
インボイス制度がついに令和5年(2023年)10月1日から始まりますね。
インボイスという言葉は、ちょくちょく耳にするんですが、私は売上も少ないしがないフリーランスですから関係ないと思ってます。色々と忙しいんで。
で、大丈夫ですよね?
え!?まさか!?
あなたのような売上が1,000万円いかないような方に一番影響があるんですよ。
このインボイス制度を知らないとたいへんですよ。
やっぱり関係あるのか〜
薄々気付いていたんですよ。少し調べたことがあるんですが、ほとんど何言ってるかわかんなくて後回しにしていましてー
私にお任せください。
あなたのようにインボイスに関して全く知らない方に向けて、これ以上ないくらいやさしくわかりやすく解説しましょう!わかりやすいイラストもどんどん使っていきますから安心してついてきてください。
これを読み終わった頃には、知らない人に解説してあげられるくらいインボイス制度の概要と実務で押さえておくべき点を理解していると思いますよ。
目次
1 インボイス制度の概要
インボイス制度ってそもそもなんの問題なんですか?
税金の問題です。
その中でも消費税の問題です。
インボイス制度は、まず消費税の問題であることを最初に頭に入れておきましょう。
インボイス制度と言われますが、そもそもインボイスって何なんですか?
インボイスというのは、売上げた時に相手方に交付する請求書や領収書、レシートのことを言います。
つまり、この請求書や領収書に関して何か新しいことが始まるということですね?
あんまり大したことでないことを望む…
そういうことです。
最近の改正の中でも最大のものの一つと言えるのではないでしょうか。
ガク…
インボイス制度とは、このような請求書や領収書に関する新しい制度ということになりますが、冒頭でインボイス制度を理解する上で最も重要なポイントを先に2つ押さえておきましょう。
⒈ 消費税が10%なのか8%なのかを正確にインボイスに表示する
⒉ インボイス制度で認められるインボイスを発行するためには消費税を申告・納税する必要がある
一つ目は、食料品を購入すると消費税は8%になるので、その8%と通常の10%の区分を請求書やレシートに正確に記載するということですよね。
そうです。
インボイス制度が適用されるインボイスに表示しなくてはならない項目が決まっているのですが、これまでのものに加えてさらに3つ追加されます。
1-1 インボイス制度が適用されるインボイスに記載しなくてはならない項目とは
インボイス制度で認められるインボイスに記載しなければならない事項は以下の6つです。ただし、売上先が不特定多数の場合は5つです。
インボイスに記載が必要な6つの項目
記載の必要な項目 | |
---|---|
❶ | インボイス発行事業者の名称と登録番号 |
❷ | 取引年月日 |
❸ | 取引内容(軽減税率の対象である旨も) |
❹ | 税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率 |
❺ | 税率ごとに区分した消費税額等 |
❻ | 書類の交付を受ける事業者の名称 ※不特定多数の場合は不要 |
この項目をカフェでレシートを受け取ったとすると、次のように表現されることになります。
これまでのものとほとんど変わりがないように見えますが…
そうなんです。レシートだけ見るとこれまでとほとんど変わりがないのですが、実はものすごいインパクトがあることがこの制度には隠されているんです。
それが、Tから始まる「登録番号」
これがこのインボイス制度の最も大きな問題なのです!
先に挙げたインボイス制度のもう一つのポイント「インボイス制度で認められるインボイスを発行するためには消費税を申告・納税する必要がある」に関係してきます。
1-2 登録番号を取得するためには、消費税の申告・納税する必要がある
もう一つのインボイス制度のポイントである「インボイス制度で認められるインボイスを発行するためには消費税を申告・納税する必要がある」とはどういうことかというと
インボイス制度で認められるインボイスの記載事項である「登録番号」を表示するためには、消費税の申告義務が必要??
この2つ目のポイントがインボイス制度の肝なのです。
絶対に押さえておかなければならないところです!!
しかしながら、インボイス制度で認められるインボイスを発行するには、これまで申告する義務が免除されていた事業者も消費税の申告が必要になります。
私はフリーランスをやっていますが、消費税を申告する必要がありません。
でもインボイス制度の下では、消費税の申告義務が出てくるのですか??
支出が増えるのは嫌だ!
インボイス制度はやりたくない。全員がやらなくてもいいんですよね?
インボイス制度で認められるインボイスを発行しないという選択はできます。
しかしながら、実質的にはインボイスを発行しないことを選択することは難しいケースが多くなると思われます。
インボイス制度が始まるとどのようなことが起きるかをこれから詳しく解説していきますので、それを理解してから判断していくとよいと思います。
その前にここまでのところを整理しておきましょう。
1-3 インボイス制度について知っておくべきことまとめ
ここまでのところで、インボイス制度について知っておくべきことをお伝えしてきました。ここまでのところの解説を1枚にまとめましたので、復習にご利用ください。
インボイス制度が始まるとビジネスの現場では大きな影響があると思われます。
その影響について理解していくことにしましょう。
2 インボイス制度で何が変わるのか
インボイス制度が始まることでこれまでと何が変わるのでしょうか。
まずは、影響のある人ない人から確認しましょう。
影響のない人はこの記事をこれ以上読む必要がありませんから、そのような人は早く知りたいですもんね。
まず、インボイス制度が始まることで影響のある人とない人からざっくり理解しましょう。
まずは影響のある人です。
原則、事業を営んでいる人や経理担当者は多かれ少なかれ影響があります。
どのくらいの影響があるかは、その人がいる状況によって大きく変わってきます。それは後述します。
続いて影響のない人(少ない人)は次のように言えるでしょう。
一般消費者は関係がありません。好きに買い物をしている場面では、一般消費者はインボイス制度について知っておかなければならないことは何もありません。
経理に関係のない一般の勤め人の方も大方は関係がないと思います。仕事内容によっては、取引先との関係で影響が出てくる可能性がありますが、その場合は会社からお達しがあるはずなので、そのとおりにすれば特に自分で調べて対応するということはほぼないだろうと考えられます。
続いて、インボイス制度に関して最も重要なところ、このインボイス制度が開始されると世の中にどのような影響があるのか?という点です。
端的に言うと大きな影響は次の2点です。
- 多くの事業者の税負担が増える可能性がある
- ほとんどすべての事業者の事務負担が増える
インボイス制度が始まることによる影響を端的に表現するとこの2点に集約されます。
多くの事業者に多大な影響があります。これはどういうことか?詳しくみていきましょう。
2-1 インボイス制度によって税負担が増えるからくり
インボイス制度が始まることによりなぜ税負担が増えるのか?
