最近、仕事の効率化のために40万円のパソコンを買ったんだけど、これってどうやって経費にするのかな?
基本的には30万円以上の資産を購入した場合は、減価償却を行う必要がありますよ。
減価償却?
聞いたことはありますが、これは一体どのようなものなんでしょうか?
私のような会計素人でも理解できますかね?
もちろんできます!
減価償却の計算自体はそこまで難しいものではありません。
ただ、知っておくべきことは多いので、今回は減価償却の基本を会計初心者でもわかるようにできる限り簡単に解説していきたいと思います!
よろしくお願いします!
1章の「減価償却の概要」から2章の「減価償却の対象となる資産とは?」の内容を動画でも解説しています。
動画が好みの方はこちらもご活用ください。
目次
1 減価償却の概要
そもそも、減価償却とはなんですか?から解説をお願いします。
それでは、減価償却とはどのようなものかという基本からできるかぎりに簡単に解説していきます!
1-1 減価償却の基本的な考え方
この章で減価償却の基本的な考え方を理解しましょう。
固定資産を購入した場合は、その支出した全額を費用にできない?
うーん、そもそも固定資産とは何でしょうか?
減価償却の前に「固定資産」について簡単に確認しておきましょう。
固定資産とは、この程度に捉えてもらって構いません。次をご覧ください。
例えば、車両や建物、家具、機械設備、パソコンなど1年を超えて使用されることが予定されるものが固定資産の例として挙げられます。
法人税法上では、1年を超えて使用するかどうかは主観も入るので、これとは別の判断基準で、10万円以上の資産を固定資産と判断することもできます。
ふむふむ。
この固定資産を購入したときは、その全額を一度に費用にするのではなく、使用する期間にわたって費用にするんですね!
ってどういうことですか?
固定資産というのは、購入後すぐに消費される消耗品などと違い、数年または、数十年にわたって使用されるものだと説明しましたよね?
だから、使用することによってその資産の価値が減少した分だけ段階的に費用にしていくというのが減価償却の考え方なのです。
具体例を使って解説しましょう。
300万円の自動車を買った例で考えてみましょう。
この車両が3年しかもたないものと仮定します。
なるほど、これが減価償却の考え方なんですね。
でもなぜ、この減価償却が必要なんでしょうか?
購入した年度に経費とした方が楽じゃないですか?
確かに資産を購入した代金の全額をその年度に経費にすると楽ですよね。
ただ、減価償却には明確な目的があり、会計にとっては、とても大事なことなのです!
それでは次に、なぜ減価償却が必要なのかについて確認していくことにします。
1-2 なぜ減価償却が必要なのか
なぜ、減価償却が必要なんでしょうか?
なぜこのようなことをするのですか?
減価償却は、費用と収益を実態に即して正確に計算するためのものと言えます。これは、「費用収益対応の原則」と呼ばれる会計のルールに基づいています。
「費用収益対応の原則」?
それはいったいなんでしょうか?
企業会計では、お金を支払ったタイミングで費用を計上するのではなく、「そのお金を使って得られた収益に対応させて費用を計算する」 というルールがあります。
これを、「費用収益対応の原則」と言います。
例えば、会社が100万円のトラックを買ったとします。このトラックは5年間使用できるものとします。
このトラックは購入した年度にだけ会社の売上に貢献しますか?
いいえ。
5年間使用できるということは、5年間会社の売上に貢献します。
そうか!5年間会社の売上獲得に貢献するから5年間にわたって費用にしようということですね!
そういうことです。
もし、1年目に100万円をまとめて費用にすると、1年目の費用が極端に大きくなります。つまり利益が極端に少なくなってしまいます。2年目以降はトラックを使っているのにその費用がないので、利益が多く計上されます。
100万円のものが5年使えるのであれば、100万円÷5年で、1年あたりの費用は20万円という計算ができます。
ここで、減価償却を使う場合と使わない場合を考えてみましょう。
①一度に費用とする方法 | ②減価償却を考慮する方法 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
決算 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
売上 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
仕入 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
固定資産 | 100 | 0 | 0 | 20 | 20 | 20 |
利益 | -50 | 50 | 50 | 30 | 30 | 30 |
①「一度に費用とする方法」は、購入した年だけ資産の購入費用全額分(100)多くなるためにその年は損失(−50)が多く算出され、その後の年の利益は多く算出されます。
②減価償却を考慮する方法は、資産の購入費用を100とし、それを5年間使い続けると考えると、100÷5で1年あたり20の費用をそれぞれの年に配分します。すると年間の利益は30ずつで平準化されます。
減価償却をしないと、50も赤字になって、減価償却をすると30の黒字になるのか。
同じ事業をしているのに全然違う結果になるんですね。
同じ事業をしているのに、固定資産を購入したら利益が極端に減るというのは確かに違和感がありますね。
会計の考え方は、2つ目の方を採用しています。
もし、「①一度に費用とする方法」のように固定資産を買った年に全額を費用にしてしまうと、実際にはその資産が何年も使えるのに、会計上はその年だけ影響があったように見えてしまいます。これでは、「どの年にどれだけの利益が出たのか」を正しく判断できません。
そこで、資産収益獲得に貢献する期間、つまり使える期間(耐用年数)に渡って、費用を段階的に計上することで、より正確な会計にするのが減価償却なのです。
1-3 減価償却費とは
ここまで、減価償却とは何なのかという基本を解説をしてきました。
減価償却とは、長期に渡って使用されるものを購入したら、その購入代金を一度に費用にするのではなく、収益獲得に貢献する期間(=使える期間)の間、分割して費用を計上する方法であるというものでした。
この減価償却を使って分割して計上した費用のことを「減価償却費」とよびます。
120万円の中古車を購入して、それを3年に渡って40万円ずつ均等に減価償却すると以下のようになります。
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
---|---|---|---|
減価償却費 | 40万円 | 40万円 | 40万円 |
120万円の車を1年目に減価償却をして40万円分費用にしました。
これを会計的に表現すると、「120万円の車を1年分償却して、40万円減価償却費を計上しました。と言います。
1-4 減価償却をしないとどうなるのか
減価償却の考え方や目的は理解できました!
ところで、手間を掛けて正確な会計にする必要のない人はやらなくていいってことでしょうか?
減価償却って絶対にしなくてはいけないのでしょうか?
減価償却が必要な固定資産を取得したら減価償却は必ずしなければなりません!
しかしながら、減価償却費の計上のタイミングが、個人事業主と法人とで違いがあります。
個人事業主 | 法人 |
---|---|
強制償却 (毎年減価償却費の計上必須) |
任意償却 (好きな時に減価償却費を計上できる) |
1-4-1 個人事業主の場合
個人事業主は、減価償却が必要な固定資産を取得したら、必ず毎年減価償却費を計上する必要があります。
「今年は利益が少ないから減価償却費を計上するのをやめておこう」ということができません。
必ず一定の方法で計算した減価償却費を計上する必要があることに注意しましょう。
1-4-2 法人の場合
法人ももちろん減価償却を行わなければなりませんが、減価償却費を計上するタイミングを自由に決められます。
法人は、個人事業主のように必ず減価償却費を計上しなければならないというように決められていません。
したがって「今年は利益が少ないから減価償却費を計上するのをやめておこう」ということができます。
実際に、減価償却費を計上すると赤字になってしまうからという理由で、減価償却費を計上しないという会社は少なくありません。
法人の場合は、利益が出ていないときは、減価償却費を計上せず、利益が出たら減価償却費を計上するということが可能です。
なるほど。
個人事業主は必ず減価償却を行い、法人の場合は減価償却を行うかは任意なのですね。法人の方は、減価償却費を計上するタイミングを調整することで利益をコントロールすることができるんですね。
そういうことになりますね。
わかりました!
あと、固定資産というと自動車や建物なんかを想像できますが、他にどんなものを購入した場合に減価償却を行う必要が出るのでしょうか?
また、減価償却をすることができない資産なんてものもあるのでしょうか?
2 減価償却の対象となる資産とは?
減価償却ができる固定資産はどのようなものがあるのでしょうか?
また、減価償却できないものはありますか?
