会計ソフトを買ってはみたけれど、簿記について何も知らないので何から始めればいいかさっぱりわからない…
困った顔してどうしたんですか?
この前までは会社を設立できてやる気に満ち溢れていると言っていたじゃないですか。
そうなんですよ
不動産の営業マンから独立して仕事を始めたまでは良かったんですが、会社を設立したばかりでお金もないので、自分で会社の経理をしたいと思っているんです。
ただ、これまで営業一筋で簿記のことも知らないので、簿記の勉強を始めたいと思っているのですが、何から始めていいか…
本を見ても簿記○級取得のためのものばかりでとっつきにくいんですよねぇ。
簿記の資格を取りたいわけでもないんで…
確かに今は会計ソフトを使って経理するのが主流ですから、自分の会社の経理をするのに簿記3級を取得するまで頑張る必要もないですからね。
そうですよね!
小規模の会社の経理ならこれだけのことは最低知っていればOK!
的な簿記の解説があればいいんですが…
あんまり時間もかけたくないし、実務に関係ない知識はいらないので。
簿記の中でも実務に直結した絶対知っていなきゃいけない知識だけをとりあえず身につけたいということなんですね。
独学するなら効率的にしたいですもんね。
では、私が一肌脱いで、そんな実務で必須の簿記の知識だけを初心者にもわかりやすく解説しましょう!
そんな簿記入門講座を待ってましたー!!
よろしくお願いしますー!!
1 簿記とは
まずは、簿記の全体像を理解するところから始めましょう。
この章と次の章「仕訳とは」、その次の章「勘定科目とは」までの内容を動画でも解説しています。
動画の方が好みの方はこちらをご覧ください。
会社を営むということは、材料を仕入れたり、商品を売ったり、お給料を支払ったり、水道光熱費を支払ったり、インターネット代を支払ったり、営業車を買ったりと、日々様々な取引が行われます。
これらの取引を帳簿に記録していき、通常は1年に1度決算を行い、決算書という報告書を作成する作業を簿記といいます。
1年間の簿記の流れを示すとこのようになります。
なるほど。
日々することは、取引があったらまずは「仕訳をする」ということなんですね。
この仕訳って何でしょう?
2 仕訳とは
簿記には「単式簿記」という方法と「複式簿記」という2つの方法がありますが、「仕訳」は複式簿記の方法です。
2-1 単式簿記とは
単式簿記とは、ひとつの項目に着目してその増減を記録する方法です。
例えば「現金」の入出金だけに着目して帳簿を記録してみます。(そのような帳簿を「現金出納帳」といいます。)
【現金出納帳】
日付 | 摘要 | 収入 | 支出 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月1日 | 繰越し | 100,000 | ||
4月2日 | 仕入 | 50,000 | 50,000 | |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 40,000 | |
4月4日 | 売上 | 100,000 | 140,000 | |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 40,000 |
4月の頭の時点で100,000円あって、仕入や売上等で入金出金があって、最終的に4月の現金の残高が40,000であることが表現されています。
しかしながら、この方法では、現金以外の普通預金の残高や、利益がいくらかは売上や費用となるものを別途ピックアップして集計しないとわかりません。
単式簿記での記帳方法は、個人事業主では、白色申告や青色申告の簡易帳簿で認められていますが、法人では認められていません。
法人は、必ず複式簿記で仕訳をしなければなりません。
2-2 複式簿記とは
複式簿記とは、一つの取引を原因と結果に分けるために「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」に分けて、取引内容を「勘定科目」という決められた項目を使って記録する方法をいいます。
そして、
この仕訳を記録する帳簿を「仕訳日記帳(仕訳帳)」と呼びます。
例えば、「商品を売って、100円現金を受け取った。」という取引を仕訳に表すと次のようになります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 100 | 売上高 | 100 |
この仕訳から、借方側で「現金が100円増加した」ということを表現しています。(今はわからないと思いますが、なぜそういう表現となるかは後で説明します。)
また、貸方側で「100円の売上高があった」ということを表現しています。
この仕訳でいう「勘定科目」は「現金」と「売上高」です。
このように複式簿記では、仕訳をみれば、どういう取引があったから(原因)、会社のお金がどうなったのか(結果)ということがわかるようになっています。
「借方」と「貸方」ってどういう意味ですか?
「借方」と「貸方」という言葉に意味はありません。記号として覚えましょう。
「借方」は必ず左側で、「貸方」は必ず右側です。
「借方は左側」
「貸方は右側」
これは単純に暗記です!
先ほどの仕訳をもう一度みてみます。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 100 | 売上高 | 100 |
このように「借方金額100 = 貸方金額100」というイコールの関係になっています。
仕訳は複数行になることもありますが、必ず借方金額合計と貸方金額合計は一致します。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
給料 | 50,000 | 普通預金 | 40,000 |
預り金 | 10,000 | ||
借方合計 | 50,000 | 貸方合計 | 50,000 |
まず仕訳にはこの2つの性質があることを覚えてください。
複式簿記になると仕訳は次のように蓄積されていきます。
仕訳を日付順に記録していく帳簿を「仕訳日記帳(仕訳帳)」といいます。
【仕訳日記帳】
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
4月4日 | 現金 | 100,000 | 売上高 | 100,000 |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
借方合計 | 260,000 | 貸方合計 | 260,000 |
単式簿記の現金出納帳では、現金が何の理由で増えたり減ったりしたかしかわかりません。
例えば現金以外で取引された仕入高は、わからないので、会社全体の仕入高はわかりません。
他方、複式簿記ではすべての取引が仕訳日記帳に記帳されるので、仕入高が会社全体でいくらあったのかがわかります。
また、現金以外の普通預金などの資産の動きも把握することができるのです。
仕訳をして複式簿記をするとより多くの情報を記録できるのはわかりました。
借方が左で貸方が右というのも覚えます。
ただ借方(左側)に現金が100円で100円増加するという意味になるかがわかりません。売上高がなぜ貸方(右側)なのでしょうか?
