知識0から事前確定届出給与を出せるようになる!記載例と議事録付き

会社員 一人社長

最近、仕事も順調だから、自分へのご褒美で決算月に役員賞与を出そうかな?

ちょっと待ったー!!
法人の場合は、役員に賞与を自由に支給できないんですよ!!

役員に賞与を支給する場合は、いついつにいくらを誰に支給するというのを予め税務署に届け出ておく必要があるんです!!

弁護士 元国税調査官
悩む会社員 一人社長

え!?そうなんですか!?
そ、そんなぁ…

そのルールを無視して賞与を支給したらどうなるんですか?

その役員賞与の金額が、法人税の税金の計算上丸々損金(法人税法上の経費)に算入できずに、その分所得金額が上がり、その所得金額×法人税率分の税金が上乗せになります。

弁護士 元国税調査官
悩む会社員 一人社長

ちーん
なんてことだ!

そのルールを是非教えてください!
知らないとたいへんだ!

役員賞与は事前に税務署に届出が必要という法人税の独自ルールーを「事前確定届出給与」といいます。
法人を設立した場合には、真っ先に知っておかなければならないルールの一つです。

今回は、法人なら絶対知らないといけない「事前確定届出給与」についてそのルールを0からわかりやすく、そしてこの届出の書き方や添付書類といった自分で提出できるようになる解説をしていきます!

弁護士 元国税調査官
この記事の特徴
本記事は、税理士に頼らず自力で法人の経理処理から確定申告までを攻略したいという方向けの記事です。
中小企業向けに初心者にもわかりやすく元国税調査官で税理士が実務で必要となる知識に絞って可能な限り簡単に解説していきます。

目次

1 事前確定届出給与とは

この章では、「事前確定届出給与」の制度の概要、適用される賞与の種類、届出を行う必要性について解説していきます。

1-1 事前確定届出給与とは(概要)

悩む会社員一人社長

そもそも「事前確定届出給与」というのはどのようなルールなのでしょうか?

 

事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは、会社が役員に対して賞与(ボーナス)を支給する場合に、あらかじめその支給額や支給日を決定し、税務署に届出を行うことで、その賞与を法人税の計算上、損金(法人税法上の経費)として扱えるようにする制度です。
説明する会社員 一人社長

役員賞与を出すには、税務署に事前に届けなければ経費にできないってことですか!?

そのとおりです。
通常、役員への給与は、法人の意思で自由に増減でき、決算期末に利益を圧縮する目的で賞与を支給するなど、利益を圧縮することが容易にできることから、税務上は厳しくルールが設けられています。
特に賞与については、原則として損金に算入することはできません。つまり、経費として認められないのです。(損金不算入)

しかし、この「事前確定届出給与」の制度を活用すれば、その要件を満たすことで役員賞与も損金算入が可能になります。

間違えるとその全額が損金(法人税法上の経費)にならないという大変な事態になりますので、正しく理解することが重要です!

弁護士 元国税調査官

1-2 事前確定届出給与が損金不算入という意味は

会社員 一人社長

事前に届出ていない役員賞与は「損金不算入」になるという用語が出てきましたが、そもそも「損金」というのはどういう意味なんでしょう?

 

「損金」とは
損金とは、簡単に言うと、
法人税法上も費用(経費)となる金額
を意味します。
悩む会社員 一人社長

法人税法上も費用ってどういうことですか?

まず、税金を計算するイメージなのですが、次のようにイメージしてもらうといいです。

❶ 収益 ー 費用 = 利益
❷ 利益 × 法人税率 = 法人税

弁護士 元国税調査官

次の例で考えてみます。

  • 収益:1,000万円
  • 費用:600万円
  • 法人税率:20%

❶ 利益は、1,000万円 – 600万円 = 400万円と計算できます。

❷ 法人税額は、400万円 × 20% = 80万円と計算できます。

会社員 一人社長

これはよくわかりますよ。

損金というのは、この利益を計算するための「費用」とほとんど同じ意味だと考えてください。

費用が大きくなれば税金が少なくなりますよね?
先ほどの例で、費用を600万円から800万円にしてみると

弁護士 元国税調査官
費用 600万円費用 800万円
利益1,000万円 – 600万円 = 400万円1,000万円 – 800万円 = 200万円
法人税額400万円 × 20% = 80万円200万円 × 20% = 40万円
費用が200万円少なくなると法人税額が40万円少なくなる!
説明する会社員 一人社長

費用が多くなれば、税金は少なくなりますね。

それを前提として、今度は法人税の立場に立って考えてみます。

法人税法は、税の公平性を考えて、企業会計では認められる費用も、法人税法では認めないというルールを決めています。

例えば、以下のようなルールがあります。

弁護士 元国税調査官
ルールの内容ルールの理由
減価償却費を決まった方法で計算した金額を超える金額は認めない。減価償却費を会社のルールで自由に計算することができると、利益が出そうな時に減価償却費を多めに計上して利益を圧縮するということもできるので不公平。
中小企業の場合は、交際費は800万円を超えた金額は認めない。冗費の節約による企業経営の健全化と公正な企業間競争を促すため。
中小企業の役員報酬は、毎月同額の金額でない場合は、その同額でない金額は認めない。役員報酬を使って、利益が出たから今月は多くしようなど、利益を操作することを防ぐため。

このように、課税の公平を担保するために、法人税は独自ルールを作って費用とは認めない金額を決めてきます。そのため、法人税の費用と企業会計の費用が一致しなくなります。法人税では、会社計算の計算と異なった費用を算出するために「費用」でなく「損金」という言葉を使っているのです。

法人税法では、以下のように名称をつけて、企業会計(会社計算)と区別しています。

弁護士 元国税調査官

法人税額の計算式
収益 ー 費用 = 利益
  ではなく
益金 ー 損金 = 所得金額
 
所得金額 × 法人税率 = 法人税額

そして、届出のない役員賞与は、この法人税法の「損金」に算入されないのです。

損金に算入されないということを一言で「損金不算入」と言います。

弁護士 元国税調査官

ここまでの話をまとめます。

損金とは?損金算入とは?損金不算入とは?のまとめ
法人税額=所得金額×税率
  この法人税額を決定する所得金額は「益金 ー 損金」で計算する。

「所得金額 = 益金 ー 損金」は会社計算(企業会計)の「利益 = 収益 ー 費用」とほとんど同じ

❸ 会社が費用にしたすべてを法人税法では認められない部分があるので、便宜的に「費用」と区分するために「損金」とした

❹ 法人税法では、会社計算の費用のうち認められない金額を「損金不算入」の金額として、認められる金額を「損金算入」の金額としている。

会社計算の費用はほとんどが損金となるが、一部損金不算入となるものがあると理解しよう!

 

「損金」「損金算入」「損金不算入」という言葉は、法人の経理には絶対必要になる知識です。まだよくわからないという方や、もっと詳しく知りたいという方は、次の記事でわかりやすく詳しく解説していますので、是非一読をおすすめします!

弁護士 元国税調査官

0からわかる損金とは?損金算入と損金不算入をわかりやすく簡単解説

 

説明する会社員 一人社長

なるほど。「損金」のことはよくわかりました。

では、例えば、賞与を支給して、届け出をしていなかった場合、どのくらい法人税が掛かってしまうのでしょうか。

では、適正な手続きを行わないで賞与を支給した場合、どのくらい法人税の負担が増えるのかを具体例から見てみましょう。
説例内容は以下の通りです。

弁護士 元国税調査官

【説例内容】

  • 資本金:1,000万円(中小企業)
  • 所得:3,000万円
  • 役員賞与(社長):100万円を支給
  • ※役員賞与について税務署への事前確定届出なし

上の設例内容のとおり、役員賞与を300万円支給した場合の法人税の概算は以下のようになります。

弁護士元国税調査官
項目届出あり(適正処理)届出なし(不適正処理)
営業利益3,000万円3,000万円
損金算入される役員賞与300万円0円(不算入)
課税所得2,700万円3,000万円
法人税(仮に実効税率30%)810万円900万円
法人税の差額(損失)+90万円
悩む会社員 一人社長

なるほど、、役員賞与の届け出を行っていないだけで、役員賞与300万円で法人税が90万円も違ってくるんですね、、
これは、かなり大きい税額です。

おっしゃるとおり、届け出を怠っただけで90万円もの無駄な税金がかかってしまうことになってしまうんです!

