
最近、個人事業もようやく安定してきたんですけど、
マイクロ法人を設立して個人事業主との二刀流にすると社会保険料が安くなるとか、節税になるとか、本当なんですか?
正直、うまい話に見えて不安で……。
最近よく、SNSやブログ記事で目にする
「マイクロ法人」や「法人と個人事業主の二刀流」という言葉。
なんとなく「小さな会社のことかな?」くらいは分かるけれど――
- ひとりでやってる個人事業主でも、法人を作って二刀流にできるの?
- 二刀流にすると社会保険料が安くなるって聞くけど、本当なの?
- 節税になるって言うけど、税務署から目をつけられたりしない?
- 法人って、設立や維持にお金も手間もかかるんじゃないの?
「二刀流」「マイクロ法人」という言葉ひとつで、いろんな疑問が浮かんできます。
たしかに、「法人を設立する」と聞くと、従業員を雇い、オフィスを構えて運営するような本格的な会社を想像しがちです。
ですが実際には、フリーランスや個人事業主でも、代表者ひとりの小規模法人(いわゆるマイクロ法人)を作り、個人事業と併用することは可能です。
そして、二刀流の設計次第では、税金だけでなく社会保険の面でもメリットが出るケースがあります。
ただし、ここが重要なのですが――
「必ず得をする」わけではありません。
たとえば、
- 売上が少なくても、毎年の均等割(法人住民税)が発生してしまった
- 経理・申告が二重になり、手間やコストが増えてしまった
- 役員報酬の設定を誤って、社会保険料が想定以上に重くなってしまった
- 事業の分け方が不自然で、税務署から実態を疑われるリスクが高まった
こうした「二刀流の落とし穴」は、仕組みを正しく理解していれば、事前に回避できるものがほとんどです。
本記事では、法人と個人事業主の二刀流(マイクロ法人)について、
- 法人と個人事業主の二刀流の仕組み
- メリット・デメリット
- 社会保険料が安くなると言われる理由と注意点
- 税務署に否認されないための考え方
を、実務目線で順を追って分かりやすく整理していきます。
読み終える頃には、
- 自分は二刀流を検討すべきか、それとも個人事業主のままでよいのか
- 二刀流にするなら、どこに注意して設計すべきか
を、自分で判断できる状態になっているはずです。
それでは本題に入っていきましょう!
目次
1 二刀流スキームとは何か

ここまでで、二刀流スキームが「社会保険や税務の観点から注目されている理由」について触れてきました。
一方で、二刀流という言葉だけが先行し、仕組みそのものが十分に理解されないまま検討されているケースも少なくありません。
二刀流を正しく判断するためには、
- そもそも「法人と個人事業主の二刀流」とはどのようなスキームなのか?
- マイクロ法人とは何を指すのか
- 一般的な法人成り(完全法人化)とは何が違うのか
といった基本的な前提を整理しておくことが欠かせません。
この章では、二刀流スキームの土台となる考え方を確認したうえで、
マイクロ法人の位置づけや法人成りとの違い、そしてなぜこの仕組みが注目されているのかを、順を追って整理していきます。
1-1 法人と個人事業主の「二刀流」とは
そもそも、「二刀流」ってどんなものなのでしょうか?
法人化(法人成り)と違うの?
個人事業主としての事業を続けながら、別途法人を設立し、両方を並行して運営する
どちらか一方を廃業するのではなく、個人と法人を使い分けて事業を行う点が特徴です。
あくまで、個人事業と法人をそれぞれ独立した事業として併存させる仕組みです。
個人とは別に法人を設立して、仕事をするってことですね。
でも、これって違法にならないのでしょうか?
二刀流スキームが成立する最大の理由は、法人と個人事業主が税務上・法務上ともに「別人格」として扱われる点にあります。
そのため、適切に運営されていれば、法人と個人を同時に持つこと自体は違法ではありません。
法人は法人として法人税や社会保険のルールが適用され、個人事業主は個人事業主として所得税や国民健康保険などのルールが適用されます。
それぞれが独立した納税主体であることが、二刀流の前提条件です。
たとえば、個人事業主としてはこれまで通り業務委託やフリーランス業務を行い、一方で法人では、別のサービス提供や契約を法人名義で行うケースがあります。
このように、収入の入口や契約主体が分かれていれば、それぞれ別の事業として成立します。
このように二刀流スキームとは、税金をごまかすための仕組みではなく、制度上認められた形で事業を分けて運営する考え方であることを、まず押さえておく必要があります。
ふむふむ、、、
個人事業主と法人の2つを同時に持つということですね。
これって、契約や経理も別にするってことですよね?
はい、その理解で合っています。
ただし、ここで一番大事なのは、「同時に持つ」の意味を正しく捉えることです。
二刀流における「同時に持つ」とは、単に法人を作って名前を分けることではありません。
法人と個人が、それぞれ実態のある事業として存在している状態を指します。
なぜなら、税務上は「誰が」「どの事業を行い」「どこで収益を得ているのか」という事業の実態が何より重視されるからです。
二刀流を成立させるためには、少なくとも次の点が、法人と個人で明確に分かれていることが求められます。
- 契約の主体(誰の名義で契約しているか)
- 業務内容(どんな仕事をしているか)
- 売上の管理(どこに入金されているか)
- 経費の処理(どちらの経費か)
- 申告手続き(法人申告か、個人の確定申告か)
第三者、つまり税務署や取引先が見ても「これは法人の仕事」「これは個人の仕事」と分かる状態であることが重要です。
なるほど。
なぜ、二刀流スキームってこんなに注目されているんですか?
どのようなスキームなんでしょうか?
はい。個人事業主と法人では、社会保険の仕組みがそもそも違います。
その仕組みの違いを使って社会保険料を下げれるというのが、二刀流が注目されている一番の理由です。
税金の話題が先行することもありますが、実務の現場では、社会保険の考え方こそが検討の出発点になるケースが多く見られます。
個人事業主の場合、社会保険には主に次のような特徴があります。
- 国民健康保険料は、所得が増えるほど負担が重くなる
- 国民年金は保険料が一律である一方、将来の保障に不安を感じやすい
- 所得が増えても、保障内容が比例して手厚くなるわけではない
このため、事業が軌道に乗り、所得が増えてくると、
「このまま個人事業主を続けていて大丈夫だろうか」
と感じ始める人も少なくありません。
そこで注目されるのが、法人を設立し、役員として給与(役員報酬)を受け取る形です。
法人の社会保険料は、役員報酬の金額を基準に算定されるため、報酬額をあらかじめ調整することで、社会保険料の負担をコントロールしやすいという特徴があります。
この仕組みを活用し、
- 役員報酬をあえて低めに設定することで、社会保険料を抑えられないか
- 社会保険料と将来の保障内容のバランスを見直せないか
と考える中で、個人事業と法人を併用できる二刀流スキームに注目が集まっています。
なお、二刀流によって税金面で有利になる場合もあります。
ただし、これは所得を法人と個人に分けることで、結果的に適用される税率を抑えられることがあるという、あくまで副次的な効果にすぎません。
実務上は、税金よりも社会保険の考え方をきっかけに二刀流を検討するケースのほうが多いといえるでしょう。
実際には、「税金を減らしたい」よりも、「社会保険料と保障をどう設計するか」という観点から二刀流を検討するケースのほうが多いといえるでしょう。
1-2 マイクロ法人とは何か
そもそも「マイクロ法人」とはどのようなものなんですか?