固定資産を持っているからといって、すべてが減価償却できるわけではありません。
「価値が時間とともに減るもの」と「減らないもの」があるからです。
2-1 減価償却できる資産
減価償却できる資産の特徴としては、その使用の効果が長期間にわたり、かつ時の経過や使用により徐々にその機能や価値が減少していく資産です。
これを税務では「減価償却資産」と呼びます。
具体的には、次のようなものがあります。
🏠 建物関連
資産の種類 | 例 |
---|---|
建物 | 事務所・店舗・工場・倉庫・病院 など |
建物附属設備 | アーケード・日よけ・電気・給排水・ガス設備 など |
構築物 | ブロック塀・用水路・貯水槽・サイロ など |
🚗 車や道具など
資産の種類 | 例 |
---|---|
車両運搬具 | 小型車・トラック・バイク・自転車 など |
工具 | 測定工具・検査工具・取付工具・金属製柱 など |
器具備品 | 事務机・椅子・キャビネット・冷暖房機 ・パソコン など |
機械装置 | 製造業・農業・林業などの設備 |
💻 無形資産(形はないけど価値があるもの)
資産の種類 | 例 |
---|---|
ソフトウェア | コンピューター用のプログラム |
特許権・工業所有権 | 技術やデザインの権利 |
のれん | 企業のブランド価値 |
🐄生物
資産の種類 | 例 |
---|---|
生物 | 牛、馬、果樹 など |
2-2 減価償却できない資産
時間が経っても価値が減らない資産は、減価償却ができません。
例えば、以下のようなものです。
🏞️ 土地・歴史的なもの
資産の種類 | 例 |
---|---|
土地 | 価値が減らないため減価償却しない |
歴史的価値のあるもの | 古美術品・古文書・遺物 など |
高価な美術品(100万円以上) | ただし、時間とともに価値が減るものは対象外 |
🚧 まだ使われていないもの
資産の種類 | 例 |
---|---|
遊休固定資産 | 使われていない建物や機械 |
建設中の建物・機械 | まだ完成していないもの |
減価償却できない資産の代表は「土地」です。
土地は減価償却費を計算せず、取得価額がそのまま貸借対照表に載り続けます。
わかりました!
「使っているうちに古くなったり、価値が下がるものは減価償却できる」ということですね!
減価償却できる資産は、使える期間に渡って均等に分割して減価償却費を計上していけばいい、これが減価償却ですね!
ここまで解説した内容はそういうことです。
ここまでは減価償却の概要だったので、その理解でOKです。
実は、減価償却費は、使える期間で均等に分割すればいいという単純なものではありません。
ここからは各論です!
続いて減価償却の計算方法について学んでいきましょう!
3 減価償却費の計算方法
ここでは、減価償却費の計算方法について解説していきます。
減価償却費を計算するには、どのような情報が必要なのか。また、その情報からどのような計算方法で減価償却費を算出するのかを確認していくことにしましょう。
この3章の内容は、動画でも解説しています。
動画が好みの方はこちらもご活用ください。
3-1 算出に必要な情報を確認する
まずは、減価償却費を算出するにあたり、必要な情報を確認してきます。
減価償却の計算に必要な情報??
例えばどのようなものがあるのでしょうか?
減価償却の計算に際して必要な情報は、以下の4つとなります。
- 資産の事業供用日(いつ使い始めたか)
- 取得価額(いくらで取得したか)
- 償却方法(どの計算方法で償却するか)
- 耐用年数(何年で償却するか)
難しそうな言葉ばかりですね。
これらはそれぞれどんなものなのでしょうか。
では、一つずつ簡単に解説していきたいと思います。
3-1-1 資産の事業供用日を確認する
事業供用日とはどのようなことなのでしょうか?
減価償却の計算は、資産を事業で使い始めた日(事業供用日)から行います。(事業の用に供した日とも言います。)
そのため、仮に資産を年度の初めに購入した場合でも、実際に使用を開始したのが年度の途中であれば、その事業供用日を基準にして月割りで減価償却費を計算していくことになります。
また、資産の使用を止めて一旦倉庫などに保管した場合、原則としてその保管期間は減価償却費の計上をすることができません。
その資産は、事業の用に供していないためです。
ここは、あまり難しく考える必要はありません。
実務では「購入した日」=「事業供用日」になるケースが多くなります。
よほど大きい機械を購入して、実際に使えるまで設定や試運転が必要だなどと言った場合は、事業供用日が遅くなることがありますが、多くは両者は一致してきます。
実務では、使わない、使えない期間がある場合は、事業供用日を把握する必要がある。それ以外はだいたい「購入した日」=「事業供用日」となると覚えておいて差付けありません。
月数按分の計算については、後述します。
事業供用年月日(事業の用に供した日)については、次の記事で詳しく解説しています。
3-1-2 取得価額を確認する
続いては、減価償却費計算に必要な第2の要素「取得価額」です。
取得価額はわかりますよ!
購入代金のことですよね?
基本的にはその理解で大丈夫です。
ただし、取得価額は、購入代金だけはないケースもあります。
以下のような計算式で算出します。
なるほど、、
購入するためにかかった費用や使用するためにかかった費用はどのようなものでしょうか?
購入するためにかかった費用のことを「付随費用」と言います。
例としては以下のようなものが該当します。
【付随費用に該当する支払い例】
- 引取運賃
- 荷役費
- 納車費用
- 運送保険料
- 関税
- 購入手数料
- その他の購入のために支払った費用
使用するためにかかった費用のことを「事業供用費用」と言います。
購入した資産を事業に使用できるようにするための費用の支払いが該当します。
例としては以下のようなものが該当します。
【事業供用費用に該当する支払い例】
- 設置費、据付費
- 試運転費
- 電気配線工事費
- その他の資産の使用に必要になった費用の支払い
付随費用や事業共用費用を含めずに取得価額を計算すると、減価償却費の計算が誤ってしまう可能性がありますので注意が必要です。
3-1-3 中小企業が使用する主な償却方法
続いては、減価償却費計算に必要な第3の要素「償却方法」です。
- 定額法
- 定率法
減価償却の方法には、中小企業が使用する代表的なものとして「定額法」と「定率法」があります。
この2つの償却方法以外での償却はほとんど行うことはありませんので、この2つを理解していればOKです。
それでは、それぞれの特徴を理解していきましょう。
3-1-3-1 定額法とは
定額法というのは、資産の耐用年数の間、毎年同じ金額の減価償却費を計上する方法です。
計算がシンプルで、長期間使用する建物などの資産に適しています。
・定額法での減価償却費のイメージ図
定額法での減価償却費の計算方法は以下の通りです。
例えば、ある資産が2年しか持たないとすれば、償却率は0.5に設定されます。
100万円 × 0.5 = 50万円
今年度の減価償却費は50万円と計算されます。
毎年均等額を減価償却していくというのが「定額法」です!
3-1-3-2 定率法とは
定率法というのは、使用開始時に最も多くの減価償却費を計上し、年を追うごとに減価償却費が少なくなっていく方法です。
・定率法での減価償却費のイメージ図
この方法では、早い段階で多くの費用を計上できるため、税額を抑えながら投資資金を早期に回収することが可能になります。
当記事では平成24年4月1日以後に取得する減価償却資産に適用される「200%定率法」のみの解説をしていきます。
そのため、当記事で「定率法」としているのは、「200%定率法」を指していますので、ご留意ください。
定率法での減価償却費の計算方法は以下の通りです。
※その年度の開始時の帳簿残高です。前年度までの減価償却費の累計額を差し引いた残高を意味します。「取得価額-前年までの減価償却累計額」と言うこともできます。
例えば200万円の車両を購入したとして、6年使用できるとすると償却率は0.319に設定されます。
1年目 | 2年目 | 3年目 |
---|---|---|
200万×0.319 = 63.8万円 | 136.2万(200万 – 63.8万)×0.319 = 43.5万円 | 43.5万(136.2万 – 43.5万)×0.319 = 29.6万円 |
なるほど。定率法は最初は多くの減価償却費を計上できるけど、年数が経てば経つ程計上できる減価償却費が少なくなるってことですね。
3-1-3-3 定額法と定率法のどちらを選択するべきか
主な償却方法は、「定率法」と「定額法」の2種類ってことですね。
でも、この2種類のどちらの償却方法を使って計算したらいいのでしょうか。
自分で選択できるんですよね?
