
今年から消費税の申告をすることになって、色々調べてるんだけど、やっぱり、難しそうで、、、何かいい方法がないかな。
確かに、消費税の申告って難しそうだよね。
私も、税務関係は全部、税理士さんにお願いしているの。
でも、この間、税理士さんが難しくない消費税の申告方法があるって話してたよ。
確か、「簡易課税制度」って言ってた!
「簡易課税制度」、、、確かにどこかで、聞いたことがあるような。
それって、どんな制度なの?どうやったら、その方法で申告できるの?
私も、税理士さんに聞いただけだから、よくわからない…
簡易課税なら、消費税の申告も素人でもできるのかしら?
はい! 初心者の方でも十分自分で消費税の申告ができます!
消費税の申告も簡易課税制度を使えば決して難しくありません!
そして税理士なしで自分で簡易課税で申告している事業者をもう数え切れないほど税務署で見てきています。
元国税調査官の私が、簡易課税について自分で申告する上で知っておくべきことを初心者向けにわかりやすく解説していきますので、絶対理解できます!そしてこの記事を読み終えた時には、自分で消費税の申告書が書けるようになっています!
消費税の申告書を今年から初めて作成することになった方の中で、自分で申告書を作りたいと思って調べ始めて初めて「簡易課税制度」という言葉を聞いたという方が多いのではないでしょうか。
「簡易課税制度」と聞かされても、「何がどう簡易なの?」、「普通の消費税の計算方法とどう違うの?」、「手間が掛からない分、税額が高くなったりするのでは?」などなど、色々と疑問に思ったりしますよね。
簡易課税制度を使うとどうなるのか?
端的にいうと次のことに集約されます。
消費税の計算・申告が圧倒的に簡単になる!
これが簡易課税制度の最も大きなメリットです。
日本は申告納税制度が取られているので自分で申告書を作成して提出しなければなりません。
税理士に依頼できる事業者はいいですが、そうでない人はどうするのでしょう?
難しくて自分で申告書が作成できなければ、消費税という制度自体が成立しないですよね?
そのために誰でも申告書ができるように簡易課税というものが用意されたのです。
次に重要な簡易課税の特徴が、これです。
本来の方法で計算するより税金が安くなる場合がある
実は、「簡易課税制度」を適用した場合、消費税の申告書を作成が簡単になるだけではなく、事業者によっては、税金が大幅に少なくなるということもあるのです。
そのような、知っていれば得をすることもある「簡易課税制度」ですが、いつでも誰でも利用できる制度ではありません。簡易課税を選択できる条件が決まっていたりします。
そこで、今回の記事では、簡易課税制度とはどのような制度かという概要や適用するための要件はもちろん、多くの方が気になると思われる簡易課税制度のメリットやデメリットそれに、簡易課税制度で得するパターン、損するパターン、そして、誰でも書けるように解説した簡易課税制度を適用した消費税の申告書の書き方入門まで、「簡易課税制度」について、実務で知っておかなければならない事柄を、初心者向けにわかりやすく解説していきます。
また、今、話題になっている「インボイス制度」が開始されたら、「簡易課税制度」を利用している事業者にどう影響があるのかについても、言及しており、最新情報にも対応しています。
当記事を読めば、「簡易課税制度」について、実務で必要な事項をよく理解でき、また、簡易課税を適用するための手続きもわかり、そして「簡易課税制度」を適用した消費税の申告書も書けてしまうといったこれまでインターネット上で出たことのない充実の内容が当記事で初公開されます!初心者向け簡易課税解説の決定版です。この有料級記事をご活用いただき、是非消費税の申告を乗り切ってください。そのお役に立てれば幸いです。
それでは、まずは、簡易課税制度とは、どのような制度なのか、その概要から理解していきましょう。
目次
- 1 簡易課税制度とは
- 2 消費税簡易課税制度選択届出書の書き方
- 3 簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の書き方
- 3-1 申告書の記載例【入門編】
- 3-2 申告書の記載例【応用編】
- 3-3 もっと早く正確に簡易課税の消費税申告書を作成する方法
- 消費税の納付書の書き方
- 4 まとめ
1 簡易課税制度とは
簡易課税制度の説明に入る前に、まずは、消費税の簡単な説明から確認していきたいと思います。これがわかってないと始まりませんので。
消費税というのは、税金を納める人と税を負担する人が違うというしくみになっています。
どういうことかと言うと、私たちは、物やサービスなどにお金を支払う場合、消費税を負担することになりますが、私たちが税務署にその消費税を支払ってはいませんよね。
誰が、税務署に納税を行っているのでしょうか?
それは、私たちに物やサービスを販売した事業者が行うことになります。
消費税がどのようなしくみになっているかを簡単に説明します。
事業者は、物やサービスなどを私たちに販売したときに、販売代金に消費税を上乗せした金額を消費者から受け取り、この上乗せした消費税から、仕入や経費などに掛かった消費税部分(仕入税額控除※)を差し引いた金額を、税務署へ納税することになっています。
※仕入税額控除とは、消費税を算出する際に課税売上の消費税額から課税仕入れの消費税額を差し引くことを言います。いわゆる、支払った消費税のことです。
消費税のしくみ
預かった消費税(収入に上乗せ) ー 支払った消費税(支払いに上乗せ) = 納付すべき消費税
売上の時に預かった消費税から自社が支払った消費税を差し引いた金額を税務署に納めるというしくみ
具体例を使って説明します。
上の図は、事業者が仕入先から600万円の商品を購入し、消費者に対して1,000万円で販売した取引図です。
まず、事業者が仕入先から600万円の商品を購入した際に、購入代金に消費税60万円が上乗せされますので、合計660万円支払っています。
この上乗せした消費税が「支払った消費税額」です。
次に、消費者に対して商品を1,000万円で販売した際に、販売代金に消費税100万円を上乗せしますので、合計1,100万円受け取っています。
この上乗せした消費税が「預かった消費税」です。
この事業年度の事業者の取引は、この取引のみだとすると、この事業者の消費税の申告の内容は、
100万円(預かった消費税額)-60万円(支払った消費税額)=40万円(納付すべき消費税額)となります。
所轄税務署に対して、消費税を計算した申告書を提出し、算出した納付すべき消費税額40万円を納付することで、消費税の申告納税が完了することになります。
なお、このように、売上の際に上乗せした消費税(預かっている消費税)から仕入れ、経費の支払い時に上乗せされた消費税である「仕入税額控除額」を差し引くことで納付すべき消費税額を算出する方法のことを、「原則課税方式」と言います。
ただ、消費税の算出方法はこの「原則課税方式」だけではなく、もう一つの方法があります。
その方法というのが、この記事の本題の簡易課税制度を利用した消費税の算出方法である「簡易課税方式」というものになります。
原則課税方式では、預かった消費税と支払った消費税を両方把握していましたね。
簡易課税方式では、預かった消費税のみ把握すればいいのです。
預かった消費税に一定の計算をして支払った消費税を算出するというのが簡易課税が簡易だと呼ばれる所以です。
それでは、「簡易課税制度」というのは、どのような制度なのかをここから詳しく見ていくことにしましょう。
1-1 制度の概要
それでは、簡易課税制度の概要を見ていきましょう。
簡易課税制度というのは、小規模な企業に限定的に 消費税の計算の事務的負担を軽減するために 設けられた特例制度です。
その簡易課税制度を利用した消費税の算出方法を「簡易課税方式」といいます。
売上高に係る消費税「預かっている消費税」の金額に、事業区分に応じた「みなし仕入率」を乗じることで、仕入税額控除額「支払った消費税」を計算し、その金額を用いて、納付すべき消費税の金額を算出する方法のことをいいます。
例えば、預かっている消費税が100万円として、みなし仕入率が60%とします。
支払った消費税を実際に支払った消費税に関係なく、100万円 × 60% = 60万円と計算します。
納付すべき消費税は、100万円 – 60万円 = 40万円
簡単にいうとこのように計算するのが簡易課税方式です。
ここまでは、簡易課税ってこんな感じなんだーとイメージを持ってもらうだけで十分です。詳しい計算方法は後述します。
それでは、次に原則課税方式と簡易課税方式の二つの方法の違いを比較することで、理解を深めていきましょう。
1-2 原則課税方式と簡易課税方式の違いとは
先程、説明した原則課税方式と簡易課税方式での納付すべき消費税額の計算方法では、どのような違いがあるのでしょうか。
二つの計算方法の間で、大きく違うのは、「仕入税額控除額」の算出方法です。
仕入税額控除額というのは、いわゆる、「支払った消費税額」のことです。
先程、説明した原則課税方式においての、仕入税額控除額は実際に支出した金額から、支払った消費税を算出しますが、それに対して簡易課税方式の場合「仕入税額控除額」は、受け取った消費税の金額に一定の割合(みなし仕入率)を乗じて計算することになります。
言葉で説明されてもよくわからないと思いますので、消費税の算出する二つの方法である、「原則課税方式」と「簡易課税方式」の2つの算出式を簡単に表すと以下のとおりになります。
納付すべき消費税額を算出する2つの方法
原則課税方式
預かっている消費税額 ー 支払いに対する消費税額(仕入税額控除額)= 納付すべき消費税額
簡易課税方式
預かっている消費税額 -(課税売上に対する消費税額 × みなし仕入率)(仕入税額控除額)= 納付すべき消費税額
ご覧のとおり、原則課税方式と簡易課税方式の違いは、「仕入税額控除額」の計算に大きく違いがあることがわかります。
要するに、原則課税方式の場合、売上高などの「収入」に係る消費税額に加えて仕入、経費などの「費用」に係る消費税額についても請求書や領収書等の整理を行い、ようやく納付すべき消費税額を算出できますが、簡易課税方式の場合では、売上高などの「収入」に係る消費税額さえ整理できれば納付すべき消費税額を算出することが出来るということになります。
原則課税 | 簡易課税 |
---|---|
消費税の計算をするのに売上の消費税と支払いの消費税の両方を把握する必要あり | 消費税の計算をするのに売上の消費税のみ把握していればよい (原則課税と比べて労力半分以下) |
そのため、「原則課税方式」で申告するより、「簡易課税方式」で申告する方が圧倒的に簡単な申告方法と言えます。
ここで、「簡易課税方式」の算出式で出てきた「みなし仕入率」という言葉が気になっていたかと思います。続いてこの聞きなれない用語について、詳しく解説していきます。
簡易課税方式において、この「みなし仕入率」が、肝となっており、大変重要なものです。
そこまで難しい用語ではありませんので、ご安心ください。
1-3 みなし仕入率を使った仕入税額控除の計算とは
簡易課税制度に特有のこのみなし仕入率とはなんなのか?