一般的には、代表者ひとり、または家族などの少人数で運営する小規模な会社を指す言葉として使われています。
つまり、マイクロ法人とは「ひとり社長の会社」。
従業員を雇っていなくても、資本金1円からでも設立できる法人のことです。
マイクロ法人とは、最小限の規模で設立された法人のこと。1人(または家族)で運営し、節税や社会保険料の最適化を目的とするケースが多いです。
なお、法律上に「マイクロ法人」という言葉があるわけではなく、あくまで通称です。
一般的には、代表者ひとりで経営している株式会社や合同会社をそう呼びます。
そうなんですね。
社長がひとりでも、マイクロ法人って作れるんですか?
はい、もちろんできます。マイクロ法人の多くは、代表者ひとりで運営している会社なんです。
社員を雇わず、自分ひとりで経営・実務を行う形が一般的ですね。
事務所を持たず、自宅やコワーキングスペースを拠点にしている人も多いですよ。
「一人社長」の会社と呼んだりしますね。
マイクロ法人の特徴としては以下のようなものがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人員構成 | 代表者1人、または家族中心 |
| 活動場所 | 自宅・コワーキングスペースなど |
| 主な目的 | 節税、社会保険料の軽減、信用力確保 |
| 主な形態 | 株式会社または合同会社 |
| 資本金 | 1円から設立可能 |
マイクロ法人は、いわゆる「ひとり社長の会社」です。
社員を雇わず、代表者自身が経営と実務をすべて行うスタイルが多く、事務所を構えず自宅やコワーキングスペースで活動しているケースもあります。
フリーランスや個人事業主が、自分のビジネスを法人化して「マイクロ法人」として運営することで、税金・社会保険・信用力の面で一定のメリットを得られることが注目されています。
また、マイクロ法人も、形式上は株式会社または合同会社と同じ「法人格」を持つ組織です。
つまり、個人とは別の人格として扱われるのが大きな特徴です。
法人格を持つということは、個人事業主との対比で以下のような特徴があります。
| 比較項目 | 個人事業主 | マイクロ法人 |
|---|---|---|
| 法的地位 | 個人 | 独立した法人格 |
| 契約・預金口座 | 個人名義 | 会社名義 |
| 税金 | 所得税 | 法人税 |
| 責任範囲 | 無限責任 | 有限責任(出資額まで) |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 社会保険(会社+代表) |
法人格を持つことで、会社名義で契約を結んだり、銀行口座を開設したりでき、個人とは別に経営活動を行えるようになります。
なお、マイクロ法人については、別記事で詳しく解説しています。
仕組みやメリット・注意点をもう少し深く知りたい方は、こちらの記事をご確認ください。
1-3 法人成りとの違い
個人事業主と法人の二刀流やマイクロ法人については、理解できてきましたが、個人でやっていた事業を法人に移行する「法人化(法人成り)」と何が違うのでしょうか?
二刀流スキームと、いわゆる「法人成り」は混同されやすいものの、考え方や使い方は大きく異なります。
どちらも「法人を設立する」という点では共通していますが、事業の持ち方や将来設計の考え方が根本的に違う点を理解しておくことが重要です。
二刀流と法人成りの最大の違いは、「個人事業を残すかどうか」にあります。
二刀流は、個人事業主としての事業を続けながら法人を併存させる形であるのに対し、法人成りは個人事業を廃業し、法人に一本化します。
この違いにより、税務や社会保険、事務負担の考え方も変わります。二刀流では、個人と法人それぞれで申告や管理が必要になる一方、法人化(法人成り)では、事業主体が法人に一本化されるため管理は比較的シンプルになります。
二つの主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 二刀流(個人+法人) | 法人成り(法人一本) |
|---|---|---|
| 個人事業 | 継続する | 廃業する |
| 法人の位置づけ | 個人事業を主軸とし、法人は補完的に活用 | 事業の中心 |
| 契約主体 | 個人契約と法人契約が混在 | すべて法人契約 |
| 売上の流れ | 個人と法人に分かれる | 法人に一本化 |
| 経理・申告 | 個人と法人で二重管理 | 法人のみ |
| 社会保険 | 設計次第で調整余地あり | 原則、法人基準 |
| 管理の手間 | やや多い | 比較的シンプル |
この違いが重要なのは、税金・社会保険・事務負担・将来の事業設計が大きく変わるからです。
二刀流
個人と法人を使い分けて運営する
段階的に法人を活用できる
法人成り
事業主体を法人に一本化する
将来も法人中心で事業を進める前提
つまり、「併存」か「一本化」かという考え方の違いがあります。
たとえば、フリーランスとして安定した収入がある場合を考えてみましょう。
二刀流であれば、個人事業としてこれまでの取引先との仕事を続けつつ、法人では新しい事業や別の取引先との契約を進めることができます。
一方、法人化(法人成り)の場合は、個人事業を廃業し、すべての契約・売上・経費を法人に移行する必要があります。
このように、事業の持ち方そのものが大きく変わるのが、両者の違いです。
違いは理解できましたが、どちらがいいのでしょうか。
私は、どっちにしたらいいのですか?
その気持ち、とてもよく分かります。
ただ、ここで急いで結論を出す必要はありません。
二刀流と法人成りのどちらが正解かは、人によって異なります。
事業規模や現在の状況、そして将来どのような形で事業を続けていきたいのかによって、向き・不向きがあるからです。
そのため、「どちらのほうが得か」といった損得だけで判断すべきものではありません。
メリットやデメリットには後述しますので、どのような人が二刀流に向いていて、どのような人は慎重に考えたほうがよいのかを、簡単に整理しておきましょう。
たとえば、次のような場合は、二刀流が向いているといえるでしょう。
- まだ事業の方向性が完全には固まっていない
- いきなり法人一本にすることに不安がある
- 個人事業をすぐにやめられない事情がある
- 多少、経理や管理といった手間が増えても、社会保険料の負担を抑えたいと考えている
- 段階的に法人を試しながら、自分に合う形を見極めたい
一方で、次のような状況であれば、法人成り(法人化)を検討するタイミングかもしれません。
- 売上規模が大きくなり、事業として次の段階に進んでいる
- 取引先や事業体制が、すでに法人前提になっている
- 今後は事業を拡大していくことを明確に考えている
- 将来的にも、法人を中心に事業を展開していく方針が固まっている
重要なのは、税金や社会保険の損得だけで判断しないことです。
管理の負担や、これからどんな事業をしていきたいのかといった
将来の事業像まで含めて考えることが、後悔しない選択につながります。
2 二刀流のメリット

二刀流スキームが注目されている理由は、個人事業主としての事業を続けながら、法人を併用することで得られる複数のメリットにあります。
特に、税務・社会保険・事業運営の面で選択肢が広がる点が大きな特徴です。
ただし、二刀流のメリットは「誰にでも同じように当てはまるもの」ではありません。
事業の規模や収入構造、将来の方向性によって、メリットが大きくなる場合もあれば、ほとんど感じられない場合もあります。
二刀流スキームによって期待できる主なメリットは、次の4つです。
- 社会保険料の負担を抑えつつ、法人の社会保険制度による保障を受けることができる
- 所得税、住民税の節税ができる
- 法人を活用することで、経費計上の選択肢を広げられる
- 法人格を持つことで、取引先や信用面の評価を高められる
この章では、これらのメリットについて、
税率のコントロール、経費計上、社会保険、信用面、そして将来設計といった観点から整理していきます。
それぞれのメリットが、どのような条件で効果を発揮しやすいのかもあわせて確認していきましょう。
まずは、「所得を分散することで税率をコントロールできる点」について見ていきます。
2-1 社会保険料の負担を抑えつつ、法人の社会保険制度による保障を受けることができる
二刀流スキームの最大のメリットは、社会保険料の負担を抑えつつ、法人の社会保険制度による保障を受けられる可能性がある点です。
