向上
「くるみん」や「えるぼし」といった国の認定を取得すれば、税制メリットに加えて、取引先や求職者からの信頼も高まります。
 このような認定は、ブランディングや採用活動の面でプラスに作用するため、制度活用と同時に企業イメージの向上にもつながります。
④ 赤字企業でも将来活用可能
中小企業限定で「繰越制度」が用意されています。
 その年に税額控除を使いきれなくても、最長5年間繰り越すことが可能です。
 赤字の年度でも「無駄にならず」、将来黒字に転じたときに控除を活用できるのは中小企業ならではの大きなメリットです。
4-2 賃上げ促進税制のデメリット
賃上げ促進税制は企業にとって大きなメリットをもたらす制度ですが、万能ではありません。
 実際に利用する際には、いくつかの制約や注意点があるため、デメリットも理解したうえで計画的に活用することが重要です。
ここでは、賃上げ促進税制を導入することで考えられる代表的な以下の4つのデメリットを整理してみましょう。
賃上げ促進税制の4つのデメリット
- 制度の期限が限られている
- 要件を満たさなければ適用できない
- 事務負担が増える可能性
- 実際のキャッシュアウトは減らない
それでは、代表的なデメリットを一つずつ解説していきましょう。
① 制度の期限が限られている
現行制度の対象は、令和7年度(2025年度)開始事業年度までとされています。
 制度を活用できる期間は限られているため、賃上げを「いつ実行するか」を計画的に考えないと、せっかくの優遇措置を受けられない可能性があります。
おそらく期限が延長されるか、少し改正が入って継続ということにはなろうかとは思いますが。
② 要件を満たさなければ適用できない
給与総額の増加率や教育訓練費の増加といった要件をクリアしなければ、税額控除は受けられません。
 特に、従業員数や給与体系に変動がある企業では、基準を下回ってしまうリスクがあるため、制度を活用するには事前の確認が欠かせません。
③ 事務負担が増える可能性
賃上げ促進税制を適用するには、給与総額や教育訓練費の計算、認定制度の取得状況などを正確に整理する必要があります。
 場合によっては、税理士への相談や税務ソフトの導入が必要となり、事務負担が増える点はデメリットといえるでしょう。
④ 実際のキャッシュアウトは減らない
税額控除はあくまで法人税額を減らす仕組みであり、賃上げに伴う給与支出そのものが減るわけではありません。
 そのため、資金繰りの見通しを立てずに制度だけに頼ってしまうと、現金不足に陥るリスクもあります。
5 賃上げ促進税制の控除率と計算方法

賃上げ促進税制の大きな特徴は、給与を増やした分に応じて法人税額から一定割合を直接控除できることです。
 控除率は、企業規模や取り組み内容によって変わり、中小企業ほど優遇度合いが高くなっています。
5-1 控除率の基本
中小企業の賃上げ促進税制による控除率はどの程度なんでしょうか?
中小企業が賃上げ促進税制を活用する場合、基本の控除率は15%です。
 さらに、賃上げ率や教育訓練の充実、認定制度の取得など「上乗せ要件」を満たせば、最大45%まで控除率を引き上げることが可能です。
賃上げ促進税制は、単なる賃上げだけでなく、人材投資や働き方改革に積極的な企業をより強く後押しする目的で設計されています。
 そのため、中小企業においても以下のような「上乗せ要件」を達成することで、法人税の税額控除がさらに有利になります。
以下は、中小企業における控除率の構成要素です。
| 区分 | 要件内容 | 控除率・加算率 | 
|---|---|---|
| 基本控除① | 給与等支給額が前期比 1.5%以上増加 | 15%控除 | 
| 基本控除② | 給与等支給額が前期比 2.5%以上増加 | +15%控除(合計30%) | 
| 上乗せ要件① | 教育訓練費が前期比 +5%以上 増加 | +10%控除 | 
| 上乗せ要件② | 「くるみん」「えるぼし(2段階目以上)」「プラチナくるみん」「プラチナえるぼし」などの認定を取得 | +5%控除 | 
| 最大控除率 | 上記すべての要件を満たす場合 | 45%控除 | 
つまり、中小企業が賃上げ促進税制のメリットを最大限に引き出すためには、単なる賃上げだけでなく、教育訓練投資や女性活躍・子育て支援の取り組みも併せて実施することが重要です。
 これにより、法人税額の大幅な削減も可能になります。
5-2 控除額の計算方法
控除額はどのように求められるのでしょうか?
控除額は、賃上げによる増加額に対して控除率を乗じる方法で計算されます。
 ただし、使用できる控除額には「法人税額または所得税額の20%」という上限規定が設けられています。
※ 法人税額の20%が上限となっており、それを超える金額は控除できません(※中小企業は繰越可)。
では、ここからは実際の控除額をどのように算出するのか、4つのステップに分けて具体的に見ていきましょう。
【ステップ1】賃上げ額の算出
まずは、前年と比べて給与をどれだけ増やしたかを計算します。
単純に前年の給料と比較して増加した額ということでしょうか?
おおむねその理解でOKです。
「控除対象雇用者給与等支給増加額 
 = 本年度の給与等支給額 − 前年度の給与等支給額」
ということになります。
 ただし、「誰に払った給料が対象になるのか」と「どんな支給が含まれるのか」には一定のルールがあります。
この「給与等支給額」は、すべての人件費ではなく、次のような条件を満たした従業員への給与のみが対象です。
対象となる給与の範囲
- 青色申告をしている法人が支給した給与 
- 支給先が「雇用者(=従業員)」であること 
 ※役員や役員兼務の従業員の給与は対象外
- 通常の給与や賞与など(退職金は除く) 
- 雇用調整助成金など公的助成金で補填された部分は除く 
上記のとおり、「正社員やパート・アルバイトなどの従業員に支給した、前年より増えた分の給与」が対象になるため、役員報酬や退職金など、特殊な支給は含まれません。
【ステップ2】控除率の確認
控除率は、基本15%に加えて、賃上げ率や教育訓練、認定取得の上乗せ要件を満たすことで、最大45%まで引き上げ可能です。
 詳しくは「5-1 控除率の基本」をご確認ください。
以下のように判定します。
| ケース | 条件の内容 | 控除率 | 
|---|---|---|
| ケース①:基本のみ | 前期比で給与総額を1.5%以上増加 | 15% | 
| ケース②:賃上げ率2.5%達成 | 給与総額を2.5%以上増加 | 30%(基本15%+上乗せ15%) | 
| ケース③:教育訓練費も増加 | 給与総額2.5%増+教育訓練費5%増 | 40%(+10%) | 
| ケース④:認定も取得 | 給与総額2.5%増+教育訓練費5%増+「くるみん」取得 | 45%(最大) | 
例えば、ある中小企業が前年より給与を2.5%増加させ、さらに教育訓練費を5%増加させた場合、
 基本控除15%に加え、「+15%(賃上げ分)+10%(教育訓練分)=合計40%」の控除率が適用されます。
さらに「くるみん」や「えるぼし(2段階目以上)」の認定を受ければ、
 +5%上乗せされ、「最大45%」の控除が可能ということになります。
【ステップ3】控除額の算定
ここまでで「給与等の増加額」と「適用される控除率」が分かれば、いよいよ税額控除額の具体的な金額を算出します。
計算式は下記の通りです。
税額控除額 = 控除対象給与等支給増加額 × 控除率
例えば、前年より100万円分の給与を増やし、控除率が30%であれば、
 税額控除額は「100万円 × 30% = 30万円」となります。
【ステップ4】法人税額の上限との比較
算出した税額控除額がそのまま全額使えるとは限りません。
 というのも、賃上げ促進税制による控除には「法人税額の20%まで」という上限が設けられているためです。
この上限は次のように計算されます
控除可能な最大額 = 法人税額 × 20%
なお、算出した控除額がこの上限を超えた場合、中小企業に限り、控除しきれなかった分は最大5年間繰り越せます。
 赤字で税額が出なかった年でも、次年度以降に黒字になれば控除が使えます。
ここまでで、賃上げ促進税制の控除率の仕組みや控除額の計算方法について理解してきました。
 では実際に、制度を活用するとどれくらいの税額控除が受けられるのか?
そんな疑問をお持ちの方のために、ここでは中小企業を前提としたシンプルなケースを使って、控除額のシミュレーションを行ってみましょう。
5-3 計算例
ここでは、中小企業が賃上げ促進税制を利用した場合の具体的な計算例を用いて、税額控除の流れや金額のイメージをつかんでいただきます。
ここでは、賃上げ促進税制を中小企業が活用した場合の具体的な控除額のシミュレーションを2つご紹介します。
 実際の法人税額に応じて、控除率をどこまで活かせるかが変わってくる点にご注目ください。
【ケース1】 基本要件のみ達成している場合
| 項目 | 内容 | 
|---|---|
| 法人税額 | 100万円 | 
| 控除率 | 30%(賃上げ率2.5%以上) | 
| 控除額の試算 | 100万円 × 30% = 30万円 | 
| 上限適用後 | 法人税額の20%=20万円が上限 | 
| 控除可能額 | 20万円(10万円は翌期以降に繰越可) | 
このケースでは、給与の増加など基本要件だけを満たしたため、控除率は25%。
 しかし、法人税額の20%(100万円 × 20%=20万円)が上限となるため、30万円のうち10万円分は翌年度以降に繰り越しとなります(中小企業の特例)
【ケース2】上乗せ要件もすべて達成している場合
| 項目 | 内容 | 
|---|---|
| 法人税額 | 200万円 | 
| 控除率 | 45%(賃上げ・教育訓練・認定制度すべて達成) | 
| 控除額の試算 | 200万円 × 45% = 90万円 | 
| 上限適用後 | 法人税額の20%=40万円が上限 | 
| 控除可能額 | 40万円(50万円は翌期以降に繰越可) | 
このケースでは、賃上げ率・教育訓練要件・認定制度の全てを満たして、控除率は35%にアップ。
 控除額は90万円となりますが、こちらも法人税額の20%(=40万円)までしかその年には使えません。
 差額の50万円は翌年度以降に繰り越して控除できます。
ここまで見てきたように、賃上げ促進税制は、賃上げの内容や人材投資の取り組みに応じて控除率が大きく変わる、非常にメリットの大きい制度です。
 中小企業であれば、使いきれなかった控除額の繰り越しも可能なため、長期的に活用できる節税策として計画的に取り入れていくことができます。
ただし、制度を正しく使うためには、金額の計算だけでなく、所定の手続きや書類の準備も欠かせません。
6 賃上げ促進税制を適用するための必要書類

