欠損金の繰戻しによる還付とは?元国税調査官が申告書の書き方まで徹底解説

「今期は赤字だった。税金はゼロだからまだマシか……」

そう思っているとしたら、大きな機会を見逃しているかもしれません。

前期に法人税を納めていた中小企業なら、当期の赤字を使って前期に払った税金の一部または全額を取り戻せる制度があります。それが「欠損金(けっそんきん)の繰戻しによる還付」です。たとえば前期に150万円の法人税を納め、今期600万円の赤字になった場合、最大90万円が現金で戻ってきます。資金繰りが苦しい赤字期だからこそ、この還付金は経営の生命線になり得ます。

ただし、申請できるのは確定申告書と同時に提出した場合のみ。期限を1日でも過ぎれば権利は完全に消滅します。毎年、この制度を知らずに申請できなかった会社が後を絶ちません。

この記事では、元国税調査官の筆者が、欠損金の繰戻しによる還付について、制度の仕組みから計算方法・申告書の書き方・税務調査で実際に見られるポイントまで、実務に必要な情報をすべて解説します。なお、個別の判断については詳細を所轄税務署にご相談ください。

会社員 新米社長

赤字になった年度に、前の年度に払った税金が戻ってくるって本当ですか?なんだか信じられなくて…。

本当です。それが「欠損金の繰戻しによる還付」という制度です。条件を満たせば前期に納めた法人税の一部または全額が還付されます。ただし、確定申告書と同時に申請しなければ権利が消滅しますので、この記事でしっかり理解しておいてください。

弁護士 元国税調査官

 

📋 この記事でわかること
  • ✅ 欠損金の繰戻し還付が使える会社の条件(対象法人・青色申告要件)
  • ✅ 還付金額の計算方法(計算式+2パターンの具体例)
  • ✅ 申請に必要な書類・提出先・提出期限(期限厳守のポイント)
  • ✅ 実際の申告書の書き方(設例つき記載例)
  • ✅ 税務調査で実際に見られるポイント(元国税調査官が解説)


目次

1 欠損金の繰戻しによる還付とは?

一言でいうと、「今期の赤字を前期に持ち帰って、払いすぎた税金を取り戻す制度」です。法律上の定義では、当期(欠損事業年度)に欠損金(税務上の赤字)が生じた場合に、その欠損金を前期(還付所得事業年度)に繰り戻して、すでに納付した法人税の還付を請求できる制度です(法人税法第80条)。

たとえば、前期に1,000万円の黒字で法人税を150万円納めていたとします。今期600万円の赤字になった場合、前期の所得に今期の赤字を繰り戻して再計算することで、150万円のうち最大90万円が戻ってくる仕組みです。

※ここでは制度の考え方を示すための簡略化した数値例です。実際の税額は所得金額に法人税率を適用して計算されるため、上記のような単純な引き算にはなりません。

1-1 どんな法人が対象か

この制度を利用できるのは、次の要件をすべて満たす法人です。

要件具体的な内容
①青色申告法人欠損事業年度(当期)および還付所得事業年度(前期)の両方が青色申告であること
②中小企業者等資本金または出資金が1億円以下の普通法人(大法人に100%支配されている子法人を除く)
「中小企業者等」には、農業協同組合・消費生活協同組合・信用金庫・NPO法人 (公益法人等・協同組合等・人格のない社団等)も含まれます
⚠ 大企業には適用されません!

資本金が1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人に100%支配されている完全子法人はこの制度の対象外となります。また、資本金1億円超の大企業は、租税特別措置法第66条の12により原則として適用が停止(凍結)されており、中小企業者等のみが利用できます。

1-2 繰戻しできる(遡れる)期間は?何年前まで?