その疑問は当然ですね。
これを理解するには「勘定科目」を理解する必要があります。
3 勘定科目とは
勘定科目とは、仕訳をするときに用いる取引を分類するための項目名です。
水道代を支払ったら「水道光熱費」という勘定科目を使って仕訳を行います。他にガス代や電気代も「水道光熱費」という勘定科目を使います。
逆に「水道光熱費」という勘定科目を見たら、水道代、ガス代、電気代のどれかの支出であることが想像できます。
前述の仕訳日記帳には、「現金」「普通預金」「仕入高」「売上高」「水道光熱費」という勘定科目が使われていました。
これらの勘定科目は5つのグループに大別されます。
一つ一つ確認していきましょう。
まずは資産から確認していきます。
3-1 資産とは
資産とは、現金や預金や、自社が保有している車や土地建物、機械等の一般的に財産とよばれるものをいいます。
また、お金を貸している時の貸し付けた金銭のようないわゆる債権のようないずれお金を受け取ることになる権利も資産に含まれます。
3-1-1 資産に分類される主な勘定科目
勘定科目名 | 内容 |
---|---|
現金 | 紙幣や硬貨などのキャッシュ |
普通預金 | 普通口座に分類される銀行預金口座 |
売掛金 | 商品やサービスを掛けで売った時に発生する債権 |
短期貸付金 | 取引先や従業員にお金を貸した時の債権で1年以内に回収される予定であるもの |
車両運搬具 | 営業用の車両や機材運搬用の車両等の会社で使用する車両 |
器具備品 | 10万円以上のパソコンや家具など |
建物 | 事業用の事務所や店舗、工場、倉庫など |
3-1-2 資産に分類される勘定科目の性質
資産に分類される勘定科目には共通して次のような性質があるので、必ずここは覚えてください!
前述の例で、「商品を売って、100円現金を受け取った。」という場合、「現金」は資産で、100円受け取ったというように増えているので、「借方」に仕訳します。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 100 | 売上高 | 100 |
なるほど、「現金」という「資産」が増えるので、「資産増=借方」という原則に従って借方に仕訳するのですね!
はい、ここは丸暗記するしかありません。
「資産増=借方」
「資産減=貸方」
3-2 負債とは
負債とは、借金のような、いずれお金を支払わなければならない債務をいいます。
借金のほかにも、商品が届いているが掛けで買っていて代金は未払いになっていたり、サービスはすでに受けているが支払いは来月末までといった債務も該当します。
3-2-1 負債に分類される主な勘定科目
勘定科目名 | 内容 |
---|---|
買掛金 | 商品を掛けで買った時に発生する債権 |
未払金 | 商品の仕入れ以外で、サービスはすでに受けているが支払いが済んでいない債務 |
前受金 | 手付金や内金を受領した場合など商品の代金を前もって受け取っているもの |
預り金 | 給与から天引きする所得税や社会保険料など従業員から一時的に預かっているもの |
短期借入金 | 金融機関や役員等からお金を借り入れした時の債務で1年以内に返済される予定であるもの |
3-2-2 負債に分類される勘定科目の性質
例えば「会社が代表者から100,000円借り入れて、現金で受領した」という場合、次のような仕訳になります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 100,000 | 短期借入金 | 100,000 |
「短期借入金」は「負債」で、「負債」が増えるときは「貸方」に仕訳するので右側に記載します。
次は復習です。「現金」は「資産」で、「資産」が増えるときは「借方」に仕訳するので左側に記載します。
負債の借方と貸方の関係は資産とは反対なんですね!
「資産の増=借方」
「資産の減=貸方」
「負債の増=貸方」
「負債の減=借方」
そうです。
「資産の増=借方」
「負債の増=貸方」
だけ覚えてしまえば、あとは反対なので、
「資産の減=貸方」
「負債の減=借方」
というのは自動的にわかります。
3-3 純資産とは
純資産は、会社を設立する時の資本金が代表的なものです。また、これまで稼いできた利益も純資産です。
純資産は、「資産の合計金額 ー 負債の合計金額」でも求めることができます。
つまり、総資産から総負債を差し引いた純粋に会社の資産を表しています。
だから純資産というわけです。
したがって、純資産の合計額が現在の会社の価値と捉えることもできます。
3-3-1 純資産に分類される主な勘定科目
勘定科目名 | 内容 |
---|---|
資本金 | 会社を設立したときに会社に払い込むもの |
繰越利益剰余金 | 設立以来繰り越されてきている利益の累計 |
3-3-2 純資産に分類される勘定科目の性質
純資産は負債と同じ性質ですね!
そのとおりです!
負債を覚えてしまえば、純資産は負債と同じ側で仕訳すればOKです。
純資産の仕訳例をみてみましょう。
例えば「会社設立時に1,000,000円を現金で受領した」という場合、次のような仕訳になります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 1,000,000 | 資本金 | 1,000,000 |
「資本金」は「純資産」で、「純資産」が増えるときは「貸方」に仕訳するので右側に記載します。
3度目の登場です。「現金」は「資産」で、「資産」が増えるときは「借方」に仕訳するので左側に記載します。
3-4 収益とは
商品の売上やサービス提供の売上などの会社の資産を増やす収入が「収益」グループです。
これまでの仕訳例でも登場してきていますが、「売上高」がその代表格です。
3-4-1 収益に分類される主な勘定科目
勘定科目名 | 内容 |
---|---|
売上高 | 本業での商品の販売やサービスの提供によって受ける収入 |
雑収入 | 本業以外の取引によって生じる収入 |
売上戻り高 | 販売した商品が返品された場合など |
受取利息 | 預金利息や貸付金から得た利息など |
固定資産売却益 | 会社の資産を売却した時の利益 |
3-4-2 収益に分類される勘定科目の性質
収益も負債と同じ性質ですね。
そうです。
収益と負債と純資産は同じ側です。
収益の仕訳例をみてみましょう。
一度資産のところで登場していますが、「商品を売って、100円現金を受け取った。」という例でみてみましょう。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 100 | 売上高 | 100 |
商品を売って「売上高」という「収益」が増えるときは「貸方」に仕訳するので右側に記載します。
「現金」は「資産」で、「資産」が増えるときは「借方」に仕訳するので左側に記載するのでした。
収益の減少例も確認しておきましょう。
「販売した商品100円が返品されて、現金でその代金を返金した。」という場合は、次のような仕訳になります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
売上戻り高 | 100 | 現金 | 100 |
商品が返品されて「収益」が減るときは「借方」に仕訳するので「売上戻り高」という勘定科目を左側に記載します。
「現金」は「資産」で、「資産」が減るときは「貸方」に仕訳するので右側に記載します。
3-5 費用とは
商品の仕入れや給与の支払い、水道光熱費、事務所の賃料などの会社の資産の減少をもたらす取引を分類するのが「費用」グループです。
会社は、商品を仕入れたり、スタッフにお給料を支払ったりして売上を上げていくものですが、その収益に貢献するための出費を管理するグループが「費用」です。
3-5-1 費用に分類される主な勘定科目
勘定科目名 | 内容 |
---|---|
仕入高 | 本業での商品の購入のための支出 |
給与 | 従業員に支払われる給料や手当など |
役員報酬 | 取締役などの役員に支払われる報酬 |
支払手数料 | サービスを利用する際に支払う支出 |
地代家賃 | 事務所の家賃や月極駐車場料金 |
福利厚生費 | 従業員の福利厚生に関する支出 |
水道光熱費 | 水道代、電気代、ガス代 |
広告宣伝費 | インターネット広告など不特定多数の人に対する宣伝や広告に関する支出 |
消耗品費 | 10万円未満の備品や消耗品を購入した費用 |
3-5-2 費用に分類される勘定科目の性質
費用は収益と反対側なんですね。
そうです。
収益と費用は、資産と負債の関係のように相反する側になる対の関係にあります。
費用の仕訳例をみてみましょう。
