国税庁から「給与事務に関する所得税の定額減税のしかた」というものが送られてきたんですが、これはいったいなんでしょう?
令和6年度税制改正の中で、「令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税について、納税者及び配偶者を含めた扶養親族1人につき、所得税3万円・個人住民税1万円を控除する。ただし、納税者の合計所得金額が1,805万円以下という所得制限付き。」というものが決められました。
それがいよいよ始まるということですね。
減税はうれしいのですが、さらっと冊子を見たところわけのわからなそうなにおいがぷんぷんするんですよね。
またインボイス制度のような不毛なことをさせられるんでしょうか。
インボイス制度が不毛というなら、この定額減税の事務の不毛さもインボイス制度といい勝負ですよ。
なんですとー!
むにゃむにゃむにゃー…
ただ今回は希望の光があるんですよ。
実は、この面倒な事務は、令和6年分の所得税に対して1回だけすればいいんです!
1回でいいんですか!? ばんざーい!!
ほとんど絶望していたところですが、1回しかやらなくていいなら少しやれる気がしてきました。
なんとかやってみたいと思いますので、どんな制度か教えてください。
わかりやすくお願いします。
はい、具体例や記載例を使ってわかりやすく0から解説していきます!
本記事は給与所得者の定額減税に絞って解説します。
特に給与担当者がこの定額減税に関してやるべきことに的を絞って解説していきます。
1章から年末調整の処理方法前までの部分を動画でも解説しています。
動画の方が良い方は、こちらをご覧ください。
目次
1 所得税の定額減税とは
1-1 定額減税はいつからいつまで行われるのか
まず何よりも最初に確認したいのは、このいわゆる「定額減税」は令和6年分の所得税と個人住民税に対してのみ行われるということを押さえておきましょう。
実際に給与を支払う中で定額減税を行うのは、令和6年6月で、令和6年12月に完結します。
準備を含めると令和6年5月中に終わらせておく必要がある事務があります。(詳しくは後述します。)
1年きりの事務であることを知っていれば、この後どんな面倒そうなことをするように言われてもなんとか耐えられますよね。
はい、なんとか頑張っていきたいと思います。
1-2 定額減税の減税額
定額減税とは、「定額による所得税額の特別控除の額」の略です。
毎月の給与から天引きされている所得税と個人住民税から、配偶者や扶養親族を考慮して、次の表のように減税がされます。
税目 | 計算対象者 | 減税額 |
---|---|---|
所得税 | 本人 | 30,000円 |
同一生計配偶者※1 | 30,000円 | |
扶養親族※2 | 30,000円/人 | |
個人住民税 | 本人 | 10,000円 |
同一生計配偶者※1 | 10,000円 | |
扶養親族 | 10,000円/人 |
※1:同一生計配偶者とは、本人と生計を一にする配偶者のうち、合計所得金額が48万円以下(給与収入だけの場合は、収入103万円以下)の者。
※2:所得税法上の控除対象扶養親族だけでなく、16歳未満の扶養親族も含む。
それでは実際に、本人と配偶者と扶養親族が2人の場合を例に、定額減税を受けられる金額を計算してみましょう。
住民税で減税される限度額は次のとおりです。
10,000円(本人)+ 10,000円(配偶者) + 20,000円(扶養親族10,000円×2人)= 40,000円
住民税の定額減税は、住民税を給与天引きしている場合は、各自治体が令和5年分の所得の情報を元に令和6年7月から適宜天引き額を決定してきます。
つまり、住民税に関しては、給与担当者が定額減税のためにすることは特にありません。
今回の記事は給与担当者が定額減税に関してやるべきことについて解説するため、以後は所得税の定額減税に絞って解説していきます。
所得税に関しては次のとおりです。
30,000円(本人)+ 30,000円(配偶者) + 60,000円(扶養親族30,000円×2人)= 120,000円