実は、法人税法と所得税法で資産の種類ごとに適用できる償却方法が決められています。
ただし、複数の償却方法が認められている資産の場合は税務署へ届出(減価償却資産の償却方法の届出)を提出することで、会社自身が決めることができます。
しかし、この届出をしなかった場合、資産の種類ごとにその償却方法を選択したとみなすというものがあります。これを「法定償却方法」といいます。
資産の種類ごとの選択可能な償却方法及び法定償却方法は下表のとおりです。
資産の種類ごとの選択可能な償却方法及び法定償却方法一覧表
固定資産の種類 | 法定償却方法 | ||
---|---|---|---|
法人 | 個人 | ||
建物 | H10.3.31以前に取得 | 定率法 | 定額法 |
H10.4.1以降に取得 | 定額法 | ||
建物付属設備・構築物 | H28.4.1以前に取得 | 定率法 | |
H28.4.1以後に取得 | 定額法 | ||
機械・装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具、器具備品 | 定率法 | ||
無形固定資産・生物 | 定額法 |
特にこだわりがなければ、この表のとおりの償却方法を使えばいいということですね。
そういうことになります。
税務署に届出を出して償却方法を変えるというのは実務では稀なケースと言えます。多くの場合、この法定償却方法で計算しています。
法人の法定償却方法について、以下の記事で詳しく解説しております。理解を深めたい方はこちらもどうぞ。
3-1-4 耐用年数を確認する
続いては、減価償却費計算に必要な第4の要素「耐用年数」です。これが最後の要素です。
耐用年数というのは、購入した減価償却資産が何年間使用できるものなのかというものです。
なるほど。持っている資産が使用できる期間ということですね。
私は、車をだいたい3年で買い替えるので、会社の車も耐用年数を3年にすることにします。
いいえ、実は耐用年数は実質的には、そのように自分たちで決めることができないのです!
固定資産というのは、使用の状況などでそれぞれの会社ごとに違いが出るのが普通です。
ということは、会社がどのように使用しているのかやどのくらい稼働しているかなどから耐用年数を見積もることが一番実情に近いはずです。
しかしながら、多くの企業がこれをしていません。
なぜなら、税法において、資産の種類や構造によって、その資産の耐用年数を一律に規定しています。これを「法定耐用年数」と呼びます。
会社が、法定耐用年数以外で自由に計算しても、税金の計算をする際には法定耐用年数で減価償却費を計算し直して申告する必要が出てきてしまうからです。(この話はもう一度後で詳しく解説します。)
そのため、自社で決めた方法で計算しても、どうせ直されるなら始めから税法で定められた耐用年数を採用して減価償却費を計算することを選択する会社がほとんどなのです。
確かに。せっかく計算してもどうせ直されるなら始めから決められた方法で計算する方が楽ですね。
なお、法定耐用年数について、次の記事でも詳しく解説しています。
法定耐用年数については、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で別表第一から別表第六で定められており、ここから自分が取得した資産の耐用年数を調べることになります。
うわー!
なんだか字ばっかりでとても調べる気になりませんよー!
いい方法はありませんか?
最適な方法が実はあります!
全力シリーズの耐用年数を簡単に調べるサイト「全力耐用年数」を活用する方法です。
資産の名前で検索できたり、中古資産の耐用年数も計算できたりするすぐれものです!
うちの車は白ナンバーで5だから6年ってことか。
おお、これならわかりやすい!
代表的な耐用年数を挙げておきます。
リンクをクリックすると「全力耐用年数」の検索結果に飛び、詳しい耐用年数を調べることができます。
資産例 | 耐用年数 |
---|---|
普通自動車 | 6年 |
パソコン(サーバー用以外) | 4年 |
ルームエアコン | 6年 |
ソフトウェア | 5年 |
3-2 減価償却費の算出
これらの4つの情報を収集することで減価償却の計算ができるということですね!
これらを使って、実際にどうやって減価償却費を算出するか教えたください!
そうですね。
では、次は定率法と定額法のそれぞれの方法で実際に減価償却費を算出していくことにします。
中小企業では定率法と定額法以外の方法を適用することは非常に稀ですので、この2つの償却方法で減価償却費を計算する方法を具体的に解説していきます。
頑張ってついて来てください!
3-2-1 定額法での減価償却費の計算方法
最初は比較的に計算が簡単な定額法から解説していきましょう。
この定額法の計算式を実際の例に当てはめて計算していきましょう!
【設定内容】
決算期:3月末決算
取得年月日:令和2年4月1日に取得し同日使用開始
取得価額:5,000,000円
耐用年数:5年(→償却率は0.2)
年数 | 事業年度 | 計算式 | 減価償却費 | 期末帳簿価額 |
---|---|---|---|---|
1年目 | 令和3年3月期 | 5,000,000円×0.2=1,000,000円 | 1,000,000円 | 4,000,000円 |
2年目 | 令和4年3月期 | 5,000,000円×0.2=1,000,000円 | 1,000,000円 | 3,000,000円 |
3年目 | 令和5年3月期 | 5,000,000円×0.2=1,000,000円 | 1,000,000円 | 2,000,000円 |
4年目 | 令和6年3月期 | 5,000,000円×0.2=1,000,000円 | 1,000,000円 | 1,000,000円 |
5年目 | 令和7年3月期 | ①5,000,000円×0.2=1,000,000円 ②1,000,000円(期首帳簿価額)-1円=999,999円 ①と②の少ない金額が今期の減価償却費となる |
999,999円 | 1円 |
計算式に当てはめると以下のようになりますね。
5,000,000(資産の取得価額)× 0.2(償却率)= 1,000,000円(減価償却費)
この計算を毎年淡々とやるイメージですかね。
そうですね。
定額法は、均等額を償却していくだけなので、上の計算例のようにかなりシンプルなものになります。
ただし、償却する最後の年度には、定率法と同様に1円の備忘価額を残す必要があることに注意しましょう。
備忘価額ですか?
・備忘価額について
減価償却を行う上で、忘れてはいけないのが、償却し終わる最後の年度において、期末帳簿価額が1円だけ残す必要があります。
1円を残して償却するってことでしょうか?
それはなぜですか?
この1円は備忘価額と言い、その資産を売却や除却などして処分するまで、この1円は残しておくことになります。
減価償却が終わっても、固定資産台帳や財務諸表にその資産が会社に存在していることを記録しておくのが目的です。
資産があることを忘れないようにするってことですね。
わかりました。
定額法の計算は、入門編にはぴったりでしたね。
続いては、定率法の解説です。
定率法は少し複雑になりますが、しっかりついてきてください。
3-2-2 定率法での減価償却費の計算方法
続いて定率法の計算方法を確認していきましょう。
この定額法の計算式を実際の例に当てはめて計算していきましょう!
【設例内容】
決算期:3月末決算
取得年月日:令和2年4月1日に取得し同日使用開始
取得価額:3,000,000円
耐用年数:5年
(定率法の償却率 0.4/保証率 0.108/改定償却率 0.500)
償却保証額:300万円×0.108=324,000円
年数 | 事業年度 | 計算式 | 減価償却費 | 期末帳簿価額 | 償却費の合計 |
---|---|---|---|---|---|
1年目 | 令和3年3月期 | 3,000,000円×0.4=1,200,000円 | 1,200,000円 | 1,800,000円 | 1,200,000円 |
2年目 | 令和4年3月期 | 1,800,000円×0.4=720,000円 | 720,000円 | 1,080,000円 | 1,920,000円 |
3年目 | 令和5年3月期 | 1,080,000円×0.4=432,000円 | 432,000円 | 648,000円 | 2,568,000円 |
4年目 | 令和6年3月期 | ①648,000円×0.4=259,200円 ②償却保証額 324,000円 ③ ①<② よって改定償却率を適用 648,000円(改定取得価額)×0.500(改定償却率)=324,000円(今期の減価償却費) |
324,000円 | 324,000円 | 2,892,000円 |
5年目 | 令和7年3月期 | 648,000円(改定取得価額)×0.500(改定償却率)=324,000円(今期の減価償却費) 備忘価額の1円を残して償却する |
323,999円 | 1円 | 2,999,999円 |
ふむふむ、、うん!?
3年目までは、前期末帳簿価額×償却率で計算できますね。
例えば3年目は、前期末の帳簿残高が1,080,000円で償却率が0.4だから
1,080,000 ×0.4 = 432,000
ですが、4年目に計算がおかしいことになっていますね。
この計算は聞いてないですよ?