実務上、二刀流を検討する理由として最も多いのが、この社会保険に関するメリットです。
- 役員報酬を低くすることによって国民健康保険料を低くすることができる
- 健康保険の保障が厚くなる
- 役員報酬を高くすることによって将来もらえる年金の額を増やすことができる(1.の反対)
個人事業主のまま社会保険料を負担する場合と比べて、個人事業主と法人を併用する「二刀流」にすることで、社会保険の面ではいくつか大きなメリットが生まれます。
社会保険料の負担を抑えやすくなる点だけでなく、保障内容や将来の年金にまで影響する点が特徴です。
ここでは、二刀流にすることで得られる社会保険面の3つのメリットについて、順に見ていきましょう。
【メリット1】国民健康保険料を低くすることができる
マイクロ法人:役員報酬を低く調整することで国民健康保険料の負担を抑えることが可能
個人事業主だと、所得が増えるほど国民健康保険料もどんどん高くなりますよね。正直、そこが一番きつく感じています……。
そのとおりです。
国民健康保険料は所得連動のため、事業が軌道に乗るほど負担が重くなります。
ただし、二刀流で法人を設立し、役員報酬を設定することで、この健康保険料の負担を抑えることが可能になります。
二刀流では収入の取り方を工夫することで、健康保険料を抑える設計ができる点が大きな特徴です。
では、実際にどのように健康保険料が変わるのか、具体例を見ていきましょう。
具体例:個人事業主だけの場合の二刀流スキームを使用した場合の比較
以下の内容が説例の内容となります。
【設例内容】
フリーランスの Web デザイナー A さんは、もともと すべてを個人事業として運営していた。
Aさんの仕事は大きく次の2種類に分けられる。
- 受注を受けて行うWebデザイン
- Webデザイナーになるためのオンライン講座販売
当初はこれらすべてを個人事業として請け負っていたが、業務の性質や顧客の違いを踏まえ、次のように個人と法人で事業を分担した。
- 個人事業 … 受注を受けてWebデザイン・Webサイトの保守
- 法人(マイクロ法人) … オンライン講座販売
その結果、年間の所得は次のとおりとなった。
- 個人事業の年間所得:700万円
- 法人(マイクロ法人)の年間所得:300万円
合計で 1,000万円。
法人では役員報酬を 月8万円(年96万円) に設定し、社会保険に加入している。(国民健康保険、国民年金の支払いはやめている)
A:個人事業のみの場合(所得1,000万円)
個人事業主のみで事業を行っていた場合、税金と社会保険料の負担は概算で以下のとおりとなります。
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 所得 | 1,000万円 |
| 社会保険料(国保+国民年金) | 約113万円 |
→ 所得が1,000万円になると、税率も社会保険料も負担が大きくなりやすい。
続いて、個人事業主とマイクロ法人の二刀流スキームの場合を見ていきます。
B:二刀流(個人700万円 + 法人300万円)
二刀流スキームを用いて個人事業と法人に事業を分担した場合、社会保険料の負担は概算で以下のとおりとなります。
■ 法人の社会保険料(年間)
社会保険料は法人として支払うことになります。
なお、役員報酬8万円を基準に社会保険料が決まり、本人と会社で折半します。
支払うべき金額の概算は以下の通りです。
| 負担区分 | 年間金額 |
|---|---|
| 本人負担 | 約15万円 |
| 会社負担 | 約15万円 |
| 社会保険料合計 | 約30万円 |
■ A(個人だけ)と B(二刀流)の比較
最後に、A(個人だけ)と B(二刀流)の比較を行うと以下の通りとなります。
| 項目 | 個人のみ(所得1,000万円) | 二刀流(個人700万+法人300万) |
|---|---|---|
| 社会保険料(個人 or 法人) | 約113万円(国保) | 約30万円(法人加入) |
このように、個人事業主が加入する国民健康保険と国民年金から、法人を設立して、協会けんぽなどの健康保険と厚生年金に加入することで、所得が増えるほど自動的に上がっていく国民健康保険ではなく、役員報酬の設定を通じて健康保険料の負担を調整できる形に変更することができます。
特に、事業が成長途中の段階では、「手取りを確保したい」「資金繰りを優先したい」という場面も多く、そのような時期に社会保険料を抑えながら法人を維持できる点は、大きなメリットと言えるでしょう。
【メリット2】健康保険の保障が厚くなる
個人事業主と法人では、加入する健康保険・社会保険の制度そのものが異なります。
法人の社会保険に加入することで、個人事業主の国民健康保険にはない保障が一気に追加される点が大きなメリットです。
まずは、個人事業主と法人(社会保険加入)の保障内容の違いを整理してみましょう。
| 保障内容 | 個人事業主 | 法人(社保加入) | 解説 |
|---|---|---|---|
| 傷病手当金 | なし | あり(給与の2/3を最長1年6か月) | 病気・ケガで働けない期間も収入が確保される。自営業にはない重要な補償。 |
| 出産手当金 | なし | あり(産休中の給与の約2/3) | 出産で仕事を休んでも生活が安定する。女性経営者にとって特に大きな差。 |
| 厚生年金 | 基礎年金のみ | 老齢・障害・遺族年金が上乗せ | 老後だけでなく、万一の際の保障も大きく強化される。 |
| 労災保険 | 任意加入 | 業務・通勤災害を補償(※社長は特別加入) | 通勤中の事故も補償対象。個人事業主には原則ない保障。 |
| 雇用保険 | 原則不可 | 一定条件で加入可 | 失業手当や育児休業給付金を受けられる可能性がある。 |
この比較から分かるとおり、個人事業主の保障は最低限にとどまるのに対し、法人の保障は会社員とほぼ同等の水準まで引き上げられます。
法人の社会保険に加入することで、このように保障の幅と保障内容の厚みが大きく変わります。
社会保険料は確かに負担として増える面がありますが、その分、リスクに対する備えが一段階強化される点が、このメリットの本質と言えるでしょう。
【メリット3】将来もらえる年金の額を増やすことができる
二刀流で法人を設立し、法人の社会保険(厚生年金)に加入することで、将来受け取れる年金額を増やすことができます。
これは、国民年金だけに加入している個人事業主にはない、大きなメリットの一つです。
個人事業主の場合(国民年金のみ)
個人事業主が加入する国民年金は、保険料が定額となっており、将来の受給額は支払った期間によって決まります。
40年間すべて保険料を納めた場合でも、年金額は年額約83万円(満額)で頭打ちになります。
つまり、収入が増えても、事業が拡大しても、将来もらえる年金額は増えません。(支払う保険料も変わりません。)
この点が、国民年金の大きな特徴でもあり、限界でもあります。
二刀流(法人あり)の場合(国民年金+厚生年金)
一方、二刀流で法人を設立し、法人の社会保険に加入すると、国民年金に加えて厚生年金が上乗せされます。
厚生年金は、役員報酬(標準報酬月額)に応じて年金額が積み上がる仕組みです。
そのため、役員報酬の設定次第で、将来の年金額を調整できます。
役員報酬を低く抑えている間は、厚生年金の上乗せは小さく、年金水準は国民年金に近い形になります。
一方で、事業が安定し、役員報酬を引き上げていけば、その分だけ厚生年金が増え、将来の年金額もはっきりと増えていきます。
年金額のイメージ(概算)
以下は、65歳から年金を受給し、22歳から64歳まで継続して加入した場合の一例です。
| 区分 | 役員報酬の設定 | 年金の内訳 | 将来の年金受給額(年額) |
|---|---|---|---|
| 個人事業主のみ | 役員報酬なし | 国民年金のみ | 約83万円 |
| 二刀流(最低限) | 月8.5万円(年101万円) | 国民年金+厚生年金(少額) | 約108万円前後 |
| 二刀流(中間) | 月20万円(年240万円) | 国民年金+厚生年金 | 約132万円前後 |
| 二刀流(多め) | 月30万円(年360万円) | 国民年金+厚生年金 | 約157万円前後 |
※ 国民年金は満額加入、厚生年金は記載の役員報酬水準で継続加入した前提です。
※ 実際の年金額は加入期間、報酬の変動、制度改正等により変わるため、あくまで目安です。
法人の厚生年金は、最低額を支払ったとしても個人事業主よりも高い金額を受給できるんですね!