繰り戻せるのは直前1事業年度(前期)のみです。
2期前・3期前に遡ることはできません。前期も赤字で法人税がゼロだった場合は、取り戻せる税金がないためこの制度は使えません。

 

正確には「欠損事業年度開始の日前1年以内に開始した所得のある事業年度」が対象となるため、決算期変更などで前事業年度が1年未満の場合は前々期が対象になるケースもあります。
なお、事業年度が1年(12か月)である法人を前提に解説します。

弁護士 元国税調査官

 

※ 還付請求書は当期の確定申告書と同時に提出します。
確定申告の提出期限は決算日から2ヶ月以内(例:3月決算なら5月末)のため、書類を実際に提出するのは翌年度に入ってからとなります。
「当期のことを申請しているのに翌期の欄なの?」と感じる方もいますが、これは提出のタイミングを示したもので、正しい表示です。

会社員 新米社長

前期も赤字で、前々期は黒字だった場合はどうなりますか?前々期に払った税金は戻ってきますか?

残念ながら、前々期への繰り戻しはできません。
制度上、対象は「直前1事業年度」に限られているためです。この場合、当期の欠損金は翌期以降への「繰越控除:(赤字を翌期以降の黒字と相殺して将来の税金を減らす方法)」として活用する方法しかありません。

弁護士 元国税調査官

1-3 繰越欠損金の控除との違い

欠損金の活用方法は大きく2つあります。
ひとつは本記事で解説する「繰戻し還付」、もうひとつが「繰越欠損金の控除(くりこしけっそんきんのこうじょ)」です。

繰越欠損金の控除とは、当期の欠損金(赤字)を翌期以降の黒字と相殺して、将来の法人税を減らす制度です(法人税法第57条)。イメージとしては「赤字を貯金しておいて、黒字の年に使う」感覚です。

たとえば第1期に100万円の赤字が出た場合、その赤字を翌期以降に繰り越しておきます。第2期に200万円の黒字が出たとき、繰り越した100万円の赤字を差し引くことで、課税所得を100万円に圧縮できます。

事業年度第1期第2期
所得金額△100万円(赤字)200万円(黒字)
繰越欠損金の控除△100万円
課税所得0円100万円
税金(税率30%想定)0円30万円

先ほどの表を見てください。第1期の所得金額は△100万円、つまり100万円の赤字です。この赤字を翌期以降に「貯金」しておきます。それが繰越欠損金です。そして第2期に200万円の黒字が出たとき、貯金しておいた100万円の赤字を差し引くことで、課税所得を100万円に圧縮できます。

このように、以前の期に赤字があれば、その赤字を翌期以降の黒字から差し引くのが繰越欠損金の控除です。

赤字があるのに、黒字のときだけ課税してしまうとトータルで考えると公平性を欠きます。長いスパンで会社全体の所得を計算するためには、黒字の期だけでなく赤字の期も含めて計算するのが筋というものです。

このような考えの下、赤字をそれ以降の決算期の黒字に備えて繰り越しておこうというのが繰越欠損金制度です。

繰り越せる期間は最長10年間です。ただし、繰越欠損金の控除を使うには以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 欠損金が生じた事業年度に青色申告をしていること
  • 欠損金が生じた事業年度以降、連続して確定申告書を提出していること
  • 欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を保存していること

青色繰越欠損金については、以下のページでわかりやすく解説しています。

説明する会社員 新米社長

では、2つを比較するとどうなるでしょうか。

 

比較項目繰戻し還付繰越控除
効果のタイミング今すぐ現金が戻る翌期以降に将来の税金が減る
対象期間直前1事業年度のみ翌期から最長10年間
申請タイミング確定申告書と同時(期限厳守)翌期以降の申告で自動適用
二重適用同一の欠損金を両方に二重で使うことはできません

資金繰りが苦しい時期には、今すぐ現金が手元に戻る繰戻し還付を優先的に検討することをおすすめします。

▶ どちらを選ぶべきか? 状況別の判断目安

繰戻し還付と繰越控除は、同じ欠損金をどちらか一方にしか使えません。ただし、欠損金が前期の所得金額を超える場合は前期所得の範囲内は繰戻しに、超過分は繰越控除に回すという形で両方を活用することができます。

状況有利な選択理由
今すぐ資金が必要・資金繰りが苦しい繰戻し還付現金がすぐに手元に戻る
翌期以降も赤字が続く見込みがある繰戻し還付繰り越しても黒字が出なければ使えない可能性が高い
翌期以降に大きな黒字回復が見込める繰越控除も有効繰越欠損金で将来の税額を大きく圧縮できる
欠損金が前期所得を上回る繰戻し+繰越の併用前期所得の範囲内は繰戻し、超過分は翌期以降に繰越控除
同じ欠損金を繰戻しと繰越の両方に使うことはできません

