勘定科目の「電子記録債務」について、支払手形・買掛金との違い、消費税の取扱い、仕訳例を簿記初心者にもわかりやすく解説します。
仕入先から「でんさいで支払ってください」と言われたんですが、これって支払手形と何が違うんですか?仕訳もよくわからなくて…
でんさい(電子記録債務)は紙の手形を電子化した決済手段で、支払う側から見たときに使う勘定科目が「電子記録債務」です。支払手形に相当する科目と考えると分かりやすいでしょう。
仕訳は支払手形とほぼ同じですが、印紙税が不要な点や、期日に自動的に当座預金から引き落とされるなど、事務面で違いがあります。この記事で要点を押さえましょう。
1「電子記録債務」が使われる取引例
勘定科目の「電子記録債務」で経理される主な取引例は以下のとおりです。
| 内容 | 具体例 |
|---|---|
| 営業取引に係る発生記録 | 買掛金の決済手段としてでんさいネット等で発生記録請求を行い、電子記録債務を負担した |
| 営業外取引に係る発生記録 | 固定資産・有価証券等の購入代金を電子記録債務で決済することとし、発生記録請求を行った(「営業外電子記録債務」として営業取引由来の電子記録債務と区分管理) |
電子記録債務で処理するのは上記のみです。以下は別の勘定科目で処理することに注意しましょう。
| 項目 | 使用する勘定科目 | 理由 |
|---|---|---|
| 紙の約束手形・為替手形を振り出した | 支払手形 | 手形法に基づく紙の手形は電子記録債務とは別物 |
| 電子記録債務の発生記録前の仕入債務 | 買掛金 | 発生記録がなされて初めて電子記録債務に振り替える |
| 自社が受け取る側のでんさい | 電子記録債権 | 資産側の科目。支払手形に対する受取手形の関係 |
| 保有しているでんさいを仕入先への支払いに譲渡した | 電子記録債権(の取崩し) | 自社の債務は発生せず、保有する債権(資産)を譲渡する処理になる(→3-3参照 |
2「電子記録債務」とは
電子記録債務は、紙の支払手形が抱えていた作成・郵送の事務コスト、印紙税の負担、紛失・盗難リスクといった問題を解消するために創設された制度です。発生・譲渡・消滅といったすべての権利移動が電子債権記録機関の記録原簿への記録によって行われ、支払期日には当座預金から自動的に引き落とされる仕組みになっています(でんさいネット)。
「電子記録債務」の特徴は次のとおりです。
| グループ | 「負債」グループ |
|---|---|
| 決算書の表示 | 流動負債 |
| 類似科目 | 支払手形、買掛金 |
| 税区分 | 対象外 |
| インボイス有無の判定 | 不要 |
電子記録債務の発生・支払は、いずれも消費税の対象外(不課税)です。仕入計上時にすでに消費税の仕入税額控除を認識しているため、決済手段(買掛金から電子記録債務への振替・支払期日の引き落とし)の段階で再度消費税を認識することはありません。
3「電子記録債務」の仕訳例
3-1 買掛金から電子記録債務に振り替えたとき(発生記録)
仕入先A社に対する買掛金1,100,000円について、でんさいネットで発生記録請求を行い、電子記録債務として確定したケース。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 1,100,000 | 電子記録債務 | 1,100,000 |
※消費税は対象外です。仕入計上時にすでに消費税を認識しているため、債務の振替時に再度認識することはありません。
3-2 支払期日に当座預金から引き落とされたとき
3-1の電子記録債務1,100,000円が支払期日に当座預金から引き落とされたケース。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 電子記録債務 | 1,100,000 | 当座預金 | 1,100,000 |
※支払手形と異なり、紙の手形の取立てを待つ必要がなく、期日に自動的に当座預金から引き落とされるのが特徴です。
3-3 保有する電子記録債権を仕入先への支払いに譲渡したとき
保有している電子記録債権1,100,000円を、仕入先B社への買掛金1,100,000円の支払いとして譲渡記録によりB社に譲渡したケース(自社視点では資産側の振替で、電子記録債務は計上されません)。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 1,100,000 | 電子記録債権 | 1,100,000 |
※このケースは「電子記録債務」は使わず、自社が保有していた電子記録債権(資産)を取り崩す処理になります。実務でよく混同される処理です。
※でんさいの譲渡には原則として譲渡人の保証記録が付されるため、譲渡後も手形の裏書譲渡と同様に遡求義務(保証債務)を負う点に注意が必要です。譲渡した債権が支払不能となった場合は、譲受人から支払を求められる可能性があります。
3-4 固定資産の購入代金を電子記録債務で決済するとき(営業外電子記録債務)
営業外の取引として機械装置3,300,000円を購入し、その支払いとして電子記録債務の発生記録を行うケース。実務対応報告第27号(設例3)では、固定資産・有価証券等の通常の営業取引以外で発生した電子記録債務は「営業外電子記録債務」科目で営業取引由来の電子記録債務と区分するとされています(企業会計基準委員会 実務対応報告第27号)。
①機械装置の購入時(発生記録前のため、いったん未払金で受ける)
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 機械装置 | 3,000,000 | 未払金 | 3,300,000 |
| 仮払消費税 | 300,000 |
②発生記録により電子記録債務が発生したとき
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 3,300,000 | 営業外電子記録債務 | 3,300,000 |
③支払期日に当座預金から引き落とされたとき
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 営業外電子記録債務 | 3,300,000 | 当座預金 | 3,300,000 |
※営業取引由来は「電子記録債務」、営業外由来は「営業外電子記録債務」と科目を分けて管理することで、決算書上、営業取引由来の仕入債務と営業外の債務を明確に区別して表示できます。
3-5 でんさいの支払不能(不渡り)が発生したとき
資金繰り悪化により、支払期日に電子記録債務1,100,000円の引落しができなかったケース。引落不能のままだと「支払不能」となり、6か月以内に2回発生すると取引停止処分(2年間、①債務者としてのでんさいネットの利用、②参加金融機関との貸出取引が禁止)の対象となります。
支払不能となっても電子記録債務そのものは消滅しないため、支払不能の時点では仕訳は不要です(電子記録債務1,100,000円が残高として残ります)。その後、資金を確保して債権者に支払った時点で、通常どおり次の仕訳を行います。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 電子記録債務 | 1,100,000 | 普通預金 | 1,100,000 |
※実務上、支払不能となった電子記録債務は通常分と区別するため「期日経過分」等の補助科目で管理すると、残高管理や決算時の確認がしやすくなります。
※なお「不渡手形」という勘定科目がありますが、これは不渡りとなった手形を受け取った側(債権者)が使う資産科目であり、支払う側では使いません。
※支払不能は事実上の倒産シグナルとなるため、決算書上も注意喚起すべき情報です。
4「電子記録債務」処理上の注意点
4-1 消費税の取扱い(発生・支払とも不課税)
電子記録債務に関する消費税の取扱いは取引の場面ごとに整理が必要です。
| 取引の場面 | 消費税区分 | 理由 |
|---|---|---|
| 発生記録(買掛金からの振替) | 対象外 | 仕入計上時に消費税の仕入税額控除を認識済み。決済手段の変更にすぎない |
| 支払期日の引き落とし | 対象外 | 金銭の支払いであり消費税の課税対象ではない |
| 支払不能(不渡り) | 対象外 | 債務は消滅しておらず、資産の譲渡等に該当しない。なお相手方が貸倒れ処理する場合は、相手方で貸倒れに係る消費税額の控除が生じうる |