定率法で減価償却を行うと、最初の方は、減価償却費が多めに計算されるため、投資した資金を早く回収しやすくなっています。
しかし、定率法の計算では、耐用年数の終盤になると償却費が少なくなり、耐用年数が過ぎても減価償却が完了しないという問題が発生してしまいます。
確かにそうですね。
定率法での減価償却費の計算式は、「定率法の減価償却費=(取得価額-前年までの減価償却累計額)×定率法の償却率」ですから、いつまで経っても償却し終わらないですよね。
この問題を防ぐために、定率法では、ある一定の金額になると期首の帳簿残高を残りの耐用年数で均等に減価償却するという定額法のような償却方法に切り替わります。
ここに関わってくるのが、「改定償却率」及び「改定取得価額」、「償却保証額」です。
次に、このある一定の金額とはいつなのか、そしてどのように償却方法が切り替わるのかを詳しく見ていきましょう。
改定償却率で算出した償却方法に移行について
定率法で減価償却を一定金額まで行うと、「改定償却率」を使った償却方法に切り替わります。
この一定金額を「償却保証額」と呼びます。
償却保証額 = 取得価額 × 保証率
保証率というものをかけて償却保証額を計算すると言うことですが、保証率はどうやって求めるのですか?
保証率の具体的な割合は、償却率表から確認することができます。
さっきの例に当てはめると耐用年数5年の償却率は0.108です。したがって償却保証額は以下のように求められます。
300万円(取得価額)×0.108(償却率)=324,000円(償却保証額)
それで、この償却保証額はどう使うのでしょうか?
定率法を使って減価償却費の計算を続けていくと、ある時点で計算された減価償却費が、この償却保証額を下回ります。
算出した減価償却費が償却保証額を下回った年度以降は、減価償却費の算出方法が切り替わることになります。
算出した減価償却費が償却保証額を下回った年度以降は、減価償却費の算出方法が切り替わる??
先ほどの例だと4年目が切り替わるタイミングです。
この切り替わったあとの定率法の計算方法を「定率法ver2」とこの記事では名付けます。
算出した減価償却費 | 大小 | 償却保証額 |
---|---|---|
648,000 × 0.4 = 259,200 | < | 3,000,000 × 0.108=324,000 |
ちなみに3年目の減価償却費は432,000で償却保証額より大きくなっていますので、切り替わらずにそのまま432,000が減価償却費として採用されていますね。
ふむふむ、、通常の方法で算出した減価償却費が償却保証額を下回った場合に、この式で計算するんですね。
ところでこの「改定取得価額」と「改定償却率」って一体どういうものなのでしょうか?
「改定取得価額」というのは、「通常の減価償却計算では償却保証額を下回ってしまう年度の期首の未償却残高」のことです。
つまり、定率法ver2に切り替わる年度の期首帳簿残高を新しい取得価額とみなして計算を行います。
「改定償却率」というのは、残りの耐用年数で未償却額をきちんと償却できるように調整された特別な償却率のことです。
改定償却率についても、償却率表から確認することができます。
先ほどの例に当てはめると、定率法ver2に切り替わるのは4年目でした。4年目の期首帳簿残高は648,000円です。耐用年数5年の改定償却率は0.5です。したがって定率法ver2による減価償却費は以下のように求められます。
648,000 ×0.5 = 324,000円
これを定額法のように次の5年目も同様に計算するのですね。
そうすると償却が終わるのでまた備忘価額1円を残すと。
わかりました!
これで減価償却費の計算はコンプリートですか?
減価償却費の計算の基本はこれで完了です!
あとは、事業年度の途中で資産を取得した場合にちょっとした調整が必要になってきますので、それをやってしまいましょう!
確かに今まで見てきた設例だとどちらも償却し始める年度の期首に取得したものでしたね。
事業年度の途中で資産を取得したときの減価償却はどうやって計算するんでしょうか?
ここで、事業供用年月日が登場します。
では、次は事業年度の途中で資産を取得した場合の減価償却費の計算について確認していきます。
3-3-3 事業年度の途中で資産を取得した場合の減価償却費の計算
事業年度の途中で資産を取得したときの減価償却はどうやって計算するんでしょうか?
資産を購入して使い始めるタイミングは、事業年度の開始日とは限りません。ほとんどの場合、必要になった時に購入し、使用を開始するため、事業年度の途中で使い始めるケースが一般的です。
このように、事業年度の途中から使用を開始した資産の減価償却は、使用開始月からの月割計算を行うことになります。
月割計算をする必要があるんですね。
例えば資産を使い始めた日(事業供用年月日)が9月15日であった場合、減価償却の開始月は9月となります。
このとき、1カ月未満の端数は切り上げて1カ月として計算するため、9月1日から使用した場合と同じ計算方法になるということになります。
【設例内容】
決算期:3月末決算
事業供用年月日:令和2年9月15日
令和2年9月(1月未満切り上げ)から令和3年3月まで(初年度は7か月間で計算)
使用した月数は7ヶ月で、この年度は12ヶ月なので、次のように減価償却費を調整します。
1年間の減価償却費 × 7 /12 = 当期の減価償却費
実際に計算してみましょう。
取得価額:5,000,000円
耐用年数:5年
(定額法の償却率 0.200)
年数 | 事業年度 | 計算式 | 減価償却費 | 期末帳簿価額 |
---|---|---|---|---|
1年目 | 令和3年3月期 | 5,000,000円×0.200×7か月÷12か月=583,334円 | 583,334円 | 4,416,666円 |
2年目 | 令和4年3月期 | 5,000,000円×0.200=1,000,000円 | 1,000,000円 | 3,416,666円 |
3年目 | 令和5年3月期 | 5,000,000円×0.200=1,000,000円 | 1,000,000円 | 2,416,666円 |
4年目 | 令和6年3月期 | 5,000,000円×0.200=1,000,000円 | 1,000,000円 | 1,416,666円 |
5年目 | 令和7年3月期 | 5,000,000円×0.200=1,000,000円 | 1,000,000円 | 416,666円 |
6年目 | 令和8年3月期 | ①5,000,000円×0.200×5か月÷12か月=416,667円 ②416,666円(期首帳簿価額)-1円=416,665円 ①と②の少ない金額が今期の減価償却費となる |
416,665円 | 1円 |
このような計算となります。
このため、資産を購入した年の節税のために決算日が近いからと言って慌てて資産を購入しても、そこまで節税に繋がらないということになります。
そういうことなんですね。
わかりました!
4 少額の減価償却資産の取り扱い
減価償却費の算出方法については理解できました。
あと聞きたいのが、減価償却は3万円くらいの備品などを買った時もしなくてはいけないのでしょうか?
取得価額が少額な減価償却資産の場合、その取得価額や会社の規模などによっては、そもそも減価償却の必要がなかったり、一時の費用とすることができたり、資産の耐用年数に関係なく3年間で均等償却することができたりします。
資産の取得価額で減価償却費の仕方が変わるんですね。
どのように変わるのでしょうか?
少額な減価償却資産を取得した場合の償却方法などは下表のとおりになります。
【取得価額が少額な減価償却資産を取得した場合の取り扱い】
購入した資産の取得価額 | 対象者 | 制度の名称等 | 取り扱い |
10万円未満 | 全法人が対象 | 少額減価償却資産 | 全額一時の損金とすることができる |
20万円未満 | 全法人が対象 | 一括償却資産 | 取得価額の1/3ずつ3年間で均等償却できる |
30万円未満 | 中小企業のみ対象 | 中小企業者の少額減価償却資産の特例 | 取得価額の合計額が年300万円に達するまでの金額を一時の損金とすることができる |
それぞれどのような取り扱いになるのか、一つずつ確認していきたいと思います。
4-1 取得価額10万円未満の資産
事業に使用する減価償却資産のうち、使用できる期間が1年未満の資産、または取得価額が10万円未満の減価償却資産については、減価償却は不要となります。
減価償却が不要??
ということは、普通の経費のように支払った年度の経費として計上したらいいということですか?
そのとおりです。
この少額の減価償却資産については、通常の減価償却を行わず、資産を事業で使用した年度に全額を費用(損金)として計上できます。
そのため、資産として計上するのではなく、「消耗品費」などの勘定科目を使って処理されることが一般的です。
また、取得価額が10万円未満かどうかの判断基準として、1単位として取引されるものごとに判定を行うことになります。
例えば、応接セットの場合、テーブルと椅子を別々に評価するのではなく、セット全体で10万円未満であるかどうかを基準に判断します。
4-2 少額減価償却資産の特例(取得価額10万円以上30万円未満)
取得価額が10万円以上の償却資産の場合は、減価償却が必要になるということでしょうか?