ただし、この定額減税額は、本人の令和6年分の所得税額が限度となります。
本人の令和6年分の所得税額が90,000円の場合は、定額減税の限度額が120,000円であったとしても、90,000円となります。
1-3 定額減税を受けれる人
定額減税を受けることができる対象者は、次のいずれにも該当する人です。
定額減税の対象者
- 定額減税前の計算で所得税が発生する人
- 居住者※
- 令和6年分の所得税の所得金額が、1,805万円以下である人
※居住者とは、国内に住所を有する個人または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。
2 給与事務担当者がやるべき定額減税のスケジュール
定額減税の金額と対象者がわかったところで、この令和6年分の所得税の定額減税をどのようなスケジュールでやる必要があるのかを確認しましょう。
定額減税は令和6年1回だけのものと説明しましたが、令和6年中に次のようなスケジュールで行っていきます。
令和6年何月 | やるべきこと |
---|---|
3〜6月の給与支給まで | 控除対象の確認者 各人別控除事績簿の作成 |
6月 | 給与または賞与支払時の定額減税の控除 |
7月〜年末調整まで | 控除しきれない金額がある場合に、控除しきれない金額がなくなるまで引き続き給与または賞与支払時に控除 |
年末調整時 | 年末調整時点の定額減税額を算出して、これまでしてきた定額減税との差額があれば精算 |
最初に定額減税額を天引きされる所得税から控除するのが、令和6年6月の最初に支払われる給与または賞与の時です。
それまでに、
- 控除対象者の確認
- 各人別控除事績簿の作成
というのをやっていないといけないということですね。
そのとおりです。
差し当たって6月の給与または賞与支給時に向けて全力を傾ける必要があるということです!
なんとかやってみます。
実際にどうやって進めていけばいいかを教えてください。
3 給与事務担当者がやるべき定額減税に関する事務
差し当たって令和6月の最初の給与または賞与まで、つまり、5月までに終わらせたいのが定額減税の対象者の確認と各人別控除事績簿の作成でした。
この最優先事項について確認していきましょう。
3-1 定額減税の控除対象者の確認
- 令和6年6月1日現在、その会社に勤務している居住者
- その会社に扶養控除等申告書を提出している居住者
つまりこれに該当する人をまずはピックアップするということですね。
そうです。
扶養控除等申告書を提出している居住者とは、給与支払いのときに所得税を天引きする際に、源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者とも言い換えられます。
えーと、扶養控除等申告書ってどんな書類でしたっけ?
扶養控除等申告書の令和6年分の記載例をお見せしましょう。
令和5年の年末調整の時に提出しているはずですよ。
ああ、これですね。
提出しているはずです。
じゃあうちは、マイクロ法人なので、私だけが対象ということですね。
3-2 各人別控除事績簿の作成
各人別控除事績簿とは、どのようなものを確認しましょう。
3-2-1 各人別控除事績簿とは
各人別控除事績簿の様式から確認しましょう。
各人別控除事績簿の様式
ィヤック!
なんだこりゃー
面倒くさそー
激しく同意です。
ただ、面倒ですが、難しくはありません。
なんとかついてきてください。
引ききれない定額減税額がある場合、これを12月まで繰り返します。
だからこんなに列がいっぱいあるのか…
ここでは、全部理解できなくて大丈夫です。
実際に「各人別控除事績簿」を作りながらなら理解できますので。
各人別控除事績簿の様式は国税庁HPにあります。
3-2-2 各人別控除事績簿の書き方(その1)
では、「各人別控除事績簿」を作っていきましょう。
新米社長さん、あなたの令和6年分扶養控除等申告書を見せてください。
え、私の?
個人情報が…
みなさんのためだ、一肌脱ごう!
