令和5年度の税制改正で電子帳簿保存法が改正され、2024年からのスキャナ保存制度はこれまで普及を阻んでいた要件が次のように緩和され、使い勝手の観点からさらなる改善がみられました。
- スキャナで読み取った際の解像度・階調・大きさ情報の保存の廃止
- 入力者等の情報の確認要件の廃止
- 証票類と帳簿の関連性の確認が重要書類のみに限定
これまで上記1の大きさ情報の保存が、最も頭の痛い問題の一つでした。
これまでは、受領者等が読み取る場合に限って、A4以下の書類の大きさに関する情報は保存不要でした。受領者等が読み取らない場合は、すべての書類の大きさ情報(縦〇〇mm、横〇〇mm)を保存する必要があり、社内フローを確立する際のハードルとなっていました。
今回の改正でこれが廃止されたことで、かなり使い勝手の良い制度になった印象です。
この新しくなったスキャナ電子保存制度について元国税調査官・税理士が一般の方に向けてわかりやすく、そして詳細に解説します。
特にスキャナ保存の要件は深掘り解説し、実際実務では何が障害になり、どのように運用するのが効率的か、そして導入すべきかどうかの指針までお示しします。
そしてこの記事は中小企業向けに対象を絞って解説してきます。
なお、この記事は新しい電子帳簿保存法の区分に応じた3部構成になっていて、さらにその要点をまとめた電簿法攻略バイブルという4つの記事で構成されています。
- 新電子帳簿保存法で会計ソフト等で作成の帳簿書類を電子保存する方法
- 新電子帳簿保存法のスキャナ保存をわかりやすく徹底解説
- 新電子帳簿保存法の電子取引は紙での保存廃止!全事業者対象
スキャナ保存の解説に入る前に電子帳簿保存法の全体像を改めて確認しておきましょう。
1 電子帳簿保存法の領収書等のスキャナ電子保存とは
電子帳簿保存法と一言で言っても、その実態は、実は次の3つに大きく分類されています。
-
- コンピュータを使って自社が作成する帳簿書類の電子保存
- スキャナ電子保存
- 電子取引情報の電子保存
電子帳簿保存法の全体像はつぎのとおりです。
電子保存の種類 | 対象書類 | 保存方法 |
---|---|---|
❶ 自己が最初から一貫してコンピュータで作成したデータの保存 | ① 帳簿(仕訳帳・総勘定元帳・売上帳・仕入帳等) ② 書類(決算書・契約書・領収書の発行控え等) |
オリジナルの電子データ又は出力した紙 |
❷ スキャナ保存
|
受領した契約書・領収書等
|
スキャンした電子データ又は出力した紙
|
❸ 電子取引情報の電子保存 | 電子的にやり取りされた契約書・請求書・領収書等 | オリジナルの電子データ |
この記事のテーマである「スキャナ保存」は上の表の❷が該当します。
この表の❷は、注文書、契約書、領収書等を受領した場合、またはこれらの書類を発行する側は、その控えを電子保存または紙で保存することができることを表しています。
つまり、電子帳簿保存法でのスキャナ保存の意義は、
次の書類を一定の条件で読み取りを行なって電子的に保存した場合に、税法で義務付けられた書類の保存が適正に行われているものとして扱われる。
-
- 相手から受領した注文書、契約書や領収書等
- 自己が作成した注文書、契約書や領収書等の書類の控え
という制度です。
これまでは、法律で決められている帳簿書類の保存期間中※に、これらの書類を紙でファイリング等して保管してきたわけですが、スキャナ電子保存制度を活用すれば、これらの書類を電子化してコンピュータ等に保管して、元の紙の資料は破棄してよいことになります。
ー 紙保存とスキャナ保存の比較 ー
これまでの紙保存 | スキャナ保存 |
注文書、契約書や領収書等(控えを含む)をファイリング等して保管 |
|
※(参考)法人の帳簿書類の保存期間について、次の記事で詳しく解説しています。