二刀流の大きな強みは、役員報酬の設定によって社会保険料と将来の年金額を調整できる点にあります。
役員報酬を抑えれば、社会保険に加入したまま負担を抑えて法人を維持でき、必要に応じて報酬を引き上げれば、厚生年金の報酬比例部分を増やすことも可能です。
これは、国民年金だけでは難しかった「年金額を自分で調整する選択肢を持てる」という点で、二刀流ならではのメリットと言えるでしょう。
二刀流では、売上や利益をすべて個人に集約せず、個人事業と法人で役割を分けることで、社会保険料の設計に幅を持たせることができます。
たとえば、今の手取りを重視したい時期は役員報酬を低めに、将来の年金を重視したい場合は段階的に引き上げる、といった判断が可能です。
個人事業主一本では制度を選べませんが、二刀流では社会保険を「調整できない負担」ではなく、「状況に応じて設計できるもの」として考えられるようになります。
この柔軟性こそが、二刀流が社会保険面で注目されている大きな理由だと言えるでしょう。
2-2 所得税、住民税の節税ができる
二刀流にすると節税できるって聞くんですが、本当なんですか?
正直、そこまでうまくいく話なのか半信半疑で……。
ケースによりますが、結果として税負担が軽くなるケースがあるのは事実です。
ただし、「必ず節税できる仕組み」と考えるのは危険なので、仕組みを正しく理解しておく必要があります。
ただし、その内容は大きく分けて次の2つの観点から整理して考える必要があります。
- 税率の違いによって、結果的に税負担が軽くなる可能性がある点
- 法人を活用することで、経費計上の選択肢が広がる点
以下、それぞれについて見ていきましょう。
2-2-1 税率の違いによる税負担の軽減の可能性がある
法人と個人事業主の一番の違いは、税率に関する点です。
個人事業主は、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税制度」によって課税されます。
そのため、売上(所得)が増えると急激に税負担が重くなる傾向があります。
所得が増えれば増えるほど、適用される税率が階段状に上がっていきます。
| 課税所得 | 税率 |
|---|---|
| 〜195万円 | 5% |
| 〜330万円 | 10% |
| 〜695万円 | 20% |
| 〜900万円 | 23% |
| 〜1,800万円 | 33% |
| 〜4,000万円 | 40% |
| 4,000万円超 | 45% |
つまり、売上や利益が伸びるほど「頑張った分だけ税率も上がる」構造になっているため、税金が重く感じやすいというデメリットがあります。
一方、マイクロ法人を設立し、売上の一部や業務を法人側に移すと、「法人税」が適用されます。
法人税の税率は以下の通りです(資本金1億円以下を想定)。
- 年間所得800万円以下の部分:15%
- 800万円超〜全体:23.2%
個人の最大45%と比べても税率が低く、場合によっては個人よりも大幅に税負担を抑えられる可能性があります。
所得税と法人税の税率の違いにより、二刀流のスキームによって、税額が軽減される例を見ていくことにします。
以下の内容が説例の内容となります。
【設例内容】
フリーランスの Web デザイナー A さんは、もともと すべてを個人事業として運営していた。
A さんの仕事は大きく次の2種類に分けられる。
- 受注を受けて行うWebデザイン
- Webデザイナーになるためのオンライン講座販売
当初はこれらすべてを個人事業として請け負っていたが、業務の性質や顧客の違いを踏まえ、次のように個人と法人で事業を分担した。
- 個人事業 … 受注を受けてWebデザイン・Webサイトの保守
- 法人(マイクロ法人) … オンライン講座販売
その結果、年間の所得は次のとおりとなった。
- 個人事業の年間所得:700万円
- 法人(マイクロ法人)の年間所得:300万円
合計で 1,000万円。
A:個人事業のみの場合(所得1,000万円)
個人事業主のみで事業を行っていた場合、税金と社会保険料の負担は概算で以下のとおりとなります。
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 所得 | 1,000万円 |
| 所得税+住民税 | 約240万円 |
→ 所得が1,000万円になると、税率が高く負担が大きくなりやすい。
続いて、個人事業主とマイクロ法人の二刀流スキームの場合を見ていきます。
■ A(個人だけ)と B(二刀流)の比較
次に、税額のA(個人だけ)と B(二刀流)の比較を行うと以下の通りとなります。
■ 個人事業(所得700万円)
個人側の税金は次のとおりです。
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 所得 | 700万円 |
| 税金(所得税+住民税) | 約108万円 |
■ 法人(所得300万円)※所得200万円+役員報酬96万円
法人に掛かる主な税金の金額は以下の通りです。
法人税等は、この役員報酬控除後の法人所得をもとに計算しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法人所得 | 200万円 |
| 役員報酬 | 月8万円(年96万円) |
| 法人税 | 約33万円 |
| 法人住民税 | 約20万円 |
■ A(個人だけ)と B(二刀流)の比較
最後に、A(個人だけ)と B(二刀流)の比較を行うと以下の通りとなります。
| 項目 | 個人のみ(所得1,000万円) | 二刀流(個人700万+法人300万) |
|---|---|---|
| 個人の税金 | 約240万円 | 約108万円 |
| 法人税 | ― | 約33万円 |
| 法人住民税 | ― | 約20万円 |
| 総負担合計 | 約240万円 | 約161万円 |
このように、二刀流スキームでは、所得税と法人税の税率構造の違いにより、事業実態に沿った運営を行った結果として、税負担が軽くなるケースがあります。
特に、個人事業主としての所得が増え、高い所得税率が適用される水準では、法人側の所得を併せ持つことで、トータルの税負担を抑えられる可能性があります。
もっとも、これは一例に基づくシミュレーションであり、すべてのケースで有利になるわけではありません。
重要なのは、節税だけを目的にせず、事業実態に基づいて税負担の変化を冷静に判断することです。
法人化による税金のメリットについては、次の記事で詳しく取り扱っています。
2-2-2 法人を活用することで経費計上の選択肢が広がる点
税金面のもう一つのメリットとして、法人を活用することで、経費の整理や考え方の幅が広がる点が挙げられます。
個人事業主の場合、経費として認められるかどうかは、「事業との直接的な関連性」がより厳しく見られる傾向があります。