令和6年分扶養控除等申告書記載例(新米社長ver)
この情報をもとに「各人別控除事績簿」を作ってみましょう。
新米社長の扶養控除等申告書の内容から定額減税のために必要な情報を整理します。
控除対象者 | 控除額 |
---|---|
本人 (合計所得見積額1,805万円以下) | 30,000円 |
配偶者 (所得見積額48万円以下) | 30,000円 |
子 (所得見積額48万円以下) | 30,000円 |
子 (所得見積額48万円以下) | 30,000円 |
合計減税額 | 120,000円 |
新米社長の控除対象者は4人ですね。
これを各人別控除事績簿に書くとこのようになります。
本人(1)と
配偶者と扶養親族の数(3)を足して30,000円をかけるという書き方をするんですね。
(1 + 3) × 30,000 = 120,000
そうです。
新米社長さんの会社は社長1人なので、これだけですが、社員がたくさんいる場合は、控除対象者をすべてピックアップしてこの計算をします。
これが、令和6年の5月までにやるべきことです。
とりあえず、可及的速やかに今年の5月までにやるべきことはここまでなんですね。
これならなんとかやれそうです。
3-3 給与または賞与支給時の定額減税の控除のやり方
定額減税額を計算できましたが、この後実際にはどうやってこの減税が行われるんですか?
具体例を使って確認していきましょう。
3-3-1 定額減税額を使いきれるパターン
新米社長さんの定額減税額の合計は、120,000円でしたね。
これを次のケースで確認していきましょう。
天引きされる所得税の額 | 定額減税額の合計 |
---|---|
125,876円 | 120,000円 |
6月10日が賞与と言っていましたよね。そして給料日が6月25日でしたね。
なので6月に最初に支給されるのは賞与です。
この賞与の時にいつもどおり天引きされる所得税が125,876円としましょう。
前述のとおり減税の計算は、「天引きされる所得税 ー 定額減税額」で計算します。
本来は賞与の金額から125,876円の所得税が天引きされるところ、5,876円の天引きで済む。つまり
120,000円得した。→120,000円が減税されたということですね。
ィヤッピー!
面倒なことをさせられるけど減税されたらうれしいですね!
これが一番簡単なパターンです。
各人別控除事績簿に加筆した例を確認しておきましょう。
各人別控除事績簿の書き方(その2)
各人別控除事績簿(1回で定額減税額を使い切るパターン)
普通に計算した天引きされる所得税の金額を「控除前税額③」欄に記載して、④欄に定額減税額の合計金額を記載する。
それで、②欄 ー ④欄の計算結果を⑤欄に書くんですね。
3-3-2 定額減税額を使いきれないパターン
では次に、6月は給与が先(6/10)でその次に賞与の支給(6/28)があるパターンを見ていきましょう。
①6月10日に給与支給のケース
天引きされる所得税の額 | 定額減税額の合計 |
---|---|
11,750円 | 120,000円 |
減税の計算は、「天引きされる所得税 ー 定額減税額」で計算します。
あれ?マイナス?
天引きされる所得税が少なすぎて120,000円を使いきれないのか!
この場合はどうするんですか?
6月の給与から天引きされる所得税は、0円です。
使い切ってない108,250円は、次の給与または賞与で天引きされる所得税から差し引きます。
② 6/28に賞与の支給があるパターン
天引きされる所得税の額 | 定額減税額の合計 |
---|---|
98,000円 | 108,250円 |
減税の計算は、「天引きされる所得税 ー 定額減税額」で計算します。
また引ききれない。
6月の賞与の天引きされる所得税は、また減税された0円。
そして引ききれない10,250円は7月の給与でまた差し引くんですね。
そういうことです。
実際に計算してみましょう。
③ 7月の給与のケース
天引きされる所得税の額 | 定額減税額の合計 |
---|---|
11,750円 | 10,250円 |
減税の計算は、「天引きされる所得税 ー 定額減税額」で計算します。
7月分の給与から天引きされる所得税が11,750円から定額減税のおかげで1,500円になって、定額減税額の残りをすべて使いきったのでここで完結になります。
各人別控除事績簿の記載例も確認しておきましょう。
各人別控除事績簿の書き方(その3)
今回のパターンでは、7月の給与ですべて定額減税の合計額を控除しきれていますが、控除しきれない場合は、年末調整が行われるまで続けます。
うぇー!