原則そうなります。
ただし、中小企業や個人事業主には、特別な減価償却の制度として「少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例」という制度があります。
この「少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例」というのは、一言で言うと、中小企業者のみ適用できる特例で、30万円未満の資産のうち、その購入代金の合計金額が300万円に達するまでの金額を、その資産の使用を開始した事業年度(個人事業主は年)に全額費用として計上することができる制度です。
30万円未満の場合は、あの面倒な定率法や定額法で計算しなくていいんですね、それはいい制度だ!
適用できる中小企業者とは、具体的にはどういう事業者のことでしょうか?
適用できる条件を整理しましょう。
- 中小企業者※であること
- 青色申告書を提出している
※中小企業者:主に資本金1億円以下の中小法人と常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人事業主
なお、この規定を適用する場合には確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」という書類を添付する必要があります。
個人事業主の場合は一定の要件の下で省略可。詳しくは国税庁ホームページをご参照ください。青色決算書への記載例の掲載もあります。)
法人は別表16(7)というものを添付する必要があります。
また、こちらの規定を適用した資産は、固定資産税として申告すべき償却資産の対象となりますのでご注意ください。
法人でこの規定を適用する場合については、次の記事で詳しく解説しています。
4-3 一括償却資産の損金算入制度(取得価額20万円未満)
少額減価償却資産の特例は取得価額が年間300万円まで適用できるとありましたが、年間300万円を超えてしまった場合はどうしたらいいのでしょうか?
その場合は、一括償却資産にすることで耐用年数に関わらず3年間で償却することができます。
一括償却資産??
それは、どんな制度なのでしょうか?
例えば180,000円のパソコンを2台購入したとします。
2台のパソコンを一括して360,000 × 1/3 = 120,000円
この金額を3年間に渡って均等に償却します。
取得価額10万円未満の資産は、少額償却資産として全額費用計上が可能なため、一括償却資産として処理するのは10万円以上20万円未満の資産に限られます。
また、中小企業者等には「30万円未満の減価償却資産を全額費用計上できる特例」があるため、一括償却資産の制度は主に大企業や、中小企業の年間300万円の上限を超えた資産に対して適用されるケースが多くなります。
一括償却資産は法人税法上の制度であり、会計上には同様のルールはありませんが、実務では会計処理も3年間の均等償却に合わせることが一般的です。
一括償却を始めたら、その資産を廃棄した場合も3年間に渡って償却し続ける必要があることに注意が必要です。
なお、地方税の償却資産税として申告対象にはならないところが、少額減価償却資産の特例とは異なります。
一括償却資産の3年償却については次の記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
5 中古資産を購入した時の減価償却
ところで、中古車を購入しようと思っているんですが、中古で固定資産を購入した場合は、どのように減価償却費を計算するのでしょうか?
新品を購入した場合と違いがありますか?
はい、違いがあります。
中古資産の償却限度額の計算に使用する耐用年数は、法定耐用年数ではなく使用可能期間として見積もられた年数で減価償却できます。
しかし、どのくらい耐用年数を短くなるのかを決める必要があり、中古資産の耐用年数は、次の3つの方法のいずれかで決めることになっています。
- 法定耐用年数をそのまま使う
- 見積法:実際にあと何年使えるかを見積もる方法
- 簡便法:決まった計算式を使って耐用年数を求める方法
この3つのどれを使うかは、中古資産を使い始めた事業年度のうちに決定する必要があります。
なお、一つ目の「法定耐用年数をそのまま使う」は、新品で購入したときの耐用年数を使用するということですので、耐用年数の算出は必要ありませんが、耐用年数を短くできませんので、通常は「見積法」か「簡便法」を採用することが多くなります。
耐用年数は、短くした方がいいのですか?
耐用年数が短くなると、償却が早く終わるので、費用を早めに計上できることになって、結果的に節税につながります。
長い目で見たトータルで計上できる費用は同じですが、例えば120万円のものを5年で定額法で償却すると1年目は24万円ですが、3年で償却すると1年償却額は40万円になります。
なるほどー
確かに耐用年数は短い方が費用が大きくなってますね。
5-1 「見積法」と「簡便法」とは
見積法、、簡便法、、
なんかまた難しそうな言葉が出てきましたね、、
どちらを選択したらいいのでしょうか?
結論から言うと、税務初心者方は「簡便法」一択です。
見積法を採用することは実務上、困難なことが多いです。
それでは、それぞれどのような方法なのかを確認していきましょう。
5-1-1 見積法とは
見積法とはどのようなものなのでしょうか?
見積法というのは、中古資産の残りの使用可能期間を、適切な方法で専門的に見積もって耐用年数を決める方法です。
ただし、実際の業務では見積法を採用するのは難しいことが多いです。
なぜなら、残りの使用期間を客観的に判断するためには、技術者や専門家による調査が必要になる場合があるからです。
例えば、製造年や使用状況がしっかり分かる資料があれば見積もりが可能ですが、もしそういった資料が十分にない場合、見積法を使うのは難しくなります。
その場合、次に説明する簡便法を使うことが一般的です。
では、初心者は簡便法を選択するべきということですね。
そういうことです。
ただし、簡便法により中古資産の耐用年数を計算するには、「その中古資産の残存耐用年数を見積もることが困難な場合」とされています。
この見積もりが困難な場合というのは以下の2つの場合です。
- 耐用年数の見積もりのために必要な資料がないため、技術者等に特別な調査を依頼しなければならない場合
- 耐用年数の見積もりのために多額の費用が発生する場合
多くの人の場合は、この2つのいずれかに該当しますので、簡便法を利用することが可能です。
それでは、その重要な簡便法の解説をしていきます。
5-1-2 簡便法とは
それでは、簡便法について教えてください!
簡便法は、簡単な計算式を使って耐用年数を求める方法です。
見積法のように専門家の調査が不要なので、実務でよく使われます。
専門家の調査が不要ならやっぱり簡便法がいいですね。
そうですね。
ただし、簡便法を使うためには、その中古資産がどれくらいの期間使われてきたのか(経過年数)が分かることが前提です。
もし経過年数すら分からない場合は、簡便法も使えず、結局、見積法で耐用年数を決めるしかなくなります。
その場合は、資産の形や構造、製造年月の表示などをもとに、どれくらい使われてきたのかを推測して耐用年数を算出することになります。
そうなんですね。
簡便法で中古資産の耐用年数を算出するにはどのような計算が必要なんでしょうか?
簡便法で中古資産の耐用年数を算出するには、以下の計算式で行います。
② 法定耐用年数の一部を経過した資産の場合 中古資産の耐用年数 =(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
上記の計算式で中古資産の耐用年数を算出することになりますが、算出した耐用年数に1年未満の端数が生じた場合はこの端数は切り捨てることなります。
ただし、算出した耐用年数が2年未満である場合は、「2年」を耐用年数とします。つまり、耐用年数が1年になることは絶対にないということです。
計算式はわかりましたが、具体的にどのような計算になるのでしょうか?
それでは、実際に中古資産の耐用年数を計算してみましょう。
耐用年数が30年の建物を建築後32年4か月で経過時点で購入した場合
30年(法定耐用年数)×20%
360か月×20%=72か月 (月数に直して計算する)
=6年(耐用年数)
❷ 法定耐用年数の一部を経過している資産の場合
耐用年数が30年の建物を建築後15年2か月で経過時点で購入した場合
(30年(法定耐用年数)-15年2カ月(経過年数))+15年2カ月(経過年数)×20%=
(360か月-182か月)+36カ月=214か月 (月数に直して計算する)
=17年(耐用年数)1年未満の端数は切り捨て
以上が中古資産の耐用年数を算出する方法の解説でした。
ちなみにこの中古の耐用年数を簡単に計算することが、先ほども紹介した「全力耐用年数」でできます!