弁護士 元国税調査官

1-3 事前確定届出給与の対象となる賞与とは

説明する会社員 一人社長

賞与と言っても、夏冬の賞与やインセンティブ報酬などがあると思いますけど、届出が必要な賞与は、具体的にはどのようなものになりますか?

事前確定届出給与の対象となる「賞与」とは、一般的に会社が役員に対して、通常の月次報酬とは別に支給するボーナス的な給与を指します。

役員に支給する給与のうちどのようなものが事前確定届出給与の対象となるのかを整理しましょう。

弁護士元国税調査官

1-3-1 事前確定届出給与の対象となる具体例

では、実際に制度の対象となる「賞与」とは、どのようなものがあるのでしょうか。代表的なものは以下の通りです。

「事前確定届出給与」として届出が必要な賞与
「事前確定届出給与」として届出が必要な賞与の具体例は、以下のようなものです。(同族会社に限る)
  1. 夏季・冬季の賞与(いわゆるサマー・ウィンター・ボーナス)
  2. 四半期や半期ごとに支給されるインセンティブ報酬※
  3. 決算や成果に応じて期末に支給される特別報酬※ など

※業績連動給与に該当する給与を除く(←後述)

このような、定期的ではない一時的な給与が、事前確定届出給与の適用対象となります。

この例は、同族会社のものと考えてください。
多くの中小企業は、同族会社であることを考えると上のような賞与が事前確定届出給与の対象と考えてもらって大丈夫です。

弁護士 元国税調査官

1-3-2 事前確定届出給与の対象となる給与とは

同族会社の場合は、役員に支給する給与のうち、退職給与と定期同額給与以外の役員に支給する給与が、事前確定届出給与に該当すると覚えてもらって大丈夫です!

弁護士 元国税調査官
同族会社の事前確定届出給与とは?
同族会社で、事前確定届出給与に該当する役員に支給する給与は、以下の給与以外のもの
  • 定期同額給与:毎月定額で支給される役員報酬(例えば毎月50万円など)
  • 退職給与:役員退任や退職に際して支給される報酬
悩む会社員 一人社長

退職給与は、退職金ということだからわかりますが、定期同額給与ってなんでしょう?

定期同額給与は、事前確定届出給与よりも注意が必要な法人税のルールです!
これを知らないというのは、さらに危険です!
すぐに次の記事をチェックしてください!

弁護士 元国税調査官

同族会社以外の方向けに、事前確定届出給与となるものがどのようなものかを、損金に算入される役員給与全体から絞り出してみます。

弁護士 元国税調査官

【損金算入となる役員に支給する給与】

給与の名称内容
定期同額給与一定期間(1ヶ月以内)ごとに同額で支給するもの(役員報酬)
業績連動給与一定の要件を満たした会社の業績に連動して支給するもの
退職給与役員退任や退職に際して支給される報酬
事前確定届出給与これら以外の給与
会社員 一人社長

私は、一人社長でおもいっきり同族会社なので、関係ないということですが、「業績連動給与」というものがプラスされていますね。

非同族会社であれば、「業績連動給与」に該当する給与は事前確定届出給与の届出なしで損金に算入されます。「業績連動給与」は、同族会社は基本的には対象外です。同族会社が対象となるのは、非同族会社による完全支配関係がある同族会社だけなので、同族会社の場合は、退職給与と定期同額給与以外で損金に算入したい場合は、すべて事前確定届出給与にする必要があります。

弁護士 元国税調査官
役員給与を損金に算入する方法まとめ
同族会社の場合:定期同額給与と退職給与以外は、すべて事前確定届出給与として税務署に届出必要!
非同族会社の場合:定期同額給与と退職給与以外でも業績連動給与に該当すれば、その分は事前確定届出給与でなくてもOK。それ以外はすべて事前確定届出給与として税務署に届出必要!

1-4 事前確定届出給与の要件の概要

説明する会社員 一人社長

なるほど。
事前確定届出給与として届出が必要な給与はわかりました。

事前確定届出給与として損金に算入するためには、単純に賞与(ボーナス)を支給する予定を税務署に伝えるだけでいいんですか?

実は、これらの賞与を法人税の計算上、損金として認めてもらうためには、以下の3点の要件が必要です。

  1. 株主総会などのしかるべき機関であらかじめ役員賞与の支給額・支給日などを決議すること
  2. 役員賞与について、所定の時期に所定額を支給する旨の届出書を、期限内に税務署へ提出すること
  3. 届出のとおりに賞与を支給すること

これらの要件を満たしていなければ、どんなに合理的な支給であっても、税務上は「恣意的な支給」とみなされ、損金不算入となってしまいます。

弁護士 元国税調査官

そのため、「事前に内容を決定し、期日を守って税務署に届出をすること」が、この制度の最も重要なポイントとなります。

1-4-1 なぜ届出が必要なのか

悩む会社員 一人社長

そもそも、なぜ、税務署に賞与を届け出る必要があるのでしょうか?
賞与を支給するのは会社の勝手なんだから税務署に関係ないと思うんですが。

届出が必要な理由は、「役員賞与の支給が恣意的でないことを明確にするため」です。
あらかじめ支給内容を決議し、税務署へ届け出ることで、会社が後から利益調整目的で自由に金額を変えたのではないと証明することになります。

弁護士 元国税調査官

役員に支給する給与は、会社の経営者が自分の裁量で自由に金額やタイミングを決められる性質を持っています。
そのため、後から都合よく賞与を支給して不当に法人税額を減らすということを防ぐ目的があります。

1-4-2 届出があることで「計画的な支給」とみなされて損金に算入される

そこで導入されているのが「事前確定届出給与」という仕組みです。

具体的には、以下の流れで税務署に「事前に決めた内容」を提出します。

弁護士 元国税調査官

事前確定届出給与の流れ

支給内容(支給日・金額・対象者)を株主総会や取締役会などで決議

決議内容を記載した届出書を作成

一定の期限内に税務署へ提出

この手続きを経ることで、「賞与が計画的・客観的に支給されたもの」として認められ、税務上も損金に算入されます。

1-4-3 届出がなければ絶対に損金不算入になる

悩む会社員 一人社長

事前に届出をしなかった役員賞与はどうやっても損金にできないのでしょうか。
あとで届け出たりしてもダメですか?

届出をしていなかった場合、いかなる事情があっても賞与は損金にはできません

具体的には、以下のような場合には、役員賞与は損金に算入されません。

弁護士 元国税調査官

 

損金として認められない場合

  • 届出を提出しなかった
  • 提出が期限に遅れた
  • 支給額や日付に変更があった(要件を満たさない変更)
  • 実際の支給が届出内容と異なる

このようなことになると、役員賞与の全額が損金に算入されませんので、事前確定届出給与の具体的なルールをしっかり学んでいきましょう!

弁護士 元国税調査官
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2 事前確定届出給与の届出の要件

事前確定届出給与を適用するためには、正確に書類を作成し、期限内に税務署へ提出する。そしてその届出どおりに賞与を支給する必要があります。

事前確定届出給与として損金に算入できる要件
事前確定届出給与として役員賞与を損金算入させるためには、以下の3つをすべて満たす必要があります。
  • 株主総会などのしかるべき機関で予め役員賞与の支給額・支給日などを決議すること
  • 役員賞与について、所定の時期に所定額を支給する旨の届出書を、期限内に税務署へ提出すること
  • 届出のとおりに賞与を支給すること

この章では、事前確定届出給与を適用するために必要な要件であるしかるべき機関で決議を行う必要があること、また必要な提出書類とその期限について解説していきます。

2-1 しかるべき機関で予め役員賞与の支給額と支給日などを決議すること

事前確定届出給与となるためには、所定の時期に、確定した金額を支給することを定めておくことが要件になっています。

定めを行うのは、株式会社であれば、役員賞与を決定する機関である株主総会または取締役会になり、それ以外の法人であれば、定時社員総会などがそれにあたります。

要するに役員賞与をいつ誰にいくら支給するかを、法人として予めしかるべき機関で決定しておく必要があります。

2-2 届出書を期限内に税務署に提出すること

事前確定届出給与として損金に算入するには、所定の届出書を決められた期限内に税務署に提出していることが条件になります。

2-2-1 事前確定届出給与の提出書類とは

説明する会社員 一人社長

事前確定届出給与の届出書とは具体的にどのような書類を提出すればいいのでしょうか?