ほとんど苦行ですね。
令和6年1回きりの事務でよかったと心から思う。
最後に年末調整で精算事務を行なって定額減税とはさようならです。
3-4 年末調整時の精算
最後に年末調整時に定額減税に関してやるべきことを確認しましょう。
3-4-1 定額減税の対象者の確認
定額減税に関して年末調整でやるべきことは、まず定額減税の対象者の確認です。
え!?
またやるんですか!?
令和6年5月までのところでやりましたよね!
あれは令和6年6月1日の現況で対象者を決定したわけなんです。
年末調整は、年内最後の給与が支払われる日の現況で判断するので、その時点でもう一回対象者を正確に判断するということです。
令和6年6月以降に子どもが生まれたり、配偶者の所得が48万円を超えたといったことがありえますので。
だったら年末調整時に1回控除すればいいんじゃないですか?
控除しきれないものを繰り越す必要もないし、2回も定額控除の計算しなくていいんですから。
はい…
心からそう思う。
気を取り直していきましょう。言っても仕方ないことですから。
これは選挙時に貴重な1票で訴えるということで…(インボイス制度分も含めて)
年末調整時に提出してもらう書類で定額減税対象者を確定させます。
もう一度定額減税対象者を確認しておきましょう。
定額減税を受けることができる対象者は、次のいずれにも該当する人です。
定額減税の対象者
- 定額減税前の計算で所得税が発生する人
- 居住者
- 令和6年分の所得税の所得金額が、1,805万円以下である人
この時に確認が必要な年末調整の書類って具体的には何でしょう?
具体的には次の2つの書類です。
令和6年分給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書
…
引用:国税庁HP
合計所得金額が1,805万円を超えるかどうかは、この書類の「給与所得者の基礎控除申告書」部分で判断します。
また、配偶者の合計所得金額が48万円以下かどうかは、「配偶者控除等申告書」部分で判断します。
令和6年分 源泉徴収に係る定額減税のための申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書
引用:国税庁HP
これは、定額減税の対象に配偶者または扶養親族を新たに含める時に使用する様式です。
なお、配偶者または扶養親族に変更がある都度、扶養控除等(異動)申告書を提出している場合は、この様式を提出する必要はありません。
3-4-2 定額減税の再計算
定額減税の対象者を確定させたらもう一度定額減税の合計額を算出します。
定額減税額
- 本人:30,000円
- 同一生計配偶者:30,000円
- 扶養親族:1人につき30,000円
仮に定額減税の合計額が120,000であった場合にどのように年末調整で所得税額を確定するかを具体例を用いて確認していきましょう。
年末調整での定額減税を加味した計算例
(出典;国税庁のYouTube)
3-4-3 源泉徴収票に定額減税額に関する事項を表示
続いては、年末調整で所得税の精算が終わった後に源泉徴収票を配布しますが、その際の定額減税の表示の話です。
年末調整後に源泉徴収票を各従業員に配布しますが、その際に、定額減税の対象者には定額減税をした旨を記載し、これで定額減税事務は完了です。
(引用:国税庁「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」
※「控除外税」とは、定額減税を控除しきれなかった金額を指します。
詳しくは、国税庁の「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」の「5 源泉徴収票への表示」をご覧ください。
これで給与事務担当者がやるべき定額減税に関する事務が完了です。
お疲れ様でした。
…….
1回きりだから….な、なんとかやるぞー
あ、そうだ、今回の定額減税は、定額減税分の所得税がある人は減税されるのは当然なのですが、住宅ローン控除なんかで元々納めている税金が少ない人は、この減税の恩恵はすべて受けれないってことになるんですかね?
【納めている所得税 < 定額減税額】
納めている所得税が0で、定額減税されるべき金額が120,000といったケースです。
そういう場合は、自治体から調整給付金という名目で定額減税されない金額がある場合は、現金で支給することが決まっています。
上の例だと120,000円がもらえることになります。
定額減税の金額すべてを減税しきれない場合は、調整給付金が自治体から支給されることが決まっています。
詳しくはこちらの記事で、調整給付金の概要とどのように支給されるのかを解説しています。
4 まとめ
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