賃上げ促進税制は、賃上げを行えば自動的に適用されるわけではありません。
 税額控除を受けるには、所定の書類を整え、正しく提出・保存しておくことが不可欠です。
とくに中小企業においては、税理士任せにしてしまいがちですが、
 必要書類の種類や提出のタイミングを経営者自身が把握しておくことが、制度のスムーズな適用につながります。
この章では、以下の2つの観点から、必要な書類について整理します。
1. 税務申告時に提出が必要な書類
 2. 税務調査などに備えて保存しておくべき書類
書類が揃っていないと、たとえ賃上げの要件を満たしていても、控除が認められないリスクがあります。
 ここでしっかり押さえておきましょう。
6-1 基本となる書類
賃上げ促進税制を適用するためには、確定申告書に加えて、国が指定する特定の書類を準備・提出する必要があります。
 制度を正しく使うには、単に賃上げを行った事実だけでなく、その内容を税務上きちんと証明できることが前提となります。
まずは、申告時に必要となる基本的な3種類の書類を確認しましょう。
賃上げ促進税制の適用に必要な基本書類(中小企業の場合)
| 書類名 | 用途・内容の概要 | 
|---|---|
| ① 別表6(24) | 控除率や繰越額などを記載する税額控除の明細書 | 
| ② 別表6(24)付表 | 給与増加率や教育訓練費、認定取得の有無などを記載する専用書式 | 
これら2つの書類が、税額控除の可否を判断するうえで不可欠な書類です。
 ここからは、それぞれの役割と記載内容について詳しく見ていきましょう。
① 別表6(24)
法人が制度を活用する場合は、税額控除額を計算するための明細として、「別表6(24)」の提出が求められます。
【別表6(24)サンプル】
 
この別表には、以下のような内容を記載します
- 控除対象雇用者給与等支給増加額の金額
- 控除率(基本+上乗せ要件の反映)
- 控除額の計算根拠
- 繰越控除額(前年からの繰越がある場合)
この別表が、控除額の正確性を裏付ける根拠書類となるため、内容に誤りがないよう慎重に作成する必要があります。
別表六は法人申告書に添付される書類の中でも専門的な項目が多いため、税理士に作成を依頼するケースが一般的です。ただし内容の把握は経営者として重要です。
② 別表6(24)付表
税額控除を受けるためには国税庁が定めたフォーマットに基づく「賃上げ促進税制の明細書(付表)」(別表6(24)付表)の作成・提出が必要です。
【「別表6(24)付表」サンプル】
 
この明細書には、以下のような情報を記載します
- 給与等支給総額の増加率
- 継続雇用者に対する支給状況
- 教育訓練費の増加額・割合
- くるみん・えるぼし等の認定制度の有無
- 控除額の計算根拠(控除率の内訳など)
この明細書は、税額控除の要件を満たしているかどうかを数値的・制度的に証明する重要な資料です。
国税庁のウェブサイトから最新の様式(エクセル・PDF)をダウンロードして作成します。
 様式の改訂がある場合もあるため、毎年チェックすることが望ましいです。
令和7年度の別表6(24)及び別表6(24)付表の様式は以下の国税庁のリンクからダウンロード可能です。
- 別表6(24)(賃上げ促進税制に関する明細書) 
 様式のダウンロード(PDF)
- 別表6(24)付表(賃上げ促進税制に関する明細書付表) 
 様式のダウンロード(PDF)
6-2 証拠となる資料
賃上げ促進税制を適用するためには、提出書類だけでなく、賃上げの実施状況や要件充足を裏付ける「証拠資料」を準備・保存しておく必要があります。
 これらは申告時に提出を求められるものではありませんが、税務調査や確認対応の際に提示を求められるケースがあるため、事前の備えが重要です。
まずは、制度適用にあたり保存しておくべき主な資料を一覧で確認しておきましょう。
賃上げ促進税制における主な証拠資料
 