繰戻し還付に使った欠損金額を、翌期以降の繰越控除にも使うことは法律上禁止されています(法人税法第57条第1項)。欠損金が前期の所得金額以下の場合は全額を繰戻しに充て、翌期以降の繰越欠損金はゼロになります。欠損金が前期の所得を超えた場合のみ、超過分を繰越控除として活用できます。

キャッシュを手にできる点を考えれば、繰戻還付を選択すべきと言えますが、繰戻還付請求という手続きがとても手間がかかるということを考慮する必要があります。反対に欠損金の控除はとても簡単な手続きです。

面倒な手続きをしてもあまりあるほどキャッシュが必要な場合は、繰戻還付を請求することになるというのが実務感覚です。

弁護士 元国税調査官

1-4 災害損失欠損金の繰戻し還付(特別規定)

通常の繰戻し還付とは別に、「災害損失欠損金(さいがいそんしつけっそんきん:火災・風水害・地震などの災害によって生じた損失を原因とする欠損金)」が生じた場合に適用できる特別な繰戻し還付があります(法人税法第80条第5項)。通常の制度と異なり、白色申告法人でも利用でき、青色申告法人は前々期まで遡れる点が最大の特徴です。

比較項目通常の繰戻し還付
(法人税法第80条)
災害損失の繰戻し還付
(法人税法第80条第5項)
対象法人青色申告法人かつ中小企業者等青色・白色ともに対象、規模不問
繰戻し期間直前1事業年度のみ青色申告法人:前2年以内
白色申告法人:前1年
対象となる欠損金すべての欠損金災害による損失(棚卸資産・固定資産・繰延資産)に限定
大企業の適用停止中(中小企業者等のみ可)停止なし(大企業も利用可)
⚠ 対象となる「災害」と「損失額」の考え方

対象となる災害は、震災・風水害・火災・冷害・雪害・干害・落雷・噴火およびこれらに類する自然現象、または鉱害・火薬類の爆発などの人為的な災害です(法人税法施行令第116条)。損失額の計算では以下の点に注意してください。

  • 対象となる資産:棚卸資産・固定資産・繰延資産が災害によって滅失・損壊したことで生じた損失
  • 保険金等で補填された部分は除外:火災保険・損害賠償金・補助金など保険等で補填された金額を差し引いた後の純損失額が対象となります
  • 申請手続き:通常の繰戻し還付と同様に、確定申告書と同時に「災害損失欠損金の繰戻しによる還付請求書」を税務署長に提出します

災害損失の繰戻し還付は、白色申告法人でも使える点と、青色申告法人なら前々期まで遡れる点が通常の制度との大きな違いです。火災や水害で大きな損失が生じた場合は、まず保険等で補填されない損失額を確認し、速やかに所轄税務署に相談することをおすすめします。申請期限は通常の繰戻し還付と同じく確定申告書との同時提出が必要です。

弁護士 元国税調査官

制度の全体像と繰越控除との違いが整理できたところで、次章では実際にいくら還付されるのかを、計算式と2つの具体例を使って詳しく確認していきます。


2 還付額の計算方法

制度の概要を理解したところで、次は実際にいくらお金が戻ってくるのかを計算してみましょう。計算式自体はシンプルですが、使う数字を間違えると過大請求や過少請求につながります。ここでは計算式の意味を一つひとつ丁寧に確認した上で、実際の数字を使った具体例で理解を深めていきます。

2-1 還付金額の計算式

還付金額は、法人税法第80条に定められた以下の計算式で求めます。計算に使う数字はすべて「法人税の確定申告書」から拾うことができます。住民税や事業税など地方税の金額は一切含めない点が最大の注意点です。

欠損金の繰戻し還付の計算フロー

還付金額の計算式

還付金額 = 前期の法人税額 × (繰り戻す欠損金額 ÷ 前期の所得金額)