2 電子帳簿保存法 スキャナ電子保存の導入メリット
スキャナ電子保存を導入することで得られる主なメリットは大きく4つ挙げられます。
-
- 保管コストの削減
- 検索の利便性アップ
- データ紛失リスクの軽減
- どこからでもデータにアクセスできる(テレワーク)

2-1 保管コストの削減
スキャナ電子保存の導入メリットでまず第一に挙げられるのは、この保管コストの削減でしょう。
取引関係書類を電子化して保存し、元の紙の資料を廃棄できるということは、これまで個人事業主では最長7年、法人では最長10年紙で保管しているわけで、規模の大きい会社であれば、倉庫に保管しているということもあるでしょう。
規模の小さな会社であってもファイリングした書類を保管する書棚やキャビネを用意し、ファイリングのためのバインダー等の文具類や印刷する場合にはトナーや紙が必要でした。
またファイリングしたり、保管場所に移す作業等の事務処理にも時間を費やしてきました。
これらのコストを大幅に削減することができます。
2-2 検索の利便性アップ
スキャナ電子保存の要件の中には次の3つの事項を検索可能であることが挙げられています。
-
- 取引年月日
- 取引金額
- 取引先
つまり電子化された書類を最低でもこの3つの内容で検索が可能になります。
例えば、紙で保管している場合、古い書類は倉庫に段ボールで保管しているケースを考えてみましょう。
過去のある契約書の確認が必要になったとしたら、倉庫まで行き(この倉庫が遠方な場合悲惨です。)、入っている段ボールを見つけ出し、さらにその段ボールの中から該当の契約書のファイルを見つけ出し、さらにそのファイルの中から該当の契約書を見つける必要があります。
しかし、電子化されていれば、自分の席のパソコンで取引年月日を範囲指定し、取引先を指定して検索すればあっという間に見つけることができるのです。
2-3 データ紛失リスクの軽減
紙で保存されている場合、水害や火災などがあれば失われてしまう可能性が高いです。
それに対して電子化している場合には、バックアップを適切に取っていれば災害があったとしても、データ場所が災害があった場所でなければ(例えばクラウド)無傷ですし、災害場所にデータがあったとしてもバックアップデータを別の場所に保管していればバックアップデータから復旧可能です。
2-4 どこからでもデータにアクセスできる(テレワーク)
電子化されたデータをクラウド上に保管すれば社外からもアクセス可能です。契約書を確認する必要が突然出てきたとしても社外からいつでもアクセスできます。
また、取引書類にどこからでもアクセスできるので、経理担当者も自宅でできる仕事も大幅に増えるでしょう。
社員が自分でスキャナやスマホで領収書を電子化できれば経費精算のためだけに出社する必要もなくなります。
このようにテレワークを加速させる可能性があります。
以上スキャナ電子保存の主な導入メリットを4つ挙げてみました。
そのほかにもクラウド会計等でスキャナ保存した画像から日付や金額、取引先名等を取得できるサービスを利用することで経理の自動化を促進させられるかもしれません。
コピーを使う必要も激減しますので紙やトナーの使用量が減りますので、エコという面もあります。
スキャナ電子保存を実現できればこのような少なくないメリットを享受することができます。

確かに便利そうですね。
ところでスキャナ保存っていわゆる「スキャナ」で読み込んだものだけが対象なのでしょうか?

それでは次に、どのような機器の使用が可能なのかみていきましょう。
3 電子帳簿保存法 スキャナで読み込みとは
電子帳簿保存法で言うところのスキャナで読み込むとは、次のことをいいます。
このようにスキャナ保存とは、スキャナを使って読み込むだけでなく、スマホやデジカメによる撮影も認めれられます。

