勘定科目の「給料手当」について、具体例をふんだんに使って簿記初心者にもわかりやすく解説します。
1「給料手当」が使われる取引例
勘定科目の「給料手当」で経理される主な取引例は以下のとおりです。
| 内容 | 具体例 |
|---|---|
| 基本給・固定給 | 月給、日給月給 |
| 残業手当(時間外手当) | 法定労働時間を超えた労働に対する割増賃金(125%以上) |
| 深夜手当 | 22時〜翌5時の労働に対する割増賃金(125%以上、時間外と重複で150%以上) |
| 休日出勤手当 | 法定休日の労働に対する割増賃金(135%以上) |
| 役職手当 | 部長手当、課長手当、係長手当、主任手当 |
| 住宅手当 | 家賃補助、住宅ローン補助 |
| 家族手当(扶養手当) | 配偶者手当、子女手当、扶養手当 |
| 資格手当・技能手当 | 簿記、宅建、情報処理等の業務関連資格保有者への手当 |
| 勤怠関連手当 | 皆勤手当、精勤手当、勤続手当 |
| その他の手当 | 営業手当、危険手当、単身赴任手当、地域手当、食事手当、調整手当、能率手当、特殊勤務手当 |
上記のように、基本給だけでなく各種手当も「給料手当」に含まれます。ただし、通勤手当は「旅費交通費」、賞与(ボーナス)は「賞与」、役員への報酬は「役員報酬」で別の科目として処理することに注意しましょう。
2「給料手当」とは
給料手当は、従業員に対する労働の対価を記録する科目です。パート・アルバイトへの給与は「雑給」として区別する場合もありますが、給料手当に含めて処理しても問題ありません。
「給料手当」の特徴は次のとおりです。
| グループ | 「費用」グループ |
|---|---|
| 決算書の表示 | 販売費及び一般管理費 |
| 類似科目 | 役員報酬、雑給、外注費 |
| 税区分 | 不課税 |
| インボイス有無の判定 | 不要 |
給料手当は消費税が不課税です。給与は雇用契約に基づく労働の対価であり、「事業として行う取引」に該当しないため、そもそも消費税の課税対象になりません(国税庁 No.6157)。そのためインボイスの保存も不要です。ただし通勤手当だけは「課税仕入れ」となるので、旅費交通費で別に処理しましょう(国税庁 質疑応答事例)。
3「給料手当」の仕訳例
給料手当の仕訳は、「総支給額」から「天引き項目」を差し引いて「手取り額」を振り込むという流れが基本です。天引きした各項目は「預り金」として処理し、後日それぞれの納付先に支払います。
3-1 毎月の給与支払い(基本パターン)
正社員1名、月給30万円(うち通勤手当1万円)を普通預金から振り込んだケース。
天引き:社会保険料(健康保険料+厚生年金)42,255円、雇用保険料1,800円、源泉所得税6,110円、住民税15,000円
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 290,000 | 普通預金 | 234,835 |
| 旅費交通費 | 10,000 | 預り金(社会保険料) | 42,255 |
| 預り金(雇用保険料) | 1,800 | ||
| 預り金(源泉所得税) | 6,110 | ||
| 預り金(住民税) | 15,000 |
※通勤手当は「旅費交通費」で処理しています。給料手当の金額は総支給額30万円から通勤手当1万円を差し引いた29万円です。
※社会保険料(健康保険料+厚生年金保険料)は補助科目を分けず、まとめて「預り金(社会保険料)」で処理しています。年金事務所への納付は合計額の一括振込であり、端数処理や月途中の入退社で保険種別ごとに完全一致しないことも多いため、まとめて管理するほうが実務的です。
3-2 源泉所得税を税務署に納付したとき
毎月天引きした源泉所得税を翌月10日までに納付します(従業員10人未満の場合、「納期の特例」の届出により年2回にまとめて納付できます)。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(源泉所得税) | 6,110 | 普通預金 | 6,110 |
3-3 住民税を市区町村に納付したとき
特別徴収した住民税を翌月10日までに納付します(従業員が常時10人未満の場合、「納期の特例」の届出により年2回にまとめて納付できます)。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(住民税) | 15,000 | 普通預金 | 15,000 |