| 種類 | 主な目的・内容 | 
|---|---|
| ① 給与台帳・賃金台帳 | 給与総額の前年度比増加率の根拠となる賃金支払記録 | 
| ② 教育訓練費に関する帳簿・領収書 | 研修費や講座受講料など、教育訓練要件の達成を証明する資料 | 
| ③ 認定制度に関する書類 | くるみん・えるぼし等の認定を受けた事実を証明する通知書等 | 
これらの資料は、控除率の判定や上乗せ要件の充足を示す証拠として不可欠です。
 ここからは、それぞれの資料について詳しく解説していきます。
① 給与台帳・賃金台帳(給与総額の増加率の証明)
賃上げ促進税制では、制度の適用を受けるために「給与総額が前年度比で一定割合以上増加していること」が求められます。
 その基礎資料として不可欠なのが、給与台帳や賃金台帳などの賃金支給記録です。
給与明細や会計ソフトの出力データでも代用可能ですが、月別・従業員別に明細が分かる形式で保存されていることが望ましいです。
これらの資料により、「誰に・いくら・どのタイミングで支払ったか」が明確になり、
 税務署が増加率の正当性を確認する根拠となります。
② 教育訓練費に関する帳簿・領収書(上乗せ要件の証明)
教育訓練費の増加は、賃上げ促進税制の控除率上乗せ要件のひとつに該当します。
 これを証明するためには、次のような費用の発生と支払いを示す証拠書類が必要です:
- 社内外研修の請求書・領収書
- セミナー・eラーニング等の受講費用の明細
- 講師への謝金・交通費の支払記録
- 教育費に関する仕訳帳や会計データ
教育訓練費の「増加率」だけでなく、「給与総額に占める割合(0.05%以上)」の条件もあるため、
 根拠となる支出額が明示されている資料が求められます。
③ 認定制度に関する書類(くるみん・えるぼし等)
「くるみん」「えるぼし」「プラチナくるみん」「プラチナえるぼし」など、
 厚生労働省が認定する制度の取得も、控除率上乗せ要件のひとつです。
この場合は、以下のような認定を受けた事実を示す書類を保存しておくことが重要です:
- 厚生労働省から発行された認定通知書(原本または写し)
- 認定番号や認定年月日が確認できる書面
- ホームページやパンフレットへの掲載記録(補足資料として有効)
特に「認定を受けた事業年度のみ」が対象となる点に注意が必要です。
 認定を継続的に取得していても、申告年度内に認定を受けていなければ要件は満たしません。
6-3 提出のタイミング
この制度って……最悪、後から「やっぱり賃上げしてたんで使いたいです」って申請すれば適用できたりしませんか?
いえ、それは大きな誤解です。
 賃上げ促進税制を使うには、法人税(または所得税)の確定申告と同時に、申告期限内に必要書類を提出しておくことが絶対条件なんです。
賃上げ促進税制を適用するための各種書類は、申告期限内に確定申告書の提出と同時に税務署へ提出する必要があります。
申告期限内に書類が提出されなかった場合、たとえ制度の要件を満たしていても税額控除は認められません。
提出のタイミングは原則として以下のとおりです。
提出のタイミングの基本
| 書類名 | 提出タイミング | 
|---|---|
| 確定申告書 | 決算期末から2か月以内(法人税・所得税) | 
| 別表六(十四) | 確定申告書に添付 | 
| 賃上げ促進税制の明細書(付表) | 確定申告書に添付 | 
そのため、賃上げ促進税制を活用したい企業は、決算の準備段階から書類の準備に着手しておくことが不可欠です。
 特に、
- 賃上げ要件の達成状況
- 教育訓練費の実績
- 認定制度の取得有無
 などは、決算直前に慌てて確認しても間に合わないケースも多いため注意が必要です。
「制度の趣旨に合ってるからOKでしょ?」という考えは通用しません。
 この制度はあくまで申告書上で正式な手続きをした場合にのみ適用されることになります。
ここまでで、賃上げ促進税制を適用するために必要な書類の種類・証拠資料・提出のタイミングを確認してきました。
 この制度は、要件を満たしているだけでは適用されず、正しい書類の提出と、証拠資料の備えができていて初めて税額控除が認められます。
税理士に頼らずに自分で申告を行う場合は、特に「何を提出し、何を保存すべきか?」「いつまでに準備すべきか?」を明確に把握しておくことが非常に大切です。
制度の流れと必要書類の関係を理解できれば、申告は決して難しいものではありません。
 あとは、書類の中身を一つずつ丁寧に埋めていくだけです。
この提出書類は、税務初心者の私でも自力で作成できるものでしょうか?
もちろん可能です!
次の第7章では、実際に税額控除を申告する際に必要となる「別表六(24)」の書き方について、中小企業向けに最低限押さえておきたい項目ごとの記載方法や注意点を、図表を交えながらわかりやすく解説していきます。
 この解説にそって作成していけば新米さんでも十分自分でさくせいできますよ!
7 別表6(24)と付表の記載方法

賃上げ促進税制の税額控除を適用するには、「別表6(24)」という明細書の作成が必須です。
この別表は、単なる計算書ではなく、賃上げの実施状況や税額控除の金額を、税務署に対して正式に申告する「証拠書類」としての役割を果たします。
 記載を誤ると、制度の適用が認められなかったり、税額控除が不適切に否認されたりするリスクがあるため、正確かつ根拠に基づいた記載が必要不可欠です。
税理士をつけていない方や、自分で申告書を作成している方の中には、
 「別表6(24)って名前は聞いたことあるけど、どんな書類なのかよくわからない…」
 という方も多いはずです。
そんな方のために、まずはこの別表の概要と役割から丁寧に確認していきましょう。
7-1 別表6(24)とはどのような書類か?
そもそも、別表6(24)ってどんな書類なんでしょうか?
 必ず作成が必要な書類なんでしょうか?
はい、必要です。
 別表6(24)は、賃上げ促進税制の税額控除を受けるために必ず添付が求められる明細書です。
 税務署に「賃上げを実施し、その結果どれだけ控除が発生したのか」を正式に届け出る根拠書類になります。
この別表は、賃上げ促進税制の税額控除を適用するために、控除額・控除率・増加額・繰越額などを明らかにするものです。
 税務署に提出する確定申告書に添付し、制度利用を正式に届け出るためのものとして機能します。
また、控除の根拠となる数値や制度適用要件を、構造的に整理して記載する必要があります。
なお、別表6(24)は、実は1枚だけではなく、以下の2つの書類で構成されています。
| 書類 | 役割 | 
|---|---|
| 本表(様式そのもの) | 控除額・控除率・上限・繰越額など、最終的な控除額を記載する書類 | 
| 付表(明細書) | 控除率の加算要件(教育訓練・認定制度など)や、計算根拠となる数値を記載する書類 | 
では実際に、この別表6(24)をどのように書けばいいのか?
 次のセクションでは、記入のステップと記載例をわかりやすくご紹介します。
7‑2 別表6(24)の書き方
別表6(24)は、賃上げ促進税制の適用を受ける際に使用する申告書です。
 制度の適用に必要な金額や根拠を記載する書類となります。
初めてこの様式に触れる方にとっては、書類の構造自体がややとっつきにくく感じられるかもしれません。
ここでは、まず「別表6(24)」という書類がどんな構成になっているのか、一番シンプルな記載例(基本要件のみを満たす中小企業)を使って、全体のイメージをつかんでいただきます。
設例の内容は以下のとおりです。
例題内容
会社名:株式会社 小町運送
 事業年度:令和6年4月1日~令和7年3月31日
・給与の支給状況
雇用者給与等支給額(前期):50,000,000円
 雇用者給与等支給額(当期):55,000,000円 → 前期比 10%増
・教育訓練費の支出状況
教育訓練費(前期):0円
 教育訓練費(当期):300,000円
・申告の状況
調整前法人税額:3,333,000円
なお、完成した別表6(24)は以下のとおりです。
別表6(24) 完成例

別表6(24)付表一 完成例

それぞれの申告書類には、役割があり、作成する手順も重要です。
別表6(24)の作成手順は大きく分けて3つあり、以下のとおりとなります。
上記のような流れで申告書を作成していきます。
別表6(24)の主な作成の流れ
STEP1 別表6(24)付表1の上部を作成する 
 
 赤枠の欄では、給与支給額・教育訓練費などの基礎数値をもとに、税額控除の計算に必要な増加額や割合を算出します。
 ここで求めた結果が、後段の「税額控除限度額」の計算に反映されます。

STEP2 別表6(24)(本表)を作成する
賃上げ促進税制に基づく法人税額の特別控除額を計算します。
 給与や教育訓練費の増加額をもとに控除率を算出し、最終的に法人税から差し引く金額(税額控除額)を求めます。
     

STEP3 別表6(24)付表1を作成する
この欄では、税額控除限度額の超過額や繰越控除に関する明細を記載します。
 前期から繰り越された控除額や、当期に新たに発生した超過額を整理し、翌期以降に繰り越す金額を明確にします。
 ここで記載した内容は、次年度の控除計算に引き継がれます。