どのような書類がスキャナ保存できるのかもう少し詳しく知りたいです。

それでは、詳しくみていきましょう。
4 スキャナ電子保存の対象となるものとは
どのような書類をスキャナ保存できるのか。
-
- 取引に関して、相手方から受け取った領収書、注文書、契約書、送り状、見積書その他これらに準ずる書類
- 自己の作成した上記の書類でその写しのあるものはその写し
厳密に言うと、以下のリンクで説明している国税関係書類のうち、決算関係書類を除いたもの(=「取引関係書類」)が対象となります。
会社取引に関する帳簿書類をなんでもできるわけではなく、これらの書類だけがスキャナ保存が可能です。
逆に次の書類はスキャナ保存できません。
※国税関係帳簿については、次の記事で詳しく解説しています。

つまり、これらのスキャナ保存の対象となっていない書類をスキャンして、これから説明する要件をすべて具備していてもスキャナ保存制度の対象ではないので、紙で保存していないとこれらの書類を税法の規定どおり保管していることになりません。
これらの決算関係書類や国税関係帳簿は、冒頭の表で説明した❶の「自分がコンピュータを使って作成した帳簿書類の電子保存」で保存することになります。その方がずっと自然ですのでわざわざ紙で出力してそれをスキャンするということ自体相当稀でしょう。この点を頭の片隅に置いておいてもらえれば実務で間違えることはないと思います。

やってみようかしら?
スキャナ保存の要件が緩和されたみたいだけど簡単にできるのかしら?

新しい電子帳簿保存法で要件がどこまで緩和されたか次第ですよね。
導入コスト < 導入メリット
となるときだけ導入することになるので、そうなるかどうかスキャナ保存するための要件をみていきましょう。少し長くなりますよ。
5 スキャナ電子保存の要件とは
スキャナで読み込んだ国税関係書類は、どのような手続きを踏むことで電子保存ができるようになるのか。
その要件として、主な3つの要件とその他の要件を具備する必要があります。
主な3つの要件は次のとおりです。
- タイムスタンプ等の付与要件
- 一定のディスプレイとカラープリンタの用意
- 検索機能の確保
つまり、これらの要件を満たさない場合は、電子保存が認められず、従来どおり紙で保存しなければならないということになります。
スキャナで取り込んでその元資料を廃棄したまではよかったが、この要件を満たしていなければ何も資料がないことになり、税法違反になってしまいます。(税法違反になった場合のペナルティについては後述)
このような理由からこれから説明する要件は要チェックです。
5-1 タイムスタンプ等の要件
スキャナ電子保存の要件の一つ目として、以下の2点が挙げられます。
-
- 一定の期間内にスキャン+タイムスタンプの付与等を行う
- スキャンしたデータにタイムスタンプの付与またはその代替手続きを取る必要がある
⑴ 一定の期間内のスキャン+タイムスタンプの付与等を行う
一定の期間とは、スキャンする書類の種類により異なります。
書類の種類とは次の2種類です。
- 重要書類:資金や物の流れに直結する書類
- 一般書類:重要書類以外の書類
資金の流れに直結する書類(重要書類)の例として領収書が挙げられます。
「お金を受領」→「領収書を交付」という流れがあります。
お金が動かなければ領収書が発行されることはないので資金の流れに直結していると言えます。
また納品書は、商品を納品する際に発行され、相手方に交付されるので、物の流れに直結していると言えます。
重要書類のスキャナ保存と一般書類のスキャナ保存では要件が異なります。
その違いを一覧にしました。
書類の具体例 | 電子保存要件 | |
---|---|---|
重要書類 |
これらの書類を発行する側はこれらの控え |