前の章で少し触れましたが、これは消費税によって起こります。
まずは消費税のしくみがどのようになっているかを知る必要があります。簡単に確認しましょう。
消費税のしくみをわかりやすくするためにシンプルな取引を想定して図解します。
1年間の取引が1回きりで、スマホを仕入れて売った場合を例に、どのように消費税が税務署に納められるのかを下の図で確認していきましょう。
次のイラストの左側の❶から順に見ていってください。
あるお店が、❶スマホを33,000円(税込)で仕入れて、❷110,000円(税込)で売り上げた場合は、❸そのお店が「10,000 – 3,000(受け取った消費税 ー 支払った消費税)= 7,000」という計算をして、❹7,000円を税務署に納付します。
税込金額 | 消費税額 | |
---|---|---|
❷スマホの売上 | 110,000 | 10,000 |
❶スマホの仕入 | 33,000 | 3,000 |
❹納める消費税の額 | 7,000 |
消費税が税務署に納まるまで、実はこのような仕組みになっています。
消費税のこの仕組みを前提とした上で、インボイス制度が導入されるとどうなるか?
消費税の負担増
また❶から順に見ていってください。
その場合は、❸33,000の消費税分3,000を、受け取った消費税10,000から差し引くことができないので、❹10,000を税務署に納付することとなります。
インボイスが受け取れていたら10,000 – 3,000 = 7,000でよかったところを10,000 – 0 = 10,000を納付することとなり、3,000損することになりました。
税込金額 | 消費税額 | |
---|---|---|
❷スマホの売上 | 110,000 | 10,000 |
❶スマホの仕入 | 33,000 | インボイスなし |
❹納める消費税の額 | 10,000(3,000増) |
消費税は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた残りを税務署に納付するしくみになっていますが、この支払った消費税はインボイスがないと差し引けない!
これがインボイス制度による新ルールです。
消費税の確定申告で、受け取った消費税から支払った消費税を差し引く計算のことを仕入税額控除といいますが、逆に言うと、インボイス制度をこのように表現することができます。
仕入税額控除をするために必要となる6つの必須記載項目を記載したインボイスのことを、税務用語では「適格請求書」と呼びます。
この記事ではこの適格請求書のことをわかりやすいように「インボイス」と呼んでいます。以下同様です。この記事では、「インボイス」=「適格請求書」です。
このようにインボイス制度が導入されることで生じる大きなポイントはこの点なのです。
では、インボイスを交付できれば相手先で消費税を差し引けるということですよね?
だったら問題ないのではないですか?
そのとおりですが、ここに大きな問題があります。
インボイスを交付するには、絶対に消費税を申告する必要があるのです。
これがどういう意味かわかりますか?
これまで売上が1,000万円以下だったので消費税の申告をしてなかったのに、インボイスを発行するには消費税の確定申告が必要になるんですね。
それはつまり、消費税を納めることになって手取りが減る…
そういうことです。これまで消費税を申告しなくてよかった事業者にとっては、
インボイス発行 = 消費税の確定申告が必要 = 税負担が増える
こういう構図です。
むにゃむにゃむにゃ
ここまでのところを一旦整理します。
- 消費税の確定申告で、支払った消費税を差し引く(仕入税額控除の計算)には、登録番号や適用税率等の必要事項が全て記載されたインボイスを保存しておく必要がある。
- この登録番号や適用税率等の必要事項が全て記載されたインボイスのことを適格請求書と呼びます。(覚える必要なし)
- このインボイス(適格請求書)を発行するためには、消費税の確定申告が必ず必要となる。
インボイスの影響は、実はこれだけではないんです。
これまで消費税の申告をしてこなかった事業者は、消費税の申告書を作成する必要がでてきます。そしてこれまで消費税を申告していた事業者もインボイスをもらえたかどうかを把握する必要があります(簡易課税制度を選択している場合を除く)。ということは何を意味すると思いますか?
そう。
インボイス制度により事務負担が増えることを意味するのです。
2-2 インボイス制度導入による事務負担の増加
インボイス制度の導入で被る大きな影響は、税負担だけではありません。
もう一つの大きな影響、それは事務負担の増大です。
もう、踏んだり蹴ったりだー
ぐにゃぐにゃぐにゃ
また、インボイスを交付するためには、税務署に予め登録手続きをする必要があります。
インボイス制度が開始する令和5年(2023年)10月1日からインボイスを交付できるようにするには、原則令和5年(2023年)9月30日までに税務署に登録申請書を提出する必要があります。(詳しくは後述します。)
インボイスを交付するためには税務署に申請をするのですが、インボイスを交付しないという選択肢も制度的には残されています。このような踏んだり蹴ったりなインボイスを発行するなんてしたくないと普通なら考えると思います。
それでは次にインボイスを発行しなかったらどうなるかという点を見ていきたいと思います。インボイスを発行しないという道は残されているのか?
3 インボイスを発行しないとどうなるのか?
あなたが事業者の場合で、インボイスを発行しないとどうなるのでしょうか?
え!?
仕事がなくなるかも!?