1-3-1 みなし仕入率とは
この「みなし仕入率」というのは、預かった消費税にかけることで、仕入税額控除額を算出するための割合であり、この事業であればどの位の支払いが発生するかを予測した割合です。
例えば、小売業であれば、商品を購入して販売する事業柄、売上に対する費用の割合が高くなると予測されるため、高いみなし仕入率(80%)と設定されており、一方、サービス業などは、在庫を持つ必要がないなど、売上に対する費用の割合が少なくなると予測され、低いみなし仕入率(50%)と設定されています。
小売業の場合は、このみなし仕入率を使って、預かった消費税が100であれば、その80%を仕入税額控除額にしてしまえ、とざっくり計算してしまうのです。
そのように、国税当局が、事業を6つの区分に分けて、事業区分ごとの売上に対する費用等の支払いの割合を予測し、決めたのが「みなし仕入率」とイメージして頂ければ結構です。
みなし仕入率がどのように設定されているかというと、次のように営んでいる業種ごとに設定されています。
事業区分 みなし仕入率 該当する事業 第一種事業 90% 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 第二種事業 80% 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 第三種事業 70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 第四種事業 60% 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業および第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。
なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。第五種事業 50% 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます。 第六種事業 40% 不動産業
ご覧のとおり、営んでいる事業区分ごとで割合に違いがあり、みなし仕入率の割合が高ければ高いほど、仕入税額控除額が多くなり、納付すべき消費税額が少なくなる仕組みとなっています。
第一種事業(卸売業)を営んでいれば次のように計算します。
預かった消費税100万円 × みなし仕入率(90%) = 90万円 100万円 – 90万円 = 10万円(納付額)
第五種事業(サービス業)を営んでいれば次のように計算します。
預かった消費税100万円 × みなし仕入率(50%) = 50万円 100万円 – 50万円 = 50万円(納付額)
簡易課税で申告する上で最も重要なものの一つが上の表で示した事業区分です。
簡易課税の場合は、みなし仕入率で仕入控除税額の金額が決まりますので、この判定を謝ると消費税の納税額が変わることになります。逆に言えばこの事業区分さえ正しくできていれば、税務署から誤りを指摘される可能性が大幅に少なくなるということです。
自社の事業が第何種事業にあたるかがわからない場合は、税務署に確認を取ることをおすすめします。
一度確認してしまえば、事業内容が大きく変わらないことがほとんどかと思いますので、その後は安心して申告書を作成することができます。
ちなみに、よくあるケースとして社用車を売却するなど、事業用資産を売却する場合や、製造業で加工する際に出る鉄クズを売却したりする場合のその金額については第四種事業になります。
これだけであれば、簡易課税制度の消費税の計算はとても簡単なのですが、上の表に第一〜第六の事業に当てはまる事業を複数やっていた場合は、どうなるのでしょうか?
計算の方法が決まっているので、複数の事業を営んでいる場合の簡易課税の仕入税額控除の計算方法について解説します。
1-3-1 2種類以上の事業を営んでいる場合の仕入税額控除の計算の仕方
2種類以上の事業を営んでいる場合の計算方法は3つあります。
- 原則的な計算方法
- 1種類の事業で75%を占める場合の計算方法
- 2種類の事業で75%を占める場合の計算方法
これらの3つのパターンで計算し、有利な方を選択することになります。
原則的な計算方法
それぞれの事業区分ごとに預かった消費税を区分し、それにそれぞれのみなし仕入率をかけて計算した金額を合算するというイメージです。
続いて複数の事業を営んでいるが、1種類の事業で売上全体の75%以上を占めている場合の計算方法です。
1種類の事業で75%を占める場合の計算方法
どういうケースかというと、卸売業(第一種事業)と小売業(第二種事業)を兼業しているような場合で、例えば卸売部分が80%で小売部分が20%のようなケースが考えられます。つまり卸売業(第一種事業)だけで75%以上を占めています。
この場合は、次のように計算することができます。
課税標準額に対する消費税額 × 75%以上を占める事業のみなし仕入率 = 仕入控除税額
(「課税標準額に対する消費税額」という用語は、ここでは預かった消費税という理解で構いません。課税標準額に対する消費税額は、申告書の書き方で出てきますが、この用語にこだわる必要はここではありません。)
先程の例で、預かった消費税額が100万円の場合、次のように計算できます。
100万円 × 90%(第一種事業のみなし仕入率) = 90万円(仕入控除税額)
原則の計算方法で計算すると80万円 × 90% + 20万円 × 80% = 88万円となるところ、90万円と計算されるので、こちらの方が得をすることになります。
2種類の事業で75%を占める場合の計算方法
3種類以上の事業を営んでいる場合、2種類の事業の課税売上高で全体の課税売上高の75%以上を占める場合、その2種類の事業のうちみなし仕入率の高い方の事業の課税売上高は、そのみなし仕入率を適用し、それ以外の事業の課税売上高は、その2種類のうち低いみなし仕入率を適用して計算することができます。
事業区分 | 売上に占める割合 | みなし仕入率 |
---|---|---|
①卸売業(第一種事業) | 45%(②を加えると80%) | 90%を適用 |
②小売業(第二種事業) | 35%(①を加えると80%) | 80%を適用 |
③サービス業(第五種事業) | 20% |
第一種事業と第二種事業の課税売上高が課税売上高全体に占める割合を合計すると75%以上となる例を示しました。
この場合、この2種類(第一種事業と第二種事業)のみなし仕入率の高い方のみなし仕入率(90%)は、そのみなし仕入率を適用し、それ以外の小売業(第二種事業)とサービス業(第五種事業)については、小売業(第二種事業)のみなし仕入率80%を残りの課税売上高で計算できるというものです。
このように計算すると、サービス業は本来みなし仕入率を50%で計算する必要がありますが、その分も80%で計算できるので得することになります。
このように説明するとかなり複雑に見えますが、2種類以上の計算方法については、消費税の申告書の書き方で詳しく後述しますが、消費税の申告書の所定の欄に所定の金額を記載していくと、この一見複雑な計算も気がつくと終わっているということになりますので、ここではこのような制度になっているということだけ理解してもらえれば十分かと思います。
簡易課税方式での消費税の算出方法の仕組みが分かったところで、次の章では、簡易課税制度のメリット、デメリットについて解説していきます。
1-3 簡易課税制度を選択するメリットとデメリットとは
次に、簡易課税制度を選択するメリットとデメリットを解説していきます。
メリット、デメリットは以下の表の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
原則課税方式に比べて事務負担が圧倒的に少ない | 簡易課税制度を適用した場合、2年間は原則課税に変更することができない |
事業内容によっては、支払う消費税が安くなる | 事業内容や課税期間内での支出額や投資額等によっては支払う消費税が多くなる |
それでは、メリット、デメリットの内容について、一つずつ確認していきます。
1-3-1 メリット
原則課税方式に事務負担が圧倒的に少ない
簡易課税方式のメリットの一つ目は、原則課税方式と比べてシンプルであり、申告書を作成するための事務負担が少なくなるということです。
制度の概要でも、少し触れましたが、納付すべき消費税額を算出する際に必要な「控除対象仕入税額」の計算が簡単です。
原則課税方式で「控除対象仕入税額」を算出するには、仕入や経費などの支払った金額のすべてについて消費税がかかる取引かどうかの判断をし、そして消費税率が10%と軽減税率8%と正しく分類されているか等々を整理するといった税務初心者には少し難しい作業が多くなってきます。
しかしながら、簡易課税方式であれば、基本的には、受け取った消費税に対してみなし仕入率を乗じることで「控除対象仕入税額」を算出することができます。
仕入税額控除の計算が簡単というのは令和5年10月1日から開始されるインボイス制度が始まるとより威力を発揮します。
インボイス制度と簡易課税については、後述しますが、インボイス制度というのは、簡単にいうと購入したお店が消費税を納付している事業者でない場合は仕入税額控除ができなくなるというものです。
つまり、消費税を納付している事業者に支払った消費税しか仕入税額控除をしてはいけないということです。
消費税を差し引く上で、これまでは次のことをしていればよかったのですが…
①消費税が係る取引であったかの判定
②消費税率が何%か
それに加えて、次のことも判定する必要がでてきます。
③支払った相手の請求書が適格請求書(インボイス)かどうか(=相手が消費税を納付している者かどうか)
かなり面倒ですよね?