一方、法人では、役員報酬や福利厚生費、交際費などを含め、事業運営上必要な支出として整理しやすい項目が増えるケースがあります。
この違いを、代表的な項目で整理すると、次のようになります。
【個人事業主では経費にならないが、法人では経費になる主な項目】
| 項目 | 補足及び注意点 |
|---|---|
| 経営者本人の給与・賞与・退職金 | 個人では不可。法人では役員報酬・役員退職金として損金算入が可能 |
| 福利厚生費 | 原則として従業員が対象。(一人社長や家族のみは×) |
| 健康診断の費用 | 従業員向けの福利厚生として整理する必要あり |
| 社会保険料(会社負担分) | 個人事業主の国保・国年は経費不可 |
| 生命保険料 | 法人が契約者・受取人の場合に限られる |
| 出張時の日当 | 注目されやすい経費。金額設定の合理性が重要 |
| 住宅費(社宅制度) | 注目されやすい経費。社宅規程・賃料計算が必須 |
| 家族を従業員とする場合の給与・賞与 | 個人は届出が必要、法人は不要(勤務実態は必須) |
たとえば、法人で支給する役員報酬は法人の損金となり、出張日当や社宅制度のように、法人だからこそ制度化しやすい経費もあります。
一方で、法人なら何でも経費にできるわけではありません。
事業との関連性や合理性が説明できない支出や、個人と法人の支出を混在させると、税務上のリスクが高まります。
このように、二刀流スキームでは経費の選択肢は広がりますが、事業実態に即した適切な運用が前提となります。
以上が、二刀流スキームにおける税金面のメリットです。
整理すると、二刀流による税金面のメリットは、
「税金を意図的に減らす仕組み」ではなく、
事業実態に沿って法人と個人を使い分けた結果として、税負担が軽くなる可能性があるという点にあります。
具体的には、
個人事業主と法人で税率の仕組みが異なるため、所得が一方に集中するのを避けることで、結果的に税率の影響を和らげられる可能性があること
法人という枠組みを使うことで、
役員報酬や各種経費の整理がしやすくなり、支出の考え方の幅が広がること
この2点が、税金面における主なポイントです。
ただし、繰り返しになりますが、「節税ありき」で設計すると、税務上のリスクが高まります。
あくまで、事業の実態が先にあり、その結果として税金面の効果がついてくるという順番を誤らないことが重要です。
2-4 法人格を持つことで、取引先や信用面の評価を高められる
二刀流スキームのメリットの一つに、法人格を持つことで取引先や信用面での評価を高められる点があります。
これは、事業内容や実力そのものとは別に、「契約主体が法人である」というだけで評価が変わる場面があるためです。
・売上の増加
・融資条件の改善
・人材採用の円滑化など
法人を設立する上での大きなメリットのひとつが、社会的信用の向上です。
これは事業を安定して発展させていくうえで、欠かせないポイントといえるでしょう。
法人は「会社」としての存在が明確になるため、取引先や金融機関からの信頼性が高まりやすくなります。
法人は登記されることでその存在が明確になり、誰が代表者で、どのような事業を行っているかといった情報が公開されます。
そのため、透明性が高く、金融機関や取引先にとっても安心して取引できる相手として認知されやすくなります。
また、法人としての登記には一定のコストや手続きが必要である分、「本気で事業を続ける意思がある」と見られるのも信頼を得やすいポイントです。
さらに、取引先によっては契約相手を法人に限定しているケースもあるため、新たなビジネスチャンスの拡大にもつながります。
例えば以下のような場面で有利になります。
- 法人口座の開設や融資審査
- 大企業・官公庁との業務委託契約
- 補助金・助成金の申請
- 採用活動や新規取引先の開拓
- 免許・許認可の取得や公共事業の入札
さらに法人であれば、社長に万一のことがあっても会社として事業を続けることができるため、長期的な契約先からの信用も維持しやすくなります。
結果的に、金融機関からの融資面でも有利になり、安定的に優秀な人材を確保できる点も大きなメリットです。
このように、法人で事業をすることで社会的信用力や取引の幅が広がり、将来的なビジネスチャンスや人材確保にもつながるのは非常に大きな魅力です。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人(会社) |
|---|---|---|
| 銀行融資の評価 | 取引履歴や個人資産に頼るケースが多い | 決算書や法人格をもとに融資審査され、金利面でも有利になることがある |
| 官公庁との契約 | 登録や契約の対象にならないケースが多い | 法人であれば入札参加資格や契約の幅が広がる |
| 取引先の評価 | 規模が小さい・継続性に不安があると見られることも | 信用調査会社の情報にも載り、対外的に安心感が増す |
| 採用・人材確保 | 信用・福利厚生面で不利になりやすい | 社会保険完備などの体制が整いやすく、応募者からの評価も高い |
さらに、法人を持つことで、銀行口座の開設や融資の相談、外部サービスの利用など、事業運営上の選択肢が広がる点も見逃せません。
個人事業主のままではハードルが高かった取引やサービスが、法人であれば検討しやすくなる場面もあります。
「株式会社」や「合同会社」という肩書があるだけで、「きちんとした事業者」という印象を与えることができます。
3 二刀流のデメリット

二刀流スキームには、社会保険や税金の面でメリットが生じる可能性がありますが、良い面だけを見て判断すると失敗しやすいのも事実です。
特に、「社会保険料が安くなるらしい」「節税になりそう」といった情報だけを頼りに始めてしまうと、想定外の負担が発生し、結果的に損をしたように感じるケースもあります。
そこでこの章では、二刀流スキームを検討するうえで必ず押さえておきたい代表的なデメリットを、次の2つに整理して解説します。
- 法人の設立費用や維持コストが継続的に発生する
- 経理・申告・管理業務が二重になり負担が増える
これらのデメリットは、事前に仕組みを理解しておけば回避できるものも多い一方で、理解不足のまま進めると後から修正が難しいものもあります。
まずは、最も分かりやすく影響が出やすい 「法人の設立費用や維持コスト」 から確認していきましょう。
3-1 法人の設立費用や維持コストが継続的に発生する
法人は、例えば以下のように運営にさまざまなコストが発生し、個人事業主と比べて負担が大きくなる。
- 設立時の費用
- 法人運営のための費用(税理士費用や社会保険料)
- 法人住民税均等割
法人を設立するとお金がかかるって聞いたんですけど、
実際にはどのくらい必要なんですか?
