勘定科目の「電子記録債権」について、受取手形・売掛金との違い、消費税の取扱い、仕訳例を簿記初心者にもわかりやすく解説します。
取引先から「でんさいで支払います」と言われたんですが、これって受取手形と何が違うんですか?仕訳もよくわからなくて…
でんさい(電子記録債権)は、紙の手形を電子化したものです。仕訳の考え方は手形とほぼ同じですが、消費税の取扱いや譲渡したときの処理で違いがあります。この記事で要点を押さえましょう。
また、紙の手形は廃止目前であり、でんさいへの移行が事実上必須と言えます。
1「電子記録債権」が使われる取引例
勘定科目の「電子記録債権」で経理される主な取引例は以下のとおりです。
| 内容 | 具体例 |
|---|---|
| 発生記録による債権発生 | 売掛金の決済手段としてでんさいネット等で発生記録請求がなされ、電子記録債権として受け取った |
| 譲渡記録による債権取得 | 取引先から、その取引先が保有していた電子記録債権を譲渡記録によって取得した(裏書譲渡に相当) |
| 分割記録による債権取得 | 大口の電子記録債権を分割記録により分割して取得した |
電子記録債権で処理するのは上記のみです。以下は別の勘定科目で処理することに注意しましょう。
| 項目 | 使用する勘定科目 | 理由 |
|---|---|---|
| 紙の約束手形・為替手形を受け取った | 受取手形 | 手形法に基づく紙の手形は電子記録債権とは別物 |
| 電子記録債権の発生記録前の売掛債権 | 売掛金 | 発生記録がなされて初めて電子記録債権に振り替える |
| 本業以外(固定資産売却等)で発生したでんさい | 営業外電子記録債権 | 実務対応報告第27号 設例3に基づき、営業取引由来と区分して表示 |
| 自社が支払う側のでんさい | 電子記録債務 | 負債側の科目。受取手形に対する支払手形の関係 |
2「電子記録債権」とは
電子記録債権は、紙の手形が抱えていた紛失・盗難リスク、印紙税の負担、事務処理コストといった問題を解消するために創設された制度です。発生・譲渡・消滅といったすべての権利移動が電子債権記録機関の記録原簿への記録によって行われます(でんさいネット)。
「電子記録債権」の特徴は次のとおりです。
| グループ | 「資産」グループ |
|---|---|
| 決算書の表示 | 流動資産 |
| 類似科目 | 受取手形、売掛金 |
| 税区分 | 対象外(譲渡時のみ非課税) |
| インボイス有無の判定 | 不要 |
電子記録債権の発生・回収は、もともと売上時に消費税の認識が済んでいるため不課税(対象外)です。期日前に第三者へ譲渡(売却)する場合は、消費税法上「金銭債権の譲渡」として非課税取引に該当します(国税庁 No.6201)。ただし、売掛金から振り替えた電子記録債権のように自社の売上の対価として取得した金銭債権を譲渡した場合は、課税売上割合の分母にも分子にも算入しません(消令48条2項2号)。
3「電子記録債権」の仕訳例
3-1 売掛金から電子記録債権に振り替えたとき(発生記録)
得意先A社に対する売掛金1,100,000円について、でんさいネットで発生記録請求がなされ、電子記録債権として確定したケース。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 電子記録債権 | 1,100,000 | 売掛金 | 1,100,000 |
※消費税は対象外です。売上計上時にすでに消費税を認識しているため、債権の振替時に再度認識することはありません。
3-2 支払期日に普通預金へ入金されたとき
3-1の電子記録債権1,100,000円が支払期日に普通預金に入金されたケース。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,100,000 | 電子記録債権 | 1,100,000 |
3-3 期日前に金融機関へ譲渡(割引)したとき
3-1の電子記録債権1,100,000円を、資金繰りのため期日前に取引銀行へ譲渡し、割引料5,000円を差し引いた1,095,000円が普通預金に入金されたケース。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,095,000 | 電子記録債権 | 1,100,000 |
| 電子記録債権売却損 | 5,000 |
※割引料相当の差額は「電子記録債権売却損」(営業外費用)で処理します。手形でいう「手形売却損」と同じ考え方です。
※譲渡取引は消費税法上「金銭債権の譲渡」として非課税に該当します。本件のように自社の売上の対価として取得した金銭債権(売掛金から振り替えた電子記録債権)の譲渡は、課税売上割合の計算上、分母にも分子にも算入しません。中小企業のでんさい取引は通常このケースに該当します。
3-4 仕入先への支払いに譲渡(裏書譲渡に相当)したとき
仕入先B社への買掛金1,100,000円の支払いとして、保有している電子記録債権1,100,000円を譲渡記録によりB社に譲渡したケース。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 1,100,000 | 電子記録債権 | 1,100,000 |
※買掛金との相殺による譲渡も、消費税法上は「金銭債権の譲渡」として非課税取引に該当します。ただし売上対価として取得した電子記録債権の譲渡であれば、課税売上割合の計算には影響しません(消令48条2項2号)。
3-5 支払不能(不渡り)となり貸倒れになったとき
得意先C社が支払不能となり、保有していた電子記録債権550,000円が貸倒れとなったケース。形式上の貸倒れ要件等を満たすものとします(国税庁 No.5320)。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | 550,000 | 電子記録債権 | 550,000 |
※電子記録債権は、でんさいネットの場合6か月以内に2回の支払不能で取引停止処分となる仕組みがあり、紙の手形と同様の信用秩序が保たれています。
3-6 分割記録により電子記録債権を分割したとき
保有する電子記録債権1,000,000円のうち、400,000円分を分割記録により切り出し、別の取引先への支払いに充てたケース。分割記録のみでは仕訳は不要で、分割した債権を譲渡した時点で次の仕訳を行います。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 400,000 | 電子記録債権 | 400,000 |
※紙の手形は1枚をそのまま譲渡するしかありませんが、電子記録債権は必要な金額だけ分割して譲渡できるのが大きなメリットです。
3-7 取得した他社の電子記録債権を期日前に譲渡したとき(参考:5%算入ケース)
自社の売上とは関係なく、ファクタリング会社等から額面1,000,000円の電子記録債権を980,000円で買い取り、期日前に第三者へ990,000円で譲渡したケース。
| ①取得時 | |||
|---|---|---|---|
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
| 電子記録債権 | 980,000 | 普通預金 | 980,000 |
| ②期日前譲渡時 | |||
|---|---|---|---|
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
| 普通預金 | 990,000 | 電子記録債権 | 980,000 |
| 電子記録債権売却益 | 10,000 | ||
※この場合、譲渡対価990,000円は「自社の資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権」に該当しないため、消費税法施行令48条5項の適用を受け、譲渡対価の5%(49,500円)を課税売上割合の分母に算入します(分子には算入しない)。
※ファクタリング業や金融業を営んでいる事業者でなく、通常の事業会社がこの取扱いに直面することは多くありませんが、グループ会社の電子記録債権を一旦取得して再譲渡するようなケースでは判定誤りに注意が必要です。