簡易課税を選択しているとこの3つすべてをしなくていいのです。
簡易課税制度を適用した場合の事務負担の軽減はかなりのものになると予想されます。
事業内容によっては、支払う消費税が安くなる
次のメリットは、会社が営んでいる事業によっては、消費税額が少なくなることがあるという点です。
原則課税方式と簡易課税方式のいずれの方法で、税額を算出してみないことには、どちらの税額が安いかははっきりとはわかりません。
しかしながら、簡易課税方式の税額の算出方法の特性上、自分が営んでいる業種がどの業種区分になるのかがわかっていれば、ある程度、どちらがお得なのか解かります。
例えば、サービス業のみを営んでいる会社(みなし仕入率:50%)を想定してみましょう。
商品等の仕入がなく、支払いは人件費がほとんどだったとします。
原価の内訳 | 支払額 | ←うち消費税額 |
---|---|---|
役員報酬と給与 | 800万円 | 0円 |
その他経費 | 200万円 | 20万円 |
売上が2000万円で預かった消費税が200万円とします。
簡易課税で仕入税額控除額を計算すると200万円 × 50% =100万円となります。
原則課税と簡易課税の納税額を比較すると180万円と100万円と税額が激しく異なってきます。
原則課税 | 簡易課税 | |
---|---|---|
預かった消費税 | 200万円 | 200万円 |
仕入税額控除額 | 20万円 | 100万円 |
納税額 | 180万円 | 100万円 |
このように原則課税で計算した課税売上に対する課税仕入の割合がサービス業のみなし仕入率(50%)より少なくなることが往々にしてあります。
このような場合であれば、「簡易課税方式」で申告することで納付すべき消費税額を少なくすることが出来ます。
1-3-2 デメリット
事業内容や課税期間内での支出額や投資額等によっては支払う消費税が多くなる
事業内容やその課税期間での支出の内容によっては、逆に簡易課税制度を適用した場合、納付すべき消費税額が多くなってしまうこともあります。
例えば、多額の設備投資をする場合や、輸出取引が多くなった場合などには、簡易課税制度を適用するより、原則課税方式で消費税の計算を行った方が有利になることがあります。
そのため、安易に簡易課税制度を選ぶのではなく、事業区分や実際の事業内容、今後の経営方針などを考えて、簡易課税制度を適用するのかどうかを決定することおすすめします。
また、売上高より仕入、経費が多くなった場合や、輸出取引を行っている場合など、原則課税方式であれば、還付申告となり、消費税が還付になる場合がありますが、簡易課税方式では、還付申告とすることが出来ないので、注意が必要です。
どちらで計算したほうが得かを試算する方法を後述しますので、参考にしてください。
簡易課税制度を適用した場合、2年間は原則課税に変更することができない。
デメリットのもう一つです。簡易課税制度は、毎年、好きなタイミングで原則課税方式にすることが出来るわけではありません。
実は、簡易課税制度を適用したら、2年間は原則課税方式にすることはできないのです。
そのため、簡易課税制度を適用した次の年度に、事業内容の変更や多額の設備投資を行ったなどで、原則課税方式が有利になったとしても、その年度は簡易課税方式で申告しなければなりません。
下の図で説明すると、例えば、第X2期から簡易課税制度を適用した場合は、第X2期と第X3期は、原則として簡易課税方式でしか申告することができないということになります。そして、2年間縛りが終わっているため、第X4期からは、原則課税を選択することができるようになります。
メリットとデメリットに税額が多くなる場合と少なくなる場合があるということでした。
一体どうしたらいいのか?という疑問が当然に出てくるかと思います。
そこで次は、どのような場合だと簡易課税方式が得になり、どういう場合だと逆に損するのか、この判断の仕方を解説していきます。
1-4 簡易課税と原則課税のどちらが、お得なのか。
簡易課税制度のメリットとデメリットの説明で、事業内容で納付すべき消費税額が少なくなる場合もあるし、多くなった場合もあると説明しましたが、自社の申告ではどちらを選択すべきかをどう判断したらよいのでしょうか。
それは、一度、簡単に原則課税方式と簡易課税方式の両方の方法でどちらが得なのかを簡単に試算する方法です。
この章では、そのどちらか得なのかを試算する方法について、解説していきたいと思います。
原則課税と簡易課税、両方の方法のうちどちらが得なのかを簡単に試算するには、過年度の決算についてそれぞれの方法の「仕入税額控除額」を比較します。
「預かっている消費税」については、原則課税、簡易課税のいずれの方法も同じ算出方法であるため、わざわざ、納付すべき消費税額を算出し、比較する必要がありません。
なぜ過年度で判断するかというと、簡易課税制度を適用するためには、適用する年度の前に簡易課税選択届出書を提出している必要があるため、実際の決算でどちらが得かを判断することはできません。
申告書を作成したい対象の年度の前に簡易か原則かを判断しておく必要があるために、すでに終わっている、あるいは終わろうとしている年度を使って試算するしかないのです。
それぞれの方法で「仕入税額控除額」を試算し、多い方が「納付すべき消費税額」が少ないということになります。
それでは、「仕入税額控除額」を試算する方法について、説明していきたいと思いますが、具体的な例がある方が解かり易いと思いますので、具体例に沿って解説していきたいと思います。
必要な書類は、自社の「損益計算書(販売費及び一般管理費の内訳書を含む)」と、固定資産を購入した場合は、「固定資産を購入した金額が解かる資料(固定資産台帳など)」の2つです。
始めに、「原則課税方式」から、試算していきます。
例題の「損益計算書 」の内容は以下の通りです。
当期中に購入した固定資産の内容は以下の通りです。
固定資産の種類 | 購入金額 |
---|---|
車両運搬具 | 3,300,000円 |
機械装置 | 5,500,000円 |
工具器具備品 | 2,200,000円 |
まず、自社の損益計算書を確認し、計上している支払いについて勘定科目ごとに、消費税がかかるかどうかの判定をします。
いきなり消費税がかかるかどうかの判定をすると言われても税務初心者の方は、困惑すると思いますが安心してください。
あくまで試算なので、影響の大きい決まった勘定科目だけピックアップし、それは消費税がかからないと判定します。
自社の損益計算書の原価と費用(支払いに関するもの)の勘定科目のうち、以下の勘定科目については消費税がかからないものとしてください。
消費税がかからない勘定科目
- 人件費(給与手当・役員報酬 等) ※ 外注費は人件費ではありません。
- 法定福利費
- 租税公課
- 保険料
- 減価償却費
これらの勘定科目の支払い金額は、消費税がかからないものと判断し、それ以外の勘定科目の支払いは消費税がかかるとざっくり判定します。
では例題に当てはめて損益計算書の消費税がかかるかからないの判定をしていきます。
自社の損益計算書の内容(売上原価及び費用勘定のみ抜粋)
※内容はすべて税込金額となっています。
勘定科目 | 金額(税込) | 消費税額 |
---|---|---|
売上原価(仕入) | 27,500,000円 | 2,500,000円 |
役員報酬 | 3,000,000円 | 消費税なし |
給与手当 | 4,000,000円 | 消費税なし |
法定福利費 | 500,000円 | 消費税なし |
外注費 | 1,100,000円 | 100,000円 |
接待交際費 | 2,200,000円 | 200,000円 |
旅費交通費 | 550,000円 | 50,000円 |
保険料 | 150,000円 | 消費税なし |
租税公課 | 300,000円 | 消費税なし |
減価償却費 | 550,000円 | 消費税なし |
合 計 | 39,850,000円 | 2,8500,000円 |
ご覧のとおり、人件費、法定福利費、保険料、租税公課、減価償却費については、「消費税なし」となっています。
上記の表の「消費税額」欄の合計金額(2,800,000円)が支払った消費税額であり、「仕入税額控除額」です。
これで、すべての「仕入税額控除額」が算出されたかというと、そうではありません。
次に固定資産を試算している年度に購入ている場合は、固定資産購入時に支払った消費税額も考慮しなくてはなりません。
しかし、そんなに難しいことではなく、単純に固定資産の購入金額に係る消費税額を算出するだけです。
算出するための式は、「固定資産の購入金額×10/110=固定資産に係る消費税 」です。
例題においては、以下のとおりになります。
固定資産の種類 | 購入金額 |
---|---|
車両運搬具 | 3,300,000円 |
機械装置 | 5,500,000円 |
工具器具備品 | 2,200,000円 |
(3,300,000円+5,500,000円+2,200,000円)×10/110=1,000,000円(固定資産に係る消費税額)
なお、固定資産の購入と言っても、「土地」の購入金額は、消費税が掛かりませんの注意が必要です。
これで、固定資産の購入に係る消費税額1,000,000円が算出されました。
売上原価、費用に係る消費税額2,800,000円と固定資産の購入に係る消費税額1,000,000円を足した3,850,000円が「原則課税方式」における試算した仕入税額控除額となります。
次に、「簡易課税方式」の仕入税額控除額を試算していきます。
「簡易課税方式」の試算はとても簡単です。
「預かっている消費税額」に「みなし仕入率」を、乗じた金額が「仕入税額控除額」となります。
例題においては、以下の通りとなります。
まず、「損益計算書」に記載されている売上高の金額を確認します。
損益計算書の通り、売上高は44,000,000円です。
「預かっている消費額」を出すには、「売上高×10/110」で算出できます。
この式に当てはめると、44,000,000円(売上高)×10/110=4,000,000円(預かっている消費税額)
なお、「みなし仕入率」は、営んでいる事業種によって変わります。
例題では、「小売業」を営んでいる会社とします。「小売業」のみなし仕入率は、80%です。
この預かっている消費税額に「みなし仕入率」を乗じると「仕入税額控除額」が算出されます。
例題の仕入税額控除額を算出すると、4,000,000円(預かっている消費税)×80%(みなし仕入率)=3,200,000円(仕入税額控除額)となります。
これで、「原則課税方式」と「簡易課税方式」の二つの算出方法における、「仕入税額控除額」の金額が算出されました。
原則課税方式による、「仕入税額控除額」 | 簡易課税方式による、「仕入税額控除額」 |
3,850,000円 | 3,200,000円 |
「仕入税額控除額」は、それぞれ原則課税方式では、「3,850,000円」、簡易課税方式では、「3,200,000円」となりました。
比較すると、3,850,000円(原則)>3,200,000円(簡易)となり、仕入税額控除額が多い、原則課税方式の方がお得ということになります。
ただし、判断する際に一つ注意が必要です。それは固定資産です。
今回の例では、固定資産の購入がありましたが、それが試算した年度特有なものである場合は、それを考慮する必要があります。
例えば、これから先には固定資産を購入する予定がない場合は、資産の計算から除外する必要があるでしょう。
逆にこれから先に大きな設備投資をする場合には、逆にその見込み金額を加算する必要があるでしょう。
この比較はあくまで試算ですので、正確なものではありませんが、だいたいの金額はわかりますので、大きく金額が違えば判断は間違いのないものになるでしょう。
また固定資産の購入が過去にあったり、未来に購入予定である場合は、それも考慮する必要があります。
ここまで、「原則課税方式」と「簡易課税方式」の二つの方法のうち、どちらが得なのかを、例題を見ながら試算の方法について、解説してきましたが、試算の方法の中で、難点があるとすれば消費税のかかるかからないを判定することと消費税額を計算することかと思います。
この問題をクリアする方法として、会計ソフトを使用しているとこれまでやった計算を自動でやってくれるソフトが多くあります。
通常の会計ソフトであれば、「消費税集計表」を出力することができますので、それを使って簡単に「仕入税額控除額」を試算することができます。
その「消費税集計表」って何?と言う方もいらっしゃると思いますので、どのようなものなのかをご覧ください。
「弥生会計」で「消費税集計表」を出力すると次のようなものが表示されます。
この「消費税集計表」のどこを確認するべきかと言うと、「仕入集計表」の「課税仕入」、「消費税」欄が「仕入税額控除額」となっています。
例題でいうと、3,850,000円が「仕入税額控除額」となります。
各ソフトによって仕様が微妙に違いますが、その年度でどのくらい消費税がかかる支払い金額があったかというものを確認できますので、それを試算額として参考にするというのも一つの手かと思います。