【全力耐用年数の「中古耐用年数計算」の画面】
5-2 中古資産の減価償却の計算例
続いて中古資産の減価償却費の計算を以下の中古車を例に実際に計算してみましょう。
設例の内容は以下の通りです。
【設例内容】
決算期:3月末決算
取得資産:車両運搬具
取得年月日:令和7年4月1日に取得し同日使用開始
取得価額:2,500,000円
法定耐用年数:6年(中古資産であり、法定耐用年数から2年6カ月経過している)
まずは耐用年数を確認していきます。
法定耐用年数は6年であり、その耐用年数が2年6カ月経過している資産を購入しているので、以下のとおりの計算で耐用年数を確認します。
法定耐用年数の一部を経過している資産の場合は、
中古資産の耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
の式で算出します。
【耐用年数を確認(簡便法)】
(6年-2年6カ月)+2年6カ月×20%
=(72か月-30か月)+6カ月
=48か月
=4年
当該資産の耐用年数は4年となる。
(定率法の償却率 0.5、保証率 0.12499、改定償却率 1)
償却保証額:250万円×0.12499=312,475円
年数 | 事業年度 | 計算式 | 減価償却費 | 期末帳簿価額 | 償却費の合計 |
1年目 |
令和7年3月期 |
2,500,000円×0.5=1,250,000円 | 1,250,000円 | 1,250,000円 | 1,250,000円 |
2年目 | 令和8年3月期 | 1,250,000円×0.5=625,000円 | 625,000円 | 625,000円 | 1,875,000円 |
3年目 | 令和9年3月期 | 625,000円×0.5=312,500円 | 312,500円 | 312,500円 | 2,1870500円 |
4年目 | 令和10年3月期 | ①312,500円×0.5=156,250円 ②償却保証額 312,475円 ③ ①<② よって改定償却率を適用 312,500円(改定取得価額)×1(改定償却率)=315,000円(今期の減価償却費) 備忘価額の1円を残して償却する |
312,499円 | 312,499円 | 2,499,999円 |
なるほど!
中古車の減価償却費の計算はこうやってやればいいんですね!
6 減価償却の経理処理(仕訳方法)
減価償却費の計算は大丈夫そうなんですが、どのように経理処理をしたらいいのでしょうか?
この章と次の章の「決算書と減価償却の関係」までの内容を動画で解説しています。
動画がお好みの方はこちらもご活用ください。
減価償却の仕訳方法には、大きく分けて直接法と間接法の2種類があります。
いずれの方法を採用するかは任意に決められます。
なお、どちらの仕訳方法を採用しても、納税額は変わりません。
6-1 直接法での減価償却費の仕訳
直接法というのは、減価償却費をその資産の取得価額から直接差し引いていく仕訳方法です。
現在の固定資産の価値や未償却残高がわかりやすい経理処理となります。
直接法での仕訳例は以下のとおりです。
【直接法での仕訳例】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000,000 | 建物 | 1,000,000 |
上記のように資産勘定を直接減額する仕訳を行います。
したがって、固定資産の残高から差し引かれることになり、固定資産自体の残高は以下のようになります。
償却前の建物の残高 | 償却後の建物の残高 |
---|---|
20,000,000 | 19,000,000 |
6-2 間接法での減価償却費の仕訳
間接法というのは、減価償却の額をその資産の取得価額から減額するのではなく、減価償却費累計額で計上する仕訳方法のことです。
【間接法での仕訳例】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000,000 | 減価償却累計額 | 1,000,000 |
【間接法の場合の固定資産残高】
償却前の建物の残高 | 償却後の建物の残高 |
---|---|
20,000,000 | 20,000,000 |
【間接法の場合の減価償却累計額の残高】
償却前の建物の減価償却累計額 | 償却後の建物の減価償却累計額 |
---|---|
0 | 1,000,000 |
直接法ではその資産の取得価額から減価償却費を差し引くため、その資産勘定の残高は年々減少していきます。
一方、間接法では、その資産勘定の残高は変わらず、減価償却費累計額として計上され、これまでの償却費の累計されて表示されます。
貸借対照表でその資産の取得価額を把握するには、間接法の方がわかりやすいといえます。
7 決算書と減価償却の関係
決算書では減価償却費はどのように表示されるのでしょうか?
それでは、決算書では、減価償却がどのように表示されるのかを解説していきたいと思います。
まず、貸借対照表(B/S)での表示方法を説明します。
7-1 貸借対照表(B/S)での表示
減価償却資産及び減価償却費の貸借対照表への表示方法では、「直接法」と「間接法」によって違いがあります。
それでは、直接法と間接法では減価償却費の表示にどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
7-1-1 直接法による貸借対照表の表示
直接法では、減価償却を行った資産の取得価額から直接、減価償却費を差し引いた金額が貸借対照表に表示されることになります。
直接法での減価償却費の表示は以下のようになります。
【減価償却の状況】
建物 | 建物附属設備 | 機械装置 | 車両運搬具 | 器具備品 | |
取得価額 | 8,000,000円 | 4,000,000円 | 1,000,000円 | 2,000,000円 | 1,000,000円 |
減価償却累計額※ | 3,000,000円 | 1,500,000円 | 400,000円 | 400,000円 | 200,000円 |
期末帳簿価額 | 5,000,000円 | 2,500,000円 | 600,000円 | 1,600,000円 | 800,000円 |
※これまで減価償却されてきた償却額の累計
【直接法での減価償却費の表示】
あれ?貸借対照表に「減価償却累計額」がありませんね。
直接法では、資産の取得価額から減価償却累計額を差し引いた金額が表示されることから、財務諸表を見ただけでは、本来の取得価額がわからなくなってしまいます。
そのため、貸借対照表に減価償却累計額を注記することになっています。
7-1-2 間接法による貸借対照表の表示
間接法では、減価償却累計額を別の項目として表示する方法です。
特徴としては、減価償却累計額が別で表示されることから資産を取得した時の取得価額が貸借対照表に表示されます。
なお、間接法には以下の2つの表示方法があります。
-
科目ごとに減価償却累計額を表示する方法
-
固定資産をまとめて一括で減価償却累計額を表示する方法
実際の貸借対照表ではどのような表示になるのでしょうか?
実際の貸借対照表では以下のような表示となります。
・科目ごとに減価償却累計額を表示する方法
これは資産の科目ごとに減価償却累計額を表示させる方法です。
多少手間は掛かりますが、科目ごとに減価償却累計額が表示されておりわかりやすいのがメリットです。
・固定資産をまとめて一括で減価償却累計額を表示する方法
これは固定資産をまとめて一括で減価償却累計額を表示させる方法です。
表示方法としてはシンプルですが、減価償却累計額が表示されておりわかりやすいのがメリットです。
以上が減価償却の貸借対照表での表示方法の解説でした。
次は損益計算書の表示方法について確認していきましょう。
7-2 損益計算書(P/L)での表示
損益計算書では、減価償却費の表示方法が業種によって変わります。
非製造業であれば、減価償却費は「販売費および一般管理費」に計上されます。
ただ、製造業の場合は、その資産がどのような目的で使用されるかで表示される財務諸表が変わります。
【非製造業の場合】
非製造業の場合は、「販売費および一般管理費」に計上されることになります。
そのため、「販売費および一般管理費の内訳書」を作成している場合は「販売費および一般管理費の内訳書」に、作成していない場合は「損益計算書」の販売費および一般管理費に表示されることになります。
・「販売費および一般管理費の内訳書」での表示
・「損益計算書」での表示
「販売費および一般管理費の内訳書」の作成していない場合は、以下のように損益計算書に直接表示されることになります。
【製造業の場合】
減価償却資産の使用目的に応じて、次の2つの方法で計上されます。
製品の製造に使用する資産の場合
以下のように「製造原価報告書」の経費項目に計上されることになります。
・ 製造以外の目的で使用する資産の場合
非製造業と時と同様に「販売費および一般管理費」に表示されます。
このように、減価償却費は決算書の種類や業種によって異なる方法で表示されます。
8 法人税の計算での減価償却
減価償却費の決算書上での表示まできたので、これで減価償却についてはコンプリートでしょうか?
ほとんどコンプリートですが、最後に法人税の処理について触れておくことにしましょう。
法人税の場合、減価償却費を費用として認めてもらうためには2つの要件があります。
8-1 減価償却費を損金に算入する要件
法人税の場合、減価償却費を費用として認めてもらう(=損金に算入する)ためには2つの要件があります。
②法人税の申告書に減価償却費に関する別表を添付していること
それぞれについて解説します。
8-1-1 減価償却費を費用として計上していること
減価償却費を費用として計上している?
どういうことですか?