❶おおむね7営業日以内 ❷その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後、おおむね7営業日以内に ❶または❷の期間内にスキャンしてタイムスタンプ付与(またはタイムスタンプに代替する方法) |
一般書類 |
これらの書類を発行する側はこれらの控え |
❶おおむね7営業日以内 ❷その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後、おおむね7営業日以内に ❸適宜(入力期間制限なし) ❶もしくは❷の期間内、または❸ ❶❷の期間を過ぎたら適宜スキャンしてタイムスタンプ付与(またはタイムスタンプに代替する方法) |
(出典 電子帳簿保存法一問一答問2)
重要書類のスキャナ保存と一般書類のスキャナ保存での要件の違いはスキャン+タイムスタンプ等をする期間制限の厳格さです。
重要書類については、作成又は受領後、次のいずれかの期間内にスキャン+タイムスタンプ等をする必要があります。
-
- ❶おおむね7営業日以内※1
-
- ❷その業務の処理に通常要する期間※2(最長2ヶ月)を経過した後おおむね7営業日以内
一般書類は、作成又は受領後、
をするか、⑴の期間を過ぎたものは
をすることになっています。
(国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答の問48参照)
つまり、期間制限が一応設定されますが、
ということです。
そして一般書類に関しては、いつからでも電子保存が可能です。
※1 おおむね7営業日とは
おおむね7営業日以内とは必ず7営業日以内でなくてはならないというわけでなく、国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答の問21では、次のように説明されています。
業種業態によっては必ずしも7営業日以内に入力することができない場合(例えば、毎日事務所へ出勤しない勤務形態の社員が受領した書類の入力等)も考えられ、それらを一律に排除することは経済実態上合理的ではないことから、おおむね7営業日以内に入力すれば速やかに入力しているものとして取り扱うこととされています。
また、おおむね7営業日で入力できないような特別な事由が存在する場合には、その事由が解消した後直ちに入力することによって、…速やかに入力する目的は達せられると考えられます。
※2 その業務の処理に係る通常の期間とは
その業務の処理に通常要する期間とは、国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答の問10では次のように解説しています。
それは、企業等においては…書類の処理などの業務を一定の業務サイクル(週次及び月次等)で行うことが通例であり、また、その場合には適正な入力又は処理を担保するために、その業務サイクルを事務の処理に関する規程等で定めることが通例であるという共通した考え方によるものですが…中略…
その業務とは、企業等における書類の事務処理と考えられることから、その期間については、国税関係書類の受領等からスキャナで読み取るまで又は受領等からタイムスタンプを付すことができるようになるまでの業務サイクルの期間をいいます。
つまり、次のように読むことができます。
その業務の処理に通常要する期間とは、国税関係書類の処理を一定の業務サイクル(週次や月次など)で行うことが通例で、それを事務処理規程等で定めて運用している場合は、その業務のサイクルの期間をいうと理解できます。
国税庁の文書では次のようにも言われています。
事務処理期間については、最長2か月の業務サイクルであれば通常の期間として取り扱われる
つまり、領収書等の国税関係書類の事務処理は、週次や月次で行われるのが一般的だが、2ヶ月に1度の処理ならOK、という意味です。