インボイスを発行しないとその事業者の状況にもよりますが、このようなことが多くの場合想定されます。
これはどういうことかというと、次のような構図が考えうるからです。
あなたがインボイスを発行しないということは、取引先はあなたへ支払った消費税を確定申告で差し引くことができないので、あなたへ支払った消費税分損をする
得意先は同じ仕事をするならインボイスを発行できる事業者に発注した方が得
得意先があなた以外の事業者へ発注する
イラストで確認してみましょう。
上がインボイス制度前の図で、下がインボイス制度後です。
このように売上先の立場に立つと、インボイスを発行していない事業者に仕事を発注すると、発注額の10%相当額を損するということになれば、インボイスを発行する事業者に仕事を発注しようと考えるのが通常ではないでしょうか。
インボイスを発行しないデメリットはかなり大きいですね…
ちなみにインボイスを発行しなくてもデメリットがないということはないんでしょうか?
すごく稀なケースですが、これまで消費税を申告していなかった事業者がインボイスを発行しなくても不利益がないケースが本当に稀ですがあります。
❶ 売上先がすべて一般消費者
❷ 売上先が消費税を申告していない
❸ 売上先が簡易課税制度を選択して消費税を申告している
❹ 売上先が売上税額の2割を納税額として消費税の申告をしている(詳しくは後述)
❶売上先がすべて一般消費者の場合は、一般消費者は消費税を申告しませんので、通常はインボイスを要求してきません。
ただし、売上先が一般消費者と思われても会社で経費とするために領収書を要求されたことがある場合は、インボイスの発行を検討した方がよいでしょう。
❷売上先が消費税を申告していない場合は、売上先がインボイスがないと消費税を差し引けないということがありませんので、インボイスを発行しなければならない理由がありません。
❸売上先が簡易課税制度を選択している場合も、簡易課税は受け取った消費税から消費税の納税額を計算するので、支払った消費税を把握する必要がありません。したがって、売上先は、支払い先からインボイスを受け取らなくても問題がないのです。
❹インボイス制度の支援措置として新たに売上税額の2割を納税すればよいという制度が設けられます。(後述)これも❸同様受け取った消費税だけ把握していればいいので、支払い先からインボイスを受け取らなくても問題がありません。
以上の4つのケースに該当する場合は、インボイスを発行しなくても問題がありません。
❷から❹については、売上先に確認しないとわからないことなので、インボイス制度が始まるまでに売上先にインボイスが必要かを確認することが、インボイスを発行するべきか否かを判断する上でとても大事になってきます。
ここまでのところで、インボイスを発行しない場合のデメリットのインパクトは大きそうだということがわかっていただけたと思います。続いては、インボイスを発行するとなった場合にどのようなことが想定されるかを確認していきましょう。
4 インボイスを発行するとどうなるか?
インボイスを発行しないと、自分の仕事に差し支えが出る可能性があるということを述べてきました。では、インボイスを発行するということになったときに実務ではどのような影響があるのでしょうか。そのメリットデメリットという切り口で確認していきたいと思います。
4-1 インボイスを発行するメリット
まずは、インボイスを発行した場合のメリットは、インボイスを発行しなかったデメリットと表裏一体ですので、次のように言えます。
取引の際、インボイスを発行できないからという理由で不利益を被ることがない。
これまでと変わりなく取引ができる。
インボイスを発行すれば、相手先は消費税の計算で損することはありませんので、これまでと変わりなく事業を営むことができます。プラスはありませんが、マイナスにはならないというのがインボイスを発行することの最大のメリットと言えます。
それでは次にインボイスを発行するとなったときにインボイス制度下で被るデメリットの方を見ていきましょう。
次の3つのケースに分けてその影響(デメリット)を考えていきます。
- 消費税を納める必要がなかった事業者(免税事業者)のケース
- 簡易課税制度で消費税の申告をしていた事業者(課税事業者)のケース
- 原則課税で消費税の申告をしていた事業者(課税事業者) のケース
まず消費税を納める必要がなかった事業者(免税事業者)が受けるデメリットから見ていくことにしましょう。
4-2 消費税を納める必要がなかった事業者(免税事業者)が受けるインボイス制度のデメリット
消費税を納める必要がなかった事業者(免税事業者)が受けるデメリットは大きく次の2つです。
【デメリット❶】消費税を納税する必要が出てくるので手取りが減る
【デメリット❷】消費税の確定申告などインボイス制度に必要な手続きをする必要があり、事務負担が激増する
インボイスを発行すれば、取引先はこれまでと変わりなく確定申告で消費税を差し引くことができ、取引先にマイナスが生じないので、あなたは取引をこれまでどおり続けることができるというメリットがあります。
しかしながら他方でインボイスを発行する場合は、デメリット1つ目として、必ず消費税を申告する必要がありますので、通常は消費税を納税することになり、その分出費が増えます。つまり手取りが減ります。
デメリット2つ目として、消費税を申告する必要があったり、インボイスには記載していなくてはいけない項目が決まっていますので、その所定の様式を用意したり、消費税を申告するための帳簿付け等のこれまでしてこなかった事務を強いられることになります。
次のイラストでここのところを確認しましょう。
(上段がインボイス発行前で、下段がインボイス発行後を表しています。)
消費税を納める必要のなかった免税事業者は、消費税の申告もなかったので、その分の事務負担も消費税の納税もありませんでした。しかしながら、インボイスを発行するとなると、消費税の申告事務が増え、さらに消費税の納税することで出費も増えることになります。
これまで消費税の申告なんてやってきていないのにいきなり申告を迫られるのか…
消費税の申告ってどうやったらいいのでしょう。
消費税の申告の方法はいくつかありますので、ここで確認しておきましょう。
免税事業者がインボイス発行業者となり、消費税を申告する場合の申告方法はどうしたらいい?
