勘定科目の「役員報酬」について、損金算入の要件や仕訳例を簿記初心者にもわかりやすく解説します。
1「役員報酬」が使われる取引例
勘定科目の「役員報酬」で経理される主な取引例は以下のとおりです。
| 内容 | 具体例 |
|---|---|
| 月額報酬(定期同額給与) | 代表取締役・常務取締役・専務取締役・取締役・会計参与・監査役・執行役・理事長・理事・監事・清算人に毎月定額で支給する報酬 |
| 経済的利益 | 社宅の無償・低額提供の差額、無利息・低利率での金銭貸付の差額、個人的費用の会社負担額(国税庁 No.5202) |
役員報酬で処理するのは上記のみです。以下は別の勘定科目で処理することに注意しましょう。
| 項目 | 使用する勘定科目 | 理由 |
|---|---|---|
| 役員賞与(ボーナス) | 役員賞与 | 事前確定届出給与として届出が必要。月額報酬とは損金算入の要件が異なる |
| 役員退職金 | 退職金 | 退職時に一時的に発生する費用。損金算入の要件が別途定められている |
| 従業員への給与 | 給料手当 | 雇用契約に基づく対価。損金算入の制限がない |
| 使用人兼務役員の使用人部分 | 給料手当 | 役員部分は「役員報酬」、使用人部分は「給料手当」で区分して処理 |
2「役員報酬」とは
役員報酬と従業員の給料手当の最大の違いは、損金算入に厳しい制限があることです。従業員の給与は全額が損金になりますが、役員報酬は一定の要件を満たさないと損金として認められません。これは、役員報酬を利用した利益操作(期末に業績を見て報酬額を調整する等)を防止するための規定です。
「役員報酬」の特徴は次のとおりです。
| グループ | 「費用」グループ |
|---|---|
| 決算書の表示 | 販売費及び一般管理費 |
| 類似科目 | 給料手当、役員賞与 |
| 税区分 | 不課税 |
| インボイス有無の判定 | 不要 |
役員報酬は消費税が不課税です。役員は委任契約に基づき会社に従属して役務を提供しており、「独立した事業者」として事業を行うものではないため、消費税の課税対象に該当しません(国税庁 No.6157)。インボイスの保存も不要です。
3「役員報酬」の仕訳例
3-1 毎月の役員報酬の支払い(基本パターン)
役員報酬月額50万円を普通預金から振り込んだケース。
天引き:社会保険料(健康保険料+厚生年金)74,825円、源泉所得税18,420円、住民税35,000円
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | 500,000 | 普通預金 | 371,755 |
| 預り金(社会保険料) | 74,825 | ||
| 預り金(源泉所得税) | 18,420 | ||
| 預り金(住民税) | 35,000 |
※役員報酬には残業代がありません。従業員と異なり、毎月同じ金額を計上するのが基本です。なお、役員は雇用保険の対象とならないため、雇用保険料の天引きはありません。
3-2 社会保険料を年金事務所に納付したとき
社会保険料は役員負担分と会社負担分を合わせて翌月末までに納付します。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(社会保険料) | 74,825 | 普通預金 | 149,650 |
| 法定福利費 | 74,825 |
※健康保険料・厚生年金保険料は原則として会社と役員が折半で負担します。法定福利費74,825円が会社負担分です。
3-3 事前確定届出給与(役員賞与)を支給したとき
事前に税務署へ届け出た金額どおりに役員賞与100万円を支給した場合。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 役員賞与 | 1,000,000 | 普通預金 | 795,560 |
| 預り金(社会保険料) | 149,650 | ||
| 預り金(源泉所得税) | 54,790 |
※届出書の金額・支給日と1円でも、1日でもズレると全額が損金不算入になります。
4「役員報酬」処理上の注意点
4-1 損金算入できる3つの類型
役員報酬を法人税の計算上「損金」にするためには、以下の3類型のいずれかに該当する必要があります(国税庁 No.5211)。
| 類型 | 概要 | 主な要件 |
|---|---|---|
| ①定期同額給与 | 毎月同額を支給する報酬 | 1か月以下の一定期間ごとの支給で、各支給時期の支給額が同額であること |
| ②事前確定届出給与 | 事前に税務署へ届け出た金額・日に支給する賞与等 | 届出期限までに届出書を提出し、届出どおりの金額・日に支給すること(届出書様式) |
| ③業績連動給与 | 利益等の客観的指標に連動して算定する給与 | 同族会社は原則適用不可。実質的に上場企業向けの制度 |