事前確定届出給与の届出で必要になる主な書類は以下のものになります。

事前確定届出給与を行う上で提出が必要な書類

❶ 事前確定届出給与に関する届出書(本表・付表)

 支給対象の役員ごとに支給日・金額を明記した所定の届出書。
 届出書類の様式は国税庁のウェブサイトからダウンロード可能です。

❷ 株主総会や取締役会などのしかるべき機関が賞与について決議した議事録(添付書類)

 支給内容を決定した会議の内容を記録したもの。決議日・決議内容が明記されている必要があります。

上記の書類を作成し、提出期限内に提出する必要があります。

2-2-2 事前確定届出給与の届出の提出期限とは(いつまでに届出書を提出する?)

説明する会社員 一人社長

なるほど、、提出期限までに提出する必要があるんですね!
事前確定届出給与はいつまでに提出する必要があるのでしょうか?

届出の提出期限は、制度適用の可否を左右する極めて重要なポイントです。

1日でも遅れると、その届出は無効となり、賞与は損金に算入できなくなります。
提出期限は下表のとおりとなります。

弁護士 元国税調査官
・事前確定届出給与の提出期限

ケース提出期限
株主総会等で支給を決議した場合その決議日から1ヶ月以内、または会計期間開始から4ヶ月以内(いずれか早い方)
新設法人の場合設立日から2ヶ月以内
臨時に支給内容を改定した場合改定事由発生から1ヶ月以内、または上記2つの提出期限のいずれか遅い方

上記のとおり、法人の状況や支出する報酬の内容で提出期限が変わります。

弁護士 元国税調査官

2-2-3 提出方法について

会社員 一人社長

作成した届出書はどのように提出すればよいのでしょうか?

届出は、以下のいずれかの方法で税務署に提出することができます。

事前確定届出給与の届出の提出方法

  • 書面による提出

     所轄の税務署に持参、または郵送で提出します。

  • e-Tax(電子申告)による提出

     電子申告システムを利用してオンラインで提出する方法です。
     法人税の申告をe-Taxで行っている法人は、その流れで届出書も提出できます。

提出方法により有利・不利はありません。
しかしながら、今は届出書の控えに税務署の受付印(収受印)が押されませんので、e-Taxで提出していれば、提出日時の記録が正確に残るため、提出期限の管理がしやすいというメリットもあります。

弁護士 元国税調査官

2-3 届出のとおりに支給する

株主総会等で予め誰にいついくら賞与を支給するかを決めて、その内容を所定の様式で届出を行ったら、最後にその届出書どおりに賞与を支給する必要があります。

支給する時期が届出た内容と異なっていたり、実際に支給する金額が異なっていた場合には、その役員賞与の全額が損金に算入されないという恐怖の事態になります。

絶対に届出た内容のとおりに支給する必要があることに最新の注意が必要です!

説明する会社員 一人社長

事前確定届出給与を損金に算入する要件は理解できたと思います!

実際のところの届出書の書き方や決議の仕方がわからないのですが、どのようにしたらいいのでしょうか?私でもできますか?

はい、もちろんご自身で作成することも可能です!
ただし、事前確定届出給与の届出書や議事録は、記載内容に不備があると受理されなかったり、後々の税務調査で否認されたりするリスクもあるため、ポイントを押さえて正確に作成することが大切です。

次章では、届出書や決議の記録である議事録の書き方を実際の記載例をもとにわかりやすく解説していきます。

弁護士 元国税調査官

3 議事録の書き方(事前確定届出給与の届出書の添付書類)

まずは、要件の1つである株主総会等がいつ誰にいくらを支給するという定めをするというところから始まります。
定めをしたという証拠を残すという意味でもその決議の議事録を作成しておくのが一般的です。

弁護士 元国税調査官
会社員 一人社長

その議事録というのは、どのようなものを作成すればいいのでしょうか?

株主総会や取締役会、定時社員総会などを開いた場合は、その議事録を残すのが一般的です。
このような機関で役員賞与について、正式にいつ、誰に、いくら支給するかを決定することが要件になります。
その決定をしたことを証明する意味で、事前確定届出給与の届出書の添付書類としてこの議事録を添付します。

悩む会社員 一人社長

議事録ってどんな内容を記載したらいいのでしょうか?

3-1 議事録に記載する必要のある項目

議事録には、以下の項目が漏れなく記載されていることが求められます。

議事録に記載すべき内容は以下の通りです。

必須項目説明
開催日・開催場所会議の基本情報
決議機関・出席者株主総会 又は 取締役会、出席役員名
支給対象者役員の氏名・役職
支給額・支給日支給する金額と支給する日時(届出書と完全に一致させること)
決議内容「承認可決」など明確な記載が必要です。
議長の署名または記名押印実在性・正当性を示すために記載が必要です

3-2 議事録の記載例

ここでは、最も事例が多いと思われる定時株主総会で事前確定届出給与の支給を決議することを想定したサンプルを参考までにお示しします。
記載例の内容は以下のようになります。

弁護士 元国税調査官

【説例内容】

  • 会社名:株主総会テンプルフロント

  • 事業年度:令和6年4月1日~令和7年3月31日

  • 対象役員:代表取締役 寺前太郎

  • 支給予定額:年2回、各回1,200,000円(合計2,400,000円)

  • 支給予定日:令和6年6月10日・令和6年12月10日

  • 決議日:令和6年5月27日

「事前確定届出給与の支給に関する議事録」記載例
事前確定届出給与の添付書類 議事録の記載例(サンプル)

事前確定届出給与の添付書類である定時株主総会の議事録の雛形を以下よりダウンロードできますので、編集してご活用ください。

説明する会社員 一人社長

これを真似して、自社に当てはめて自社用の議事録を作ればいいんですね!
これなら私でもできそうです!

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4 事前確定届出給与の届出書の書き方

続いて要件の2つ目、株主総会等で決議した役員賞与は、その内容を期限内に税務署に届け出る必要がありました。
その事前確定届出給与の届出書の書き方を解説していきます。

弁護士 元国税調査官

事前確定届出給与の届出書は、国税庁の様式を用いて作成します。
主に次の2つの書類で構成されています。

事前確定届出給与の届出書の様式

  • 事前確定届出給与に関する届出書
  • 付表1(金銭交付用)

なお、付表には、「金銭交付用」と「株式交付用」の2種類がありますが、今回は通常使用される金銭交付の賞与の解説を行います。

具体例を使って書き方の解説をしていきます。

弁護士 元国税調査官

事前確定届出給与に関する届出書(本表)【記載例題内容】

株式会社テンプルフロントが、
株主総会
令和6年5月27日
以下の賞与を「代表取締役 寺前太郎」に支給することを決議しました。

  • 令和6年6月10日 1,000,000
  • 令和6年12月10日 1,000,000 

4-1 事前確定届出給与に関する届出書(本表)の書き方

まずは、本表の書き方から解説していきたいと思います。

事前確定届出給与に関する届出書記載例

事前確定届出給与に関する届出書記載例

❶ 「①事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等」を記載する

「株主総会」、「取締役会」や「社員総会」などの機関等の決議により事前確定届出給与に関する決議をした日とその決議をした機関等の名称を記入します。
この欄は、「誰が・いつ決めたか」を明記する部分です。

つまり、役員賞与(事前確定届出給与)の支給内容がしかるべき機関で、いつ正式に決議されたのかを記載します。

今回の例では、株主総会で令和6年5月27日に事前確定届出給与に該当する賞与支給を決議したので、その内容を記載しています。

決議をした決議等については会社の形態によって違いがあります。
主な会社形態と決議機関は下表のとおりです。

会社形態決議機関
株式会社(取締役会設置会社)取締役会が通常(または株主総会)
株式会社(取締役会非設置会社)株主総会での決議が多い
合同会社や一般社団法人など社員総会や定款による決定機関