すべての申告書が完成
別表6(24)の書き方を、例題に沿って実際に作成しながら解説していきます。
ただし、すべてのケースに対応しようとすると内容が過度に複雑になるため、中小企業が実務上よく直面するであろう代表的なパターンに絞り、必要な事項を盛り込んだシンプルなケースを用いて、
 初めての方にもわかりやすく丁寧に解説していきます。
2-3-1 付表1の上段部を作成する

まずは、付表1の上段部分から作成します。
 この部分では、給与や教育訓練費の基礎データをもとに、増加額などの計算を行います。
① 事業年度及び法人名の記載欄

まずは、事業年度及び法人名を記載します。
② 雇用者給与等支給額及び調整雇用者給与等支給額に関する記載欄

当期および前期の雇用者に対する給与等の支給額を記載します。
 この金額は、賃上げ促進税制の適用判定において基礎となる数値であり、前期と当期の支給額を比較して給与等支給額の増加率を算定します。
給与等支給額が一定割合以上増加している場合に法人税額からの税額控除を受けることができます。
❶ 「国内雇用者に対する給与等の支給額」欄を記載する

この欄には、当期に国内で雇用している従業員に支払った給与・賞与などの総額を記載します。
国内雇用者には、パート、アルバイト、日雇い労働者 も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれないことに注意しましょう!
❷ 「(1) の給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」欄を記載する

この欄には、雇用者への給与や賞与の支給に充てる目的で、他の者(国・自治体・民間を問わず)から受け取った補助金・助成金などの金額を記載します。
たとえば、以下のようなものとなります。
- 企業間の委託契約や業務補助によって受け取った「人件費補填金」
- 行政から支給される「キャリアアップ助成金」「業務改善助成金」など
これらの金額は、企業が実際に負担した給与額ではないため、給与等支給額の比較計算から控除する必要があります。
❸ 「(2) のうち雇用安定助成金額」欄を記載する

この欄には、上記⑵に含まれる金額のうち、雇用の維持や雇用安定を目的として国や自治体など行政機関から交付された雇用安定助成金の金額を抜き出して記載します。
具体的には、以下のようなものが当てはまります。
- 「雇用調整助成金」
- 「産業雇用安定助成金」
- 「緊急雇用安定助成金」 など
これらは、企業の実質的な給与増加に該当しないため、賃上げ促進税制の対象外となり、給与等支給額から差し引く処理が必要です。
❹ 「雇用者給与等支給額」欄を記載する

この欄には、実際に企業が負担した雇用者への給与等の支給総額を記載します。
計算式は次のとおりです。
 (4)雇用者給与等支給額 = (1) 国内雇用者に対する給与等の支給額 − (2) 他の者からの支払額 + (3) 雇用安定助成金額
もし控除すべき金額がない場合には、単純に給与総額がそのまま記載されます。
記載例では、2欄及び3欄が空欄となっているため、1欄の金額そのまま転記されています。
❺ 「調整雇用者給与等支給額」欄を記載する

この欄には、調整雇用者(恒常的に雇用されている従業員)に対する給与等の支給総額を記載します。
次の計算式で求められます。
(5)調整雇用者給与等支給額 =(1) 国内雇用者に対する給与等の支給額 − (2) 他の者からの支払額
もし控除すべき金額がない場合には、単純に給与総額がそのまま記載されます。
記載例では、2欄が空欄となっているため、1欄の金額そのまま転記されています。
③ 比較雇用者給与等支給額及び調整比較公用車給与等支給額の計算に関する記載欄

この欄には、前事業年度における雇用者への給与等支給額を基に、比較雇用者給与等支給額および調整比較雇用者給与等支給額を算出するための金額を記載します。
 当期の支給額と比較することで、給与の増加率を求め、賃上げ促進税制の適用可否を判断します。
❶「前事業年度」欄を記載する

この欄には、比較対象となる前事業年度の期間を記載します。
 当期の給与支給額と比較する基準年度となるため、必ず正確に記載する必要があります。
設例では、前事業年度は「令和5年4月1日~令和6年3月31日」となっています。
❷「国内雇用者に対する給与等の支給額(前期分)」欄を記載する

この欄には、前事業年度に国内で雇用していた従業員へ支払った給与・賞与などの総額を記載します。
 この金額は、当期の給与等支給額と比較して、増加率を算定する基礎数値となります。
設例では、前期の支給額は 50,000,000円 です。
❸「(7) の給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」欄を記載する

この欄には、前事業年度の給与支給に充てる目的で、他の者から支払を受けた補助金・助成金などの金額を記載します。
 たとえば、国や自治体からの「雇用調整助成金」や「キャリアアップ助成金」などが該当します。
比較計算の際には、企業が実際に負担した給与額のみを反映するため、これらの金額を控除します。
❹ 「(8) のうち雇用安定助成金額」欄を記載する

この欄には、(7) に含まれる金額のうち、雇用安定助成金の金額を抜き出して記載します。
この金額は比較計算上、給与支給額から差し引かれます。
❺ 「適用年度の月数/(6) の前事業年度の月数」欄を記載する

この欄には、前事業年度の事業期間の月数を記載します。
 通常は12か月ですが、設立初年度などで事業期間が異なる場合は、その月数を記載します。
設例では、当期・前期ともに12か月のため、「12」と記載されています。
前事業年度の月数を記載する欄は、以下の赤枠の欄となります。
❻ 「比較雇用者給与等支給額」欄を記載する

この欄には、前事業年度における比較対象の給与等支給額を計算し、その金額を記載します。
 計算式は次の通りです。
計算式は次のとおりです。
 (11)雇用者給与等支給額 = (7) 国内雇用者に対する給与等の支給額 − (8) 他の者からの支払額 + (9) 雇用安定助成金額 ×(10)適用年度の月数の調整
設例では控除・加算がないため、前期の支給額と同額の 50,000,000円 が記載されています。
調整比較雇用者給与等支給額を記載する欄は、以下の赤枠の欄となります。
❼ 「調整比較雇用者給与等支給額」欄を記載する

この欄には、比較雇用者給与等支給額を基礎として算出した調整後の金額を記載します。
計算式は次のとおりです。
(12)調整雇用者給与等支給額 = (7) 国内雇用者に対する給与等の支給額 − (8) 他の者からの支払額 × (10)適用年度の月数の調整
設例では、調整がないため、同じく 50,000,000円 が記載されています。
④ 比較教育訓練費の額の計算に関する記載欄

当期および前事業年度における教育訓練費の支出額を記載します。
 教育訓練費とは、従業員の能力向上や職業訓練のために支出した費用を指し、賃上げ促進税制の判定項目の一つです。
この欄では、前事業年度(比較対象年度)の教育訓練費を基に、当期との比較を行い、教育訓練費の増加率を計算します。
 教育訓練費が前期より増加している場合、一定の要件を満たすことで税額控除の対象となります。
❶ 「事業年度」欄を記載する

この欄には、教育訓練費の比較対象となる前事業年度の期間を記載します。
 当期と比較して教育訓練費の増加率を算出するため、前年度の期間を正確に記載する必要があります。
設例では、前事業年度が「令和5年4月1日~令和6年3月31日」となっています。
❷ 「教育訓練費の額」欄を記載する

この欄には、前事業年度に支出した教育訓練費の総額を記載します。
 教育訓練費とは、社員研修や外部セミナー受講費、職業訓練など、従業員の能力向上に関する支出を指します。
設例では、該当する支出がなかったため、金額は「0円」と記載されています。
❸ 「適用年度の月数/適用年度の月数(20)の事業年度の月数」欄を記載する

この欄には、教育訓練費の算定対象となる事業年度の月数を記載します。
 通常は12か月ですが、事業年度が短縮または延長された場合には、その実際の月数を記載します。
設例では、事業年度が12か月であるため「12/12」となっています。
❹ 「改定教育訓練費の額(21×22)」欄を記載する

この欄には、教育訓練費の額(21欄)に月数補正(22欄)を掛け合わせて算出した改定後の教育訓練費の金額を記載します。
 この金額が、前事業年度の教育訓練費の比較基準額となります。
設例では教育訓練費が発生していないため、「0円」と記載されています。
❺ 「計」欄を記載する