消費税を申告する必要のなかった事業者(免税事業者)が、インボイス発行事業者となり、消費税を申告する場合にどのような申告方法をとるべきかをここで解説しておきましょう。
これらの事業者が取れる方法は、次の3つです。
免税事業者がインボイス発行業者となり消費税を申告する場合に取れる3つの方法
- 売上税額の2割を納税額とする方法
- 簡易課税を選択する方法
- 原則課税で申告する方法
結論としては余程のことがなければ、「売上税額の2割を納税額とする方法」を取るべきと考えられます。
その理由は、それぞれのメリットとデメリットを確認することで判断できます。
売上税額の2割を納税額とする方法
事務負担が最も少なく計算も最も簡単である方法は「売上税額の2割を納税額とする方法」です。
この方法は、インボイス制度が開始することになり、免税事業者であった事業者への支援策として導入(される予定※執筆現在具体的申告方法は示されていない)された方法です。
例えば売上の時に受け取った消費税が30万円のケースでは、次のように簡単に消費税の計算ができます。
30万円 × 20% = 6万円
この方法のメリットデメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
---|---|
事務負担が軽減される
| 売り上げた時の消費税よりも支払った消費税の方が多い時に還付を受けられない。(損をする) →売上の時に受け取った消費税が30万円で、支払いの時に支払った消費税が40万円の場合、原則課税の場合は、30万円 – 40万円 = -10万円 10万円還付となるはずが30万円 × 20% = 6万円の納付となる |
ただし、この制度は、次の点に注意が必要です。
- 対象が免税事業者からインボイス発行事業者になった者(2年前(基準期間)の課税売上が1000万円以下等の要件を満たす)
- 対象となる期間が令和5年10月1日から令和8年9月30日を含む課税期間まで(個人事業主は令和8年分の申告まで)という時限的措置であること
簡易課税を選択する方法
消費税の確定申告の方法は上記の他に簡易課税と原則課税の2パターンがあります。
簡易課税はその名のとおり原則課税よりも簡単な方法で申告書を作成できます。
簡易課税の特徴を簡単に説明します。
簡易課税制度の特徴
- 2年前の売上が5,000万円以下の事業者が選択可能
- 簡易課税を選択するためには、原則申告対象期間の前日までに届出書を税務署に提出する必要がある
- 売上の事業内容によって仕入税額控除の控除率を決定し、売り上げた時の消費税にその控除率をかけて仕入税額控除の金額を計算する。
簡易課税制度は次の仕入税額控除を計算するための控除率(みなし仕入率)を売り上げた事業内容によって決めます。
事業区分 | みなし仕入率 | 売上の事業内容 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | 卸売業 |
第二種事業 | 80% | 小売業 |
第三種事業 | 70% | 農業・林業・漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業等 |
第四種事業 | 60% | 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業および第六種事業以外の事業。例えば飲食店業など。 |
第五種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業を除く)など |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
消費税額の計算はおおまかに次のように行われます。
例えば製造業を営んでいる場合は、第三種事業に該当し、みなし仕入率が70%となります。売上の時の消費税が100万円であった場合は次のように計算します。
【仕入税額控除の計算】100万円 × 70% = 70万円
【納税額の計算】100万円 – 70万円 = 30万円
この方法のメリットデメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
---|---|
事務負担が軽減される
|
|
簡易課税制度について詳しく知りたい場合は、次の記事をご覧ください。
原則課税で申告する方法
この方法は、売り上げた時の消費税と支払った時の消費税を把握して、その差引により消費税の納税額を計算する方法です。
例えば売り上げた時の消費税が100万円で支払った時の消費税が50万円の場合は、次のように計算します。
100万円 ー 50万円 = 50万円(消費税の納税額)
この方法は、最も確定申告が難しい方法で、帳簿付けも正確にする必要があり、事務負担は他の方法の比にならないほど大きいです。
メリット | デメリット |
---|---|
他の2つの方法よりも納税額が少なくなるケースがある(まれ) |
|
免税事業者がインボイス発行業者となることで、消費税の申告をするとなった時にとれる3つの方法について解説してきました。
税務についてある程度の知識があるということでなければ、基本的には「売上税額の2割を納税額とする方法」を取るのが得策といえると思います。
「売上税額の2割を納税額とする方法」で計算するよりも実際の納税額が少なくなるというのは、輸出や卸売業を除けばそうないはずです。
そして事務負担や申告書の作成を考えれば圧倒的に容易な「売上税額の2割を納税額とする方法」を取るのが合理的です。
ただしこの制度は令和8年9月30日を含む年度までという時限的なものなので、その後は簡易課税か一般課税で申告する必要がある点を注意しておきましょう。
それでは次に、元々消費税の申告はしていて、簡易課税を選択して消費税の申告をしていた事業者がインボイス制度により受けるデメリットを見ていきましょう。
4-2 簡易課税制度で消費税の申告をしていた事業者が受けるインボイス制度のデメリット
実は、簡易課税制度で消費税を申告している事業者が最も影響が少ないのです。
インボイスを発行するための税務署への申請やインボイスの様式を用意する等の事務負担が増える
簡易課税の場合は、支払い先がインボイスを発行しているかどうかを把握する必要がないため、消費税の申告という面で事務負担が増えることはありません。純粋にインボイスを発行するための事務負担のみが増えるだけなので、事務負担の増加は比較的多くありません。
次に、元々消費税の申告はしていて、簡易課税ではなく原則課税で消費税の申告をしていた事業者がインボイス制度により受けるデメリットを見ていきましょう。
4-3 原則課税で消費税の申告をしていた事業者が受けるインボイス制度のデメリット
元々消費税を申告していて簡易課税制度を選択していない事業者が被るインボイス制度のデメリットは?