その法人の定款・実務に基づく機関を確認したうえで記載しましょう。

【「①事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等」の記載例

① 取締役会設置会社の場合
(決議をした日)令和7年5月26日
(決議した機関等) 取締役会

② 小規模会社(取締役会非設置)の場合
(決議をした日)令和7年5月27日 
(決議した機関等)株主総会

③ 合同会社などのケース
(決議をした日)令和7年5月28日 
(決議した機関等)社員総会

❷ 「② 事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日」欄を記載する

役員賞与は、その役員の職務遂行の対価として支払われます。
今回届け出た役員賞与のその職務を執行を開始する日を記載します。

事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日は、一般的には定時株主総会の開催日です。法人税基本通達9-2-16

なお、実務上、役員給与については月払が一般的であることから、職務の執行を開始する日が定時株主総会の翌月初で、かつ、定時株主総会の日に近接する日であるようなケースも、この「職務の執行を開始する日」として認められます。

例えば、3月決算法人が5月27日に定時株主総会を開催し、定時株主総会の翌月の6月1日から開始する職務に対して役員給与を定めるようなケースは、OKです。

❸ 「③ 臨時改定事由の概要及びその臨時改定事由が生じた日」欄を記載する

この欄は、予定していた給与額・内容をやむを得ず変更する場合に記載することになります。

例えば、事業年度の途中で新たに選任された役員に適用したい場合にこの欄にその事由を記載します

既に事前確定届出給与の届出を提出している役員に、このような臨時の改定事由が生じた場合は、事前確定届出給与に関する変更届出を提出することに注意が必要です。

提出した事前確定届出給与の届け出で内容を変更するには、役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情があることが条件です。
このような事情を「臨時改定事由」と呼びます。

以下のようなケースが具体例として挙げられます。

  • 取締役が急病などの理由により他の社員が取締役へ昇格するなどの役員の職制上の地位の変更
  • 合併、分割等により役員の職制上の地位は変わらないもののその職務内容が大幅に変わる場合

臨時改定事由で新たに選任された役員に事前確定届出給与を適用する場合の税務署への提出期限は以下のとおりとなります。

次に掲げる日のうちいずれか遅い日
  • イ 上記1に掲げる日(上記2に該当する場合は、2に掲げる日)
  • ロ 当該臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日

❹ 「④ 事前確定届出給与等の状況」欄の「(No. ~No. )」欄を記載する

次に説明する事前確定届出給与の付表1に付した一連番号の最初と末尾の番号を記載します。

❺ 「⑤ 事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由及び事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由」欄を記載する

この項目は、「なぜ定期同額給与※ではなく、事前確定届出給与として支給するのか?」という理由と、「その支給時期(タイミング)をどうしてそのように設定したのか?」の理由を説明するものです。

定期同額給与一定期間(1ヶ月以内)ごとに同額で支給するもの(役員報酬)

「⑤事前確定届出給与の定期同額給与と分ける理由と支給時期の理由」欄の記載例

例1:年2回の賞与的支給を予定している場合

業績評価に基づき、役員に対する報酬を年2回(6月・12月)に分けて支給するため、定期同額給与による支給とはせず、従業員に支給する賞与と時期を同じにするため。

 例2:会社設立直後で定期支給が難しい場合

設立間もないため資金繰りに配慮し、定期的な支給が困難であることから、一定の支給スケジュールを事前に定めたうえで事前確定届出給与として支給することとした。

 

「定期同額給与」との違いがはっきり分かるように、

  • なぜ定期同額給与と分けて支給するのか
  • なぜその時期の支給なのか

という理由を説明するようにしましょう!

弁護士 元国税調査官

❻ 「⑥ その他参考となるべき事項」欄を記載する

この記載欄には、賞与の支給を予め定めた株主総会の決議内容など参考となる事項を記載します。

会社が新しく設立されたばかりで、設立と同時に役員に対して事前確定届出給与を支給する場合には、「設立年月日 令和〇年〇月〇日」のように、設立日の情報をこの欄に記載します。

 役員の給与に関する「どの時期に、いくらの金銭などを支給するか」といった決議内容の参考となる事項を記載する欄になりますが、通常は、その定めを具体的に記載するのではなく、その記入に代えて株主総会の議事録などの写しを添付します。

    具体的には、例にあるように「所定の時期に確定額を支給する旨の定めについて、株主総会議事録を添付します。」とこのように記載し、議事録の写しを届出に添付して提出

    します。

    事前確定届出給与の中には、現金ではなく、一定の条件に従って株式や新株予約権を交付することで支給する場合は、その旨を明記する必要があります。

    該当する場合には、その支給内容がこの制度に該当する旨を記載してください。

    ❼ 「届出期限」欄を記載する

    「届出期限」は、「この届出書をいつまでに提出すべきか」を記載する欄です。

    ここで事前確定届出給与の届出書の提出期限を復習します。

    弁護士 元国税調査官

    【事前確定届出給与の提出期限】

    ケース提出期限
    株主総会等で支給を決議した場合その決議日から1ヶ月以内、または会計期間開始から4ヶ月以内(いずれか早い方)
    新設法人の場合設立日から2ヶ月以内
    臨時に支給内容を改定した場合改定事由発生から1ヶ月以内、または上記2つの提出期限のいずれか遅い方

    記載欄の「イ」というのは上の表の一番上「株主総会等で支給を決議した場合」で使用することになります。

    株主総会等で支給を決議した場合は、

    • 事前確定届出給与に関する支給内容を決議した日から1か月以内
    • その事業年度開始の日から4か月以内

    のいずれか早い日となります。

    例えば、

    • 決議日:2025年6月10日
    • 事業年度開始日:2025年4月1日

    この場合であれば、

    1. ①決議日+1か月=2025年7月10日
    2. ②期首+4か月=2025年8月1日

    のいずれか早い方である、①の2025年7月10日が届出日として記載します。

    「決議をした日から1月を経過する日」は、「決議をした日」の翌日を起算日として、暦に従って計算します。
    なお、起算日が月の初めでないときは、翌月におけるその起算日に応当する日の前日(翌月にその応当する日がないときは、その月の末日)となります。

    例:決議をした日が5月25 日の場合、5月 26 日が起算日となり、翌月における起算日に応当する日 (6月26 日)の前日である6月25日が「決議をした日から1月を経過する日」となります。) 

    経過する日はこの届出の場合は、単純にその月を足せば大丈夫です。

    2025年6月10日から1月を経過する日は、6月+1月で7月なので、2025年7月10日という具合です。

    弁護士 元国税調査官

    「ロ」を使用するのは、新設法人の場合であり、その設立日から2ヶ月を経過する日とを記載します。

    「ハ」は臨時に支給内容を改定した場合で使用する欄で、改定事由発生から1ヶ月を経過する日を記載してください。

    4-2 付表1(金銭交付用)の書き方

    次に、付表の書き方を解説していきたいと思います。

    付表1(金銭交付用)記載例
    付表1事前確定届出給与等の状況(金銭交付用)記載例

    基本情報に関する記載方法

    ❶ 「事前確定届出給与対象者の指名(役職名)」欄を記載する

    この項目は、「誰に対して事前確定届出給与を支給するのか(氏名+役職)」を明記する欄です。
    なお、役職については、「役職なし」「○○部長」「○○マネージャー」などの表現は避けてください。
    あくまで「法人税法上の役員」でなければ届出の対象にはなりません。

    ❷ 「事前確定届出給与に係る職務の執行の開始の日」欄を記載する

    職務の執行の開始の日」は、通常は株主総会や取締役会などの決議機関が決議を行なった会議の開催日です。
    職務執行期間は、定時株主総会の開催日から次の定時株主総会の開催日までの期間などが一般的な記載例になります。

    ❸ 「当該事業年度」欄を記載する

    この届出をする事業年度(会計年度)を記載します。

    ❹ 「職務執行期間開始の日の属する会計期間」欄を記載する

    この欄には、事前確定届出給与を支払う役員が、その職務を開始した日が属している会計年度(=事業年度)を記載してください。

    その役員の職務開始日が含まれる法人の会計期間を記載します。

    悩む会社員 一人社長

    「当該事業年度」と何が違うのでしょうか。

    「当該事業年度」は、届出を提出する会計期間(決算期)を記載し、「職務執行期間開始の日の属する会計期間」には、賞与支給対象の役員が職務を開始した日が属する会計期間を記載することになります。
    職務開始日の令和6年5月27日が属する会計期間は、決算期が3月であれば、令和6年4月1日から令和7年3月31日となります。