4-1 定期同額給与とは
定期同額給与とは、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与をいいます。「毎月決まった額を役員に支払う」というオーソドックスな形態で、中小企業の役員報酬の大部分はこれに該当します。1か月以下の一定期間(通常は毎月)ごとに同額を継続して支給していれば、特別な届出をしなくても全額が損金になります。
裏を返すと、年度の途中で支給額を増減させると、原則として定期同額給与に該当しなくなり、増減した部分が損金不算入になるおそれがあります。そのため、いつ・どのような場合に金額を変更できるのかというルールが重要になります。
損金についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
4-2 定期同額給与の変更ルール
定期同額給与は原則として期中に金額を変更できません。変更が認められるのは以下の3つのケースに限られます。
- 通常改定:事業年度開始から3か月以内の株主総会等の決議による改定(この方法が最もオーソドックスな改定方法です)
- 臨時改定事由:役員の地位変更(副社長→社長等)、職務内容の重大な変更、病気入院による減額等のやむを得ない事情
- 業績悪化改定事由:経営状況が著しく悪化した場合の減額のみ。ただし、単なる業績悪化では認められず、株主・取引銀行・取引先など第三者との関係上、減額がやむを得ないと認められる事情が必要
変更が認められない場合、増額分または減額前との差額が損金不算入となります(国税庁 質疑応答事例)。
定期同額給与の取扱いについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
4-3 事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは、役員に対して所定の時期に確定した額を支給する旨を、あらかじめ税務署に届け出たうえで支給する給与をいいます。毎月同額を支給する定期同額給与に対し、こちらは年1〜2回などのまとまった役員賞与を損金にしたい場合に使う制度です。
役員賞与は、何も手続きをしなければ損金になりません。事前に「誰に・いつ・いくら払うか」を届け出ておくことで、はじめて損金算入が認められます。そのため、届出の期限と、届出どおりに支給することが極めて重要になります。
4-4 事前確定届出給与の届出期限
事前確定届出給与の届出期限は、以下のいずれか早い日です。
- 株主総会等の決議日から1か月以内
- 会計期間開始日から4か月以内
新設法人の場合は設立日から2か月以内です。届出書には支給対象者の氏名・役職・支給時期・支給金額を記載します。
事前確定届出給与の取扱いについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
4-5 業績連動給与とは~中小企業では使えない制度~
業績連動給与とは、利益の状況を示す指標など客観的な指標に連動して算定される役員給与をいいます(国税庁 No.5211)。
ただし、業績連動給与を適用できるのは同族会社以外の法人(業務執行役員に対するもの)に限られ、報酬の算定方法を有価証券報告書に記載するなど厳格な要件があります。中小企業のほとんどは同族会社に該当するため、業績連動給与は実質的に使えません。
4-6 使用人兼務役員の取り扱い
役員のうち、部長・課長等の使用人としての職制上の地位を有し、常時使用人としての職務に従事する者は「使用人兼務役員」として、役員部分は「役員報酬」、使用人部分は「給料手当」で区分して処理できます。
ただし、以下の者は使用人兼務役員になれません(国税庁 No.5205)。
- 代表取締役、副社長、専務、常務
- 同族会社の特定株主役員(法人税法施行令第71条第1項第5号)
① 被支配グループに属すること
会社の株主を持株割合の大きい順に並べ、上位から順に合計したとき、初めて合計が50%を超えることになる株主グループ(被支配グループ)のいずれかに役員が属すること。
② 属する株主グループの持株割合が10%超
その役員が属する株主グループの持株割合の合計が10%を超えること。
③ 本人(特殊関係者を含む)の持株割合が5%超
役員本人に加え、配偶者・直系血族・生計を一にする親族等(特殊関係者)の持株を合算した割合が5%を超えること。配偶者が別途役員でない場合も持株には合算される点に注意が必要です。
①〜③をすべて満たす役員が特定株主役員となります。例えば、被支配グループに属していても本人(特殊関係者を含む)の持株割合が5%以下であれば、使用人兼務役員になれます。
- 合名・合資・合同会社の業務執行社員
使用人兼務役員とはという基礎知識や税務上の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。