- インボイスを発行するための税務署への申請やインボイスの様式を用意する等の事務負担が増える
- 支払いの都度仕入税額控除の判断のため、インボイスかどうかをいちいち確認しなくてはならない
- インボイス発行業者かどうかで帳簿の消費税の税区分を変える必要がある
- インボイスを発行できない人に発注すると消費税分損をする 税負担増の可能性
原則課税で消費税を申告していた事業者がインボイス制度により被る事務負担の増加は相当なものだと言えます。
多くの税理士がインボイス制度に反対しているのも納得です。
デメリットの件は、もう気持ちが萎えてきますねぇ
とんでもない制度が始まるといった印象を禁じ得ないです…
ここまでが、インボイス制度とはどのようなものか?インボイス制度が始まると実務ではどのような影響が事業者に生じるのかをわかりやすく解説してきました。
ここからは実務で気を付ける必要のあるインボイス制度の手続きに関する部分に焦点を移していきます。
インボイスを発行しないとこれまでの取引に影響がありそうなので、もう年貢を納める気持ちでインボイスを発行することにします。
何から始めたらいいのでしょうか。
インボイスを発行するためには、その記載事項である登録番号の取得が必須になりますので、まずは登録番号の取得から始めていきましょう。
5 インボイスの登録番号の取得方法とは
消費税の確定申告で支払った消費税を差し引くためには、インボイス(適格請求書)が必要です。
そのインボイスには、登録番号を記載しなくてはなりません。
その登録番号は、税務署へ登録申請をすることで、取得することができます。
ここからは、税務署への申請の方法を具体的に解説していきます。
ここでは、e-Taxソフト(Web版)で申請する方法を紹介します。
紙で税務署の窓口または郵送で提出するという場合は、次のリンク先の国税庁のHPから様式(適格請求書発行事業者の登録申請書)をダウンロードできます。
このページには、様式の他、記載例や記載にあたっての注意事項等が充実していますので、「適格請求書発行事業者の登録申請書」の作成にあたって参考になると思います。
それでは、「適格請求書発行事業者の登録申請書」をe-Taxソフト(Web版)で作成する方法を解説していきます。
まず、e-Taxソフト(Web版)のページにアクセスし、ログインします。
⑴ メインメニュー画面で、「申告・申請・納税」をクリックします。
⑵ 「申告・申請・納税」画面で「新規作成」の「操作に進む」をクリックします。
⑶ 「作成手続きの選択」で「適格請求書発行事業者の登録申請(国内事業者用)(令和3年10月1日〜令和5年9月30日)」をクリックします。
⑷ 留意事項を確認し、「OK」をクリックします。
⑸ 「提出先税務署の選択」で税務署を選択し、「次へ」をクリックします。
⑹ 「帳票入力」で「作成」をクリックします。
⑺ 「申請者情報の入力」画面で「名称(フリガナ)」と「名称」を入力し、「次へ」をクリックします。
⑻ 「申請者情報の入力」で「代表者氏名(フリガナ)」と「代表者氏名」を入力し、「次へ」をクリックします。
⑼「申請書の作成」で納税地情報と電話番号等を入力し、「次へ」をクリックします。
(10) 「申請者情報の入力」で「法人番号」を入力し、「次へ」をクリックします。
(11) 「申請内容の入力」で課税事業者に該当するかに答え、「次へ」をクリックします。
課税事業者とは、2年前の消費税のかかる売上が1,000万円を超える等の一定の条件を満たすことで消費税の納税義務がある事業者を指します。
「はい」と回答した場合は、(15)まで飛びます。
「いいえ」と回答すると次に移ります。
(12) 「申請内容の入力」で確認内容を読み、よければ「確認欄」にチェックをして「次へ」をクリックします。
(13) 「申請内容の入力」で令和5年10月1日から登録を受けるかどうかに回答し、「次へ」をクリックします。
(14) 設立年月日や事業年度等を回答し、「次へ」をクリックします。
(15) 納税管理人に関する事項に回答し、「次へ」をクリックします。
(16) 消費税法に違反していないかに回答し、「次へ」をクリックします。
(17) 「その他事項の入力」で、特記事項があれば入力し、「次へ」をクリックします。
(18) 登録通知書を電子データを受け取るかどうかに回答し、「次へ」をクリックします。
(20) 「作成完了」で「作成完了」をクリックします。
(21) 「帳票入力」で「次へ」をクリックします。
(22) 「入力内容の確認」で「選択」欄にチェックを入れて「帳票表示」ボタンを押すと入力内容を確認できます。
帳票出力すると次のような登録申請書が表示されます。
適格請求書発行事業者の登録申請書の記載例
その内容で問題なければ「次へ」をクリックします。
(23) 「電子署名の付与」をクリックします。
(24) 媒体を選択し、「次へ」をクリックします。
(25) 認証局サービスを選択し、「次へ」をクリックします。
(26) 「電子署名の付与」で、マイナンバーカードの読み取り方法を選択し、それぞれの選択した読み取り方法で電子署名の付与を行います。
(27) 電子署名の付与完了を確認し、「閉じる」をクリックします。
(28) 「送信」をクリックします。
これで登録申請が税務署へ電子送信され、申請が完了です。
後は税務署からの通知を待ちます。
登録番号が通知されたら、自社が交付するインボイス(請求書や領収書等)に登録番号を表示します。令和5年10月1日までに表示するようにしましょう。
この申請によりインボイスを発行できる事業者として税務署から認められたことになります。
登録番号を取得し、インボイスを発行する事業者には一定の義務が課されます。
続いては、インボイスを発行するということになった時にどのようなことをしなくてはならないかを確認していきましょう。
6 インボイス(適格請求書)発行事業者の義務とは
適格請求書発行事業者の登録申請書を税務署に提出し、登録番号を取得し、インボイスを発行する事業者は、一定の義務が課されます。
その内容を確認していきましょう。
その義務は原則次の4つです。
インボイス(適格請求書)発行事業者の4つの義務
- インボイスの交付