減価償却費を法人税法上も費用化するための要件の一つ目は、「損金経理」しているかどうかです。
簡単に言うと、単純に損益計算書に減価償却費が計上されているかどうかってことですね。
会社が支出する費用の中には、税務上すぐに損金(経費)として認められるものと、一定の条件を満たす必要があるものがあります。
例えば、賃貸料のように、外部の事業者(不動産業者など)との取引によって発生する費用は、建物の借りているという 客観的な事実 があるため、税務上もそのまま損金として計上することできます。
一方で、減価償却費は、外部との取引によって発生するわけではなく、会社の 内部的な判断 によって費用として計上するものです。
そのため、法人税の所得計算では 法人に減価償却費を損金に算入するかどうかの意思確認をすることになっているためです。
8-1-2 法人税の申告書に減価償却費に関する別表を添付していること
別表?
初耳ですね、これは何でしょう?
減価償却費を損金に算入するには、法人税申告書に減価償却費の明細を記載する別表の添付が要件となります。
詳しく見ていきましょう。
減価償却費の損金算入額などの計算を行なう法人税申告書 別表 は「別表16」 と呼ばれる書類です。
これまで解説してきた中で別表が必要になるのは以下の4つになります。
- 別表16⑴・・・定額法と旧定額法での減価償却
- 別表16⑵・・・定率法と旧定率法での減価償却
- 別表16⑺・・・中小企業者の少額減価償却資産の特例(30万円未満)
- 別表16⑻・・・一括償却資産の特例 (20万円未満)
それぞれの別表16について簡単に紹介していきたいと思います。
なお、紹介する別表16について詳しく知りたい方は、それぞれの別表を解説した記事がありますので、ご覧ください。
❶「別表16⑴」「別表16⑵」:定額法及び定率法を採用した場合の減価償却の計算に使用する別表
「別表16⑴」「別表16⑵」は、それぞれ定額法、定率法を採用した減価償却資産の、減価償却に関する計算を行うための別表です。
- 「別表16⑴」 → 定額法(毎年同じ額を減価償却する方法)を採用する資産用
- 「別表16⑵」 → 定率法(初めの年ほど多く減価償却する方法)を採用する資産用
別表16⑴及び別表16(2)とはどのような書類かからその書き方まで詳しく解説した記事は以下のリンクからご覧ください。
・「別表16⑴」 定額法について解説した記事
・「別表16 ⑵」定率法について解説した記事
❷「別表16(7)」:少額減価償却資産の特例を適用した場合に使用する別表
「別表16(7)」は、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」を適用する場合に必要となる書類です。
「少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例」というのは、一言で言うと、中小企業者のみ適用できる特例であり、取得価格が30万円未満の資産のうち、その購入代金の合計金額が300万円に達するまでの金額を、その資産の使用を開始した事業年度(個人事業主は年)に全額費用として計上することができる制度です。
別表16(7)や少額減価償却資産の特例について詳しく解説した記事は以下のリンクからご覧ください。
・「別表16 (7)」少額減価償却資産の特例について解説した記事
❸「別表16(8)」 :一括償却資産の適用する資産がある場合に使用する別表
別表16(8)という書類は、一括償却資産の3年償却の適用がある場合に求められる書類です。
一括償却資産の3年償却というのは、取得価額が20万円未満の固定資産ならどんな種類のものでもそれを一括して3年間で均等に償却できるという制度です。
別表16(8)や一括償却資産の3年償却について詳しく解説した記事は以下のリンクからご覧ください。
8-2 減価償却超過額・不足額
減価償却費をちゃんと仕訳帳に費用計上して、該当する減価償却を行っていて、上記の4つの別表を作成していれば、法人税の確定申告に減価償却を反映するのはOKということですね?
基本的には法人税の減価償却もこれでOKなのですが、もう一つだけ説明させてください。
- 減価償却超過額
- 減価償却不足額
についてです。これは法人に関する決まり事なので所得税は関係ありません。
最後というなら頑張りますよ!
ほとんどの会社はこれまでの解説部分で終わるのですが、次のケースで超過額と不足額という話が出てきてしまいます。
減価償却費の計算を法人税で決められた方法ではない方法で減価償却費を計算した場合
よくわかりませんねぇ。
減価償却費の計算方法のところで、法定償却方法と法定耐用年数の話をしましたよね?
これが法人税法で決められた方法で、このとおりに計算しなくても会計上はなんの問題もないのです。
ただし、法人税の確定申告では、この法人税法で計算した減価償却費の金額分しか法人税法上の経費(損金)と認められないというルールがあります。
会社が計算した減価償却費が、法人税法で決められた金額よりも大きい場合は、その差額が減価償却超過額になり、会社が計算した減価償却費が、法人税法で決められた金額よりも少ない場合は、その差額が減価償却不足額になります。
財務会計では、利益は「収益-費用=利益」で求められますが、税務会計では法人税の計算の基となる金額は「所得」といい、その所得は「益金-損金=所得」で算出します。
「益金」は、収益に法人税法で決められた計算を行い算出します。「損金」も、「費用」に法人税法で決められた調整を行い計算します。財務会計の利益から税務会計の所得を求める作業を「申告調整」といいます。
なぜ財務会計上の「利益」と税務会計上の「所得」は同じ金額にならないのでしょうか。
それは「財務会計」と「税務会計」ではその目的が違うためです。
「財務会計」は利害関係者(投資家、金融機関など)に企業の経営状況を正しく伝えることが目的ですが、「税務会計」はあくまで「租税負担の公平性」が重要視されます。
例えば、ある企業が法定耐用年数5年の固定資産を3年で買い替える予定であり、その方が経営的に合理的だと考えたとします。
この場合、財務会計上は3年で償却する方が適切ですが、税務会計では公平性を保つため、法律で決められた5年の耐用年数を使う必要があります。
会社計算では、耐用年数3年で計算した減価償却費が、法人税法で決められた耐用年数5年で計算した減価償却費よりも金額が多くなれば、その多い金額は損金として認めず、会社の利益に加算するという調整を行います。
申告調整は色々ありますが、このような調整があるため、財務会計の利益と税務会計の所得は一致しないということになります。
減価償却超過額 | 減価償却不足額 | |
---|---|---|
どういう場合に発生するか | 会社計算の減価償却費 > 法人税法で決められた方法で計算した減価償却費 | 会社計算の減価償却費 < 法人税法で決められた方法で計算した減価償却費 |
計算式 |
会社計算の減価償却費 - 法人税法で決められた方法で計算した減価償却費 |
法人税法で決められた方法で計算した減価償却費 - 会社計算の減価償却費 |
会社計算の減価償却費と法人税法で決められた減価償却費ですかー??
この記事で解説してきた減価償却費の計算方法は、すべて法人税法のルールに則った方法になるので、この記事の解説のとおりに減価償却費を計算すれば、次のようになり、調整は不要なので安心してください。
会社計算の減価償却費 = 法人税法で決められた減価償却費
だから、減価償却費超過額も不足額も考える必要がありません。
それは安心しました。
減価償却費超過額や不足額は、イレギュラーなケースということですね。
そういうことです。
実務では、基本的には、超過額や不足額は生じないようにどの会社も法人税法のルールに則って(この記事で解説している計算方法で)計算しています。法人税法の決められた計算額とずれてしまったら次のような調整をしないといけないんだなというつもりでこれからの解説をご覧ください。
8-2-1 減価償却超過額とは

なるほど、、
ということは、損金にできなかった償却超過額はもう二度と費用にできないのでしょうか?