確かに、法人を設立するには最初の費用と、維持のコストがかかることを理解しておく必要があります。
具体的に説明しましょう。
3-1-1 設立時に掛かる一般的な費用について
会社を設立するには、登記費用・定款認証費用・印紙代など、初期費用で合同会社で約10万円ほど、株式会社で約25万円ほどがかかります。
株式会社設立時の一般的なコスト
| 費用項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 登録免許税 | 15万円(最低) |
| 定款認証費用 | 約5万円(公証人手数料含む) |
| 印紙代 | 約4万円(電子定款なら不要) |
| その他書類作成費用 | 数千円から数万円 |
法人を設立する際には、まず定款作成や登記の手続きに関わる費用が発生します。
たとえば株式会社を自分で設立した場合でも、上記のような費用がかかります。
「資本金1円でも設立できる」とは言われますが、このような費用が最初にかかります。また、金融機関や取引先からの信用を考えると、ある程度まとまった資本金を用意しておくのが現実的です。
加えて、オフィスの契約や設備投資、最初の仕入れに必要な運転資金なども考慮すると、設立時には思った以上のまとまった資金が必要になります。
会社の種類による設立金額や特徴が異なりますので、会社の種類について一覧で示しておきます。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 |
|---|---|---|---|---|
| 会社の形 | 株式会社 | 持分会社 | 持分会社 | 持分会社 |
| 出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任+無限責任 | 無限責任 |
| 最低資本金 | 1円からOK | 1円からOK | 制限なし | 制限なし |
| 出資者の人数 | 1人以上(株主) | 1人以上(社員) | 2人以上(それぞれの責任者) | 1人以上(社員) |
| 経営者と出資者の関係 | 別々(分かれている) | 同じ人でOK | 基本的に同じ | 同じ |
| 設立費用の目安 | 約25万円〜 | 約10万円〜 | 約6万円〜 | 約6万円〜 |
| 決算の公告 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
| 上場の可否 | 上場できる | 上場できない | 上場できない | 上場できない |
| 利益の分け方 | 出資の割合に応じて | 自由に決められる | 自由に決められる | 自由に決められる |
3-1-2 法人運営のための費用(税理士費用や社会保険料)について
法人を設立すると、設立後も継続的に運営コストが発生します。
個人事業主と比べて、会計・税務・社会保険に関する管理が複雑になるため、一定の固定費を見込んでおく必要があります。
法人運営において代表的な費用は、次のとおりです。
法人運営に掛かる主なコスト
税理士費用
法人決算や法人税申告が必要となるため、税理士に顧問として依頼するケースが一般的です。
費用の目安は、月額1万円〜5万円程度が多く、別途、決算・申告時に追加費用がかかることもあります。社会保険料
役員報酬を支給する場合、健康保険・厚生年金への加入が必要となり、会社負担分と個人負担分の両方が発生します。
役員報酬の金額によっては、毎月の固定費として無視できない負担になることもあります。
法人の場合、これらの費用は利益の有無にかかわらず継続的に発生します。
また、会計や申告も個人事業より複雑になり、専門家への依頼によってコストが増えやすい点には注意が必要です。
さらに、社会保険料も必ずしも安くなるとは限らず、役員報酬の設定次第で負担が増える場合があります。
そのため、法人化にあたっては、設立費用だけでなく運営にかかる継続的なコストも含めて資金計画を立てることが重要です。
3-1-3 法人住民税均等割について
二刀流スキームを検討する際に見落とされやすいのが、法人住民税の均等割です。
法人を設立すると、利益が出ていなくても原則として毎年均等割が課されます。
均等割は、所得ではなく法人の規模に応じて課税されるため、多くの自治体で最低でも年額7万円程度の負担が発生します。
個人事業では赤字なら税負担が生じない場合でも、法人では「赤字だから税金はかからない」という考え方は通用しません。
そのため、二刀流で法人を設立する場合には、均等割という固定コストを毎年負担できるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。
このように、法人を設立するには
- 「設立の初期費用」
- 「維持に必要な固定的コスト」
- 「赤字でも発生する均等割」
といった負担があることを理解し、しっかり資金計画を立てた上で進めることが大切です。
3-2 経理・申告・管理業務が二重になり負担が増える
- 難解な法人の経理申告を行う必要がある
- 確定申告を法人税と所得税で二回行う必要がある
- 帳簿やお金の管理を2社分行う必要がある
- 役員報酬や社会保険の手続きが発生する
- 専門家への依頼が必要になる場面が増える
法人の経理や申告は、個人事業と大きく勝手が違います。
なぜ負担が増えるのか、ポイントを一つずつ見ていきましょう。
・難解な法人の経理・申告を行う必要がある
二刀流では、法人側について個人事業とは別に、法人特有の経理・申告を行う必要があります。
法人の会計は、個人事業に比べて難易度が高く、決算書の作成や法人税申告など、専門的な処理が求められます。
法人であっても白色申告を選択することは可能ですが、白色申告であっても貸借対照表の作成が必須となる点が、個人事業主との大きな違いです。
簡易な方法で作成することもできますが、帳簿をさかのぼって数字を集める必要があり、手間がかかるうえ、正確性にも不安が残りやすいのが実情です。
そのため実務上は、最初から複式簿記で記帳し、青色申告を選択する方が現実的といえるでしょう。
・確定申告を二回行う必要がある
二刀流スキームでは、個人事業主としての確定申告に加えて、法人としての決算・法人税申告を行う必要があります。
個人の確定申告は年1回で比較的シンプルですが、法人では決算書の作成に加え、法人税・法人住民税・事業税など、複数の申告書類を提出しなければなりません。
その結果、作業量も管理の手間も大きく増えることになります。
・帳簿やお金の管理を2社分行う必要がある
法人と個人は税務上「別人格」であるため、収入・支出・銀行口座・契約関係を明確に分けて管理する必要があります。
個人と法人のお金が混在すると、どちらの経費なのか判断がつかなくなり、税務上のリスクが高まります。
また、帳簿付けも個人事業主と法人をそれぞれ同時に行う必要があります。さらに法人の経理処理は個人事業主と比較して複雑です。
個人事業主の帳簿付けに加えて複雑な法人の経理も併せて行うことになるのは、かなりの事務負担になると考えた方がよいでしょう。
・役員報酬や社会保険の手続きが発生する
法人を設立すると、役員報酬の設定や変更、それに伴う社会保険の加入・変更手続きが必要になります。
役員報酬は原則として期中で自由に変更できないため、金額設定を誤ると、税金や社会保険料の負担に影響が出る点にも注意が必要です。
・専門家への依頼が必要になる場面が増える
法人の会計や申告は個人事業主に比べて複雑なため、税理士などの専門家に依頼するケースが増えやすくなります。
専門家に依頼すれば処理自体は任せられますが、完全に丸投げできるわけではありません。
資料の準備や確認、やり取りのための時間が定期的に必要となり、依頼そのものに手間がかかる点も見落としがちな負担です。
さらに、顧問料や申告費用といった継続的なコストも発生します。
このように、事務負担を軽減するための選択が、時間的な負担とコストの両方を増やすことにつながる場合がある点は理解しておく必要があります。
法人も白色申告の場合は、複式簿記が必須ではなく簡易な方法による記帳も認められてはいますが、個人事業主と違う点は、青色申告で55万円以上の控除を行う場合に必須となる貸借対照表の作成が、法人の場合は白色申告でも必須になっています。
簡易な方法で貸借対照表を作れなくはないですが、それはそれで色々な帳簿を参照して数字を集めてくることになると手間で正確性もかなりあやしくなります。
それだったら日々の取引を始めから複式簿記で行う方が得策ですし、青色申告を申請して青色申告の絶大なメリットを取りに行くのが賢いと思います。
白色申告の場合に必要となる帳簿書類については、次の記事で詳しく解説しています。
このように法人の会計や税務管理は、個人事業に比べて大幅に負担が増えるため、法人化(法人成り)のデメリットと言えるでしょう。
二刀流スキームを採用すると、個人事業に加えて法人についても、
決算・法人税申告・法定調書の作成などの税務・会計業務が発生するため、
経理・申告の内容はより複雑かつ厳格になります。
個人事業主としての青色申告決算に加え、法人の決算・申告にも対応する必要があることから、
事務作業は二重となり、負担が大きくなる傾向があります。
その結果、人によっては税理士の関与や、より専門的な会計ソフトの利用が必要になるでしょう。
4 どんな二刀流ならOKで、どんな二刀流がダメなのか

二刀流のメリットとデメリットについては、だいぶ理解できました。
実際にやってみたい気持ちはあるんですが……
どのように事業を分ければいいのかが正直よく分からなくて。
そこが一番大事なポイントですね。
ここまで、二刀流スキームの仕組みやメリット・デメリットを見てきました。
この時点で、「二刀流そのものが違法ではない」という点は、すでに理解できているはずです。
そこでこの章では、二刀流の事業の分け方を誤ると税務署からどちらか一方の所得に合算されるというようなケースも考えられます!