「販売のための商品を100円で購入して、現金で支払った。」という例でみてみましょう。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
仕入高 | 100 | 現金 | 100 |
販売用の商品を購入した場合は、「仕入高」という費用の勘定科目を使います。
「費用」が増えるときは「借方」に仕訳するので左側にきます。
「現金」は「資産」で、「資産」が減るときは「貸方」に仕訳するので右側にきます。
以上が「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の解説でした。
もう一度これら5種類の性質を確認しておきましょう。
【資産・負債・純資産・収益・費用の性質まとめ】
増加 | 減少 | |
---|---|---|
資産グループの勘定科目 | 借方 | 貸方 |
負債グループの勘定科目 | 貸方 | 借方 |
純資産グループの勘定科目 | 貸方 | 借方 |
収益グループの勘定科目 | 貸方 | 借方 |
費用グループの勘定科目 | 借方 | 貸方 |
では、ここでもう一度確認のために仕訳を練習してみましょう。
上の表を見ても構いませんからね。
水道代10,000円を銀行引き落とし(普通口座の預金)で支払った場合は、どういう仕訳になりますか?
水道代は「水道光熱費」という費用の勘定科目を使います。
普通口座からの銀行引き落としは「普通預金」という資産の勘定科目を使います。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
費用が増えるのは、、、
「借方」かな?
資産が支払いだから、、、
減ってるよな、、、
「貸方」になるはず、、、
じゃあ
ずばり、こうです!
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
水道光熱費 | 10,000 | 普通預金 | 10,000 |
正解です!
では、次は逆のパターンで、この仕訳の意味を教えてください。
実務で必ず出てくる仕訳です。
借 方 | 貸 方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
消耗品費 | 25,000 | 未払金※ | 25,000 | Amazon モニター代 |
うーん
「消耗品費」は、備品や消耗品の購入で「費用」グループでしょ、、、
「費用」が「借方」ということは、「費用」が増えているわけで、、、
「未払金」は「負債」で、それが「貸方」ということは、「負債」が増えているという意味で、、、
摘要が「Amazon モニター代」だから、、、
わかった!
ずばり!
「Amazonでモニターを「消耗品費」として購入し、その支払いは、クレジット決済で未払いになっている」という意味ですね!
どうでしょう?
これも正解です、素晴らしい!
摘要がこれまで出てきませんでしたが、このように適用には、「取引先」と「取引の内容」を記載する必要がある、という重要なポイントもここに盛り込んでみました。
もう簿記のことがわかってきましたね。
(わからなかった方は、もう一度【資産・負債・純資産・収益・費用の性質まとめ】を確認して、納得のいくまでおさらいしてください。)
仕訳は、取引内容を「勘定科目」に当てはめて、その勘定科目のもつ性質のとおりに「借方」「貸方」に仕分けていくイメージですね!
記号の性質を理解して、その性質に則って帳簿をつけていく作業という感じですね。
仕訳と勘定科目がわかってきたところで、1年間の簿記の流れにもう一度戻ります。
「仕訳をする」というところまで来ました。
続いては「仕訳帳・総勘定元帳・残高試算表等ができる」という段階です。
仕訳帳・総勘定元帳・残高試算表までの内容は動画でも解説しています。
動画がお好みの方はこちらをどうぞ。
仕訳帳もここまでで登場しています。
仕訳は仕訳日記帳(仕訳帳)に記帳していきます。次のような形です。
【仕訳日記帳】
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
4月4日 | 現金 | 100,000 | 売上高 | 100,000 |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
合計 | 260,000 | 260,000 |
ここからは実務の場面を考慮して、会計ソフトを使用している前提での話になります。
会計ソフトで仕訳を登録して、「仕訳日記帳」を作っていくと、そのデータが自動で転記(編集)されて、「総勘定元帳」や「残高試算表」というものが自動で作成されます。
これらの帳簿書類により、取引内容を仕訳日記帳とは違う切り口から確認することができたり、1年間全体の各勘定科目の合計額がどうなっているかということも確認できます。
これが複式簿記をやっている恩恵です。
多角的にかつ網羅的に取引情報を確認できるのです。
続いては、実務でよく使うこの総勘定元帳と残高試算表について解説していきます。
4 総勘定元帳とは
総勘定元帳とは、勘定科目に着目して、その勘定科目がどのように増減しているかを確認するための帳簿です。
例えば、これまで何度も登場してきている次の仕訳日記帳から総勘定元帳はどのように転記されているかをみてみましょう。
「現金」に着目して、4月の「現金」の増減を見たいとします。
【仕訳日記帳】
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
相手勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
4月4日 | 現金 | 100,000 | 売上高 | 100,000 |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
【総勘定元帳(現金)】
取引日 | 相手勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月1日 | 繰越残高※ | 100,000 | ||
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 50,000 | |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 40,000 | |
4月4日 | 売上高 | 100,000 | 140,000 | |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 40,000 |
※4月1日現在で「現金」の残高が100,000あったとします。
勘定科目「現金」についての総勘定元帳なので、わかりきっている「現金」という勘定科目は記載されません。
4月2日に着目して帳簿の意味を確認していきましょう。
取引日 | 相手勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 50,000 |
まず、金額を見てみましょう。
「貸方金額」欄に金額が入っています。
これは「現金」という勘定科目は「貸方」に来ていて、その金額が50,000であるということを意味します。
つまり、次のような仕訳となっているということを意味しています。
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
相手勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 現金 | 50,000 |
続いて「相手勘定科目」を見てみましょう。
「仕入高」となっています。
相手勘定科目とは、「現金」を対象とした場合、「現金」が仕訳されているその仕訳の反対側の勘定科目のことを指しています。
今回の例では、「現金」が貸方に仕訳されていますので、その相手勘定科目は、借方の勘定科目を指しています。
貸方に仕訳されている「現金」の相手勘定科目は、「仕入高」だよということを伝えています。
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
相手勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
この仕訳が、現金に注目した総勘定元帳になると次のようになるわけです。
取引日 | 相手勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 50,000 |
現金が50,000円減って、その相手勘定科目は「仕入高」
という感じで読み取ります。
もう一度現金の勘定科目の全体をみてみましょう。