この欄には、上段に記載したすべての教育訓練費の金額の合計額を記載します。
 教育訓練費が複数の事業年度にまたがる場合には、それぞれの合計を集計して記載します。
設例では1事業年度分のみで金額が「0円」であるため、計欄にも同額の「0円」が記載されています。
❻ 「比較教育訓練費の額」欄を記載する

この欄には、前事業年度の教育訓練費合計(23欄)を調整対象年度数で割った金額を記入します。
 この金額を当期の教育訓練費と比較し、教育訓練費の増加率を求めるために使用します。
比較教育訓練費の額を算出にあたっては、適用年度の前期の事業年度の長さが異なる場合(たとえば、前期が短期決算や13か月決算など)に、「調整対象年度数」を用いて調整を行うことになります。
調整対象年度数というのは、以下の画像の欄に記載されている事業年度の数を指しています。

本設例では、調整対象年度が記載されてるのが1事業年度(令和6年3月31日期)だけですので、調整対象年度数は「1」となります。
なお、設例では教育訓練費が発生していないため、「0円」と記載されています。
2-3-1 本表を作成する
続いて、本表である別表6(24)の作成に移ります。

本表は、付表1で集計した給与や教育訓練費などの基礎データをもとに、税額控除額や限度額の最終的な計算を行います。
ここで求めた金額が、実際に法人税から控除できる金額の基礎となるため、記入ミスがないよう、付表との整合性を丁寧に確認していきましょう。
① 事業年度及び法人名の記載欄

まずは、事業年度及び法人名を必ず記載するようにしてください。
② 制度適用判定に関する記載欄

この欄では、賃上げ促進税制の特例控除の適用可否を判定するための基礎情報を入力します。
 資本金や従業員数に基づき、法人が中小企業者等に該当するかどうかを判断し、特例制度の適用の有無を明らかにします。
資本金が1億円以下で、常時使用する従業員を有する法人は、中小企業者等として制度の適用を受けることができます。
制度適用判定に関する内容を記載する欄は、以下の赤枠の欄となります。
❶「期末現在の資本金の額又は出資金の額」欄を記載

この欄には、事業年度の期末時点における資本金(または出資金)の金額を記載します。
 この金額は、法人が中小企業者等に該当するかを判断する基準となり、資本金1億円以下であれば中小企業者として特例制度の適用を受けることができます。
設例では、期末資本金の額は 10,000,000円 と記載されています。
❷「期末現在の常時使用する従業員の数」欄を記載

この欄には、事業年度末日において継続して雇用している従業員の人数を記載します。
 ここでいう「常時使用する従業員」とは、次のように定義されます。
- 含まれる人員:
 正社員、契約社員、パート・アルバイトなどで、事業年度末日に継続して雇用されている者
- 含まれない人員:
 法人の役員(取締役・監査役など)、臨時的・短期雇用者(2か月以内の雇用など)、日雇い労働者、退職予定者など
したがって、この欄に記載する人数は、役員を除いた実際の従業員数となります。
設例では、期末時点での常時使用従業員数は 6人 です。
❸「適用の可否」欄を記載します

この欄には、法人が賃上げ促進税制の特例を適用できるかどうかを判定した結果を記載します。
次のすべての要件を満たす場合、「可」と記載します。
- 青色申告書を提出していること
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下であること
- 期末現在に常時使用する従業員を有していること(役員を除く)
上記の条件に該当する法人は「可」となり、特別税控除を適用することができます。
 一方、いずれかの要件を満たさない場合は「否」となり、特例の対象外です。
設例では、条件を満たしているため「可」と記載されています。
③ 雇用者給与等支給増加額に関する記載欄

この欄には、当期と前期の雇用者給与等支給額を比較して算出した増加額および増加割合を記載します。
 賃上げ促進税制では、給与等支給額が一定割合以上増加している場合に、法人税額からの特別控除が認められます。
 したがって、この欄は税額控除の適用判定において非常に重要な部分です。
❶「雇用者給与等支給額」欄を記載

この欄には、別表6(24)付表の「調整雇用者給与等支給額(4欄)」から転記した金額を記載します。
 当事業年度における雇用者への給与・賞与などの支給総額であり、税額控除を計算する上での基礎となる「当期支給額」です。

設例では、当期の雇用者給与等支給額は 55,000,000円 です。
❷「比較雇用者給与等支給額」欄を記載

この欄には、別表6(24)付表の「調整雇用者給与等支給額(11欄)」から転記した金額を記載します。
 前事業年度における雇用者への給与・賞与などの支給総額であり、当期の支給額と比較して給与総額の増加額を算定する基礎となる金額です。

設例では、前期の雇用者給与等支給額は 50,000,000円 です。
❸「雇用者給与等支給増加額」欄を記載

この欄には、当期と前期の支給額の差額である給与支給額の増加額を記載します。
 計算式は以下のとおりです。
雇用者給与等支給増加額 = 当期支給額 − 前期支給額
設例では、
 55,000,000円 − 50,000,000円 = 5,000,000円 です。
❹「雇用者給与等支給増加割合」欄を記載

この欄には、給与等支給額の増加割合(=増加率)を記載します。
 計算式は以下のとおりです。
雇用者給与等支給増加割合 = 雇用者給与等支給増加額 ÷ 前期支給額
設例では、
 5,000,000 ÷ 50,000,000 = 0.1(=10%) です。
この割合が一定基準(例:3%以上)を上回る場合、賃上げ促進税制の特別税額控除の適用要件を満たすことになります。
【④ 調整雇用者給与等支給増加額の計算に関する記載欄】

この欄には、調整雇用者(一定の条件を満たす従業員)に対する給与等支給額の増加状況を記載します。
 賃上げ促進税制では、雇用者全体の給与だけでなく、特定の従業員区分(調整雇用者)に対する給与の増加額も計算し、税額控除の判定に用います。
調整雇用者給与等支給増加額の計算に関する記載欄は、以下の赤枠の欄となります。
❶「調整雇用者給与等支給額」欄を記載

この欄には、別表6(24)付表の「調整雇用者給与等支給額(5欄)」から転記した金額を記載します。
 当事業年度における調整雇用者(恒常的に雇用されている従業員)に対する給与・賞与などの支給総額であり、
 賃上げ促進税制における税額控除を計算する基礎となる「当期支給額」です。

設例では、当期の支給額は 55,000,000円 です。
❷「調整比較雇用者給与等支給額」欄を記載

この欄には、別表6(24)付表の「調整比較雇用者給与等支給額(12欄)」から転記した金額を記載します。
 前事業年度における調整雇用者に対する給与・賞与などの支給総額であり、当事業年度の調整雇用者給与等支給額(8欄)と比較して、給与水準の上昇率や増加額を算定するための基礎となる金額です。

設例では、前期の調整雇用者給与等支給額は 50,000,000円 です。
❸「調整雇用者給与等支給増加額」欄を記載

この欄には、当期の給与支給額と前期の給与支給額の差額、すなわち給与等支給の増加額を記載します。
 計算式は以下のとおりです。
調整雇用者給与等支給増加額 = 当期支給額 − 前期支給額
設例では、55,000,000円 − 50,000,000円 = 5,000,000円となっています。
この増加額は、税額控除率の判定に用いられる重要な数値となります。
⑤ 教育訓練費増加割合の計算に関する記載欄

この欄には、教育訓練費の増加状況および給与総額に対する教育訓練費の割合を記載します。
 教育訓練費とは、従業員のスキルアップや人材育成のために支出した費用(研修費・講習費など)を指します。
 この項目は「賃上げ促進税制」における税額控除率を加算する要素のひとつです。
❶「収入金額」欄を記載