以上で、原則課税方式と簡易課税方式のどちらが得なのかを試算する方法の解説となります。
次は、簡易課税制度を利用する要件について確認していきたいと思います。
簡易課税制度を利用するメリットが大きかったとしてもあらゆる事業者が簡易課税を選択できるわけではありません。
簡易課税制度を利用するためには要件があるのです。
ここからは、簡易課税制度を選択できる要件について確認していきましょう。
1-5 簡易課税制度を選択するための要件とは
簡易課税制度を選択する要件は、原則として次の2つをいずれも満たしている場合に適用することができます。
要件は以下の2つとなります。
- 消費税簡易課税制度選択届出書が提出されていること
- 基準期間における課税売上高が、5000万円以下である
では、一つずつ内容を確認していきましょう。
1-5-1 消費税簡易課税制度選択届出書が提出されていること
簡易課税制度を適用するには、所轄税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を適用を受ける課税期間の前日まで提出する必要があります。
なお、設立した年度の場合は、その設立年度中に提出する必要があります。
「簡易課税制度選択届出書」の様式は、国税庁ホームページに掲載されています。
簡易課税制度選択届出書は次のようなものです。
簡易課税制度選択届出書の書き方については、後述します。
1-5-2 基準期間における課税売上高が、5000万円以下である
次の要件は、基準期間における課税売上高が5,000万円以下であることが要件になっています。
「基準期間における課税売上高」というのは、個人事業者であれば、前々年度(暦年)、法人であれば前々事業年度(基準期間)の消費税がかかる売上の合計額に、輸出取引等の免税となる売上の合計額を足した金額(課税売上高)のことを指します。
基準期間における課税売上高が5,000万円以下の例
年度 | 基準期間(前々年度) | 前年度 | 申告対象年度 |
---|---|---|---|
会計期間 | 2021.4.1〜2022.3.31 | 2022.4.1〜2023.3.31 | 2023.4.1〜2024.3.31 |
課税売上高 | 4,500万円 | 4,900万円 | 5,500万円 |
申告対象年度の前々年度の基準期間の課税売上高が5,000万円以下なので条件クリアです。
申告対象年度が5,000万円超でも問題ありません。
基準期間における課税売上高が5,000万円超の例
年度 | 基準期間(前々年度) | 前年度 | 申告対象年度 |
---|---|---|---|
会計期間 | 2021.4.1〜2022.3.31 | 2022.4.1〜2023.3.31 | 2023.4.1〜2024.3.31 |
課税売上高 | 5,500万円 | 4,900万円 | 4,500万円 |
申告対象年度の前々年度の基準期間の課税売上高が5,000万円超なのでアウトです。
申告対象年度が5,000万円以下でも基準期間の課税売上高が5,000万円を超えているのでダメです。
以上が、簡易課税制度を適用するための、要件となります。
次は、簡易課税制度を適用する上での注意点の説明となります。
1-6 簡易課税制度を適用する上でのその他注意点
簡易課税制度を適用するための注意点は、以下の2点となります。
1-6-1 簡易課税制度は、勝手にやめることができません。
簡易課税の適用を止めようとするときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を所轄税務署に適用を止めようとする課税期間の前日まで提出する必要があります。
なお、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の様式は、国税庁ホームページに掲載されています。
前述の通り、消費税簡易課税制度選択届出書を提出した場合、最低でも2年間は簡易課税の適用を受ける必要があります。
ここで、注意が必要なのが、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した事業者が、その課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円以上となり、その課税期間について簡易課税制度を適用できなくなった場合や、課税売上高が1,000万円以下となり、免税事業者になった場合であっても、その後の課税期間で簡易課税制度が適用できるようになった場合、自動的に簡易課税制度が適用され、原則課税は使用できません。
以下の図のように、第X3期内に、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出を失念してしまっていた場合、第x4期では、簡易課税で申告することになります。
ですから、簡易課税制度の適用外になった場合、翌事業年度以降で、簡易課税制度を利用するか、どうか決まっていないのであれば、念のため「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を所轄税務署に提出しておき、必要に応じて、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出し直すと良いでしょう。
1-6-2 簡易課税制度選択届出書の提出制限について
消費税簡易課税制度選択届出書は、どんな法人でも提出できる書類ではありません。
実は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であったとしても提出ができない法人も存在します。
それは、下記のような法人は、原則3年間、簡易課税制度選択届出書を提出することができません。
- 課税事業者を選択した事業者が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合
- 新設法人または特定新規設立法人が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合
- 高額特定資産の仕入れ等や自己建設高額特定資産の仕入れを行った場合
- 高額特定資産である棚卸資産等について棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合
なにやら小難しい用語が出てきましたが、簡単に言うと、次の2つのケースに該当した場合は、3年間、「簡易課税制度選択届出書」を提出できないということです。
❶ 次の事業者が「調整対象固定資産」を取得した場合
- 課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となっている事業者
- 基準期間がない新設法人で資本金が1千万円以上のため課税事業者となっている事業者
- 基準期間がない新設法人のうち特定新規設立法人に該当するため課税事業者となっている事業者
❷ 税抜価額が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産を取得した場合
なお、調整対象固定資産というのは、仕入税額控除の調整対象になる固定資産(建物、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具器具備品など)のうち、一単位あたり(※)の取得価額(税抜金額)が100万円以上のものをいいます。
「高額特定資産」というのは、1,000万円(税抜金額)以上の棚卸資産又は調整対象固定資産もののことを指します。
中小企業で、上記に当てはまるのは、極めて稀ですので、詳しい解説は割愛します。
100万円以上の資産を購入した際は、当てはまっているものはないかを確認してみてください。
1-7 簡易課税制度を適用している場合の会計ソフトの入力方法について
ここで、実務的な話を一つしたいと思います。
それは簡易課税制度を適用している場合に会計ソフトに入力する際に簡易課税特有の注意点があるのです。
会計ソフトで仕訳帳に日々の取引を登録していくときに、税区分を簡易課税に対応させておくと、申告の際にとても楽になります。しかし逆にそうでないと遡って自分で手計算で集計するという荒行を強いられるということになります。
収入を経理するときに税区分を事業区分で分類する
これを必ずするようにしましょう。
具体的には、次のように売上高を経理するときに、売上高がどの事業区分に該当する取引かを仕訳帳に登録するようにします。
借方勘定科目 | 借方税区分 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方税区分 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
売掛金 | 対象外 | 1,100,000 | 売上高 | 課売 10% 五種 | 1,100,000 |
この例では第五種事業から生じた売上高なので、税区分で「課売 10% 五種」という税区分を選択しています。
例えば複数の事業を営んでいる場合、収入を経理する際にこの税区分で区別していないと、決算の段階で遡って分類しなおすという労苦を強いられます。
単一の事業であったとしても、消費税の申告ソフトは通常この事業区分がされていないとどこに区分して計算していいかわかりませんので、結局自分で入力してやる必要が出てくる可能性があります。税区分で区分していれば、自動的に計算してくれることでしょう。
簡易課税は預かった消費税にみなし仕入率をかけて計算する関係上、支払った消費税を管理する必要はありません。
簡易課税制度を適用している場合は、支払い側の税区分はなんでもいい
会計ソフトで支払いの経理をしていると、勘定科目によって自動で税区分が登録されていきます。
原則課税を適用している場合は、それをすべてそのまま採用することはできませんので、取引によっては見直しが必要になります。
これが簡易課税の場合は、支払い側の税区分はどうであっても無関係なので、まったく放っておけます。
収入の方は、一手間ありますが、支払い側は何もしなくていい。これが簡易課税の特徴です
次は、簡易課税制度を適用している事業者の適格請求書等保存方式、いわゆる「インボイス制度」の影響について解説します。
1-8 「インボイス制度」の影響について
令和5年10月1日から適格請求書等保存方式、いわゆる、「インボイス制度」が始まりますが、「簡易課税制度」を適用している場合は、どのような影響があるのかを見ていきたいと思います。
まずは、「インボイス制度」について、簡単に解説していきたいと思います。
1-8-1 インボイス制度の概略
インボイス制度とは、令和5年10月1日より新たに設けられる仕入控除税額に関する制度です。
インボイス制度を理解するためには、次の2つのポイントをおさえる必要があります。
- 買い手は、仕入税額控除をするためには、原則として売り手から交付を受けたインボイス(適格請求書)を保存しておく必要があります。
- 売り手は、インボイス(適格請求書)を交付するためには、事前に税務署に登録を受ける必要があると同時に消費税の納税義務が発生します。
インボイス制度の影響
これがどういうことかというと、「インボイス制度 」が始まっていない現状では、仕入先が免税事業者であっても、請求書や帳簿書類などを保存していれば、仕入税額控除を普通に受けることが出来ますが、インボイス制度が始まると、適格請求書(インボイス)を発行していない事業者からの仕入は、仕入税額控除の対象にすることができなくなるということです。
つまり、免税事業者のままでいた事業者に支払った消費税は、買い手側は消費税の申告でその消費税を差し引けないということになるわけです。
そうするとどういうことが起きると考えられるでしょうか。
同じ売り上げ規模が1,000万円未満のフリーランスAとBがいたとします。いずれかに仕事を発注したいと考えていたとします。
Aはインボイスを発行できますが、Bはインボイスを発行できません。
見積もりを取ったところAとBいずれも55万円でした。
さて、技術を考慮しない場合、どちらに発注するでしょうか。
それはAですよね。
Aに払った消費税5万円は消費税の申告で差し引けますが、Bからは何も差し引けないわけです。
つまり、Aへの実質の支払額は消費税を考慮すると55万 – 5万 = 50万円で依頼できることになります。
このようなことからこのインボイス制度が始まると、免税事業者が課税事業者にならざるを得ない状況になる事業者が増加することが予想されるというそんな制度になっています。
インボイスの記載事項
インボイスというのは具体的には次のものを記載した請求書であると規定されています。
(出典 国税庁のパンフレット)
❶ 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
❷ 取引年月日
❸ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