【総勘定元帳(現金)】
取引日 | 相手勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月1日 | 繰越残高※ | 100,000 | ||
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 50,000 | |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 40,000 | |
4月4日 | 売上高 | 100,000 | 140,000 | |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 40,000 |
一つ一つ意味を確認していくと
取引日 | 総勘定元帳から読み取れる取引内容 |
---|---|
4月1日 | 現金の残高は100,000 |
4月2日 | 仕入高によって現金が50,000減少 |
4月3日 | 水道光熱費によって現金が10,000減少 |
4月4日 | 売上高によって100,000現金が増加 |
4月10日 | 普通預金によって100,000現金が減少(現金100,000を普通預金に預け入れた |
総勘定元帳を見て、仕訳をイメージできるところまでいきたいところです。
仕訳を理解したばかりなので今はすぐはわからないかもしれませんが、総勘定元帳を何度も見ていればわかってきます。
それを聞いて安心しました。
なんとなくわかるような…
なんか銀行の通帳に似てますね。
通帳も銀行口座への入出金ということがわかってますから、出金と入金に分かれていて、何の入出金かが摘要に書いてありますもんね。
あの形式のイメージか。
そう捉えるとわかりやすいかもしれませんね。
ここで、もう一度総勘定元帳の役割をおさらいしておきましょう。
総勘定元帳は勘定科目ごとの取引状況を網羅的に確認できます。
例えば、現金の実際の残高と帳簿の残高が合わない時に仕訳日記帳と睨めっこしても原因はわかりません。
一方、総勘定元帳では記帳されている現金がどのように増減しているかがすぐわかりますので、「この日の現金入金が記帳漏れだ」ということがわかりやすくなります。
続いて残高試算表について確認していきましょう。
5 残高試算表とは
5-1 残高試算表とは
残高試算表は、仕訳日記帳内容から、各勘定科目ごとに残高を集計して、その残高を一定のルールにしたがって表示したものです。
残高とはどういう意味でしょうか?
残高ですね。
さきほどの現金の総勘定元帳で確認してみましょう。
【総勘定元帳(現金)】
取引日 | 相手勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月1日 | 繰越残高※ | 100,000 | ||
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 50,000 | |
4月3日 | 水道光熱費 | 10,000 | 40,000 | |
4月4日 | 売上高 | 100,000 | 140,000 | |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 40,000 | |
合計 | 100,000 | 160,000 | 40,000 |
「現金」の残高が最初は100,000で、その後増えたり減ったりして最終的に40,000になっていますよね。
これを「残高」と呼んでいます。
「現金」が増えたら残高も増えて、減れば残高も減ります。
5-2 残高の計算方法
残高は、総勘定元帳を見ないと計算できないのですか?
そんなことはありません。単純な算式で計算できます。
各勘定科目の借方合計と貸方合計の差額が残高です。
差額とは、借方合計と貸方合計のどちらからどちらを差し引くのでしょうか。
合計額が多い方から少ない方を差し引きます。
次の例で確認していきましょう。
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
相手勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
4月3日 | 現金 | 60,000 | 売上高 | 60,000 |
4月4日 | 現金 | 100,000 | 売上高 | 100,000 |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
合計 | 310,000 | 310,000 |
これがすべての仕訳日記帳であったと仮定します。
その前提で、現金の残高を計算してみましょう。
現金の借方の合計は60,000(4/3)+100,000(4/4)=160,000
現金の貸方の合計は50,000(4/2)+100,000(4/4)=150,000
多い方から少ない方を差し引くので、
借方合計160,000 ー 貸方合計 150,000 = 残高10,000
とこのように計算されます。
そして、これを「借方残高」と呼びます。
借方と貸方、多い方を残高の前につけるイメージですね。
貸方の方が多い残高は「貸方残高」と呼ぶんですね。
そういうことです!
それでは、実際に残高試算表を作ってみましょう。
5-3 残高試算表の作成の仕方
最初に言っておきますが、残高試算表は、会計ソフトを使っていれば、仕訳帳の内容を元にして自動で作成されるものです。
だから自分で作れなくてもいいのですが、残高試算表は重要な書類でその見方を理解する上では、その仕組みを知っておく必要があります。
先ほど使った例で残高試算表を作ります。
以下の仕訳帳の仕訳がすべてであったとします。
【仕訳日記帳】
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
相手勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
4月3日 | 現金 | 60,000 | 売上高 | 60,000 |
4月4日 | 現金 | 100,000 | 売上高 | 100,000 |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
合計 | 310,000 | 310,000 |
もう一度現金残高を計算します。
借方合計160,000 ー 貸方合計 150,000 = 10,000(借方残高)
これを残高試算表に転記すると次のようになります。
【残高試算表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金 | 10,000 | |
まず「勘定科目」欄に、残高を計算した勘定科目を記載します。
次に借方残高でしたので、「借方残高」欄に残高10,000を記載します。
それでは、他の科目も含めて次の仕訳日記帳から残高試算表を作ってみます。
【仕訳日記帳】
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
相手勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
4月3日 | 現金 | 60,000 | 売上高 | 60,000 |
4月4日 | 現金 | 100,000 | 売上高 | 100,000 |
4月10日 | 普通預金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
合計 | 310,000 | 310,000 |
【残高の計算過程】
勘定科目 | 性質 | 残高計算過程 |
---|---|---|
現金 | 借方科目 | (借方)60,000+100,000 – ((貸方)50,000 + 10,000)=10,000 |
売上高 | 貸方科目 | (貸方)60,000+100,000 – (借方)0 = 160,000 |
仕入高 | 借方科目 | (借方)50,000 – (貸方)0 = 50,000 |
普通預金 | 借方科目 | (借方)100,000 – (貸方)0 = 100,000 |
【残高試算表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金 | 10,000 | |
普通預金 | 100,000 | |
売上高 | 160,000 | |
仕入高 | 50,000 | |
合計 | 160,000 | 160,000 |
残高試算表の借方合計と貸方合計がこの例では160,000で一致しているように、残高試算表の借方合計と貸方合計も必ず一致します。
他に注意する点はありますか?