この欄には、当事業年度に支出した教育訓練費の総額を記載します。
 教育訓練費とは、従業員のスキルアップや能力向上を目的として行った研修・セミナー・通信教育などに要した費用を指します。
なお、法人の役員やその親族等に対する教育訓練費は対象外となります。
 これは、賃上げ促進税制の趣旨が「従業員の賃上げ・人材育成の促進」にあるためです。
設例では、当期の教育訓練費は 300,000円 です。
❷「比較教育訓練費の額」欄を記載

この欄には、別表6(24)付表の「比較教育訓練費の額(24欄)」から転記した金額を記載します。
 前事業年度に支出した教育訓練費の総額であり、当期の教育訓練費(15欄)と比較して、どの程度支出が増加したかを算定する基礎となる金額です。

設例では、前期の教育訓練費も 300,000円 です。
❸「教育訓練費増加額」欄を記載

この欄には、当期と前期の差額、すなわち教育訓練費の増加額を記載します。
 計算式は次のとおりです。
教育訓練費増加額 = 当期教育訓練費 (15欄)− 前期教育訓練費(16欄)
設例では、
 300,000円 − 300,000円 = 0円 です。
❹「教育訓練費増加割合」欄を記載

この欄には、教育訓練費がどの程度増加したかを示す増加割合を記載します。
 計算式は次のとおりです。
教育訓練費増加割合 = 教育訓練費増加額(17欄) ÷ 前期教育訓練費(16欄)
設例では、増加がないため 0.00 となっています。
❺「雇用者給与等支給額比教育訓練費割合」欄を記載

この欄には、当期の給与支給総額に対する教育訓練費の割合を記載します。
 企業の人材育成投資が給与全体のどれほどを占めているかを表す指標です。
計算式は次のとおりです。
教育訓練費割合 = 教育訓練費(15欄) ÷ 雇用者給与等支給総額(4欄)
設例では、
 300,000 ÷ 55,000,000 = 0.0054(約0.54%) です。
この割合が一定以上である場合、税額控除の上乗せ対象となる可能性があります。
⑥ 差引控除対象雇用者給与等支給増加額の計算に関する記載欄

この欄には、税額控除の対象となる給与等支給の増加額を算定するための項目がまとめられています。
 「雇用者給与等支給増加額」や「調整雇用者給与等支給増加額」の金額をもとに、実際に税額控除の計算に用いられる最終的な金額を求めます。
❶「控除対象雇用者給与等支給増加額」欄を記載

この欄には、雇用者給与等支給増加額(6欄)と調整雇用者給与等支給増加額(10欄)のうち、
 いずれか少ない金額を記載します。
この金額は、実際に税額控除の対象となる「給与の増加分」を示すものであり、
 控除計算の基礎となる金額です。
設例では、両欄ともに5,000,000円であるため、
 控除対象雇用者給与等支給増加額は 5,000,000円 となります。
❷「差引控除対象雇用者給与等支給増加額」欄を記載

この欄には、実際に税額控除の計算に使用する最終的な給与等支給増加額を記載します。
 計算式は以下のとおりです。
差引控除対象雇用者給与等支給増加額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額(20欄) − 雇用者給与等支給増加重複控除額(21欄)
設例では、
 5,000,000円 − 0円 = 5,000,000円 です。
この金額が、最終的に税額控除額(賃上げ促進税制の控除額)を計算する基礎となります。
⑦ 税額控除限度額等の計算に関する記載欄

この欄では、これまで算出した「差引控除対象雇用者給与等支給増加額」に基づき、実際に法人税額から控除できる上限額(=税額控除限度額)を計算します。
 中小企業や賃上げ割合などの条件に応じて、適用される控除率が異なります。
設例では、「第3項適用の場合」を記載します。
「第3項適用の場合」??
 第1項適用、第2項適用は使用しないということでしょうか。
適用される控除率は、企業区分(中小企業・大企業)および賃上げ割合(給与等支給増加率)に応じて異なります。
 具体的には、下表のとおりとなります。
【控除率の区分と対応する「項目」欄の選び方】
 
| 区分 | 法人区分 | 対象企業の目安 | 
|---|---|---|
| 第1項 | 大企業 | 資本金1億円超かつ従業員数2,000人超 | 
| 第2項 | 中堅企業 | 資本金1億円超かつ従業員数2,000人以下 | 
| 第3項 | 中小企業者等 | 資本金1億円以下・青色申告・従業員1,000人以下の法人 | 
今回の設例では、中小企業等であるため、「第3項適用の場合」欄に記載するということですね。
おっしゃるとおりです。
設例の法人は、
- 資本金1億円以下 
- 常時使用する従業員あり 
- 青色申告を提出している 
といった条件を満たす法人は「中小企業者等」に該当します。
 そのため、「第3項適用の場合」の「中小企業者等税額控除限度額」の計算欄を使用します。
一方、中堅企業や大企業の場合は、「第1項適用の場合」または「第2項適用の場合」の欄を使用します。
なるほど、わかりました。
 ちなみに様式の左下にも同じように「第1項適用の場合」または「第2項適用の場合」とありますが、ここも使わないってことでしょうか?
「別表6(24)抜粋 令和6年3月31日以前に開始した事業年度に関する税額控除限度額の計算欄」

とても良い疑問ですね。
 この欄は、令和6年3月31日以前に開始した事業年度に適用される旧制度(旧・賃上げ促進税制)のための記載欄です。
 令和6年度の税制改正により、控除率や要件の見直しが行われたため、令和6年4月1日以後に開始する事業年度の法人は、この欄を使用しません。
なるほど!
 では、これから適用する法人の場合は様式の左下の記載はせずに、右上の箇所だけを記載するということなんですね。
❶「≧2.5%の場合」欄を記載する

この欄には、賃上げ率(雇用者給与等支給増加割合)が2.5%以上の場合に適用される控除率を記載します。
 中小企業者等の場合、この基準を満たすと15%(0.15)の税額控除率が適用されます。
設例では、実際の賃上げ率が2.5%を上回っているため、
 控除率 0.15 が記載されています。
この控除率は、法人税の軽減額を計算する際の基本となる率で、
 一定の賃上げ努力を行った企業に適用される優遇措置です。
❷「≧5%の場合」欄を記載する

この欄には、賃上げ率が5%以上かつ、
 教育訓練費増加割合(第18欄)が0.05以上の場合に適用される控除率を記載します。
この要件を満たすと、より高い控除率 10%(0.1) が上乗せで適用されます。
設例では、教育訓練費の増加割合が5%未満ですが、(15)300,000 = (17)300,000 > 0となっているので、対象となります。
この計算はつまり、前年度の教育訓練費が0の場合は、翌年度300,000だとしても300,000/0で増加割合が0になってしまって、対象外になってしまうので、(15)=(17)>0という計算式で初年度0の場合も対象にしているという計算です。
❸「くるみん又はえるぼし2段階目以上を取得している場合」欄を記載

この欄には、企業が「くるみん」認定または「えるぼし(2段階目以上)」認定を取得している場合に、追加で受けられる税額控除率を記載します。
この認定は、
- 「くるみん」:子育てサポート企業
- 「えるぼし」:女性活躍推進企業
 として厚生労働省が認定する制度です。
該当する場合、控除率に 0.05(5%) が上乗せされます。
 設例では認定の取得がないため、数値は空欄となっています。
❹「中小企業者等税額控除限度額」欄を記載

この欄には、実際に法人税額から控除できる**最大の金額(税額控除限度額)**を記載します。
 計算式は次のとおりです。
税額控除限度額 = 差引控除対象雇用者給与等支給増加額 × (0.15+37欄+38欄+39欄の控除率)
設例では、
 5,000,000円 × 0.40 =2,000,000円
 この 2,000,000円 が法人税から控除できる最大額(税額控除限度額)として記載されています。
⑧ 当期税額控除額の計算に関する記載欄

この欄では、当期の税額控除額の計算結果を記載します。
 当期税額控除額は、これまで算出した税額控除限度額や法人税額の20%相当額をもとに、
 実際に当期の法人税から差し引くことができる金額を示します。
なお、控除しきれない金額がある場合は、翌期以降に繰越控除することが可能です。
❶「調整前法人税額」欄を記載