❹ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
❺ 税率ごとに区分した消費税額等
❻ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
登録番号を取得するために、税務署に事前にインボイス発行事業者として登録を受ける必要があります。
この登録を受けると課税事業者(=消費税の申告義務あり)となることが決定します。
つまり、自社がインボイス発行事業者となった場合は、これらを記載した請求書を発行する必要があるということです。
次に、簡易課税制度を適用した事業者は、「インボイス制度」でどのような影響を受けるのでしょうか。
1-8-2 インボイス制度と簡易課税制度
簡易課税制度を適用した事業者は、課税売上高にみなし仕入率を乗じて仕入控除税額を算出する方法で税額計算を行います。
この税額計算方法の関係上、簡易課税制度を適用している場合は、インボイスを保存していようがいまいがみなし仕入率を使って仕入控除税額を計算できます。
つまり、次のように言うことができます。
インボイス制度の下でも、簡易課税を適用している事業者は、取引先がインボイスを発行しているかどうかに関係なく、これまでどおり気にせず取引ができるということになります。
しかし、当社がインボイス制度を関係なしと言って、インボイスを交付しなかったらどうでしょうか。
前述のとおり当社から仕入れを行う事業者には、大いに影響が出てくることになります。
例えば、当社が簡易課税適用法人であるが、「登録事業者」でなかった場合インボイスを発行できないので、得意先が原則課税を適用している場合、得意先が当社から仕入れを行ったとしても、仕入税額控除を行うことできないことになります。
そうすると得意先は仕入税額控除ができない事業者より、仕入税額控除ができる「登録事業者」を選んで、取引する可能性があります。
このように、自社の消費税の計算には影響がありませんが、自社と売り上げ先のことを考えると大きな影響があるといえます。
得意先が原則課税を適用している場合は、取引を打ち切られる、仕事を受注しずらくなる、ものが売れなくなるということが考えられるため、登録事業者になることを検討する必要があります。
続いて、簡易課税制度を適用するための要件として「消費税簡易課税制度選択届出書」を一定の期間内に税務署に提出する必要があると説明しました。
この「消費税簡易課税制度選択届出書」の書き方について解説していきたいと思います。
2 消費税簡易課税制度選択届出書の書き方
簡易課税制度を適用するのに必要な要件の一つである「消費税簡易課税制度選択届出書」の書き方を説明します。
そこまで、難しいものではありませんが、記載例を利用して解説していきたいと思います。
まずは、「消費税簡易課税制度選択届出書」とはどのような書類なのかを見てみましょう。
いかがでしょうか。
記載するところは、あまり多くないはないですが、税法の条文が出てきたり、専門用語がでてきたりと理解しづらいところはあるかと思います。
でも、安心ください。
記載方法について、一欄ずつ、初心者でもわかりやすく解説していきます。
なお、「簡易課税制度選択届出書」の様式は、国税庁ホームページに掲載されています。
2-1 届出書の記載例
今回作成する「消費税簡易課税制度選択届出書」の例題の内容は以下の内容とします。
例題内容
法人名:株式会社 一色ジャパン
決算期(課税期間):令和5年1月1日から令和5年12月31日
事業内容:小売業(第二事業種)
基準期間:令和3年1月1日から令和3年12月31日
基準期間の課税売上高:40,000,000円
「消費税簡易課税制度選択届出書」の書式の構成は大きく分けて、書面上部の「法人情報に関する内容の記載」と書面下部の「提出要件に関する内容の記載」で分かれています。
まずは、書面上部の法人情報に関する記載から解説していきます。
2-1-1 法人情報に関する内容の記載
それでは、書面上部の法人情報に関する内容の記載の解説を行っていきたいと思います。
❶ 税務署欄と提出日欄を記載する
法人または個人事業主の納税地の所轄税務署と当届出書を提出する日付けを記載してください。
所轄税務署は、白紙の申告書を送付してきた税務署です。
所轄税務署がわからない方は下記のリンクから確認できます。
❷ 届出者の「納税地」、「名称(法人名)」及び「代表者氏名」並びに法人番号を記載する
法人の場合は、「納税地(法人の本店所在地)」「名称(法人名)」「代表者「法人番号(13桁)」の氏名を記載します。
個人事業者の場合は、「納税地」「氏名」を記載します。なお、個人番号の記載は不要です。
法人番号とは、法人と一部の団体に対し、国税庁が指定する13桁の識別番号のことを言います。
法人番号は、国税庁運営サイトで検索することが出来ます。
法人番号がわからない方は、下記のサイトから検索してください。
❸ 「適用開始日課税期間」欄を記載する
簡易課税制度の適用を開始したい「課税期間」を記載します。
この簡易課税制度選択届出書を提出した日に属する課税期間の翌課税期間を記入してください。
課税期間は、納付すべき消費税額の計算の基礎となる期間で、原則として、個人事業者の場合は、暦年(1月1日から12月31日)で法人の場合、事業年度とされています。
例題では、「自 令和5年1月1日 至 令和5年12月31日」が記入されています。
❹ 「①の基準期間」欄を記載する
この欄には、簡易課税制度を適用する課税期間に係る「基準期間」を記入します。
基準期間というのは、原則、個人事業者の場合は、前々年度(暦年)、法人の場合は、その事業年度の前々事業年度のことを言います。
例えば、X5年12月期が課税期間の法人の場合、その事業年度の前々年度となるX3年12月期が基準期間となります。
例題では、「適用開始課税期間」の基準期間である「自 令和3年1月1日 至 令和3年12月31日」が記入されています。
❺ 「②の課税売上高」欄を記載する
この欄には、基準期間の課税売上高を記載します。
課税売上高とは、消費税がかかる売上の合計額に、輸出取引等の免税となる売上の合計額を足した金額を言います。
課税売上高について、詳しく知りたい方は次の記事を参照してください。
https://japanex.jp/book/?p=2890
例題では、基準期間の課税売上高となっている「40,000,000円」を記入しています。
❻ 「事業内容等」欄を記載する
この欄には、「事業の内容」と事業区分を記入します。
「事業の内容」については、自社が営んでいる主たる事業を記入します。
なお、「小売業」や「建設業」、「飲食業」等のように簡単に記載してください。
また、「事業区分」については、上記の「事業の内容」に記載した事業の「事業区分」を下の表から選んで記載してください。
事業区分 みなし仕入率 該当する事業 第一種事業 90% 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 第二種事業 80% 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 第三種事業 70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 第四種事業 60% 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業および第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。
なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。第五種事業 50% 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます。 第六種事業 40% 不動産業
記載例においては、主たる事業が「小売業」であるため、「事業の内容」欄には、「小売業」、「事業区分」欄に「第2種事業」と記載されています。
2-1-2 提出要件に関する内容の記載
次は、書面下部の提出要件に関する内容の記載の解説を行っていきたいと思います。
最初にお伝えしますが、この提出要件に関する内容の記載欄(赤枠)は、基本的に「提出要件の確認」欄のうち、「次のイ、ロ又はハの場合に該当する」(青枠)という欄しか使用しないケースがほとんどです。
❶ 「提出要件の確認」の「次のイ、ロ又はハの場合に該当する」欄の「いいえ」にチェックを付ける
この欄の「いいえ」の右横にあるボックスにチェックを付けてください。
ほとんどの法人はここで「提出要件に関する内容の記載」については完成となります。
稀なケースですが、「イ」欄、「ロ」欄及び「ハ」欄がどのような場合に使用するか、気になると思いますので、説明しておきます。
実は、下記のような場合、簡易課税制度選択届出書を3年間提出ができないこととなっています。
- 課税事業者を選択した事業者が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合
- 新設法人または特定新規設立法人が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合
- 高額特定資産の仕入れ等や自己建設高額特定資産の仕入れを行った場合
- 高額特定資産である棚卸資産等について棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合
このケースに該当していないかを確認する欄となっています。
これらに該当する場合は、「次のイ、ロ又はハの場合に該当する」欄で「はい」にチェックを付け、下の段の該当欄に回答していくこととなります。
なんか、小難しい用語が出てきましたが、簡単に言うと、
- 課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となっている事業者
- 基準期間がない新設法人で資本金が1千万円以上のため課税事業者となっている事業者
- 基準期間がない新設法人のうち特定新規設立法人に該当するため課税事業者となっている事業者
が、「調整対象固定資産」を取得した場合と、税抜価額が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産(高額特定資産)を取得した場合は、3年間、「簡易課税制度選択届出書」を提出できないということです。
なお、調整対象固定資産というのは、仕入税額控除の調整対象になる固定資産(建物、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具器具備品など)のうち、一単位あたり(※)の取得価額(税抜金額)が100万円以上のものをいいます。
「高額特定資産」というのは、調整対象固定資産のうち、1,000万円以上のもののことを指します。
調整対象固定資産について、詳しく知りたいという方は次の記事をご覧ください。
https://japanex.jp/book/?p=4862
当記事では、初めて消費税を申告する中小企業向けの記事であり、そのような事業者が使用する欄ではないため、詳しい解説は割愛したいと思います。
基本的にここで、「簡易課税制度選択届出書」は完成となりますが、一部の事業者が使用する欄や、記載するべきではない欄についても、念のため確認していきます。
2-1-3 その他の内容の記載
一部の事業者や、記載するべきではない欄について確認していきます。
❶ 「参考事項」欄について
その他参考となる事項等がある場合に使用する欄です。
基本的に空欄でOKです。
➋ 「税理士署名押印」欄について
顧問税理士がいる際に使用する欄です。
いない場合は空欄です。
❸ 「税務署処理欄」について
税務署が使用する欄となりますので、記載しないでください。
これで、「簡易課税制度選択届出書」の解説は以上になります。
できあがった届出書はこちらになります。
次の章では、簡易課税制度選択届出書を簡単に無料で作成できるソフトの紹介をしたいと思います。
手書きではなく、簡単にプリントされたものを提出したいですよね?そのような方はご覧ください。
2-2 もっと簡単に簡易課税選択届出書を作成する方法
とにかく簡単に早く正確に消費税の申告書を作成したいという方にぴったりの方法があります。
それが、誰でも簡単に法人税・消費税の申告書や法人で必要な届出書の作成できるクラウド税務ソフト「全力法人税」を利用する方法です。
ちなみにこの記事で使用した記載例についても、全力法人税でちゃちゃっと作成したものです。
「全力法人税」では以下の届出書類を無料で作成できますので、「簡易課税制度選択届出書」も無料でかんたんに作成することができます。
全力法人税で作成できる届出書類
- 消費税課税事業者届出書
- 消費税簡易課税選択届出書
- 法人設立届出書
- 青色申告承認申請書
- 事前確定届出給与届出書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の作成
無料で作成できるなら、手書きではなく、パソコンでサッサと簡単に作成した方がよいと思いませんか?