そうですね。
残高試算表の集計期間と並び順について触れておきましょう。
集計期間について
残高試算表は、会計期間1年間で集計することが多いですが、集計期間はその会計期間の中で自由に設定して計算できます。
例えば2024年1月1日から6月30日の残高試算表を作るということもできます。
会計ソフトでは、月ごとに残高試算表を計算して、12ヶ月分を横に並べて推移表として、月毎に勘定科目の推移を確認したりということもできます。
並び順について
残高試算表は、前述したグループの順番で表示することになっています。
表示する順番は次のとおりです。
先ほどの例もこのルールにしたがって表示されています。
【残高試算表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金(①資産) | 10,000 | |
普通預金(①資産) | 100,000 | |
売上高(④収益) | 160,000 | |
仕入高(⑤費用) | 50,000 | |
合計 | 160,000 | 160,000 |
5-4 残高試算表の役割
ところで、残高試算表は何のため作られるものなのでしょうか?
会計ソフトの使用を前提にしたときの残高試算表の役割は、集計期間でそれぞれの勘定科目の残高が一覧で確認できるという点が最も大切な役割です。
仕訳日記帳には、日々の取引が仕訳としてどんどん追加されます。
例えば、今月末に大きな支払いがあるとします。
今月頭現在で普通預金の残高がいくらあるか確認したい時に、仕訳の数が多い場合、仕訳日記帳からではわかりません。
一方残高試算表を会計ソフトで表示させればすぐに普通預金の残高は確認できます。
経済活動をしていれば、各勘定科目の残高を知りたい場面はたくさんあります。
また、金融機関と融資などの取引がある場合は、「いついつまでの試算表を提出してください。」と言われることもあります。
このような場面で「残高試算表」は力を発揮します。
経営判断をする際の金銭面での判断によく使用されるのが残高試算表です。
また、月ごとの残高試算表(推移表)もよく使用されます。
それも日々の取引の仕訳を怠ることなく記帳していることが前提になります。
確かに!
仕訳を登録していなければ残高試算表は作れませんもんね。
迅速な経営判断のためにも、日々の仕訳を滞りなく記帳することが大切なんですね!
ここまでで簿記の流れの中で「日々すること」の3つについて解説してきました。
続いては、「決算ですること」に移っていきます。
6 決算書とは
そもそも決算書とは何かを理解するために、決算書ができるまでの流れを確認しましょう。
実務では、後述する「決算整理」を終えれば、会計ソフトで決算書を作成するボタンを押せば自動的に作成されます。
「決算整理」は後回しにして、どういう流れで決算書が作成されるかを理解することで、決算書の意味がわかりやすくなりますので、以下で確認していきましょう。
ここから最後までの決算書とは、決算調整とは、翌期繰越とは、までの内容は動画でも解説しています。
動画がお好みの方はこちらをどうぞ。
6-1 決算書の作り方
会計ソフトを使う場合は、仕訳日記帳の内容から自動で作成されますが、自身で作成する場合は、次の流れで作成します。
STEP1 会計期間1年間の残高試算表を作成する
例えば、会計期間が2023年4月1日から2024年3月31日であった場合、この期間の残高試算表をまず作成します。
【残高試算表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金 | 10,100 | |
普通預金 | 500,000 | |
未収入金 | 115,000 | |
車両運搬具 | 1,100,000 | |
未払金 | 25,000 | |
未払法人税等 | 100,000 | |
資本金 | 1,000,000 | |
繰越利益剰余金 | 300,000 | |
売上高 | 1,500,000 | |
給料 | 700,000 | |
水道光熱費 | 65,000 | |
地代家賃 | 250,000 | |
減価償却費 | 85,000 | |
受取利息 | 100 | |
法人税等 | 100,000 | |
合計 | 2,925,100 | 2,925,100 |
STEP2 決算書(貸借対照表・損益計算書)を作成する
法人の場合は、決算書は、この他に株主資本等変動計算書と個別注記表を作成する必要がありますが、今回は簿記の記事なのでここでは説明を割愛します。
残高試算表の内容を分解して貸借対照表と損益計算書を作成します。
次のように分解します。
貸借対照表 | 損益計算書 |
---|---|
資産グループの勘定科目とその残高 | |
負債グループの勘定科目とその残高 | |
純資産グループの勘定科目とその残高 | |
収益グループの勘定科目とその残高 | |
費用グループの勘定科目とその残高 |
どういうことか、先ほどの残高試算表を貸借対照表と損益計算書に分解してみます。
まずは残高試算表から分解して損益計算書を作成してみます。
残高試算表から損益計算書を作成する
損益計算書には「収益」グループと「費用」グループが属しますので、これらのグループの勘定科目と残高を損益計算書に持ってきます。
【収益と費用の残高試算表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
売上高 | 1,500,000 | |
給料 | 700,000 | |
水道光熱費 | 65,000 | |
地代家賃 | 250,000 | |
減価償却費 | 85,000 | |
受取利息 | 100 | |
法人税等 | 100,000 |
【損益計算書】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
売上高 | 1,500,000 | |
給料 | 700,000 | |
水道光熱費 | 65,000 | |
地代家賃 | 250,000 | |
減価償却費 | 85,000 | |
受取利息 | 100 | |
法人税等 | 100,000 | |
当期純利益 | 300,100 | |
合計 | 1,500,100 | 1,500,100 |
残高試算表の方にはなかった「当期純利益」という科目が現れていますね。
当期純利益は次の算式で求めます。
当期純利益 = 収益の総額 ー 費用の総額
上の図の勘定科目を収益グループと費用グループに分けると次のようになります。
収益グループ | 売上高、受取利息 |
---|---|
費用グループ | 給料、水道光熱費、地代家賃、減価償却費、法人税等 |