この欄には、法人税額控除を行う前の法人税額を記載します。
 別表二または別表一の二(2)から転記される金額で、控除計算の基礎となる数値です。
設例では 3,333,000円 が記載されています。
❷「当期税額基準額」欄を記載

この欄には、調整前法人税額(第41欄)の20%相当額を記載します。
 この金額が、当期において控除できる最大の上限額となります。
設例では 3,333,000円 × 20% = 666,600円 が記載されています。
❸「当期税額控除可能額」欄を記載

この欄には、第40欄(税額控除限度額)と第42欄(税額基準額)のいずれか少ない方の金額を記載します。
 実際に控除できる上限を確定させるための欄です。
設例では 666,600円 が記載されています。
❹「調整前法人税額超過額」欄を記載

この欄には、税額控除限度額を超えて当期に控除しきれなかった金額を記載します。
 控除しきれなかった部分は、翌期以降に繰越して控除することが可能です。
設例では、控除超過がないため 0円(記載なし) となっています。
❺「当期税額控除額」欄を記載

この欄には、当期に法人税から実際に控除される金額を記載します。
 第43欄 − 第44欄 で算出した金額が入ります。
設例では 666,600円 が当期税額控除額として記載されています。
⑨ 前期繰越分及び特別控除額に関する記載欄

この欄には、前期から繰り越された税額控除の残額や、当期に新たに控除される特別控除額を記載します。
 前期に控除しきれなかった税額控除分がある場合、それを今期に繰り越して適用できる仕組みとなっています。
❶ 「前期当期税額基準残額」欄を記載

この欄には、前期に控除できず翌期に繰り越された法人税額基準残額を記載します。
 設例では、繰越分がないため 0円 となっています。
❷ 「繰越税額控除限度超過額」欄を記載

この欄には、前期に税額控除限度を超えて控除できなかった金額を記載します。
 この金額は、翌期以降に繰り越して控除可能です。
 設例では、超過がないため 0円 です。
❸「同上のうち当期繰越税額控除可能額」欄を記載

この欄には、第46欄または第47欄のうち、今期に実際に控除できる金額を記載します。
 設例では、繰越控除額がないため 0円 です。
❹「調整前法人税額超過額」欄を記載

この欄には、法人税額控除の上限を超えた金額などを翌期に繰り越すための調整額を記載します。
 設例では、該当する超過はないため 0円 です。
❺「当期繰越税額控除額」欄を記載

この欄には、前期繰越分として控除した金額(または当期から繰り越す金額)を記載します。
 設例では 0円 が記載されています。
❻「法人税額の特別控除額」欄を記載

この欄には、当期の税額控除額(第45欄)と当期繰越控除額(第50欄)を合計した金額を記載します。
 ここで示された金額が、実際に当期の法人税額から控除される最終的な特別控除額となります。
設例では、「45欄(666,600円)+ 50欄(0円)= 666,600円 」が記載されています。
2-3-3 付表1の下段部を作成する

最後は、付表1の下段部の作成します。
この部分では、上段で求めた「教育訓練費の増加額」や「給与等の増加額」をもとに、税額控除限度額の計算や、控除超過額の整理を行います。
ここで計算される金額は、実際に翌年度以降へ繰り越せる控除額や、本表に転記される最終的な控除金額の基礎となります。
① 翌期繰越超過税額控除限度超過額に関する記載欄

この欄には、当期で控除しきれなかった税額控除額(超過額)を翌期以降へ繰り越すための金額を記載します。
 ここで記載する数値は、翌年度の申告において再度使用される重要な金額です。
繰越制度の導入により、赤字などで法人税の控除が受けられない場合でも、翌期以降に利益が出た際に控除を順次適用できる仕組みとなっています。
❶「事業年度」欄を記載

この欄には、繰越を行った控除限度額に対応する事業年度を記載します。
 記載方法は、たとえば令和7年3月期であれば
 「6・4・1 7・3・31」
 のように、当期の開始日(6・4・1)と当期の終了日(7・3・31)を併記して記載します。
なお、最新の事業年度は下段に記載し、過年度を上に積み上げる形で記入します。
❷「(1) の給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」欄を記載

この欄には、前期から繰り越された税額控除額、または当期における税額控除限度額を記載します。
 繰越制度を適用している場合、前年に控除しきれなかった金額がここに反映され、翌年度以降に控除可能となります。
たとえば、前期に控除限度額を超えた部分が発生した場合、その超過分を「前期繰越額」として記入します。
なお、記載は1事業年度ごとに行い、直近分を下段に、古い年度を上段に記載していきます。
❸「当期控除可能額」欄を記載

この欄には、当期に実際に控除することができる税額を記載します。
 記載金額は、前期からの繰越額および当期の税額控除限度額のうち、法人税額の範囲内で控除できる上限額となります。
❹「雇用者給与等支給額」欄を記載

この欄には、当期に控除しきれなかった金額(=翌期以降に繰り越す控除超過額)を記載します。
 「前期繰越額又は当期税額控除限度額」欄(25欄)から「当期控除可能額」(26欄)を差し引いて求めます。
この金額は翌年度の控除限度額計算に引き継がれ、翌期の25欄(前期繰越額)に転記されます。
 直近の年度ほど下段に記載し、過年度分を上段に積み上げていく形式で記入します。
❺ 「計」欄を記載

この欄には、各事業年度の合計金額を集計して記載します。
 上段で計算した「前期繰越額又は当期税額控除限度額」「当期控除可能額」「翌期繰越超過額」などを合算し、
 それぞれの総額を確認するための欄です。
② 当期分の控除限度超過額等に関する記載欄

この欄には、当期に発生した税額控除限度額・当期控除可能額・翌期繰越超過額を記載します。
❶「当期税額控除限度額」欄を記載

この欄は、当期において法人税から控除できる上限額を記載する部分です。
 別表6(24)の40欄で計算された「中小企業者等税額控除限度額」を転記します。

この金額は、賃上げ促進税制の適用により計算された控除限度額のうち、実際に当期に適用できる最大値を示しており、控除超過分がある場合は翌期以降に繰り越されます。
❷「当期控除可能額」欄を記載する欄を記載

この欄は、当期に実際に法人税額から控除できる金額を記載する部分です。
 別表6(24)の43欄で計算された金額を転記します。

当期の法人税額に応じて、税額控除限度額の範囲内で控除できる金額がここに反映されます。
 もし控除限度額を超える金額がある場合、その超過分は翌期以降に繰り越されます。
❸ 「(2) のうち雇用安定助成金額」欄を記載

この欄は、当期に控除しきれなかった金額(控除限度超過額)を記載する部分です。
 「前期繰越額又は当期税額控除限度額」から「当期控除可能額」を差し引いた金額を記載します。
この金額は翌期以降に繰り越され、翌期の法人税額が発生した際に再度控除の対象となります。
 繰越期間は最長5年間で、古い年度分から順に控除していく点に注意が必要です。
【③ 翌期繰越超過額に関する記載欄】

この欄は、当期および過年度の繰越額を合算した最終的な控除残高を記載する部分です。
 各事業年度で繰り越された「翌期繰越超過額」を集計し、その合計額を記載します。
この金額は、翌期以降の税額控除に引き継がれる「累計繰越額」となります。
 繰越控除を適用する際は、この金額を基に翌期の控除可能額を計算します。
設例では、1,333,400円が繰り越し対象の合計額として記載されています。
別表6(24)の書き方の解説は以上となります。
付表と本表があって書く欄が多いですが、これくらいなら、私でも全然書き上げられそうです。
このように、別表6(24)は構造上の理解と、記載時のルールの正確さが問われる書類です。
 しかし、要件と構成を抑えて手順通りに記入すれば、税理士を付けずとも記載可能です。
8 賃上げ促進税制の繰越制度とは