結論から言うと償却超過額が生じてもいずれ損金として算入することができます。
例題を用いてその理由を解説していきたいと思います。
【償却超過額の処理】
【設例】
取得価額: 150万円
事業供用日:x1年度期首
償却方法:定額法
耐用年数:5年(償却率0.2%)
事業供用した事業年度(X1年度)に取得価額の全額である150万円を減価償却した。
この設例の場合の減価償却費の申告調整は以下のようになります。
事業年度 | 会計上計上した減価償却費 |
減価償却限度額※ |
償却超過額 | 償却不足額 | 申告調整額 | 減価償却超過額の期末残高 |
X1年度 | 1,500,000円 | 300,000円 | 1,200,000円 | 0円 | 1,200,000円 所得加算 | 1,200,000円 |
X2年度 | 0円 | 300,000円 | 0円 | 300,000円 | 300,000円 所得減算 | 900,000円 |
X3年度 | 0円 | 300,000円 | 0円 | 300,000円 | 300,000円 所得減算 | 600,000円 |
X4年度 | 0円 | 300,000円 | 0円 | 300,000円 | 300,000円 所得減算 | 300,000円 |
X5年度 | 0円 | 300,000円 | 0円 | 300,000円 | 300,000円 所得減算 | 0円 |
※減価償却限度額:法人税法で決められた方法で計算した減価償却費の金額
このように、減価償却超過額が発生した場合の減価償却の流れとしては、
①償却超過額は所得計算上で「加算調整」する
②償却超過額は、翌期以降の事業年度で「減算調整」する
というような形となります。
詳しい内容は以下の通りです。
①償却超過額は所得計算上で「加算調整」する
会計上は取得価額150万円の資産の全額をx1年度に費用として計上しています。
しかしながら、x1年度の減価償却限度額は30万円であるため、この減価償却限度額を超えた部分である120万円はx1年度は、損金(法人税法上の経費)とすることができません。
よって、x1年度の所得の計算において、120万円を会社の利益に上乗せします。
ただしこのx1年度で上乗せした減価償却超過額120万円は翌期以降損金に算入できる権利として繰り越すことができます。
②償却超過額は、翌期以降の事業年度で「減算調整」する
会計上では、初年度において全額を減価償却していることから、会計上、X2年度では減価償却費として費用計上することはありませんが、法人税法上で減価償却費として損金にできる金額が30万円あります。
法人税法上で減価償却費として損金にできる金額より、会計上で計上している減価償却費が少ない場合、その差額(後述しますが、このことを「償却不足額」と言います。)を、過年度分の償却超過額があれば、その償却不足額に充当することができます。
よって、X2年度はX1年度で発生した償却超過額120万円のうち、30万円をX2年度の会社利益から減算することができます。
X3年以降についても、同様に30万円ずつ損金に算入することになります。
8-2-3 償却不足額の処理方法
償却不足額はどのようなものなのでしょうか?
償却不足額が発生したということは、損金として算入できる権利を放棄したことになります。
例えば、
- 税務上の償却限度額:100万円
- 会社が決算で計上した減価償却費:80万円
→ 差額の 20万円が「償却不足額」 となります。
損金として算入できる権利を放棄?
ということは、この償却不足額は費用にできないということですか?
実はそういうわけではないのです。
この償却不足額の取り扱いは、前事業年度以前において償却超過額があるかどうで変わります。
・ 償却超過額がある場合の取り扱い
もし、過去に「償却超過額」がある場合(つまり、過去に償却費を税務上の限度を超えて計上していた場合)、その超過額の残高の範囲内で償却不足額を相殺することができます。
この調整によって、償却不足額を損金(税務上の経費)として認めることができます。
・ 償却超過額がない場合の取り扱い
一方、過去に償却超過額がない場合は、償却不足額が発生しても、それを翌期の償却限度額に上乗せすることはできません。
その場合、資産の法定耐用年数が終了した後も、未償却残高(減価償却しきれなかった金額)が残ることになります。
ただし、その資産の耐用年数が終了した後に、減価償却費を損金計上することで、この不足額は最終的に解消されます。
減価償却超過額と不足額は、私にとってはかなり難しいです。
だからこの記事のとおりに減価償却費を計算して、超過額や不足額が出ないように頑張ります!
減価償却不足額がいくら出ても、法人税法の所得金額に影響を与えないので、正確には、減価償却超過額が出ないようにすればOKです!
会社計算の利益から法人税法の所得金額を算出するのは、法人税の確定申告書類の別表4で行います。
この辺りの申告調整について詳しく知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
9 まとめ
以上で、減価償却の基礎についての解説は終了です。
最後に、これまでの内容を簡単に確認していきましょう。
減価償却のまとめ
❶ 減価償却とは、事業で使用する資産の購入費用を、購入した年度に全額経費計上せず、耐用年数にわたって分割して計上する会計処理のことでした。
❷ 減価償却の目的は、「費用収益対応の原則」に従い、資産の使用期間に応じて費用を計上し、正確な利益を算出することでした。
❸ 減価償却を行う資産の対象は、その使用の効果を長期間にわたって発現しながら、時の経過や使用により徐々にその機能や価値が減少していく資産でした。
- 減価償却できる資産
- 建物、建物附属設備、車両、機械装置、器具備品、ソフトウェア、特許権、生物(牛、果樹など)。
- 減価償却できない資産
- 土地、古美術品(100万円以上)、未使用の資産(遊休資産)。
❹ 減価償却の計算は、「事業供用日」、「取得価額」、「償却方法」、「耐用年数」といった必要な情報から算出を行うことになりました。
❺ 減価償却の主な償却方法は、「定額法」と「定率法」であり、税法によって償却方法が定められていました。
- 定額法(毎年同じ金額を償却)
- 計算式:取得価額 × 定額法の償却率
- 定率法(初年度に多く償却、後年に減少)
- 計算式:(取得価額-累計償却額)× 定率法の償却率
- 一定時点で「改定償却率」による計算へ切り替え。
❻ 少額資産の減価償却の取り扱いは、その取得価額で以下の通り定められていました。
【取得価額が少額な資産を取得した場合の取り扱い】
購入した資産の取得価額 | 対象者 | 制度の名称等 | 取り扱い |
10万円未満 | 全法人が対象 | 少額減価償却資産 | 全額一時の損金とすることができる |
20万円未満 | 全法人が対象 | 一括償却資産 | 取得価額の1/3ずつ3年間で均等償却できる |
30万円未満 | 中小企業のみ対象 | 中小企業者の少額減価償却資産の特例 | 取得価額の合計額が年300万円に達するまでの金額を一時の損金とすることができる |
❼ 中古資産を購入した場合、新品で資産を購入するより耐用年数が短くでき、その耐用年数の計算方法がありました。
中古資産の耐用年数の算出方法
- 見積法(専門家の判断が必要)
- 簡便法(計算式で耐用年数を求める)
- 法定耐用年数の全部を経過:法定耐用年数 × 20%
- 一部経過:(法定耐用年数-経過年数)+経過年数 × 20%
❽ 減価償却の経理処理は、「直接法」、「間接法」があり、法人が任意で決めることができました。
- 直接法 – 減価償却費を資産の取得価額から直接差し引く。
- 間接法 – 減価償却累計額を別途計上し、取得価額を維持。
❾ 財務会計は、企業の経営状況を正しく伝える目的があり、一方、税務会計には租税負担の公平性を保つ目的があることから両者には違いがありました。
このような財務会計と税務会計の違いを調整し、財務会計の利益から税務会計の所得を求める作業を「申告調整」といいました。
❿ 減価償却で行われる申告調整は「償却超過額が発生した場合」と「償却不足額が発生した場合」の2つで、処理としては以下の通りでした。
- 償却超過額(税務上の限度を超えて計上した減価償却費)
- 初年度に超過分を損金計上できず、翌年度以降で調整。
- 償却不足額(税務上の限度額未満の減価償却費)
- 過去に償却超過額がある場合 → 翌年度に調整可。
- 過去に償却超過額がない場合 → 翌年度に調整不可、未償却残高が発生。
⓫ 減価償却費を損金に算入する要件は以下の通りでした。
- 損金経理(決算書で費用計上)
- 法人税申告書に減価償却費に関する別表を添付
⓬ 減価償却費の損金算入額などの計算を行なう別表 は「別表16」 と呼ばれる書類で以下のようなものがありました。
- 別表16(1) – 定額法の減価償却計算
- 別表16(2) – 定率法の減価償却計算
- 別表16(7) – 30万円未満の減価償却資産特例
- 別表16(8) – 一括償却資産の計算(20万円未満)
以上が、減価償却についてのまとめ内容となります。
どうだったでしょうか?会計初学者にも理解できるようわかりやすく簡単に解説してきました。
減価償却は、事業で使う資産の購入費用を、耐用年数に分けて経費にする仕組みです。
これは、企業の会計処理や税金の計算において、とても重要な役割を持っています。
特に、正確に利益を出したり、適切な税金を納めたりするためには、減価償却の基本を理解し、正しく処理することが大切です。
また、企業の規模や経営状況に合わせて、少額減価償却資産の特例や一括償却資産の制度を活用することで、節税のチャンスもあります。