  • 前期の法人税額(黒字の年度):還付所得事業年度(前期)に納付が確定した法人税の金額
  • 繰り戻す欠損金額(赤字の年度):当期の欠損金額。ただし「前期の所得金額」を上限とします
  • 前期の所得金額(黒字の年度):還付所得事業年度の課税所得(法人税の計算上の黒字の金額)

※欠損金が前期の所得金額を超える場合は、前期の所得金額が上限となるため、還付金額は「前期の法人税額の全額」となります。

計算式そのものは割り算と掛け算だけですので、数字さえ正しく拾えれば誰でも計算できます。ただし、「繰り戻す欠損金額」には上限があるという点が重要です。当期の欠損金が前期の所得金額を超えている場合は、前期の所得金額までしか繰り戻せません。超えた分は翌期以降の繰越控除として活用します。次の2-2では、この2つのパターンを具体的な数字で確認していきます。

2-2 具体的な計算例

計算式のパターンは大きく2つに分かれます。①欠損金が前期の所得金額を下回るケース(一部還付)と、②欠損金が前期の所得金額を上回るケース(全額還付+繰越残あり)です。

ご自身の状況に近い方を参考にしてください。

具体例① 欠損金が前期所得を下回るケース(一部還付)

【具体例①】欠損金が前期の所得を下回るケース(一部還付)

項目金額
前期(還付所得事業年度)の所得金額1,000万円
前期(還付所得事業年度)の法人税額150万円
当期(欠損事業年度)の欠損金額600万円
繰り戻す欠損金額(上限:前期所得1,000万円)600万円(上限以内のため全額繰り戻し可)
計算ステップ

① 繰り戻す欠損金額:600万円(前期所得1,000万円を超えないため全額)

② 法人税の還付金額:150万円 × (600万円 ÷ 1,000万円)= 150万円 × 0.6 = 90万円

③ 地方法人税(ちほうほうじんぜい:法人税に上乗せされる税金)の還付:90万円 × 10.3% ≒ 約9.3万円(別途手続き不要で自動還付)

合計還付額:約99.3万円

具体例② 欠損金が前期所得を上回るケース(全額還付)

【具体例②】欠損金が前期の所得を上回るケース(上限あり・全額還付)

項目金額
前期(還付所得事業年度)の所得金額500万円
前期(還付所得事業年度)の法人税額75万円
当期(欠損事業年度)の欠損金額800万円
繰り戻す欠損金額(上限:前期所得500万円)500万円(800万円は上限超過のため500万円が上限)
計算ステップ

① 繰り戻す欠損金額:500万円(前期所得が上限)

② 法人税の還付金額:75万円 × (500万円 ÷ 500万円)= 75万円 × 1.0 = 75万円(前期法人税の全額)

③ 地方法人税の還付:75万円 × 10.3% ≒ 約7.7万円(自動還付)

合計還付額:約82.7万円

⑤ 残り欠損金:800万円 − 500万円 = 300万円 → 翌期以降の繰越控除として活用できます

計算式に使う「法人税額」は、住民税や事業税を含まない国税の法人税額のみです。地方税を誤って含める計算ミスが非常に多いので注意してください。また、法人税額には法人税の確定申告書で確定した金額を使います。中間納付額(ちゅうかんのうふがく:事業年度の途中で仮払いする税金)だけを使うのも誤りです。

弁護士 元国税調査官

還付額の計算方法が理解できたところで、次章では実際に還付を受けるための手続き・必要書類・提出期限について解説します。特に提出期限は「1日でも過ぎると権利消滅」という厳しいルールがあるため、しっかり確認しておきましょう。


3 手続きの流れ

還付を受けるためには、正しい書類を、正しい期限までに提出することが必要です。特に提出期限は確定申告書と同日提出が原則であり、実務上ほぼ例外なくこれが条件として運用されています。
やむを得ない事情がある場合の例外規定(法人税法基本通達17-2-3)はありますが、認められるケースは極めて限定的なため、確実に同日提出することを強くおすすめします。この章では、必要書類・提出先・提出期限・還付を受けられないケースを順に確認していきます。

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