ただし、全力法人税は、法人を対象とした税務ソフトであるため、個人事業主はご利用できません。
では、どのような形で作成できるのかを具体的に画面を見ながら確認していきましょう。
全力法人税を利用した場合の簡易課税制度選択届出書の作成方法
実際に、全力法人税を利用した場合の「簡易課税制度選択届出書」の作成方法を見ていきましょう。
全力法人税はインターネットのブラウザ上で動作するクラウド税務ソフトであるため、アカウントを作成して、ログインする必要があります。
❶ 全力法人税にログインする
❷ ホーム画面の「届出を作成する」をクリックする
❸ 画面上部タブの「消費税関係」にある「簡易課税選択届出書」をクリックする
❹ 「新規追加」をクリックする
➎ 諸入力欄を入力していきます。(約5分ほど)
❻ 「保存」をクリックし、入力情報を保存する。その後、「PDF出力」を出力する
これで、「簡易課税制度選択届出書」の完成となります。
手書きで作成するなら、15分ほど掛かる作業を、正味5分ほどで、きれいな届出書が完成させることが出来ました。
先程もお伝えしたように、届出書の作成、印刷は無料です。
他にも一部の申告書類を除いて無料で法人税の申告書類を作成することができます。
また、当記事をご覧の方で、消費税の申告書を自分で作成したいと思っている方もいるのではないでしょうか。全力法人税なら、3,800円+税という超低価格で消費税の申告書も作成できます。
次章から説明する「簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の書き方」を読んで頂ければ、基本的な消費税の申告書なら、作成することが出来ます。
ただ、当記事を見てもやはり、「難しい」、「面倒」と思われる方はいらっしゃると思います。
全力法人税をご利用いただくと、消費税の申告書を手書きで作成する場合、どんなに早く完成させられても1時間ほど掛かるところを、15分ほどで完成させることも可能です。
ここで、「自分で作成したいけど、ここから記事を読んで作成するのは、大変だな。ソフトで簡単にさっさと完成させたい。」という方は、全力法人税で消費税の申告書を作成する方法について詳しく説明している当記事の「2-3 もっと早く正確に簡易課税の消費税申告書を作成する方法」をご覧いただければと思います。
全力法人税について詳しく知りたい方はこちらをクリックしてください。
続いては、簡易課税制度を適用した場合の「消費税の申告書の書き方」について、解説していきたいと思います。
初心者でも書き上げられるようわかりやすく解説していきます。
3 簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の書き方
初心者の方でもこの記事のとおりに記載していけば書きあげられるようにわかりやすく解説していきます。
簡易課税の申告書は、みなし仕入率を決める事業区分に関して何種類の事業を営んでいるか等々の要因によって難易度が変わってきますので、ここでは、事業区分が1種類のシンプルな入門編と事業区分が複数で貸倒れや返品がある応用編に分けて解説していきます。
入門編で簡易課税の申告の基本を抑えて、応用編は自社に関係ある部分を参照して書き上げるといった方法で活用いただくのがよいかと思います。
それでは簡易課税を適用する消費税の申告書の書き方の解説を始めていきます。
申告書の書き方の具体的な解説に入る前に、全体像を把握するために「課税制度を適用した場合の消費税の申告書」がどのような書類なのかを見てみましょう。
「簡易課税制度の申告書」は、以下のとおり4種類5枚の申告書類で構成されています。
「第一表」
「第二表」
「付表4-3」
「付表5-3」初葉
「付表5-3」次葉
簡易課税制度を適用した消費税の申告書の構成を確認しましょう。
簡易課税制度の消費税の申告書の構成
- 第一表(申告書の本紙)・・・納付すべき消費税を計算
- 第二表(課税標準額の内訳書)・・・収入の方の消費税を計算
- 付表4-3(税率別消費税額計算表 兼 地方消費税の課税標準となる消費税額計算表)・・・税率ごとに消費税を計算
- 付表5-3(控除対象仕入税額等の計算表)・・・仕入税額控除の金額を計算
それぞれの申告書類には、役割があり、作成する手順も重要となっていますので、例題に沿って簡易課税制度の消費税の申告書を実際に作成しながら、書き方についての解説していきたいと思います。
書き方の解説は、例題内容の申告書を記載しながらの解説となります。
記載例は、「入門編」と「応用編」の2パターン用意しています。
簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の記載方法は、「簡易」との名称だけあり、とても簡単です。
ですが、下記のような場合は、人によっては、「とても簡単」とは言えなくなってしまいます。
- 貸倒れがある場合
- 売上値引きや返品があった場合
- 軽減税率適用の取引がある場合(8%)
- 複数の事業を兼業していて、事業区分が2事業種以上ある場合
そのため、記載例のパターンを「入門編」と「応用編」の2つを用意して、
「入門編」は、例題の設定を簡易課税の申告書で考えうる最もシンプルなものにして、「簡易課税の申告書とはどのようなものなのか」という簡易課税制度全体を理解するのに適しています。
「応用編」では、さまざまケースを想定して複雑な設定にし、この書き方を見れば大方の簡易課税の申告書を書ける内容となっています。
具体的には「入門編」は貸倒れや値引きなどもなく事業区分も1種類で、簡易課税の申告書を最速で作成できる形にしています。
初心者の方は、いきなりすべて詰め込まれた内容を最初に読むと頭がパンクしてしまって結局何一つ理解できないというのはありがちなことです。
まずは全体像を理解して、その後自社に関係する部分の理解を深めるというのが効率的かと思います。
一方「応用編」は値引き、貸倒れ、複数事業区分、軽減税率適用ありと盛りだくさんの内容となっています。
簡易課税を適用する会社で考えられる多くのケースを網羅していますので、すでに簡易課税については知っている方も「この部分はどう書くんだっけ?」と辞書的にその部分だけ解説を読むということも可能です。
入門編と応用編の違いを一覧にすると次のとおりです。
入門編 | 応用編 | |
---|---|---|
事業区分 | 1種類 | 2種類 |
値引き・返品の有無 | ||
複数税率の有無 | ||
貸倒れの有無 |
初心者の方はまずは入門編からスタートしていただき、簡易課税のことはある程度わかっていて複雑なケースの書き方を知りたい方は応用編を読んでもらえればと思います。
それでは、まずは「入門編」から解説をスタートしていきます。
3-1 申告書の記載例【入門編】
【入門編】は、中小企業の方が作成するであろう、簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の中で一番シンプルなものになります。
次のような設定で入門編の解説を進めていきます。
《入門編》例題内容
法人名:株式会社 一色ジャパン
決算期:令和5年1月1日から令和5年12月31日
基準期間の課税売上高:40,000,000円
決算内容:
第二種事業(小売業)標準10%:売上高 123,456,789円
売上値引き 0円
貸倒処理した金額: 0円
貸倒回収額: 0円
ご覧の通り、この例題が一番シンプルで簡単なものとなります。
実際に消費税の申告書を作成する前に、まず簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の作成手順を確認しておきましょう。
簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の作成手順は大きく分けて5つあり、以下のとおりとなります。
簡易課税制度を適用した場合の消費税申告書の作成の5つのSTEP
STEP1 課税売上高を事業区分ごとに整理する。
申告書類の作成前に必要なことです。
STEP2 課税標準額、消費税額及び返還等対価に係る税額の計算を行う。
付表4-3の記載を行います。(1欄及び2欄を使用します。)
STEP3 控除対象仕入税額の計算を行う。
付表5-3の記載を行います。
STEP4 消費税額及び地方消費税額の計算を行う。
付表4-3の記載を行います。(4欄から16欄を使用します。)
STEP5 申告書の第一表と第二表を作成する。
第一表及び第二表の記載を行います。
すべての申告書が完成
上記のような流れで申告書を作成していきます。
枚数が多いので、大変だなと感じる方もいるかもしれませんが、記載するところは限られていますので安心してください。
それでは、頑張ってやっていきましょう。
STEP1 課税売上高を事業区分ごとに整理する
簡易課税制度では、事業区分によって、みなし仕入率が決まることから、課税売上げを第一種事業から第六種事業のいずれかの業種に区分しておく必要があります。
下記の表に該当する事業種に課税売上高を区分していきます。