    通常は「当該事業年度」と「職務執行期間開始の日の属する会計期間」は同じ日付になることが多いですが、役員の就任・退任・交代のタイミングが事業年度とズレる場合に、この2つが一致しないことがあります。

    弁護士 元国税調査官

     

    事前確定届出給与に関する記載欄の記載方法

    この記載箇所には、事前確定届出給与の支給日や支給額を記載する欄になります。

    ❶ 「職務執行期間開始の日の属する会計期間」の「今回の届出額」欄を記載する

    この欄は、職務執行期間開始の日の属する会計期間※中に支給予定としている役員賞与の支給日と支給金額を記載してください。

    ※通常は当該事業年度、つまり今の会計期間と一致します。

    ❷ 「翌会計期間以後」欄を記載する

    この欄は、翌会計期間以降に支給する役員賞与を支給する定めをしている場合にその予定されている支給時期と支給額を記載します。

    事前確定届出給与以外の給与に関する記載欄の記載方法

    この記載箇所には、事前確定届出給与以外の他の給与の有無や概要を、届出の時に予定されている内容を記載することになります。

    事前確定届出給与以外の給与というのは、以下のような支給となります。

    区分説明
    ① 定期同額給与一定期間(1ヶ月以内)ごとに同額で支給するもの(役員報酬)
    ② 業績連動給与一定の要件を満たした会社の業績に連動して支給するもの(同族会社以外が対象)

    なお、この事前確定届出給与以外の給与には、次の給与を含みません。

    1. 退職給与で業績連動給与に該当しないもの
    2. 使用人としての職務を有する役員に対して支給するその使用人分給与 など

    ❶ 「職務執行期間開始の日の属する会計期間」欄を記載する

    この欄は、職務執行期間開始の日の属する会計期間※中に支給を予定している定期同額給与の支給日と支給金額を記載してください。

    ※通常は当該事業年度、つまり今の会計期間と一致します。

    ❷ 「翌会計期間以後」欄を記載する

    この欄は、翌会計期間以降に支給する定期同額給与が確定している場合にその内容を記載する欄となります。

    ❸ 「業績連動給与又は金銭以外の資産による給与の支給時期及び概要」欄を記載する

    この欄は、事前確定届出給与以外に支給される「業績連動給与又は金銭以外の資産による給与」がある場合に、記載する欄となります。

    事前確定届出給与の届出書とその付表1の書き方は以上です。

    届出書も議事録も、「形式が整っていればよい」わけではなく、内容の整合性が重要です。

    弁護士 元国税調査官
    説明する会社員 一人社長

    届出の書き方まで終わったので、株主総会などで予め役員賞与の決議をして、そしてその内容を税務署にこの届出を使って税務署に届け出てこれで事前確定届出給与は完璧ということですね!

    いいえ、事前確定届出給与の最後の要件

    実際届出のとおりにに支給する!

    が残っています!

    つまり、届け出た役員に、届け出た支給日に、届け出た金額を支給する!ということまでして初めて届け出た賞与が損金に算入されます!

    弁護士 元国税調査官
    会社員 一人社長

    届出のとおりに支給する!わかりました!

    まあ、これは簡単ですね。

    通常は簡単ですが、実際の支給と異なる点があると、後の税務調査で損金算入が否認される可能性があるという恐怖があることを考えれば慎重に対処する必要がありますよ。

    それでは次に、「うっかりミス」や「支給日のズレ」など、実務上よくあるトラブルと対応方法について解説していきます。
    事前確定届出給与を適切に運用するために、税務署から否認を受けないために、ぜひ確認しておきましょう。

    弁護士 元国税調査官

    5 事前確定届出給与で起こりえる問題や否認事例の紹介

    事前確定届出給与は、要件を満足さない場合は、その対象の役員賞与の全額が損金不算入になるというというとんでもない制度です。

    ほんの些細なミスでも、損金算入が否認されることがありますので、慎重な対応が必要になります。

    事前確定届出給与の要件を満たさないと、役員賞与全額が損金に認められない。つまり、黒字の場合は、役員賞与の額×税率の税金とさらに都道府県や市町村に支払う地方税まで加算されることになる!恐怖です!

    弁護士 元国税調査官

    この章では、実務上起こりやすい問題や否認事例、変更時の対応方法について解説します。

    【ケース1】届出書を提出し忘れた場合

    届出書の提出が1日でも遅れたら損金に算入できなくなるんですか?

    はい、1日でも遅れると原則として損金算入できなくなります。

    もっともよくあるミスが、「届出書そのものの出し忘れ」です。
    どれだけ事前に株主総会で支給を決定していたとしても、税務署に届出書を提出していなければ一切損金にできません

    ❌ 届出がない=事前確定届出給与としての要件不備 → 全額損金不算入

    提出期限内であればすぐに対応すべきですが、期限を過ぎてしまった場合、あとで提出してもそれは無効です。
    支給自体は可能ですが、法人税上は損金として扱われません。

    【ケース2】実際の支給日が届け出た支給日とズレてしまった場合

    支給日がズレてしまいました。
    届け出た支給日とは別の日に支給しても問題ありませんか?

    原則として、届け出た支給日に支給しなければ、その支給した賞与全額が損金不算入となります。(未払い計上の余地あり)

    事前に届け出た支給日と異なる日に支給した場合、その支給分の賞与は損金として認められません。
    そのため、うっかり支給日を忘れてしまって後になって振り込んだということがないようにしましょう。

    支給日に振り込むというのが確実ですが、数日ズレたという場合は、未払い計上することで支給したとみなされる可能性がありますので、もしズレてしまった場合はそのように対応するようにしましょう。
    詳しくはケース4で解説します。

    弁護士 元国税調査官

    【ケース3】支給日が土日・祝日で、実際の支給が前後した場合

    支給日を日曜日にしてしまいました。
    次の日の月曜日に支給しても大丈夫ですか?

    原則として届出書に記載された支給日通りに支給する必要があります。

    そのため、支給日が金融機関の休業日(土曜日・日曜・祝日など)であり振り込み等ができない場合であっても、届け出した支給日に支給しなければ損金不算入となる可能性があります。(未払い計上の余地あり)

    支給予定日が土日祝日に当たり、実際の振込が前倒しや後ろ倒しになった場合、届出どおりに支給されていないということになりかねません。

    支給日を届出書に記載する際は土日や祝日等になっていないかをよく確認する必要があります。

    支給日に振り込むというのが確実ですが、数日ズレたという場合は、未払い計上することで支給したとみなされる可能性がありますので、もしズレてしまった場合はそのように対応するようにしましょう。
    詳しくはケース4で解説します。

    弁護士 元国税調査官

    【ケース4】実際に支給する際に未払い計上は認められるのか?

    届け出た支給日が土曜日であり、翌月曜日に振り込みました。届け出た日付で役員賞与を未払い計上しています。この場合も支給日にズレがあるとして損金に認められないのでしょうか?