前述の❶おおむね7営業日と❷最長2ヶ月後7営業日のようになぜ2つ期間の要件があるのでしょうか。

それは❶の期間が通常で、ある要件をクリアしている場合に限り特別に❷のように❶より長い期間を設定することが可能なのです。
詳しく説明します。
❶7営業日以内 と ❷最長2ヶ月後7営業日以内の違い
原則は、「7営業日以内」にスキャンとタイムスタンプの付与等を終える必要があります。
ただし、次の要件を満たす場合は、
この要件を満たしている場合に限って、その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後おおむね7営業日以内にスキャン+タイムスタンプ等でスキャナ要件を満たします。
そうでない場合は、領収書等の国税関係書類の受領(または作成)してからおおむね7営業日以内にスキャンしてタイムスタンプ(またはタイムスタンプに代替する方法)を付与する等の必要な処理を完結する必要があります。
整理すると、スキャンしてタイムスタンプ(またはタイムスタンプに代替する方法:後述)を付与する等の処理を行う期限の要件は次のようになります。
事務処理規程あり | 事務処理規程なし |
---|---|
その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後、おおむね7営業日以内 | おおむね7営業日以内 |

なんとなくわかったような気がするのですが、具体的に実務でする場合には、どうなるのかしら?

具体例を出して「その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後、おおむね7営業日以内」という部分を実務に当てはめて考えてみましょう。
その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後おおむね7営業日以内に実務で実施することを考える
事務処理のサイクルについて具体的に考えてみましょう。次のようなケースが考えられます。
例えば、
経費精算のケース
経費精算に関しては、次のような社内規定を作ったとします。
- 【支払った社員】経費を支払った場合は、領収書を受領した月の翌日10日までに経費精算すること
- 【経理担当者】 経費精算が提出された月の翌月末日までに処理すること
8/1に領収書を受け取った場合、9/10までに経理部に提出され、9/30までに処理されることになり、2ヶ月以内のサイクルで回すことができます。
そしてスキャンは10/1から7営業日以内に行います。
経費精算以外のケース
経費精算以外の書類に関しては、次のような社内規定を作ったとします。
8/1に契約書を受け取った場合、9/10までに経理部に提出され、9/30までに処理されることになり、2ヶ月以内のサイクルで回すことができます。そしてスキャンは10/1から7営業日以内に行います。
実務では、このように業務の処理に通常する期間を設定することができるでしょう。
最長2ヶ月+7営業日に期間を延ばすための事務処理規程とは?
事務処理規程を定めている場合に限って、その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後おおむね7営業日以内にスキャン+タイムスタンプ等でスキャナ要件を満たすということでしたが、具体的にはどのような事務処理規程を作成すればいいのでしょうか。
スキャナ保存の期限を伸ばすための事務処理規程のサンプルを国税庁が公表しています。
入力期限要件をクリアする運用難易度:低い〜高い
ここで、スキャナ保存は実務で使えるかという視点でこの事務処理規程作成の難易度を測定したいと思います。
国税庁が示している事務処理規程のサンプルを見ると、その複雑さに愕然としたと思います。
事務処理規程の作成は明らかに難易度が高いです。

個人的にはスキャナ保存の普及を阻む最大の要因の一つがこの事務処理規程の作成要件だと思っています。
重要書類に関しては事務処理規程を作らないと一律におおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプになるので、これも難易度が高いと言わざるを得ません。ある社員がこれをやらなかったらそれでアウトです。全社的に一律に行うのは難易度が高いでしょう。
重要書類に関して最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内の難易度は中くらいでしょうか。
事務処理規程をすでに設けている場合は、最長2ヶ月という期間を超えない範囲で運用すればよいことになります。
一般書類の適宜スキャンはかなり運用しやすく難易度は低いでしょう。
スキャナの保存期限要件に関する難易度測定結果一覧
要件 | 難易度 |
---|---|
事務処理規程の作成 | 高 |
おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプ | 高 |
最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプ | 中 |
一般書類の随時スキャン+タイムスタンプ | 低 |