そこで事業を「どう分けるべきか」どんな分け方をすると問題になりやすいのかという、より実務的な視点で整理していきます。
実態がない二刀流
法人と個人で事業内容が同じ二刀流
法人と個人の間だけで取引が完結している二刀流
逆に言えば、これらのポイントを意識して設計されている二刀流であれば、税務上ただちに問題になる可能性は低く、実務的にも比較的安定した運営がしやすいといえます。
重要なのは、「二刀流にしているかどうか」ではなく、どのような考え方で事業を分け、どのように運営しているかです。
そこで次からは、先ほど挙げた 3つのNGパターン をもとに、なぜそれが問題になりやすいのか、どこに注意すべきなのかを、具体的に一つずつ解説していきましょう。
4-1 実態がない二刀流
「実態がない」って、具体的にどういう状態なんでしょうか?
簡単に言うと、法人が事業として動いていない状態ですね。
ここを外すと、二刀流の中でも一番リスクが高くなります。
実態がない二刀流とは、
法人を設立しているものの、
- 法人として何をしているのか説明できない
- 事業活動の中身が見えない
- 取引やお金の流れが、実質的に個人事業の延長になっている
といった状態を指します。
税務署の視点では、「法人が独立した事業主体として機能しているか」が最初に確認されます。
法人が「存在しているだけ」では足りず、「何をして、どのように収益を生んでいるのか」を第三者に説明できる必要があります。
次のような点が確認できれば、
法人は「実態のある会社」と説明しやすくなります。
法人の実態を説明できる状況
- 法人が実際に行っている仕事がある
- 契約書や請求書が法人名義になっている
- 法人が取引先と直接やり取りしている
- 法人として継続的に売上が出ている
- 仕事の内容や価格を法人が決めている
- 法人名義の口座や設備を使っている
- 個人のお金と法人のお金がきちんと分かれている
- 外注などを使い、法人として仕事を回している
- 個人とは違う役割やサービスを法人が持っている
他にも法人の実態を証明できる状況はありますが、少なくとも、これらがそろっていれば、「この法人がなければ、この仕事は成り立たない」と説明することができます。
法人の実態を疑われる状況
- 法人はあるが、実際の作業等はすべて個人事業主側がやっている
- 法人は売上を受け取るだけで、何の動きもない
- 契約書や請求書の名義は個人のままで、振込口座だけが法人になっている
- 取引先も「実質は個人と取引している」と認識している
- 法人口座と個人口座が混ざって使われている
- 法人でなければできない仕事が特にない
このような場合、法人は単なる受け皿(名義)にすぎず、実態がないと判断されるリスクが高くなります。
なるほど。
具体的な例としてはどのようなものがあるのでしょうか。
では、よく見かける典型的なケースを一つ挙げてみましょう。
たとえば、Web制作を行っている個人事業主が、節税や社会保険を目的にマイクロ法人を設立したケースです。
法人を設立したものの、実際の仕事の流れは法人設立前と何も変わっていません。
- 仕事の受注は、これまでどおり個人が行う
- 制作作業や修正対応も、すべて個人が担当する
- 取引先とのやり取りも、個人名義のまま続いている
それにもかかわらず、請求書だけを法人名義に変更し、売上の一部を法人に入れるようにしています。
この場合、「実際に仕事をしているのは誰か」「意思決定をしているのは誰か」という点で見ると、法人はほとんど何もしていません。
そのため税務署からは、法人は単なる請求の受け皿であり、実態のある事業主体とはいえないと判断されやすくなります。
実態がないと判断される二刀流の特徴は、法人が名義や受け皿として存在しているだけという点です。
請求書や口座を法人名義にしていても、実際の仕事や判断をすべて個人が行っていれば、法人としての実態は認められにくくなります。
大切なのは、「この法人は何をしているのか」を第三者に説明できるかです。
- 法人でなければできない役割があるか
- 法人が主体的に判断・管理しているか
この2点が説明できない場合、その二刀流はリスクが高いと考えておくべきでしょう。
次は、法人と個人で事業内容が同じと見られやすいケースを見ていきます。
4-2 法人と個人で事業内容が同じ二刀流
法人もちゃんと動かしているつもりなんですが……
個人と法人で「同じ仕事」をしていると、やっぱりダメなんですか?
実態があっても、事業内容が同じだと「単純に名義を分けているだけ」と見られやすいですね。
「事業が同じ」とは、名義は法人と個人で分かれていても、実際にやっている仕事の中身・収益の源泉・取引先が変わらない状態を指します。
法人と個人で事業内容が実質的に同じ場合、二刀流は問題視されやすくなります。
二刀流が認められる前提は、法人と個人が「別の事業主体」として機能していることです。
ところが、やっている仕事の中身が同じだと、
- 仕事の実態は一つ
- たまたま名義を二つに分けているだけ
と評価されやすくなります。
この判断の根拠になるのが、所得税法第12条・法人税法第11条に定められている「実質所得課税の原則」です。
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
つまり税法は、「誰の名義か」ではなく「誰が実際に事業を行い、収益を得ているか」を重視します。
まずは、法人と個人で事業内容が明確に分かれており、二刀流として成立しやすいOKの例を見ていきましょう。
ポイントは、「業種名」ではなく「事業の中身が違うかどうか」です。
次の表では、成果物・顧客・提供方法・収益構造がはっきり異なっているケースを整理しています。
OK例①(事業内容が明確に異なる)
| 業務等の分け方(何業か) | 個人事業主がやっていること | 法人がやっていること | 判定 | なぜ問題になりにくいか |
|---|---|---|---|---|
| 制作業 × アフィリエイト収入 | Web制作の実作業 | 独自のサイトでのアフィリエイト | OK | Web制作と広告収入で事業内容が違う |
| 動画企画制作業 × 動画編集業 | 動画の企画・撮影 | 動画の編集業務 | OK | 制作と編集で仕事内容が違う |
| 講師業 × 教育サービス業 | 講師として教える | 講座の企画・運営・集客 | OK | 教える仕事と運営の仕事が別 |
| 小売業 × 卸売業 | ネットで個人向けに販売 | 業者向けに卸販売 | OK | 売る相手と売り方が違う |
| 製造小売業 × 体験サービス業 | ハンドメイド作品の制作・販売 | 体験教室・ワークショップ運営 | OK | 商品販売と体験サービスが別 |
| 飲食業 × ネット販売 | 飲食店の現場運営 | 独自商品のネット販売 | OK | 飲食業と小売業 |
| 税理士業 × 会計サポート業 | 税理士として申告業務 | 記帳代行・経営サポート | OK | 専門業務と補助業務で分離 |
| 飲食業 × コンサル業 | 飲食店を実際に運営 | 飲食店向けコンサル | OK | 実務と助言で立場が違う |
| 製造業 × 研修業 | 製品を作って販売 | 製造に関するセミナー・講習会 | OK | 製造と教育で事業内容が違う |
| 単発のみ × 継続のみ | 小規模・単発案件の受注 | 継続的な企業案件の対応 | OK | 仕事の規模と相手が違う |
| 個人向け業務 × 法人向け業務 | 個人依頼への対応 | 企業向け高額契約の受注 | OK | 客層と契約内容が異なる |
OK例②(収益を産む資産が異なる)
| 事業内容 | 個人事業主がやっていること | 法人がやっていること | 判定 | なぜ問題になりにくいか |
|---|---|---|---|---|
| 不動産賃貸 × 不動産賃貸 | 不動産物件Aの賃貸 | 不動産物件Bの陳街 | OK | 収益が生じる資産が違う |
一方で、見た目は法人と個人に分かれていても、実質的に同じ事業と判断されやすいNGの例もあります。
これらは、名義や業種名を変えただけで、事業の中身が変わっていないケースです。
次の表では、税務署から「同じ事業」と見なされやすい典型例を整理しています。
NG例(事業内容が同じ)
| 個人事業主の業務 | 法人の業務 | 判定 | よくある勘違いの主張 | NG理由 |
|---|---|---|---|---|
| Web制作 外部 | 名義だけ法人にしたWeb制作会社 | NG | 「法人名義で請けているから別事業のはず」 | 名義以外に業務内容・顧客が同一 |
| 個人講師 | 同じ内容の講座を法人で実施 | NG | 「開催主体が法人ならOKだよね?」 | サービス内容・提供価値が同一 |
| 店舗物販 | 同ジャンル商品をネットで販売 | NG | 「販売形態が違うから別事業でしょ?」 | 販売場所・顧客・運営が同一 |
| ハンドメイド販売 | 同ジャンル商品を法人で別ブランド販売 | NG | 「ブランドを分けているから大丈夫だよね?」 | 実態として商品・製造・販売方法が同じ |
| 飲食店経営 | 同店舗で飲食業と小売業をしている | NG | 「法人の商品だから問題ないでしょ!」 | 店舗・人・運営が同一で差異がない |
4-3 法人と個人の間だけで取引が完結している二刀流
法人と個人の間だけで取引が完結しているってどういうことですか?