取引の相手方の求めに応じてインボイスを交付する - 交付したインボイスの写しの保存
交付したインボイスの写しを保存する - 返還のインボイスの交付
返品や値引きなど売上対価の返還を行う場合に、返還のインボイスを交付する - 修正したインボイスの交付
交付したインボイスに誤りがあった場合に、修正したインボイスを交付する
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
6-1 インボイス(適格請求書)の交付義務
インボイス発行事業者は、売上先の相手からインボイスの交付を求められたらインボイスを交付しなければなりません。
インボイスには記載していなければならない項目が決まっていました。ここでもう一度確認しておきましょう。
6-1-1 インボイス(適格請求書)の記載項目
原則以下の6つの項目を記載したインボイスを交付しなければなりません。
6つ目の「書類の交付を受ける事業者の名称」については、売上の相手先が不特定多数の場合は不要です。
インボイスの表示について注意すべき事項がありますので確認していきましょう。
6-1-2 インボイス(適格請求書)の記載にあたっての注意事項
注意事項1 端数処理は税率ごとに1度だけ
記載項目の一つ「❺税率ごとに区分した消費税額等」について、一円未満の端数が生じるときは、一つのインボイスにつき、税率ごとに1回の端数処理を行います。
どういうことかというと、例を用いて説明します。まずは誤った例です。
【誤った例】
品名 | 税抜金額 | 消費税額 |
---|---|---|
品名A 軽8% | 1,486 | 118 |
品名B 軽8% | 1,295 | 103 |
8%対象合計 | 2.781 | 221 |
品名C 10% | 555 | 55 |
品名D 10% | 888 | 88 |
10%対象合計 | 2.781 | 143 |
品名Aの税抜金額に対して消費税を計算して端数処理をし、品名Bの税抜金額に対して消費税を計算して端数処理をするといった同じ税率の取引に対し複数回端数処理することはできません。
【正しい例】
品名 | 税抜金額 | 消費税額 |
---|---|---|
品名A 軽8% | 1,486 | – |
品名B 軽8% | 1,295 | – |
8%対象合計 | 2.781 | 222 |
品名C 10% | 555 | – |
品名D 10% | 888 | – |
10%対象合計 | 1,443 | 144 |
軽減税率8%適用の品名Aと品名Bとを合計してからその合計した金額に対して消費税を計算して、一回だけ端数処理をするのが正しい。10%の取引も同様で、10%の取引を合計してから消費税を計算し、端数処理します。
取引1つずつを端数処理したものの消費税の合計金額(8%:221円/10%:143円)と税率ごとに取引をまとめた後消費税の端数処理を1度した消費税の金額(8%:222円/10%:144円)は異なるんですね。
その都度端数処理されると消費税額が少なくなるからやめてね、ということですかね。
注意事項2 インボイス交付義務が免除される取引がある
インボイスを交付しなくてよい取引がありますので、次の取引でインボイスが交付されなくても怒ってはいけません。
インボイス交付義務が免除される取引
- 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
- 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
- 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る。)
- 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限りまる。)
- 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る。)
これらの取引はインボイスを交付する必要がありません。
続いてインボイス発行業者に課される2つ目の義務です。
6-2 交付したインボイスの写しの保存義務
インボイスを交付した場合には、その交付した写しを保存する義務があります。
その保存期間は次のとおりです。
6-2-1 インボイスの写しの保存期間
例えば課税期間が2023.1.1 〜 2023.12.31の場合で、2023.10.1にインボイスを交付したとしましょう。
課税期間の末日の翌日 | 2ヶ月を経過した日 | 7年間 |
---|---|---|
2024.1.1 | 2024.3.1 | 2031.2.28 |
この例では、2023年10月1日に交付したインボイスの控えは、2031年2月28日まで保存する必要があります。
6-2-2 インボイスの写しの保存に関する注意事項
その他のインボイスの写しを保存するにあたって注意が必要な点を確認しましょう。
交付した側の交付したインボイスの写しの保存についての注意事項です。
注意事項1 写しの保存は交付したインボイスそのものでなくてもOK
交付したインボイスの写しとは、交付したインボイスと同じものでなくてもよく、インボイスの記載事項が確認できる程度の記載がされているもので問題ありません。
したがってレジのジャーナルや明細表等のインボイスの様式とは異なものであっても、インボイスの記載事項が確認できればOKです。
注意事項2 電子データとしてインボイスを交付している場合の控えの保存
請求書や領収書をデータで交付している場合、例えば、請求書や領収書等のPDFファイルをメールで送信する場合や、インターネット上の請求書共有サービスで請求書データを共有する場合、サイトから領収書をダウンロードさせる場合、このようなケースでは次の2つの方法のいずれかでそのインボイスの写しを保存することとなります。
- 電子データを紙に出力して保存する
- 電子データのまま保存する
電子インボイスで数が多くなる場合は、都度紙に出力するのが面倒ですので、その場合は電子データのままで保存したいですよね?
ただしその場合は、注意が必要です。
電子帳簿保存法の電子データの保存要件に準じた形で保存しなければならないのです!!