2024年度(令和6年度)の税制改正では、賃上げ促進税制に大きな見直しが行われました。
 その中でも特に注目すべきは、中小企業を対象とした「繰越税額控除制度」の創設です。
従来は「その年の法人税額が上限」で控除が打ち切られていましたが、改正後は控除しきれなかった額を翌年以降に繰り越せるようになりました。
この改正により、黒字・赤字の年度を問わず、安定して賃上げを継続する企業がより実質的な恩恵を受けやすくなりました。
8-1 繰越制度の概要
うちは去年赤字だったんですけど、賃上げ促進税制って意味ありますか?
ありますよ。
 実は2024年度の改正で「繰越制度」ができたんです。
繰り越せるってどういうことですか?
簡単に言うと、今年控除できなかった分を、来年以降に持ち越して控除できるんです。
令和5年度(2024年度)の税制改正で、賃上げ促進税制に「繰越制度」が新設されました。
 この制度によって、控除しきれなかった税額を翌年度以降に繰り越して控除できるようになり、赤字の年でも賃上げの努力が無駄にならなくなりました。
これまでの制度では、
- 控除できるのはその年の法人税額まで可能
- 赤字決算では控除がすることができない
という問題がありました。
 結果として、赤字企業はせっかく賃上げしても税制上のメリットを得られなかったのです。
そこで改正後は、最大5年間の繰越控除が可能となり、黒字化した年度に税額控除を適用できるようになりました。

出典:経済産業省「令和6年度税制改正『賃上げ促進税制』パンフレット(令和6年3月時点版)」
たとえば、令和6年度に要件を満たし、税額控除額450万円が発生しても、赤字のため法人税がゼロなら、その年は控除できません。
しかし、繰越制度により、この450万円を翌年度以降に繰り越して控除できます。
 黒字化したときに控除を適用すれば、
 過去の賃上げ努力をしっかり報われる形で評価してもらえるのです。
なるほど、去年の頑張りが無駄にならないんですね。
おっしゃるとおりです。
 賃上げの継続が、会社の将来と税制の両面でプラスになるわけです。
8-2 繰越の対象法人・対象金額・対象期間
すべての法人が繰越制度を適用できるのですか?
 また、繰り越せるっていっても、どれくらいの期間なんですか?
・繰越制度を適用できる法人
この制度の対象は、中小企業者(資本金1億円以下の法人または従業員数1,000人以下の個人事業主)が対象となります。
 中堅企業や大企業には繰越制度は適用されません。
・繰越できる金額
繰越の対象は、「税額控除限度超過額」です。
 当期に発生した税額控除額のうち、法人税額の20%を超える部分が繰越対象となります。
たとえば、当期の法人税額が100万円で、算出された控除額が40万円の場合、
- 当期に実際に控除できるのは、20万円(=100万円×20%)まで
- 残りの20万円(=40万円−20万円)は、翌期以降に繰り越すことが可能です。
つまり、「控除額」そのものではなく、当期に適用できるのは法人税額の20%までであり、超過分が翌年度以降に繰越されるということになります。
・繰越できる期間
控除しきれなかった金額は、最長5年間繰り越して利用できます。
 翌年度以降の法人税額から順次差し引き、控除を受けることが可能です。
繰越控除を行う年度でも、給与等支給額が前年度より増加していることが条件です。
 仮に給与水準が下がっている場合、その年度は繰越控除を使うことができません。
本制度は、2024年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
 したがって、多くの企業では2025年3月期(令和7年3月期)決算から反映されることになります。
・控除限度額の繰越の取扱い
賃上げ促進税制による税額控除限度額の繰越管理は、「別表6(24)付表」の「翌期繰越税額控除限度超過額の計算」欄で行います。
当期の控除額が法人税額の20%を超えて控除しきれなかった場合、その超過分(=税額控除限度超過額*は、翌期以降に繰り越すことができます。
繰越の管理は、付表の「翌期繰越額」欄(27欄)に記載し、翌期の「前期繰越額」欄(25欄)へ順次引き継がれます。
 これにより、過年度からの未控除残額を一目で確認できるようになっています。

賃上げ促進税についての解説は以上になります。
それではここで、これまでの内容を簡単に振り返って確認しましょう。
賃上げ促進税制のまとめ
❶ 賃上げ促進税制とは
 従業員への給与を前年度より引き上げた企業に対して、法人税または所得税を一定割合で控除できる制度です。
 国の政策として「賃上げによる経済成長」を後押しする目的で設けられました。
❷ 2024年度改正(令和5年度改正)の3つのポイント
① 子育て・女性活躍支援による控除率上乗せ制度の新設
  厚生労働省の認定(くるみん・えるぼし等)を取得した企業は、控除率がさらに+5%上乗せ。
② 「中堅企業」区分の新設
  これまで「大企業」と「中小企業」の2区分だったものに加え、
  資本金1億円超・従業員数2,000人以下の「中堅企業」が追加。
③ 控除しきれなかった金額の繰越制度の創設
  中小企業は、法人税額の20%を超えて控除しきれなかった金額を最長5年間繰越可能になりました。
❸ 賃上げ促進税制の適用要件
- 必須要件:
 給与総額を前年度比で一定割合以上増加(中小企業は+1.5%以上)させること。
- 上乗せ要件①:
 教育訓練費を前年度比で+5%以上増加させた場合、控除率+10%。
- 上乗せ要件②:
 子育て・女性活躍支援認定を取得した場合、控除率+5%。
これらをすべて満たすと、中小企業では最大45%の税額控除が可能です。
❹ 制度の対象企業
- 青色申告法人
- 中小企業者等(資本金1億円以下) 
- 従業員1,000人以下の個人事業主 
- 協同組合・医療法人など一部の法人も対象 
なお、大企業・中堅企業は要件や控除率が異なります。
❺ 控除の計算方法(中小企業)
| 要件 | 控除率 | 
|---|---|
| 給与総額1.5%以上増加 | 15% | 
| 給与総額2.5%以上増加 | 30% | 
| 教育訓練費5%以上増加 | +10% | 
| 子育て・女性活躍支援の認定取得 | +5% | 
| 最大控除率 | 45% | 
❻ 必要書類と実務対応
- 別表六(24)および付表の作成 
 賃上げ額、教育訓練費、控除限度額、繰越額などを記載。
- 証拠書類の保存 
 給与台帳・教育訓練の領収書・認定証明書など。
- 提出タイミング 
 確定申告書と同時提出(控除を受ける年の申告時)。
❼ 繰越控除の活用ポイント
中小企業限定で、控除しきれなかった分を5年間繰り越し可能。
 ただし、翌年度以降も給与総額が増加していることが条件です。
❽ 賃上げ促進税制のメリットと留意点
メリット
- 節税効果が高く、キャッシュフロー改善に直結 
- 人材育成や女性活躍推進など、企業価値の向上につながる 
- 赤字企業でも将来活用できる繰越制度が導入された 
デメリット
- 要件を満たさないと控除が受けられない 
- 別表作成や資料準備など事務負担が増える 
- 制度適用期間(2024〜2027年度開始分まで)に限りがある 
以上が、本記事で解説した内容のまとめとなります。
賃上げ促進税制は、「税金が安くなるから」という理由だけで導入すると、要件の確認漏れや手続きの煩雑さに悩まされる可能性があります。
 しかし、制度の目的や仕組みを正しく理解し、自社の人材戦略と連動させて活用すれば、経営の成長と社員の定着を同時に実現できる強力な制度です。
特に中小企業にとっては、繰越控除の仕組みが導入されたことで、赤字の年でも「賃上げが無駄にならない」仕組みが整いました。
 将来の黒字年度で効果的に活用するためにも、日頃から給与・教育訓練のデータ管理をしっかり行うことが重要です。
なお、「全力経理部」では、賃上げ促進税制のほかにも、法人税・消費税・会計など、
 経営者に役立つ税務・会計テーマを幅広く解説しています。
 税制改正への対応や節税を検討している方は、ぜひ他の記事もあわせてご覧ください。



 
  
  
 

 
 

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