    損金に算入されると思われます。

    国税庁は次のような見解を示しています。
    その事前確定届出給与が債務として確定したものであれば他の費用と取扱いを違える必要はなく、未払計上であっても支給した金額に含まれるものとも考えられる。」(下に全文を載せておきます。)

    予め支給する定めに基づいて、届出も期限内に提出していれば、税額を不要に少なくするという恣意性は乏しく、未払いでその届出どおりに債務を確定し、それに基づいて数日程度で支払いが行われれば、それを損金不算入にする理由は乏しいと思われます。

    (国税庁の見解)

    事前確定届出給与については、その届出に当たって、支給額の一部が未払いとなった場合の取扱いについての照会が寄せられているようである。この点については、その事前確定届出給与が債務として確定したものであれば他の費用と取扱いを違える必要はなく、未払計上であっても支給した金額に含まれるものとも考えられる。
     しかしながら、事前確定届出給与とは、「その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与」であることからすれば、その届出の時点において未払いとなることが見込まれるような場合には、そもそも「事前」に確定額を支給する「定め」が存していたのかどうかという疑問が生ずることとなる。会社と役員との関係は委任に関する規定に従うこととされており(会社法330)、事前確定届出給与は、定期同額給与と同様に、その委任を受けた職務執行の対価であることからすれば、未払いとなることを前提にその対価の支給を決定しておくことはあり得ないと考えられるからである。このような観点からすれば、事前確定届出給与の「確定額」には未払いが見込まれる金額が含まれることはなく、未払いが見込まれる金額が含まれている場合のその金額は「確定額」とは言えないこととなろう。
     いずれにしても、事前確定届出給与について、その支給額の一部につき未払計上がされた場合には、給与としての実態が伴っているかどうかその実質により判断することとなるとともに、上述の考え方から、所轄税務署長へ届け出た金額が確定額であったのかどうか、更には、そもそも「その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する定め」が存していたのかどうかなどについて、個々に判断していくこととなろう。

    国税庁ホームページ「9 役員給与等」

    多少の支給日のズレであれば、未払い計上して、届出どおりに債務を確定していれば損金に算入されると思われます。条文の文言どおりに損金不算入にされることが全く起こらないという保証はありませんので、支給日に実際に支払うことを強くおすすめします!

    否認された場合には、争わなければならなくなり、その労力はもっと他の大事なことに注ぎたいところです。

    弁護士 元国税調査官

    【ケース5】支給金額が届出と異なった場合

    届け出た支給額と違う金額を支給してしまいました。どうなりますか?

    原則として損金に算入できなくなります(=否認されます)。

    事前確定届出給与は、「支給する金額、支給日、支給対象者」を事前に確定し、そのとおりに実行することが制度の要件です。

    そのため、届け出た支給額と実際の支給額が1円でも違っていた場合でも、原則として税務上は全額が損金不算入となります。

    届出書に記載された金額と、実際に支給された金額が1円でも異なる場合、原則として全額が損金不算入になります。

    • 誤って多く支給した場合でもNG
    • 控除後の手取り額が異なるのはOK(支給額=支払総額が同じであれば問題なし)

    必ず、届出通りに支給することが求められます。

    なお、以下のような場合は否認されることがあります。

    否認されるケースの具体例

    届出内容(例)実際の支給内容結果
    4月1日、12月1日に500,000円支給4月1日に510,000円支給❌損金不算入
    4月1日、12月1日に500,000円支給4月1日に490,000円支給❌損金不算入
    4月1日、12月1日に500,000円支給12月1日にまとめて1,000,000円支給❌損金不算入
    4月1日、12月1日に500,000円支給12月1日分を未払い❌損金不算入

    【ケース6】役員一人だけに支給した場合

    役員一人にだけ賞与を支給する予定ですが、問題ありませんか?

    特に問題ありません。「事前確定届出給与」の手続きを正しく踏めば、1人の役員に対する賞与でも損金算入が可能です。

    複数の役員がいる中で、特定の一人のみに支給する場合も問題はありません。制度上、「役員全員に支給しなければならない」というルールはないため、届出を行っていれば損金算入が可能です。

    【ケース7】一部だけ支給した場合

    届け出た金額より少ない金額で支給すれば、問題ありませんよね?

    いいえ、金額が少なくても「届出内容と異なる支給」になるため、原則として損金算入は認められません。

    事前確定届出給与は、以下の3つが「すべて一致」して初めて損金算入が認められる制度です:

    1. 支給対象者
    2. 支給日
    3. 支給金額

    このうち、支給金額が届出より1円でも少なかった場合でも、要件を満たさず、損金に算入できません。

    そのため届出書に記載された支給額を、一部しか支払わなかった場合、届出の効力は失われ、損金不算入になります。

    ケース4のところの国税庁の見解で一部の金額の未払い計上が認められる余地があるので、一部を未払い計上し、速やかに支払うという方法で対処できる可能性もあります。
    国税庁側は、個別判断と言っているため、その事情を説明し、認められるかどうかの判断になります。

    弁護士 元国税調査官

    【ケース8】支給しないケース

    届出書を提出しましたが、賞与の支給をしませんでした。
    支給しないなら損金不算入額も0なので問題ないですよね?

    不支給の決定を、予定していた支給日が到来する前に行なっているのであれば、基本的には法人税上の不利益はなく問題ありません。
    ただし、支給日を過ぎてから不支給を決定した場合は、税務上「支給義務が発生した」と見なされ、たとえ実際に支払っていなくても、その分の源泉所得税の納付と役員が請求を放棄したとして会社に「債務免除益(収益)」が発生し、課税される可能性があります。

    届出をしていた賞与を不支給とするにあたり、その処理方法が予定していた支給日を過ぎているかいないで税負担が変わってきます。
    支給日が過ぎている場合と過ぎていない場合のそれぞれどうなるかについて確認していきます。

    弁護士 名前

    支給日を過ぎてから不支給を決定した場合

    ❶支給日を過ぎてから不支給を決定した場合、事前確定届出給与として予め決議されていた賞与なので、その支給日に、その役員に会社に対する請求権が発生します。同時に会社側にその支払いの債務が確定することになります。

    要するに、実際にお金を払っていなくても、「払う約束をしていたのだから、その時点で役員へ支払う義務が発生している」と考えられてしまうということです。
    支給日に次のように仕訳がされるのと同じ意味になります。

    借方科目借方金額貸方科目貸方金額
    役員賞与1,000,000未払金1,000,000

    給与の支給がされたとみなされることから、この賞与から源泉所得税を天引きして納める必要が出てきてしまうということにも注意が必要です!

    弁護士 元国税調査官

    ❷次に、役員に対して賞与を支給しなかったというのは、会社が支払うべき賞与を支払う必要がなくなったことを意味します。
    そのため、不支給とした賞与分の債務が免除されたとして「債務免除益」(会社の利益)として次のように処理することになります。

    借方科目借方金額貸方科目貸方金額
    未払金1,000,000債務免除益1,000,000

    この仕訳に基づいて法人税法の所得計算をしてみると、最終的に1,000,000所得金額が増加することになります。

    役員賞与-1,000,000
    (源泉徴収義務発生)
    役員賞与損金不算入
    (支給額が違うため)
    +1,000,000
    債務免除益+1,000,000
    所得金額の増減合計+1,000,000

    法人税の所得金額増加+源泉所得税の納付というダブルパンチを防ぐ方法が、支給日前に不支給の決議をするという方法です。

    不支給となる場合は、必ず次の方法を取るようにしましょう!

    弁護士 元国税調査官

    支給日到来前に不支給を決議した場合

    支給日を過ぎる前に不支給とした場合は、取締役会や株主総会で「今回の賞与は支給しない」ことを議事録等に残しておくことで、その支給義務は発生しないことになります。
    その結果、不支給とした賞与が債務となることもありませんし、債務免除益として収益扱いされることもありません。

    あえて仕訳するとすれば以下のようになります。

    借方科目借方金額貸方科目貸方金額
    役員賞与0未払金0

    役員賞与が届出と異なる金額になりましたが、役員賞与が0なので、それを損金不算入にしても0なので、所得金額には何も影響がありません。

    債務も確定していませんので、それが免除されることもなく、債務免除益もありません。

    このように支給日より前に不支給を決定した場合、次のような対応を行う必要があります。

    • 支給対象者から賞与の支給を辞退した旨の届出書(辞退届)の提出をしてもらう
    • 取締役会や株主総会で不支給を決議する
    • 決議内容を議事録などで残しておく

    これらを行っておくことで、支給日より前に不支給を決定したとすることができます。

    なお、辞退届出やその議事録の作成方法等については後述します。

    ここで、このような対応を取ると源泉所得税の徴収や所得金額増えてしまうことがなくなる根拠を示しておきます。

    支給日前に辞退している給与については、源泉所得税を課さなくていいという根拠がこれです。

    給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。

    所得税法基本通達28-10

    未払い給与を支払わないことが、一定の要件を満たしていれば債務免除益として益金(税務上の収益)にしなくてよいという根拠がこれです。

    法人が未払給与(…《役員給与の損金不算入》の規定により損金の額に算入されない給与に限る。)につき取締役会等の決議に基づきその全部又は大部分の金額を支払わないこととした場合において、その支払わないことがいわゆる会社の整理、事業の再建及び業況不振のためのものであり、かつ、その支払われないこととなる金額がその支払を受ける金額に応じて計算されている等一定の基準によって決定されたものであるときは、その支払わないこととなった金額(…)については、その支払わないことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入しないことができるものとする。

    法人税法基本通達4-2-3

    しっかりした手続きを踏んでおかないと無駄な税金を多額に支払うことにもなりかねません。
    辞退の流れを確認しておきましょう。

    弁護士 元国税調査官
    事前確定届出給与の辞退の流れ

    1. 役員本人からの会社に辞退申出書の提出

    2. 取締役会または株主総会等での報告・議事録作成

    3. 作成した辞退届出書は会社で保存する。(税務署への提出は不要)

    悩む会社員 一人社長

    辞退届出ってどのような書類ですか?