① 次のイからニのいずれかの措置を行うこと
イ 適格請求書に係る電磁的記録を提供する前にタイムスタンプを付し、その電磁的記録を提供すること(電帳規4①一)
ロ 次に掲げる方法のいずれかにより、タイムスタンプを付すとともに、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと(電帳規4①二)
・ 適格請求書に係る電磁的記録の提供後、速やかにタイムスタンプを付すこと
・ 適格請求書に係る電磁的記録の提供からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合において、その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、 速やかにタイムスタンプを付すこと
ハ 適格請求書に係る電磁的記録の記録事項について、次のいずれかの要件を満たす電子計 算機処理システムを使用して適格請求書に係る電磁的記録の提供及びその電磁的記録を保 存すること(電帳規4①三)
・ 訂正又は削除を行った場合には、その事実及び内容を確認することができること
・ 訂正又は削除することができないこと ニ 適格請求書に係る電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止 に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に 併せて当該規程の備付けを行うこと(電帳規4①四)② 適格請求書に係る電磁的記録の保存等に併せて、システム概要書の備付けを行うこと(電帳規2②一、4①)
③ 適格請求書に係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれら の操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと(電帳規2②二、4①)
④ 適格請求書に係る電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと(電帳規2⑥六、4①)
※ 国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときはⅱ及びⅲの要件が不要となり、その判定期間に係る基準期間における売上高が1,000 万円以下の事業者が国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは検索機能の全てが不要となります。
ⅰ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索条件として設定できること
ⅱ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
ⅲ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること(出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A 」(平成30年6月(令和4年11月改定))
うわぁ
電子データのままの保存はめちゃくちゃ面倒ですね
電子データのまま保存する場合にはその要件が厳格になっていますので、特に注意が必要です。
詳しくは国税庁の「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A 」の問71〜73を参照してください。
また、インボイスの写しを電子データのままで保存するためには、電子帳簿保存法の電子データ保存に準じて保存することとなっています。
なお、交付を受けた電子インボイスを電子データのままで保存する場合も同様の措置が必要になります。
電子帳簿保存法の電子データの保存要件については、次の記事で詳しく解説しています。
6-3 返還のインボイスの交付義務
例えば、売上の返品、値引き、割引、割戻しや販売奨励金(リベート)などといった売上対価の返還等を1万円以上行った時にはその返還の明細を次の記載事項を表示して交付しなければなりません。
返還インボイスの記載事項
- ①インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- ②対価の返還等を行う年月日
- ③対価の返還等の基となった取引を行った年月日
- ④対価の返還等の取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- ⑤税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額(税抜き又は税込み)
- ⑥対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率
(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要」(令和4年7月))
1万円未満の少額な売上対価の返還は返還のインボイスを交付する必要はありません。
6-4 修正したインボイスの交付義務
交付したインボイスに誤りがあった場合には、修正したインボイスを交付する義務があります。
修正したインボイスの交付方法は、次の2パターンのいずれかで行います。
- 修正点を含めた全てのインボイス記載項目を表示した書類を改めて交付する
- 当初交付したインボイスとの関連性を明らかにした上で、修正した箇所のみを明示した書類を交付する
(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要」(令和4年7月))
ここまでが、インボイスを発行するとなった時にその事業者に課される義務についての解説でした。
続いてインボイス制度下で仕入税額控除の計算をする上で注意が必要な点を確認していきましょう。
7 インボイス制度での仕入税額控除の計算をする際の注意点
すでに解説しているところですが、とても重要なところですのでここでもインボイス制度下の仕入税額控除について再度確認していきましょう。
消費税の納税額の計算は、「売上げた時に受け取った消費税額 ー 支払いの時に支払った消費税額 = 消費税の納税額」という形で行います。
この「ー 支払いの時に支払った消費税額」この部分を仕入税額控除と呼びます。
7-1 仕入税額控除の計算にはインボイスの保存が必須
インボイス制度の下では、消費税の確定申告で納税額を計算する時に、「支払いの時に支払った消費税」を差し引くという仕入税額控除の計算をするためには、原則インボイスを受け取って保存しなければなりません。
逆に言えばインボイスがなければその支払った消費税の額を確定申告で差引く計算ができないので、インボイスをもらえなかった消費税分消費税の納税額が増えます。
支払った時にインボイスがもらえなかったり、保存できていないとその支払った金額の消費税分が税務署に納める消費税の金額としてどんどん多くなっていくということです。
110,000円の支払いをして、インボイスがもらえなかったら、10,000円消費税の納税額が増える。つまり10,000円損をすることになります。
次にインボイス制度の下で仕入税額控除計算をする上で実務で注意すべき点をピックアップします。
7-2 インボイス制度での仕入税額控除の計算のその他の注意点
仕入税額控除をするには、インボイスの保存が原則必須なのですが、インボイスがない場合でも制度開始後6年間は、一定割合を控除できる経過措置が設けられています。
7-2-1 制度開始後6年間は、インボイスなしでも一定割合仕入税額控除可能
インボイスを発行できない者に支払った消費税は時限的に次の割合で控除可能です。
令和5年10月1日〜 | 令和8年10月1日〜 | 令和11年10月1日〜 |
---|---|---|
80%控除可能 | 50%控除可能 | 控除不可 |
例えばインボイスを発行できない事業者に110,000円(税込)の支払いをしたとした場合、仕入税額控除できる金額は次のとおりです。
取引日 | 仕入税額控除できる金額 |
---|---|
令和5年10月1日〜令和8年9月30日の間の取引 | 消費税額10,000 × 80% = 8,000 |
令和8年10月1日〜令和11年9月30日の間の取引 | 消費税額10,000 × 50% = 5,000 |
令和11年10月1日以降の取引 | 消費税額10,000 × 0% = 0 |
仕入税額控除をするには、原則インボイスの保存が必要になりますが、上記以外にインボイスの保存がなくても仕入税額控除ができるケースが限定的にあります。
7-2-2 インボイスなしでも仕入税額控除が認められるケース
【ケース1】簡易課税を選択しているケース
消費税の確定申告で、簡易課税を選択している場合は、売上の方から納付する消費税額の計算をすることから、インボイスの保存なしで仕入税額控除の計算ができます。
仕入税額控除という観点からは、簡易課税を選択している事業者は、インボイス制度が始まってもまったく事務負担が増えません。
簡易課税は大ざっぱにいうと2年前の売上が5,000万円以下の場合に選択ができますが、簡易課税を選択できる事業者で、一般課税で計算した方が税負担が少なくなる事業者を除けば選択しない手はないでしょう。
【ケース2】インボイスを受け取ることが困難なケース
次のケースでは、インボイスの保存がなくても仕入税額控除の計算をすることができます。
⒈ 適格請求書の交付義務が免除される次の取引
・3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
・3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
・郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る。)
⒉ 不特定多数に交付するインボイスのうち、入場券等で、使用の際に回収される取引
⒊ 古物営業、質屋又は宅地建物取引業を営む事業者がインボイス発行事業者でない者から、古物、質物又は建物を自身の棚卸資産として取得する取引
⒋ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当等で消費税の差し引ける取引
【ケース3 】1万円未満の少額取引(時限的)
時限的になりますが、1万円未満の取引に関して、次の条件を満たす場合は、インボイスの保存がなくても仕入税額控除の計算ができます。
- 2年前(基準期間)の課税売上が1億円以下または、1年前の上半期の課税売上が5,000万円以下の事業者
- 令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間
1万円未満かどうかは、税込金額で判断します。
さて、続いては実際にインボイスを交付してもらおうとした時に、あれ?このケースはインボイスをどうもらったらいいんだろう?ということが出てくると思います。そのようなケースをピックアップしてみたいと思います。
8 こういうときのインボイスってどうするの?