【収益と費用の残高試算表】の収益グループの残高合計と費用グループの残高合計を求めると次のようになります。
収益グループの総額:1,500,100
費用グループの総額:1,200,000
1,500,100 ー 1,200,000 = 300,100(当期純利益)
当期純利益はこのように求められます。
そして求められた当期純利益は少ない方の費用側へ、つまり借方の一番下に入ります。
逆に費用の方が大きくて、収益の方が少ない場合は、「当期純損失」となって、少ない方の貸方の一番下に入ります。
これにより、損益計算書の借方の合計と貸方の合計が一致することになります。(これを「貸借が一致する」と表現したりもします。)
今回の例では、1,500,100で両者が一致しています。
この辺りの計算は、会計ソフトを使用したら自動計算される部分なので、「そうなんだな」と理解しておいてもらえれば大丈夫です。
当期純利益や当期純損失のところで何かひっかかるところがあったら、ここに戻って確認するという感じでよいと思います。
損益計算書の役割とは
残高試算表では意識しませんでしが、損益計算書になったことで、収益から費用を差し引いた利益に目がいくようになりましたね。
そのとおりです。
損益計算書の役割を表現すると次のようになります。
損益計算書の様式
先に紹介した損益計算書は簡易なもので、会計ソフトで損益計算書を作成すると次のような形式になります。
【損益計算書】
科目 | 金額 | |
---|---|---|
売上高 | 1,500,000 | |
売上総利益金額 | 1,500,000 | |
給料 | 700,000 | |
水道光熱費 | 65,000 | |
地代家賃 | 250,000 | |
減価償却費 | 85,000 | |
営業利益金額 | 400,000 | |
受取利息 | 100 | |
経常利益金額 | 400100 | |
法人税等 | 100,000 | |
当期純利益金額 | 300,100 |
「営業利益」という言葉は聞いたことがありますね。
実務ではこちらの様式を使用します。
新しく出てきた太文字の用語の意味を確認しておきましょう。
だいたいこんな意味だぐらいに理解してもらえれば構いません。慣れてきますので。
【損益計算書の用語の解説】
項目名 | 意味 |
---|---|
売上総利益 | 売上高から売上原価を差し引いた利益。粗利ともいわれる。 |
営業利益 | 売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた利益。 |
経常利益 | 営業利益に本業以外の収益を加え本業以外の費用を差し引いた利益。 経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 ー 営業外費用 |
税引前当期純利益 | 経常利益に経常的に発生しない収益を加え、同費用を差し引いた利益。 税引前当期利益 = 経常利益 + 特別収益 ー 特別損失 |
当期純利益 | 税引前当期純利益から法人税、住民税及び事業税を差し引いた利益 |
上の方から粗利益を出して、下にいくにしたがって利益を細分化しているイメージですかね。
本業での営業活動での利益を営業利益で確認したり、例えば固定資産売却損などは特別損失に該当しますが、こういった通常の活動では出てこないレアケースを除いた経常的な利益を見たいときは経常利益を確認する、といった見方をします。
「固定資産売却損」という「費用」グループの勘定科目はさらに「特別損失」というカテゴリーに分類されるということですね。
覚えることがたくさんだ…
何らかの資格試験に合格するためには覚える必要がありますが、実務ではどの勘定科目が営業外収益や特別利益に分類されるかは覚える必要はありませんよ。
会計ソフトの仕訳帳に登録している内容が、自動的に分類されてこのような損益計算書が作成されますので。
それを聞いて安心しました。
損益計算書を何度も眺めていればどの科目がどの位置に入ってくるかは自然と慣れてわかってくるものです。
参考までにどの勘定科目がどのカテゴリーに分類されるかを紹介しておきましょう。
収益・費用の勘定科目 | カテゴリー |
---|---|
売上高 | 売上高 |
仕入高 | 売上原価 |
給料 | 販売費及び一般管理費 |
広告宣伝費 | 販売費及び一般管理費 |
消耗品費 | 販売費及び一般管理費 |
減価償却費 | 販売費及び一般管理費 |
受取利息 | 営業外収益 |
雑収入 | 営業外収益 |
支払利息 | 営業外費用 |
雑損失 | 営業外費用 |
固定資産売却益 | 特別利益 |
前期損益修正益 | 特別利益 |
固定資産売却損 | 特別損失 |
前期損益修正損 | 特別損失 |
もし、ある勘定科目が損益計算書でどのカテゴリーに分類されるか知りたい場面にあたったとしたら、今ならインターネットで検索すればすぐわかります。
続いて残高試算表から貸借対照表を作成します。
残高試算表から貸借対照表を作成する
貸借対照表には「資産」グループと「負債」グループ、そして「純資産」グループが属します。
これらのグループの勘定科目と残高を貸借対照表に持ってきます。
【資産、負債、純資産の残高試算表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金 | 10,100 | |
普通預金 | 500,000 | |
未収入金 | 115,000 | |
車両運搬具 | 1,100,000 | |
未払金 | 25,000 | |
未払法人税等 | 100,000 | |
資本金 | 1,000,000 | |
繰越利益剰余金 | 300,000 | |
合計 | 1,725,100 | 1,425,000 |
【貸借対照表】
資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
現金 | 10,100 | 未払金 | 25,000 |
普通預金 | 500,000 | 未払法人税等 | 100,000 |
未収入金 | 115,000 | 純資産の部 | |
車両運搬具 | 1,100,000 | 資本金 | 1,000,000 |
繰越利益剰余金 | 600,100 | ||
(うち当期純利益 | 300,100) | ||
合計 | 1,725,100 | 合計 | 1,725,100 |
残高試算表から貸借対照表の変化は、「資産の部」「負債の部」「純資産の部」と明確にカテゴリー分けがされて、借方と貸方が左右に明確に分けられたという感じですかね。
あれ!?ちょっと待って
残高試算表と貸借対照表の繰越利益剰余金の数字が違くないですか?