    辞退届出の様式は特にありませんので、自分たちで用意する必要があります。
    作成した記載例(雛形)を参考として貼っておきます。

    弁護士 元国税調査官

    辞退届には以下のような内容を記載することになります。

    辞退届出に記載する内容

    • 辞退の意思
    • 辞退する金額・支給日
    • 対象となる役員名・役職
    • 辞退日・署名押印
    事前確定届出給与 辞退届 雛形
    事前確定届出給与 辞退届 雛形

    報酬辞退届の雛形・記載例


    辞退の議事録に記載する内容は以下のとおりです。
    記載例からご確認ください。

    弁護士 元国税調査官

    賞与辞退の議事録サンプル
    事前確定届出給与 辞退の臨時株主総会議事録雛形

    小規模法人向けクラウド会計ソフト全力会計バナー

    5 事前確定届出給与の届出を何なくかんたんに作成する方法

    事前確定届出給与の届出書の作成では、支給予定日・金額・対象役員の情報を整理し、所定の届出の様式に記載し、提出期限を守って税務署に届け出るという流れで進めていきました。

    しかし、届出書の記載ミス、記載漏れといったリスクが常につきまとい、実務では意外と時間と手間がかかる業務です。

    悩む会社員 一人社長

    この事前確定届出書を手書きするのも面倒ですし、うまいこと簡単に正しい届出ができる方法ってないですかね?
    しかも無料で。

    もちろんありますとも!

    「全力法人税」という税務ソフトを使って、無料で、しかも入力内容に応じて提出期限を自動判定してくれたりと便利機能まであるという優れものです。

    弁護士 元国税調査官

    全力法人税は、ガイドに従って、役員賞与の支給予定額、支給日などを順番にフォームに入力するだけで、綺麗な届出書を完成させれることができます。

    さらに2回目以降の作成では、前回作成した届出書の内容をすぐに確認でき、更に効率的に届出書を作成することができます。

    それが、誰でも簡単に事前確定届出給与の届出書が作成できるクラウド税務ソフト「全力法人税」です。
    全力法人税は、「法人税の知識なしで簡単に法人に必要な確定申告書類を作成する」を謳い文句としたクラウド税務ソフトです。

    ちなみにこの記事で紹介している届出書の記載例も、すべて全力法人税でさくっと作成したものです。

    全力法人税は、法人税や届出制度の知識がなくても、誰でも正確に届出書を作成できるというコンセプトのもと開発されたクラウド型ソフトです。高機能でありながら、なんと無料で利用可能。ここまで高機能で無料のものを、私は他に知りません。

    しかも、元国税調査官・税理士の監修付きで安心。ユーザーからの高評価レビューは1,000件を超えており、信頼性も折り紙付きです。

    全力法人税レビューページ

    【手書きと全力法人税利用の比較】

     手書き全力法人税を利用
    手間の多さ様式を出力し記載するため手間が多いデータで簡単に入力でき、最新の様式をすぐに出力できる。
    制度の理解必要提出期限については、自動で判定する。
    見た目字による整然としている
    初めて届出書を作成する時間
    (事前確定届出給与と定期同額給与がある場合)
    最低20分最低10分(基本情報等の入力時間含む)
    ※定期同額給与の情報を記入する際にひと月分記載でコピーできる。
    価格0円0円

    以下は全力法人税で事前確定届出給与の届出書を作成する方法をご紹介します。

    まずは次のページにアクセスしていただき、新規アカウント登録をする必要があります。

    全力法人税のアカウント登録画面

    アカウント登録は、全部の書類を印刷したい場合にのみ有料会員となる必要があるだけで、それ以外の機能をすべて無料で利用することができますのでご安心ください。

    5-1 全力法人税にログインする

    全力法人税ログイン画面はこちら

    5-2 基本情報を入力後「保存」してホーム画面に戻る

    事前確定届出給与の届出書の作成のみを行うなら、基本情報入力画面の「法人名」欄だけ正確に入力しておけば、残りの必須部分は適当な文字を入力しておけばOKです。

    5-3 トップ画面で「届出を作成する」を選択

    まずは、全力法人税トップ画面から「届出を作成する」を選択してください。

     

    5-4 届出メニュー「法人」を選択

    以下のような画面になりますので、続けて「法人」を選択します。

     

    5-5 法人税関係届出メニュー「事前確定届出給与に関する届出書の作成」ボタンを選択

    以下のような画面が開きますので、「事前確定届出給与に関する届出書の作成」を選択します。

    5-6 届出作成画面で「新規届出作成」ボタンを選択

    事前確定届出給与に関する届出書の作成画面が開きます。

    「新規届出作成」ボタンを押して画面のフォームに値を入力していきます。

    必須部分はすべて入力してください。

    5-7 届出情報を入力し「保存」ボタンを選択

    必須部分の入力をすべて済みましたら、画面最下段にある「保存」を押してください。

    これで、入力した情報が保存されます。

    5-8 「PDF出力」を選択して届出書を出力する

    その後、「PDF出力」を押してください。
    すると、PDF形式で入力内容に基づいた「事前確定届出給与に関する届出書」が出力されます。

    次のように印刷されます。

    事前確定届出給与に関する届出書 出力例
    
    

    5-9 付表の作成も行える

    全力法人税では、付表(金銭交付用)の作成も可能です。
    下の画像の「付表を作成」から入力画面を開き、本表と同様に必要な入力項目に入力を行い作成できます。

    付表(金銭交付用) 出力例

    以上で「事前確定届出給与に関する届出書」が完成しました。

    画面の案内にしたがって入力を進めるだけで簡単に届出書を作成することができます。

    なお、作成できる届出書は「事前確定届出給与に関する届出書」だけではありません。
    下の届出書の作成も初心者でも簡単にできます。

    全力法人税で無料で作成できる届出書

    • 法人設立届出書(税務署用)
    • 青色申告の承認申請書
    • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
    • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
    • 事前確定届出給与に関する届出書
    • 消費税課税事業者届出書
    • 消費税簡易課税制度選択届出書

    このような初心者でも簡単に届出書を無料で作成できるソフトは全力法人税以外にありません。

    是非、ご利用いただければと思います。


    6 事前確定届出給与の届出内容を変更したい場合の対応方法

    会社員 一人社長

    賞与支給の決議と届出までしたところ、やっぱりやめたいや変更したいとなった場合は、変更ができるのでしょうか。

    原則は「変更はできない」と考えてください。

    届出の提出期限がまだきていないければ、提出期限までに変更すればOKです。
    しかしながらそれ以外の場合は、やむを得ない事情があると税務署が認めるケースだけ、所定の手続きを取れば変更が可能です。

    弁護士 元国税調査官
    事前確定届出給与の支給内容を変更したい場合どうすればいいのか。
    原則として一旦提出した届出書の内容を後から変更することはできません。
    しかし、以下のような場合には対応方法があります。
    ・届出期限内の場合
    ・やむを得ない事情がある場合(届出期限外)