3-4 社会保険料を年金事務所に納付したとき
社会保険料は従業員負担分と会社負担分を合わせて翌月末までに納付します。会社負担分は「法定福利費」で処理します。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 預り金(社会保険料) | 42,255 | 普通預金 | 84,510 | ||
| 法定福利費 | 42,255 |
※健康保険料・厚生年金保険料は原則として会社と従業員が折半で負担します。法定福利費42,255円が会社負担分です。
3-5 給与を現金で支払ったとき
パート従業員に日給1万円を現金で支払った場合(源泉所得税340円を天引き)。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料手当(または雑給) | 10,000 | 現金 | 9,660 |
| 預り金(源泉所得税) | 340 |
3-6 決算時に未払給与を計上するとき
3月決算の会社で、3月分の給与(締日:月末、支払日:翌月25日)を決算時に未払計上する場合。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 290,000 | 未払費用 | 290,000 |
※翌期の支払日に未払費用を取り崩して普通預金から支払います。
4「給料手当」処理上の注意点
4-1 通勤手当は「旅費交通費」で処理する
通勤手当は給与明細上は給与の一部ですが、会計上は「旅費交通費」で処理するのが一般的です。
理由は、通勤手当は消費税法上「課税仕入れ」に該当し、仕入税額控除の対象となるためです。給料手当(不課税)に含めてしまうと、消費税の計算で不利になります。
なお、所得税法上、通勤手当は電車・バス通勤の場合月額15万円まで非課税です(国税庁 No.2582)。非課税限度額を超える部分は給与所得として源泉徴収の対象となります。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 300,000 | 普通預金 | 300,000 |
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 290,000 | 普通預金 | 300,000 |
| 旅費交通費 | 10,000 |
4-2 賞与は「賞与」で別に処理する
従業員へのボーナス(賞与)は、給料手当ではなく「賞与」という別の勘定科目で処理するのが一般的です。支給時期・金額が通常の月次給与と異なるため、分けて管理するほうが実務上便利です。
4-3 給料手当は全額「損金」になる
従業員に対する給料手当は全額が法人税の計算上「損金」として認められます。これは後述する「役員報酬」と大きく異なる点です。役員報酬は一定の要件を満たさないと損金算入できませんが、従業員の給与にはそのような制限はありません。
5 給料手当と役員報酬の違い
5-1 勘定科目「役員報酬」とは
5-2 給料手当と役員報酬の違い
| 項目 | 給料手当 | 役員報酬 |
|---|---|---|
| 対象者 | 従業員(正社員・契約社員) | 取締役・監査役・執行役員 |
| 損金算入 | 全額損金OK | 原則損金不算入 (定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のみOK) |
| 金額変更 | いつでも変更可能 | 原則、事業年度開始3ヶ月以内の株主総会決議が必要 |
| 残業代 | 発生する | 発生しない |
| 賞与の損金算入 | 全額損金OK | 事前確定届出給与の届出が必要(届出額と1円でもズレたら全額損金不算入) |
| 雇用保険 | 加入義務あり | 原則不要 |
| 消費税 | 不課税 | 不課税 |
5-3「みなし役員」に注意
法人税法では、登記上の役員でなくても、同族会社の使用人のうち以下のすべてに該当する人は「みなし役員」として扱われます。
- その会社の株主グループの所有割合が上位3位以内
- その株主グループの所有割合が10%を超えている
- 本人とその配偶者の所有割合が5%を超えている
- 法人の経営に従事している
みなし役員と判定されると、役員報酬の損金算入ルール(定期同額給与の要件等)が適用され、要件を満たさない部分が損金不算入になるリスクがあります。
詳しくは国税庁 No.5200「役員の範囲」をご確認ください。