残高試算表の繰越利益剰余金 | 300,000 |
---|---|
貸借対照表の繰越利益剰余金 | 600,100 |
そうなんです。
ここが決算書作成のミソなんです。
損益計算書と貸借対照表のつながりを意識する必要があります。
説明しますね。
繰越利益剰余金とは、純資産グループに属している勘定科目で、文字どおりこれまでの経済活動で積み上げて繰り越してきた利益の合計です。
「損益計算書の当期純利益が貸借対照表の繰越利益剰余金へ組み込まれる」を図解すると、次のようなイメージです。
当期純利益が組み込まれる前の繰越利益剰余金は、前年度までに積み上げて繰り越されてきた利益の集積を意味します。
そこに今年度の利益が積み増されるイメージです。
今年度の決算で、今年度の利益が積み増されたことによって、今年度まで積み上げた繰越利益剰余金になります。
この繰越利益剰余金がまた来年度に繰り越されます。
損益計算書の当期純利益が、貸借対照表の繰越利益剰余金へ組み込まれるということを仕訳で表現すると、初学者にはイメージがわきにくいかもしれませんが、次のようになります。
先ほどの例で、当期純利益は損益計算書で次のように計算されました。
【損益計算書】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
売上高 | 1,500,000 | |
給料 | 700,000 | |
水道光熱費 | 65,000 | |
地代家賃 | 250,000 | |
減価償却費 | 85,000 | |
受取利息 | 100 | |
法人税等 | 100,000 | |
当期純利益 | 300,100 | |
合計 | 1,500,100 | 1,500,100 |
(収益グループの合計額)1,500,100 ー (費用グループの合計額) 1,200,000 = 300,100
収益グループの残高が300,100となります。
収益グループは貸方科目なので、貸方残高300,100です。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
損益(当期純利益) | 300,100 | 繰越利益剰余金 | 300,100 |
繰越利益剰余金は「純資産」グループなので、貸方にくるということは、増えるという意味でした。
つまり、繰越利益剰余金が300,100増加することになります。
これで、損益計算書の当期純利益は、貸借対照表に組み込まれたことになります。
「損益」という科目は約束事なので、当期純利益が振り替えられたんだと理解できれば十分です。
…
固まってますね。
簿記の話を聞き始めたばかりでこの話はわからないかもしれませんね。
要するに、当期純利益は、繰越利益剰余金に組み込まれるんだということだけ覚えてもらっていれば実務では問題ありません。
この処理は会計ソフトがやってくれますからね。
それにこの処理は年度末に1度しかないことなので、普段の取引を記録する仕訳の方が重要です。この部分は決算の時に実際の数字を見て考えてみるとイメージもつきやすいと思います。
はっ!(目パチパチ)
会計ソフトで作成された貸借対照表の繰越利益剰余金は、損益計算書の当期純利益分だけ変化した結果なんだということさえ知っていればいいのですね。
そこは押さえておいてください!
ちなみに損益計算書で最終的に赤字になって、当期純損失の場合は、繰越利益剰余金は反対に減ることになるので、そこもチェックしておいてくださいね。
損益計算書 | 繰越利益剰余金 |
---|---|
当期純利益だった | 増える |
当期純損失だった | 減る |
貸借対照表の役割とは
貸借対照表は何のために作成するのでしょうか?
貸借対照表の役割を表現すると次のようになります。
貸借対照表には、決算期末時点の資産の状況、負債の状況、純資産の状況が一覧で表示されます。
会社は設立以来、資本金が入金されて、資産や費用にお金をかけて、売上を上げて、お金を稼ぎ、また時にお金を借りたりしてまた費用をかけ、資産を購入して売上を上げてということを繰り返しています。
決算期末時点のその経済活動の結果を確認できるのです。
今どれくらいの資産があり、どれくらいの負債があり、どれくらいの純資産(本当の会社の持分)があるのかを貸借対照表を見れば確認できます。
6-2 簿記の目的
損益計算書や貸借対照表が何のために作成されるかを確認しましたので、ここで簿記の目的を整理しておきましょう。
簿記の最終的な目的は、損益計算書や貸借対照表という決算書を作成することです。
損益計算書は、その年の会社の経営成績を示すものでした。
貸借対照表は、決算期末現在の会社の財政状態を示すものでした。
これらの決算書を誰が読むのでしょうか。
まずは、経営者です。
会社がうまくいっているかを決算書により確認する必要があります。
株主も読みます。
自分が出資したお金がどのように使われているか、会社の価値が上がりそうなのか、下がりそうなのか判断する材料が必要です。
銀行も読むでしょう。
会社が融資を申し込みにきた場合、この会社に貸して大丈夫か、利息をつけて返済してくれるのか。
貸し付けた後も継続して返済が行われるかを定期的に確認する必要があります。
税務署も読みます。
利益に税金がかかりますので、その計算がどのように行われているかを確認する必要があります。
このように、経営者、株主、銀行、税務署など、会社の経営成績と財産状態を知りたいという人が大勢いるのです。
会社を運営していく上でこのような利害関係者がたくさんいます。
その人たちが活用するためのものです。
そのために、日々の取引を簿記により記録して、1年に1回決算書を作成して報告するのです。
簿記はこのために必要なのです。
会社の帳簿をつけるために仕様がなく簿記をやってみるかと思っていた程度でしたが、襟が正されました。
簿記は、会社を長く続けていく上でとても重要な役割を担っているんですね。
決算書がどのようなもので、どのような役割かが確認できたところで、最後に後に回していた決算整理について解説します。
6-3 決算整理とは
会計処理には一定のルールがあり、その年度の決算書に含める必要があるもの、含めてはいけないものがあります。
それを調整する作業を「決算整理」といいます。
会計年度終了日までの日々の取引をひととおり仕訳日記帳に記録し終わりました。
その後に「決算整理」を行なって必要な仕訳を記録した後に、先に説明した決算書を作成するという流れです。
やるべき「決算整理」は会社によって違いますので、ここでは、取引内容を全て記帳した後に「決算整理」というものがあるんだということを頭に入れてもらうことを覚えてもらいたいと思います。
「決算」という言葉はよく耳にしますが、「決算」とは、1年の取引の仕訳を記録し終えて、決算整理をして決算書を作成する作業のことを言うんですね!