    【ケース1】まだ届出期限内の場合の対応方法

    届出の期限がまだ来ていない場合は、訂正した届出書を再提出することで内容の変更が可能です。

    修正した内容(支給金額・支給日など)で、新たな決議を行い、新しい決議内容に基づく届出書を再提出することで対応可能です。

    再提出することで先に出した届出書は「提出しなかったもの」とみなされます。
    ポイントとしては、届出期限内であれば「差し替え」が可能ということになります。

    弁護士 元国税調査官

    【ケース2】届出期限を過ぎているがやむを得ない事情(臨時改定事由・業績悪化改定事由)がある場合の対応方法

    届出期限を過ぎてしまった場合、原則として届出内容を変更することができません。

    ただし、次に挙げるやむを得ない事情がある場合は変更を認められる可能性があります。

    やむを得ない事情で、すでに届出を行っている役員に対して変更がある場合は、「事前確定届出給与に関する変更届出書」を、やむを得ない事情で届出を行なっていない役員に対して賞与を支給することになった場合は、「事前確定届出給与に関する届出書」(届出書の書き方で解説済み)を期限内に税務署に提出する必要があります。

    やむを得ない事情がある場合の事前確定届出給与の届出書の解説はすでにしていますので、ここでは変更届出の解説を行います。

    どのような場合に変更届出が認められるか

    やむを得ない事情とは具体的には、臨時的・突発的な理由である「臨時改定事由」経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由である「業績悪化改定事由」がある場合です。

    具体的には、それぞれ以下のような理由が挙げられます。

    臨時改定事由(臨時的・突発的な理由)の例

    • 代表取締役が急病などの理由により他の役員が代表取締役へ昇格するなどの役員の職制上の地位の変更

    • 地位の変更とまでは行かないが、病気で入院している間、入院前と同じようには経営に参画できないために減額するといった場合

    • 合併、分割等により役員の職制上の地位は変わらないもののその職務内容が大幅に変わる場合

       

    業績悪化改定事由の例

    1. 財務諸表の数値が相当程度悪化したこと
    2. 倒産の危機に瀕したこと
    3. 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
    4. 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
    5. 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
    6. 売上の大半を占める主要な得意先が1回目の手形の不渡りを出したなどの客観的な状況があり、得意先の経営状況を踏まえれば数か月後には売上が激減することが避けられない状況となったため、役員給与の減額を含む経営改善計画を策定したような場合

    ※法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは該当しません。

    業績悪化改定事由については、上記⒈や⒉のように会社の存続が危ぶまれるようなケースは当然に認められると考えられます。そしてそこまではいかないケース⒊〜⒍のように第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じた場合は客観的に判断できるため認めています。逆に※で示しているように、第三者との関係もないし、会社が危機に瀕しているわけでもない場合には認められないので注意しましょう。

    変更届出の様式

    事前確定届出給与に関する変更届出書」は国税庁からダウンロードできます。

    以下のような様式です。

    事前確定届出給与に関する変更届出書 様式

    事前確定届出給与を変更する場合も、当然事前確定届出給与の要件を満たす必要があります。

    株主総会等で変更の決議を行います。それに基づき届出書を作成します。

    そして当初の事前確定届出給与の届出書と同様に変更を行なった決議の写しを添付します。

    「① 臨時改定事由の概要及びその臨時改定事由が生じた日」欄の記載例

    ① 長期療養による報酬停止

    臨時改定事由の概要:取締役が令和7年8月1日より長期療養のため入院し、職務執行が困難となったため。

    生じた日:令和7年8月1日

    ② 退任による報酬支給停止

    臨時改定事由の概要:対象役員が令和7年9月30日付で退任したため。

    生じた日:令和7年9月30日

    ③ 合併に伴う職務の変更

    臨時改定事由の概要:令和7年7月1日付で当社が子会社と合併し、対象役員の職務内容が変更されたため。

    生じた日:令和7年7月1日

    変更届出の提出期限

    既に事前確定届出給与の届出をしている法人が賞与の内容を変更する場合の提出期限

    区分届出提出期限
    臨時改定事由により変更する場合臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日
    業績悪化改定事由により減額する場合

    次のうちいずれか早い日

    • a. 業績悪化改定事由により事前確定届出給与の変更に関する株主総会等の決議をした日から1月を経過する日
    • b. aの決議をした日以後最初に到来する直前届出に基づく支給の日の前日
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    7 定期同額給与との関係について

      事前確定届出給与と並んで、役員報酬に関する重要な制度が定期同額給与です。

      この章では、両制度の違いや使い分け、併用する際の注意点について解説します。

      7-1 定期同額給与とは?

      定期同額給与とは、役員に対して毎月、同じ金額を一定の期日に支給する給与のことをいいます。

      たとえば、役員報酬として毎月25日に50万円を支給するようなケースがこれに該当します。

      この制度を利用することで、支給された金額は損金として認められるため、法人税を計算するうえで重要な役割を持っています。

      ただし、以下のような要件を満たす必要があります

      定期同額給与の要件

      • 支給時期が1月以下の一定の期間ごと
      • 会計期間内の各支給期間の支給額が同額

      定期同額給与については、次の記事で詳しく解説しています。

      【事前確定届出給与との違い】

      比較項目定期同額給与事前確定届出給与
      支給頻度毎月(定期的)不定期(ボーナスなど)
      金額の変動同額でなければならないあらかじめ決めた内容であれば自由
      届出の有無原則不要(定期支給なら)必要(期限内の提出が必須)
      代表的な用途月例報酬夏・冬の賞与、インセンティブ報酬

      定期同額給与は「月例報酬」に適しており、事前確定届出給与は「成果に応じた変動報酬」に使われます。
      どちらの制度も「損金算入」できる制度ですが、要件が異なるため混同しないよう注意が必要です。

      弁護士 元国税調査官

      7-2 事前確定届出給与と定期同額給与を併用する場合の注意点

      定期同額給与と事前確定届出給与は、目的・性質が異なる報酬であり、法人税法でも併用を禁止する規定はありません

      そのため、同じ月に「定期同額給与+事前確定届出給与」を同時に支給しても制度的には認められています。

      実務上は、賞与を支給するとなった場合には、定期同額給与と事前確定届出給与を併用することが一般的です。

      例えば、以下のような場合となります。

      • 月額50万円の定期報酬(定期同額給与)
      • 決算期に業績に応じたボーナス100万円(事前確定届出給与)

       

      以上で、事前確定届出給与についての解説は終了です。

      これまでの内容を簡単に振り返って確認しましょう。

      まとめ


      8 事前確定届出給与のまとめ

      ❶ 役員への賞与は、一定の要件を満たさないとその全額が損金に算入できない。

      ❷ 損金とは、法人税法上も費用(経費)となる金額のことをいう。

      ❸ 次の要件を満たすことで、事前確定届出給与として役員賞与全額が損金に算入できる。

      1. 株主総会などのしかるべき機関で予め役員賞与の支給額・支給日などを決議すること
      2. 役員賞与について、所定の時期に所定額を支給する旨の届出書を、期限内に税務署へ提出すること
      3. 届出のとおりに賞与を支給すること

      ❹ 事前確定届出署の届出書には「本表」や「付表1」、議事録には支給日・金額・対象者などの明記が必要であり、正確な記載が求められる。

      ❺ 事前確定届出署の届出書には、予め役員賞与を支給する旨の決議を行なった議事録の写しを添付する。

      ❻ 届出を怠った、届出内容と支給額が異なったっている場合などには、損金として認められない可能性が高く、否認事例も存在する。

      ❼ 事前確定届出署を簡単に正確に効率的に作成するには、無料のクラウド税務ソフト「全力法人税」を使うとよい。

      ❽ 同じく損金算入が認められる「定期同額給与」との併用も可能だが、それぞれの制度の趣旨や届出要件を正しく理解し、運用する必要がある。

      以上が、当記事で解説した内容のまとめとなります。

      事前確定届出給与は、要件どおりに手続きを踏まないとその全額損金不算入になるという、知らなかったでは済まされない制度ですので、法人を経営する方、法人の経理を担当する方には必須の制度です。
      実務で運用するには、ルールの理解と手続きの丁寧さがカギになるため、しっかり内容を理解しておきましょう。

      なお、全力経理部では、事前確定届出給与についての内容の他に、法人税や消費税等に関する記事も多数掲載していますので、自分で申告したい、税法の知識をもっと深めたいと思っている方は是非、他の記事もご覧いただければたいへん嬉しく思います。

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