事業区分 みなし仕入率 該当する事業 第一種事業 90% 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 第二種事業 80% 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 第三種事業 70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 第四種事業 60% 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業および第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。
なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。第五種事業 50% 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます。 第六種事業 40% 不動産業
今回の例では、課税売上げのすべてを「第二事業種」に設定しています。
STEP2 課税標準額、消費税額及び返還等対価に係る税額の計算を行う
付表4-3で課税標準額、消費税額、返還等対価に係る税額の計算していきます。
なお、付表4-3のA列は消費税率8%(軽減税率)分のもの、B列には消費税率10%のものを記載します。
今回の例題では課税売上高のすべて(123,456,789円)が消費税10%分であるため、すべてB列に記入していきます。
⑴ 「課税標準額 ①」欄を記載する
①欄には、課税標準額を記載します。
課税標準額は次のように計算します。
❶ 例題では課税売上高はすべて10%なので、B列の①欄に「123,456,789円(課税売上高) × 100/110 = 112,233,000(1,000円未満切り捨て)」という計算結果を記載します。
❷ A列とB列の合計をしてC列に記載します。
例題では、A列が空欄なので、それぞれの行のB列の値を転記する形になり、B列の値である112,233,000をC列に記載します。
⑵「課税資産の譲渡等の対価の額 ①-1」欄を記載する
①-1欄には、課税資産の譲渡等の対価の額を記載します。
課税資産の譲渡等の対価の額は次のように計算します。
※1000円未満の端数を切り捨てない
❶ 例題では課税売上高はすべて10%なので、B列の①欄に「123,456,789円(課税売上高) × 100/110 = 112,233,444」という計算結果を記載します。
❷ A列とB列の合計をしてC列に記載します。
例題では、A列が空欄なので、それぞれの行のB列の値を転記する形になり、B列の値である112,233,444をC列に記載します。
⑶ ②欄「消費税額」を記載する
②欄には、課税標準額に対する消費税額を記載します。
課税標準額に対する消費税額は次のように計算します。
具体的には②欄は次のように求めます。
- A列は「課税標準額 ①」 × 6.24%で計算する
- B列は「課税標準額 ①」 × 7.8%で計算する
- C列は同じ行のA列とB列の値を合計する
例題では、B列に112,233,000円×7.8%=8,754,174円を記入します。
最後に②欄のA列とB列の合計金額を「合計C」列に記入します。
ここで一旦付表4-3への記載は終わります。
STEP3 控除対象仕入税額の計算を行う
次に付表5-3を使って控除対象仕入税額の計算を行なっていきます。
付表5-3は、2枚で1つの書類となっています。
1枚目は、全法人が使用しますが、2枚目については、2事業種以上営んでいる法人だけが使用するものとなります。
前述の付表4-3と同様にA列は消費税8%(軽減税率)分のもの、B列には消費税10%のものを記載します。
記載の流れは以下の通りです。
1「Ⅰ 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額」欄の記載
2「Ⅱ 1種類の事業の専業者の控除対象仕入税額」欄の記載
(3「Ⅲ 2種類以上の事業を営む事業者の場合の控除対象仕入税額」欄の記載 ※例題では、1種類の事業のため使用しません。)
1事業種のみを営んでいる法人の場合は、「Ⅰ 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額」欄の記載 「Ⅱ 1種類の事業の専業者の控除対象仕入税額」欄の記載という流れになります。
「Ⅲ 2種類以上の事業を営む事業者の場合の控除対象仕入税額」欄は、今回の例題が1種類の事業を営んでいる設定であるため使いません。
それでは、一つ一つ確認していきましょう。
「Ⅰ 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額」欄の記載
まずは、控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額に関する記載を行います。
こちらの欄は、次の3つの消費税について、該当がある箇所をうめていくという要領になります。
①課税標準額に対する消費税額
②貸倒回収にかかる消費税額
③売上対価の返還等にかかる消費税額
入門編の例では貸倒れの回収もなく、売上対価の返還等もないので課税標準額に対する消費税額だけ記載することになります。
❶ ①欄「課税標準額に対する消費税額」を記載する
①欄のA列とB列に、付表4-3の②欄「消費税額」に記載されているA列とB列の金額を転記します。
例題では、B列に8,754,174円を記入します。
A列とB列の合計金額を「合計C」列に記入します。
今回の例では貸倒れの回収もなく、売上対価の返還等もないので②欄と③欄は飛ばします。
❷ ④欄「控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額」を記載する
④欄は、A〜C列のそれぞれの列について、①欄と②欄の合計金額から③欄の金額を差し引いた金額(① + ② – ③)を記入します。
例題では、④欄には②欄及び③欄の金額が入らないため、①欄の金額である「8,754,174円」が記入されています。
「Ⅱ 1種類の事業の専業者の控除対象仕入税額」欄の記載
次に、1種類の事業の専業者の控除対象仕入税額に関する記載を行います。
この欄は、1事業種のみを営んでいる課税事業者が使う欄で、課税売上高に係る消費税額にみなし仕入れ率を乗じて控除対象仕入税額を算出します。
ちなみに2種類以上の事業を営んでいる場合は、この「Ⅱ 1種類の事業の専業者の控除対象仕入税額」欄は飛ばして、次の「III 2種類以上の事業を営む事業者の場合の控除対象仕入税額」欄を使用することになります。
❶ ⑤欄「④×みなし仕入率」を記載する
⑤欄に、④欄にみなし仕入率を乗じた金額を記入します。
例題では、1事業種(小売業)であるため、4欄の金額「8,754,174円」に、小売業のみなし仕入率である「80%」を乗じた金額、「7,003,339円」を記入します。
ここまでで、付表5-3の完成しました!
「Ⅲ 2種類以上の事業を営む事業者の場合の控除対象仕入税額」欄の記載 ※例題では、使用しません。
前述のとおり2事業種以上営んでいる会社の場合のみ必要となる箇所となるため、この例題では使用しません。
STEP4 消費税額及び地方消費税額の計算を行う
次に消費税額及び地方消費税額の計算を行います。
ここでまた付表4-3に戻り、この付表を完成させます。
ここからは、付表4-3の④欄から⑬欄の解説になります。
個別に各欄の解説をしていきます。
❶ ④欄「控除対象仕入税額」を記載する
④欄に、付表5-3の⑤欄の金額を転記します。
消費税のかかる売上の返還の金額があればその税額を⑤欄に記載し、消費税のかかる貸倒れがあればその税額を⑥欄に記載することになりますが、入門編の例では該当がありませんので飛ばします。
❷ ⑦欄「控除税額小計」を記載する
⑦欄には、④欄、⑤欄及び⑥欄を足した金額を記入します。
例題では、⑤欄及び⑥欄に金額が入らないため、④欄の金額である「7,003,339円」が記入されています。
❸ C列⑨欄「差引税額」を記載する。
⑨欄の「C列(合計)」に、②欄と③欄を足した金額から⑦欄の金額を差し引いた金額(② + ③ – ⑦)を記入します。
こちらの金額は、「課税売上高に係る消費税」から「控除対象仕入税額」を差し引く計算です。
記載例では、「8,754,174円(②欄)-7,003,339円(⑦欄)=1,750,800円(100円未満切り捨て)」で算出した、1,750,800円を記入しています。
❹ C列⑪欄「差引税額」を記載する
⑪欄に、⑨欄と同額を転記します。
記載例では、⑨欄の金額「1,750,800」と同額が⑪欄に記入しています。
➎ C列⑬欄「納税額」を記載する
⑬欄に「⑪欄の金額×22/78」を記入します。
記載例では、「1,750,800×22/78=493,800(100円未満切り捨て)」で算出した、493,800円を記入しています。
ここで、付表4-3が完成しました!