8-1 口座振替で支払う家賃
家賃を口座振替えで支払っている場合には、請求書や領収書のやりとりがないケースがほとんどかと思います。このような場合は、どのようにインボイスの交付を受けたらいいのでしょう?
インボイスの6つの記載事項は、一つの書類で全てが記載されている必要はありません。
複数の書類でこの記載事項が確認できればOKとなっています。
したがって契約書に6つの記載項目のうち次の5つを記載する。
- インボイス発行事業者の名称と登録番号
- 取引内容
- 税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の名称
銀行の取引明細で6つ目の「取引年月日」を保存することで仕入税額控除の要件を満たします。
また、国税庁のQ&Aでは令和5年9月30日以前からの契約について言及があります。
令和5年9月30日以前からの契約について、契約書に登録番号等の適格請求書として必要な事項の記載が不足している場合には、別途、登録番号等の記載が不足していた事項の通知を受け、契約書とともに保存していれば差し支えありません。
(出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A 」(平成30年6月(令和4年11月改定))問85
8-2 銀行のATMの手数料やネットバンキングによる手数料のインボイスはどうなるの?
8-2-1 銀行のATM手数料について
銀行のATM手数料については、前述の「7-2-1インボイスなしでも仕入税額控除が認められるケース」の【ケース2】の「3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等」に該当し、インボイスの保存は必要なく、帳簿に必要事項の記載があれば仕入税額控除が可能です。
8-2-2 インターネットバンキングの振込手数料について
インターネットバンキングの振込手数料に関してはインボイスの保存が必要になります。
銀行側から登録番号等のインボイスの記載項目が表示されたインボイスが交付され、それを保存する形となります。
なお、振込手数料を売り手負担で差し引かれて入金となった時に売り手は、返還のインボイスを発行する必要はありません。
これは「6-3 返還のインボイスの交付義務」で解説した1万円未満の少額な対価の返還にはインボイスが不要となっているからです。
9 インボイス制度のまとめ
これまで、インボイス制度の概要と、インボイス制度が始めるとどのような影響があるのかをまず最初におさえ、自社がインボイスを発行するべきかどうかを判断できる材料を示しました。
そしてインボイスを発行するとなった時に実務ではどのようなことをすべきかをわかりやすく解説してきました。
その内容をまとめます。
インボイス制度の概要
消費税の確定申告で受け取った消費税から支払った消費税を差し引く(仕入税額控除)には、インボイス(適格請求書)の保存が必要
そのインボイス(適格請求書)には次の6つの記載事項を表示する必要がある
- インボイス発行事業者の名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の名称
インボイス(適格請求書)の発行には税務署へ事前の登録申請が必要
(2023年10月1日登録のためには9月30日までの申請が必須)
税務署へ事前の登録申請をするともれなく消費税の納税義務が発生する
インボイスを発行しないと次のようなデメリットがありました。
インボイスを発行しないデメリット
仕事が取れないもしくは取引の停止または値下げの要求を受ける可能性がある
インボイスを発行するとなった時のデメリットを3パターンに分けて確認しました。
インボイスを発行するとなった時のデメリット3パターン
免税事業者であった事業者が受けるインボイス制度のデメリット
- 【デメリット❶】消費税を納税する必要が出てくるので手取りが減る
- 【デメリット❷】消費税の確定申告などインボイス制度に必要な手続きをする必要があり、事務負担が激増する
簡易課税を選択している事業者がインボイス制度で受けるデメリット
- インボイスを発行するための税務署への申請やインボイスの様式を用意する等の事務負担が増える
原則課税で申告している事業者がインボイス制度で受けるデメリット
- インボイスを発行するための税務署への申請やインボイスの様式を用意する等の事務負担が増える
- 支払いの都度仕入税額控除の判断のため、インボイスかどうかをいちいち確認しなくてはならない
- インボイス発行業者かどうかで帳簿の消費税の税区分を変える必要がある
- インボイスを発行できない人に発注すると消費税分損をする 税負担増の可能性
インボイスへの記載必須事項である「登録番号」を取得するための税務署への登録申請の方法を確認しました。
インボイス発行業者となった場合の4つの義務について確認しました。
インボイス(適格請求書)発行事業者の4つの義務
- インボイスの交付
取引の相手方の求めに応じてインボイスを交付する - 交付したインボイスの写しの保存
交付したインボイスの写しを保存する - 返還のインボイスの交付
返品や値引きなど売上対価の返還を行う場合に、返還のインボイスを交付する - 修正したインボイスの交付
交付したインボイスに誤りがあった場合に、修正したインボイスを交付する
インボイス制度開始による消費税の確定申告で仕入税額控除の計算をする際の注意点を確認しました。
消費税の確定申告で、仕入税額控除をするためには、原則インボイス(登録番号等の6つ(または5つ)記載事項が記載事項の記載のある適格請求書)の保存が必須です!!
ただし、次のようなケースはインボイスの保存が不要でした。
- 簡易課税を選択しているケース
- インボイスを受け取ることが困難なケース
- 1万円未満の少額取引(時限的)
実務で起こりうる次のようなケースのインボイスの問題について確認しました。
- 口座振替で支払う家賃
- 銀行のATM手数料やネットバンキングの手数料
この記事によってインボイス制度が始まると自身にどのような影響があるかをしっかりと理解できたと思います。そして実際にインボイス発行業者となったときにどのようなことが必要かも理解できたと思います。
インボイス制度の開始により、税負担の増加や事務負担の増大という問題が起きます。その中で今回の記事が最善の策を取れるよう判断できる材料となってくれると幸いです。
今回の記事では、インボイス制度についてまったく知らない方向けにとにかくわかりやすく制度の概要と自身への影響を理解できることに重きを置いて解説してきましたので、インボイス制度の概要について理解すると、今度は自社の環境特有の新たな疑問が生じると思います。その際は、国税庁の特設ページを活用するなどで、知識を深めていっていただければと思います。
コメント