簡単に言うと、法人の取引相手が代表者本人(個人)しかいない状態のことです。
実際に法人が仕事をしていて、内容と金額が妥当であれば問題になることはありません。
ただし、仕事がないのに外注費だけを払うような形は、かなり危険です。
税務署が警戒するのは、次のような点です。
- 本当にその仕事は存在しているのか
- その仕事を、なぜ法人が行う必要があるのか
- 支払われている金額は、仕事内容に見合っているのか
- 利益調整などを目的とした取引ではないのか
取引相手が個人と法人だけの場合、第三者の目が入らないため、利益を動かすための取引ではないかと疑われやすくなります。
特に、「個人の所得を減らすために法人にお金を移しているだけ」と見られると、税務署から指摘を受ける可能性が高くなります。
では、実際に 問題になりやすい具体例として、次のようなパターンがあります。
問題視されてやすい個人と法人の取引内容
仕事がないのに外注費を払っている
仕事はあるが、外注費が内容に見合っていない
決算期末だけ急に大きな外注費を払う
個人と法人の貸し借りが多い/曖昧
それでは、一つずつ解説していきます。
4-3-1 仕事がないのに外注費を払っている
仕事がないのに外注費を払っている??
それは、ちょっと、、あり得ないですよね?
そうですね。
これは、二刀流の中でも最も分かりやすく、論外と言えるケースです。
法人に対して「外注費」や「業務委託料」としてお金を支払っているにもかかわらず、
- 実際には法人が何もしていない
- 具体的な業務内容を説明できない
- 成果物や作業実績が存在しない
といった状態であれば、それは外注ではなく、単なるお金の移動にすぎません。
このような取引は、
- 法人に仕事の実態がない
- 個人の所得を減らすためだけに支払っている
と判断されやすく、税務署から見れば「否認されて当然」の状態です。
契約書や請求書があったとしても、実際の業務が存在しなければ意味はありません。
二刀流において、
「仕事がないのに外注費を払う」
これは、絶対に避けるべき設計だと理解しておきましょう。
4-3-2 仕事はあるが、外注費が内容に見合っていない
外注費が内容に見合っていないというのは、どういうことですか?
個人が設立した法人に仕事を外注すること自体は、決して悪いことではありません。
実際に業務があり、その業務を法人が行っているのであれば、取引としては成り立ちます。
問題になるのは、その取引金額です。
たとえば、
- 作業内容に対して明らかに高すぎる外注費
- 作業内容がほとんどないなのに、毎月多額の支払いが行われている
- 他の外注先と比べて、金額が極端に違う
こうした場合、「金額が不自然ではないか」という点を税務署からチェックされます。
税務署は、「その仕事を第三者に依頼したら、いくら払うか」という視点で見ています。
そのため、
- 一般的な相場とかけ離れていないか
- 実際に行った業務量に見合った金額か
この2点を説明できない外注費は、利益を法人側に付け替えているのではないかと疑われやすくなります。
二刀流では、外注費は「身内だから自由に決めていい」ものではありません。
通常の取引と同じ感覚で、相場に合わせ、実際の業務内容に見合った金額を支払うことが重要です。
金額の合理性を説明できない取引は、たとえ仕事が実際にあったとしても、税務上は問題視される可能性がある点に注意しましょう。
4-3-3 決算期末だけ急に大きな外注費を払う
期末だけ急に大きな金額の取引を行うのはよくないんですか?
柔軟な対応ができそうですが、、
その柔軟性が問題視されることが多いのです。
このケースは、税務署から「利益調整ではないか」と疑われる可能性が非常に高い取引です。
たとえば、
決算直前になって、突然まとまった外注費を法人に支払う
それまで継続的な取引がなかったのに、期末だけ大きな支払いがある
年間を通して見ると、その取引だけが不自然に目立つ
このような取引は、「個人の利益を減らすために、期末にお金を動かしたのではないか」と見られやすくなります。
実務上、税務調査では帳簿の確認は期末の取引からチェックされることが多いという点も重要です。
理由はシンプルで、
- 利益調整が行われやすいのが期末
- 不自然な金額や取引が集中しやすい
からです。
もちろん、期末に正当な業務が発生し、それに対する外注費を支払うこと自体は問題ありません。
しかし、
- 業務内容を具体的に説明できない
- なぜそのタイミングで、その金額なのか説明できない
- 同様の取引が他の時期には存在しない
といった場合、税務調査ではほぼ確実に深掘りされるポイントになります。
二刀流を行う場合は、
- 外注取引は期中から継続的に行う
- 金額や頻度に一貫性を持たせる
- 「期末だけ動かす」という設計をしない
この点を強く意識することが重要です。
期末だけの大きな外注費は、正当であっても疑われやすい。
これが実務上の現実だと理解しておきましょう。
4-3-4 個人と法人の貸し借りが多い/曖昧
え!?法人と個人でお金の貸し借りはダメなんですか?
個人と法人の間でお金の貸し借りが発生すること自体は、制度上は認められています。
しかし、代表者個人と法人との貸借は、不正を疑われやすい取引の一つです。
特に注意が必要なのは、次のような状態です。
法人との金銭の貸し借りで注意するべき状態
- 貸付や返済の理由がはっきりしない
- 返済期限や利息が決まっていない
- 頻繁にお金の出し入れが行われている
- 事業と関係のない支出に使われている
- 多額の金銭の貸借が残っている
実務上、個人と法人の貸借は、過去に脱税スキームとして使われた事例も多く、
税務署は特に慎重にチェックします。
書面がなく、帳簿上の処理だけで済ませている場合や、「とりあえず立て替えた」「あとで精算するつもりだった」といった説明では、税務署を納得させることはほとんどできません。
その結果、取引の経緯を示す資料や証拠を一つひとつ集めて説明する必要が生じ、本来不要だったはずの手間や時間が大きく増えてしまいます。
二刀流を行う場合、個人と法人のお金のやり取りは、
- 必要最小限にする
- 契約や返済条件を明確にする
- 頻繁な貸し借りを前提にしない
この点を強く意識しておく必要があります。
個人と法人の曖昧な貸し借りは、税務署から最も疑われやすい動きの一つだと理解しておきましょう。
以上で、個人事業と法人の二刀流についての解説は終了です。
これまでの内容を簡単に振り返って確認しましょう。








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