STEP5 申告書の第一表と第二表を作成する
付表4-3及び付表5-3で記載した内容を申告書の第一表及び第二表に転記しながら完成させていきます。
まずは、第二表の作成から行っていきますが、内容のほとんどは「付表4-3から第二表への転記」です。
それでは、確認していきましょう。
第二表の作成
申告書の第二表の作成の解説です。
以下のとおりの流れで作成します。
- 計算以外の内容に関する記載
- 課税標準額及び課税資産との譲渡等の対価の額に関する記載
- 消費税額に関する記載
- 地方消費税に関する記載
では、AからDを一つ一つ確認していきます。
A.計算以外の内容に関する記載
❶ 納税地、名称又は屋号、代表者氏名又は氏名を記載する
納税地は原則、登記簿謄本に書かれているものを記入します。
名称又は屋号欄には、法人名を記入します。
❷ 課税期間を記載する
課税期間は、納付すべき消費税額の計算の基礎となる期間で、原則として、法人の場合、事業年度とされています。
和暦で、「自」には課税期間の開始年月日を、「至」には課税期間の終了年月日を、それぞれ記入します。
例題では、株式会社一色ジャパンの事業年度は、令和5年12月31日期ですので、「自 令和5年1月1日 至 令和5年12月31日」と記入しています。
❸ 申告書の種類を記載する。
申告書が「確定申告書」であれば、「確定」とカッコ内に記入し、「修正申告書」であれば、「修正」と記入します。
例題では、「確定申告書」を作成しているため、「確定」と記入しています。
B.課税標準額及び課税資産との譲渡等の対価の額に関する記載
❹ ①欄「課税標準額」を記載する
①欄には、付表4-3のC列①欄の金額を転記します。
例題では、付表4-3のC列①欄の金額である、「112,233,000円」を①欄に記入しています。
❺ ⑥欄「課税資産の譲渡等の対価の額の合計額・7.8%適用分」を記載する
⑥欄には、付表4-3のB列①-1欄の金額を転記します。
例題では、付表4-3のB列①-1欄の金額である、「112,233,444円」を⑥欄に記入しています。
C.消費税額に関する記載
❻ ⑪欄「消費税額」を記載する
⑪欄には、付表4-3のC列②欄の金額を転記します。
例題では、付表4-3のC列②欄の金額である、「8,754,174円」を⑪欄に記入しています。
❼ ⑯欄「⑪の内訳・7.8%適用分」を記載する
⑯欄には、付表4-3のB列②欄の金額を転記します。
例題では、付表4-3のB列②欄の金額である、「8,754,174円」を⑪欄に記入しています。
D.地方消費税額に関する記載
❽ ⑳欄「地方消費税の課税標準となる消費税」を記載する
⑳欄には、付表4-3のC列⑪欄の金額を転記します。
例題では、付表4-3のC列⑪欄の金額である、「1,750,800円」を⑪欄に記入しています。
❾ ㉓欄「地方消費税の課税標準となる消費税額・6.24%及び7.8%適用分」を記載する
㉓欄には、⑳欄と同額を転記します。
例題では、「1,750,800円」を㉓欄に記入しています。
ここで、申告書 第二表は完成です!
転記について
第二表の作成は、冒頭でお話ししましたが、ほとんどが付表4-3からの転記です。
国税庁が発行している、「消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方【法人用】に転記先がよくわかる画像がありましたので、添付します。
第二表への転記が正しくされているかの見直しに使えるかと思います。
次に申告書 第一表を作成していきます。
第一表の作成
いよいよ、最後の申告書類である申告書の第一表の作成の解説です。
もう少しで、終わりますので、頑張って書きあげましょう。
第一表の作成内容についても、「付表4-3、付表5-3及び第二表から第一表への転記」がほとんどです。
電卓を叩いたり、複雑な計算等はないので、ご安心ください。
それでは、解説していきたいと思います。
第一表の作成の流れは以下の通りです。
- 計算以外の内容に関する記載
- 消費税の税額の計算に関する記載
- 地方消費税の税額の計算に関する記載
- その他の内容の記載
こちらも、一つ一つ確認していきます。
A.計算以外の内容に関する記載
❶ 納税地、名称又は屋号、個人番号又は法人番号、代表者氏名又は氏名
納税地、名称又は屋号及び代表者氏名又は氏名については、第二表に記載した内容と同様に記入してください。
「個人番号又は法人番号」欄には、「法人番号」を記載してください。
法人番号とは、法人と一部の団体に対し、国税庁が指定する13桁の識別番号のことを言います。
法人番号は、国税庁運営サイトで検索することが出来ます。
法人番号がわからない方は、下記のサイトから検索してください。
➋ 課税期間を記載する。
課税期間は、前述のとおり通常は法人税でいう事業年度が入ります。
和暦で、「自」には課税期間の開始年月日を、「至」には課税期間の終了年月日を、それぞれ記入します。
例題では、株式会社一色ジャパンの事業年度は、令和5年12月31日期ですので、「自 令和5年1月1日 至 令和5年12月31日」と記入しています。
❸ 申告書の種類を記載する。
申告書が「確定申告書」であれば、「確定」とカッコ内に記入し、「修正申告書」であれば、「修正」と記入します。
例題では、「確定申告書」を作成しているため、「確定」と記入しています。
B.消費税の税額の計算に関する記載
❹ ①欄「課税標準額」を記載する
①欄には、申告書第二表の①欄の金額を転記します。
❺ ②欄「消費税額」を記載する
②欄には、申告書第二表の⑪欄の金額を転記します。
❻ ④欄「控除対象仕入税額」を記載する
④欄には、付表4-3の④欄の金額を転記します。
❼ ⑦欄「控除税額小計」を記載する
⑦欄には、「④欄+⑤欄+⑥欄」の金額を記入します。
例題では、⑤欄と⑥欄が空欄であるため、④欄の金額を転記しています。
❽ ⑨欄「差引税額」欄を記載する
⑨欄には、付表4-3C列⑨欄の金額を転記します。
「②欄ー⑦欄」でも、算出できます。
例題では、「1,750,800円」が記入されています。
❾ ⑪欄「納付税額」を記載する
⑪欄には、「⑨欄-⑩欄」した金額が記入されます。
例題では、⑩欄「中間納付税額」がないため、⑨欄の金額「1,750,800円」が記入されています。
❿ ⑮欄「この課税期間の課税売上高」を記載する
「この課税期間の課税売上高 ⑮」欄は、次のように計算します。
※すべてこの課税期間の数字
例題では、下記のような計算式で算出しています。
第二事業種 123,456,789円(標準10%分)×100/110=112,233,444円
⓫ ⑯欄「基準期間の課税売上高」を記載する
⑯欄には、基準期間の課税売上高を記入します。
基準期間というのは、通常は、その事業年度の前々事業年度のことを指しています。
基準期間の課税売上高は次のように求めます。
※すべて基準期間の数字を参照して計算
例題では、基準期間(令和3年12月31日課税期間)の課税売上高は、「40,000,000円」ですので、記入しています。
C.地方消費税の税額の計算に関する記載
⓬ ⑱欄「地方消費税の課税標準となる消費税額・差引税額」を記載する
⑱欄には、付表4-3のC列⑪欄の金額を転記します。
例題では、「1,750,800」と記入されています。
⓭ ⑳欄「譲渡割額・納税額」を記載する
⑳欄には、付表4-3のC列⑬欄の金額を転記します。
「⑱欄×22/78」でも算出可能です。
令では、「493,800」と記載されています。
⓮ ㉒欄「納付譲渡割額」を記載する
㉒欄には、「⑳欄-㉑欄」した金額が記入されます。
例題では、㉑欄「中間納付税額」がないため、㉒欄の金額「493,800円」が記入されています。
⓯ ㉖欄「消費税及び地方消費税額の合計(納付又は還付)税額」を記載する
㉖欄には、「⑪欄+㉒欄」の金額を記入します。
㉖欄は、消費税額及び地方消費税額の合計金額です。
記載例では、消費税額(国税分)「1,750,800」と地方消費税(地方分)「493,800」の合計金額の「2,244,600」が記入されています。
D.その他の内容の記載
⓰ 「付記事項」欄を記載する
下記の事項を適用している場合、「有」に〇を付けて、該当しない場合は、「無」に〇を付けてください
- 割賦基準の適用
- 延払基準等の適用
- 工事進行基準の適用
- 現金主義会計の適用
「1.割賦基準の適用」については、平成30年4月1日から廃止されており、経過措置が設けられています。
「2.延払基準等の適用」及び「3.工事進行基準の適用」については、これらの基準を適用することは稀であるため、説明は割愛します。
1〜3について詳しく知りたい方は、次の国税庁HPで説明されているものがありましたので、ご参照ください。
「4.現金主義会計の適用」は個人事業主のみ関係するもので、現金主義による所得計算の特例を受けている場合は、◯を付けます。
今回の例では、すべて「無」欄に〇を付けています。
⓱ 「参考事項」欄を記載する
「参考事項」欄には、3つの記載する欄があります。
- 「課税標準額に対する消費税額の計算の特例の適用」欄
- 「事業区分」欄
- 「特例計算適用(令57③)欄
の3つとなります。それぞれ、確認していきましょう。
まず、「課税標準額に対する消費税額の計算の特例適用」欄は、現在は廃止されていますが、経過措置が設けられている制度です。採用している場合は「有」に〇を、していない場合は「無」に〇を付けてください。
この制度の詳細は、国税庁HPをご確認ください。
次に、「事業区分」欄は、事業区分ごとの金額(千円未満切捨て)及び売上割合を記入します。
例題では、第二種事業の課税売上高「112,233,444円」のみですから、「第2種」の「課税売上高」欄に「112,233」と記載し、「売上割合」欄に「100.0(%)」と記載しています。
「特例計算適用(令57③)」欄は、2事業種以上を営んでいる事業者が適用できる「特例計算」を行っているかどうかの確認の欄となります。
今回の例は1種類の事業を営んでいるため「無」に〇を付けます。
「特例計算」については、応用編で詳しくご説明いたしますので、ここでは、割愛します。
⓲ 「還付を受けようとする金融機関等」欄の記載について
今回の例題は納付申告なので、使用しませんが、「還付申告」の場合は、この欄に還付金の振込を受けたい金融機関の情報を記入することになります。
「還付申告」かどうかを判定するには、㉖欄が「-」か「△」(マイナス表記)となっている場合「還付申告」に該当します。
⓳ 「税理士署名」欄及び「税理士法第30条の書面提出有」欄並びに「税理士法第33条の2の書面提出有」欄について
当申告を作成した税理士がいる場合にのみ、使用する欄です。
当記事での説明は、割愛します。
⓴ 「翌年以降送付不要」欄について
翌年以降、税務署からの申告書用紙の送付を不要とする場合に○印を付してください。
ここで、申告書 第一表は完成です。
転記について
第一表の作成は、冒頭でお話ししましたが、ほとんどが付表4-3、付表5-3及び第二表からの転記です。
国税庁が発行している、「消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方【法人用】」に転記先がよくわかる画像がありましたので、添付します。
第一表への転記が正しくされているかの見直しに使えるかと思います。
STEP6 申告書完成
お疲れ様です。これで、簡易課税制度を適用した場合の消費税の申告書の作成方法【入門編】終了です。
完成した申告書はこちらです。
「第一表」
「第二表」
「付表4-3」
「付表5-3」初葉
「付表5-3」次葉