そのとおりです。
それでは、主な決算整理事項を紹介して、決算整理がどのようなものかイメージできるようになってもらえればと思います。
決算整理事項 | 内容 |
---|---|
現金過不足 | 帳簿の現金残高と実際の現金有高が不一致となった場合、原因が判明したものは仕訳で修正し、判明しないものは、その差額を雑損失または雑収入という勘定科目を使って仕訳し、不一致を解消させる。 |
固定資産の減価償却費 | 固定資産の購入費用を一度に費用とせず、使用する期間に応じて1年度あたり一定金額を費用とする。 |
売上原価の算定 | 商品仕入れがある場合、仕入高は売上原価になるが、実地に在庫を把握し、在庫の金額は売上原価から除く。 |
経過勘定科目の調整 | 継続したサービスの場合で、今年度中にすでにサービスを受けているが支払いがまだの場合は、未払費用として支払っていなくても今年度の費用とする処理。ほかに「未収収益」「前払費用」「前受収益」がある。 |
法人税等の計上 | 税引前当期純利益を出した段階で法人税等の確定申告書を作って税金を計算してから計上する。 |
今これらのものがわからなくても結構です。
実際に決算をするときに自分の会社がどのようなことをしなければならないかを調べて個別に対応してもらえればと思います。
6-4 翌期繰越と帳簿の締切り
決算書ができあがるところまで説明してきましたが、決算が終わった後に最後にすることが残っています。
会計ソフトで言うところの「翌期繰越」という作業です。
昔ながらの簿記の世界で言うところの「帳簿の締切り」です。
これがどういうことかというと、決算が確定したところで、貸借対照表の残高を次の年度の仕訳帳の先頭に繰り越す必要があるのです。
次年度の仕訳帳の先頭のことを「翌期首(よくきしゅ)」と呼びます。
総勘定元帳の例で、先頭に「繰越残高」という言葉があって「?」と思った方も多いと思います。
これがまさに前年度に確定した貸借対照表から繰り越された金額を表していたんです。
【総勘定元帳(現金)】
取引日 | 相手勘定科目 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
---|---|---|---|---|
4月1日 | 繰越残高 | 100,000 | ||
4月2日 | 仕入高 | 50,000 | 50,000 | |
… | … | … | … | … |
繰越残高は、前年度の確定した決算で現金の残高が100,000あって、それを今年度の期首に繰り越したから出てくるものなのです。
では、具体的にどのように繰越しが行われるかをみていきましょう。
先ほどの例で貸借対照表の残高試算表がこのようなものであった場合、仕訳帳の先頭に次のように仕訳をします。
【前年度末の貸借対照表】
勘定科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
---|---|---|
現金 | 10,100 | |
普通預金 | 500,000 | |
未収入金 | 115,000 | |
車両運搬具 | 1,100,000 | |
未払金 | 25,000 | |
未払法人税等 | 100,000 | |
資本金 | 1,000,000 | |
繰越利益剰余金 | 600,100 | |
合計 | 1,725,100 | 1,725,100 |
【当期首の開始残高】
取引日 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
4月1日 | 現金 | 10,100 | 未払金 | 25,000 |
普通預金 | 500,000 | 未払法人税等 | 100,000 | |
未収入金 | 115,000 | 資本金 | 1,000,000 | |
車両運搬具 | 1,100,000 | 繰越利益剰余金 | 600,100 | |
合計 | 1,725,100 | 1,725,100 |
このように貸借対照表の側の各勘定科目の残高をすべて仕訳日記帳に記帳します。
翌期繰越をして仕訳日記帳の先頭に記帳される残高を「開始残高」と呼びみます。
この作業をすることで、会社の資産や負債、純資産の値を次の年度に引き継げるのです。
損益計算書は繰り越さなくて良いのですね。
損益計算書を繰り越す必要はありません。
損益計算書はその年度の利益を算出したらお役御免です。
利益は、貸借対照表の「繰越利益剰余金」に組み込まれているので、貸借対照表の残高を繰り越せば、損益計算書の利益もちゃんと翌年度に繰り越されています。
「帳簿の締切り」という言葉は特に気にしなくて良いですか?
あまり解説にでてきませんでしたが。
簿記の3級では出てきますが、これも会計ソフトを利用していれば意識することはない言葉です。
昔は一つ一つ各勘定科目ごとに次の例のように手書きで締め切っていたのです。
今や会計ソフトで一瞬で各勘定科目を締め切ってくれるので、翌期繰越で前年度の各科目の残高を開始残高として今年度に繰り越すんだということを知っていれば十分です。
ここまでで、簿記一巡の解説は完了です。
最後にこれまでの内容を振り返りましょう。
7 まとめ
簿記の流れをもう一度確認しておきましょう。
簿記は、会社の利害関係者への報告として決算書(損益計算書と貸借対照表)を作成するためのものでした。
決算書作成のために、日々の取引を次のように
- 借方貸方に分けて
- 取引内容を勘定科目に当てはめて
仕訳をして、仕訳帳に記録していくのでした。
仕訳は取引の原因と結果を表現できて、これが複式簿記でしたね。
勘定科目には、「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の5つのグループに分類できました。
それぞれ増えるときに借方または貸方に記帳されるかが次のように決まっていました。
グループ | 増える時に記帳する側 | 覚え方 |
---|---|---|
資産グループの勘定科目 | 借方 | 資産=借方科目 |
負債グループの勘定科目 | 貸方 | 負債=貸方科目 |
純資産グループの勘定科目 | 貸方 | 純資産=貸方科目 |
収益グループの勘定科目 | 貸方 | 収益=貸方科目 |
費用グループの勘定科目 | 借方 | 費用=借方科目 |
勘定科目「現金」は資産グループだから増える時は「借方」に記録して、減る時は「貸方」に記録するんでしたね。
現代の簿記は、会計ソフトを使うのが主流なので、仕訳帳ができれば、総勘定元帳も残高試算表も自動でできるのでした。
その後一定の決算整理を行なって損益計算書と貸借対照表を作成して1年間で簿記でするべきことが終了します。
仕訳が最初はさっぱり意味不明の暗号でしたが、だいぶわかってきました。
取引を勘定科目に当てはめて、その勘定科目が借方科目・貸方科目によって、左か右に経理すればよい。
そして金額を借方と貸方で同額にすればいいんですよね。
あとは、会計ソフトがうまいこと総勘定元帳や残高試算表、決算書を作ってくれるというそんなイメージですよね。
ざっくり言うとそんな感じですね。
そこまでわかればもう簿記初心者卒業ですね。
あとは消費税が入ってくると「税区分」や「インボイス」の有無なんかが加わってきます。また実務の記帳では、勘定科目に紐づく「補助科目」なんていうのもありますが、まずは簿記の全体の流れと、仕訳とはどういうものなのかということを抑えましょう。
あとは実際に取引を行なって、その記帳を通じて、わからないところは調べて解決してという繰り返しで経験値を積むだけです!
Go for it!
簿記と仕訳の基本はわかったので、あとは実務で揉まれてきます!
おかげさまでやれそうな気がしてきました!
ありがとうございました!!