中小企業の立場に立って、保存期間要件に関して実務で行うならどうするかという意見を言わせてもらいます。

テレワークを推奨している会社では、社員が経費精算する際に、出勤の都度領収書を持参させて処理するというのは、社員や経理担当の両方が面倒な思いをしているかと思います。
これが7営業日以内にスキャン処理できれば、出社する必要も領収書を保管する必要もないので、経費精算業務が改善されると思います。
期限内に処理とはスキャンをすればよいのか
これまで期限内に行うという解説を長々と行なってきましたが、これは、この期限内にスキャンをすればいいということではありません。
スキャンをした上で、次に解説するタイムスタンプ付与またはタイムスタンプに代替する方法で保存する必要があります。
ここまで、スキャナ保存をするための処理期間要件について解説してきました。
ここからは、タイムスタンプ付与またはタイムスタンプに代替する方法について解説していきます。
⑵ タイムスタンプ付与またはタイムスタンプに代替する方法とは
続いて「スキャンした後に、タイムスタンプ付与またはタイムスタンプに代替する方法」について説明します。
- 記録事項が変更されていないことについて、その国税関係書類の保存期間を通じ、その業務を行う者に対して確認する方法その他の方法により確認することができること。
- 課税期間中の任意の期間を指定し、当該期間内に付したタイムスタンプについて、一括して検証することができること。
これまでスキャナ保存が普及しなかった理由の一つが、このタイムスタンプを付与しなければならなかったというこの要件だったでしょう。コストもかかりますので。
しかしこの部分に改正が入り、タイムスタンプを付与することが難しければ、その代わりに次の2つの要件を満たしていればタイムスタンプの付与は不要となりました。
- スキャナで取り込んだデータの訂正または削除した事実と内容を確認することができるシステム(訂正または削除を行うことができないシステムを含む。)で保存
- システムに入力期間内に入力したことを確認できる時刻証明機能を備えている
詳しくは国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答の問30で次のように解説しています。
訂正削除履歴の残る(あるいは訂正削除ができない)システムでタイムスタンプ付与の代替要件を満たすためには、タイムスタンプが果たす機能である、ある時点以降変更を行っていないことの証明が必要となり、保存義務者が合理的な方法でこの期間制限内に入力したことを証明する必要があると考えられます。 その方法として、取扱通達4-26 では例えば、SaaS型のクラウドサービスが稼働するサーバ(自社システムによる時刻の改ざん可能性を排除したシステム)がNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバ)と同期しており、かつ、スキャナデータが保存された時刻の記録及びその時刻が変更されていないことを確認できるなど、客観的に そのデータ保存の正確性を担保することができる場合が明示されています。
クラウドサービスに領収書をアップロードした場合に、そのデータ自体を直接ユーザが触ることはできません。クラウドサービスを通じて削除または訂正することになります。
その際に削除・訂正履歴が確認でき、入力した正確な時間がわかるのであればタイムスタンプをいちいち付与する必要がなくなります。
タイムスタンプ等の運用難易度:低い
このスキャナ電子保存の制度を独自に導入するというのはコストの面でも現実的でなく、また、国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答の問31でも「時刻証明機能を他社へ提供しているベンダー企業以外は自社システムによりタイムスタンプ付与の代替要件を満たすことはできないと考えられます。」と示されています。
したがってこの運用難易度を測る場合は、以下のスキャナ保存の要件をクリアする何らかのサービスを利用することを前提とします。
タイムスタンプを付与できるサービスを利用するか、または保存したデータの削除・訂正履歴が管理できるサービスを利用する必要があるかと思います。そういうサービスを利用できれば難易度は低いと言えるでしょう。
ただし、このようなサービスを利用する場合、無料でというのは難しいということもポイントです。サービス利用料を支払う必要があるという側面を考慮するとハードルは上がりますが、この難易度の評価は純粋に「手間」のみを考慮して判断することとします。
一つ目の要件がかなり長くなりました。続いて2つ目です。
5-2 一定のディスプレイとカラープランタを用意
電子保存されたデータが調査官が確認できる必要がありますので、ディスプレイとプリンタを備え付けておく必要があります。
条文では以下のように表現されています。
国税関係書類に係る電磁的記録の保存をする場所に当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、映像面の最大径が三十五センチメートル以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をカラーディスプレイの画面及び書面に、次のような状態で速やかに出力することができるようにしておくこと。イ 整然とした形式であること。ロ 当該国税関係書類と同程度に明瞭であること。ハ 拡大又は縮小して出力することが可能であること。ニ 国税庁長官が定めるところにより日本産業規格Z八三〇五に規定する四ポイントの大きさの文字を認識することができること。
14インチ以上のカラーディスプレイとカラープリンタを用意する運用難易度:低い
この要件をクリアするのは、一般に流通している普段使用している14インチ以上のディスプレイとカラープリンタがあれば十分なはずです。事業をしている方の多くがすでに持っていると思われますので運用難易度は低いでしょう。
続いて3つ目の要件です。
5-3 検索機能の確保
電子保存したデータを、次の条件でコンピュータ上で検索することができる必要があります。
- 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先の検索できること
- 日付又は金額に関する情報についてはその範囲を指定して条件を設定できること
- 二以上の任意の情報を組み合わせて条件を設定できること
なお、国税調査官の求めに応じて電子保存したデータをダウンロードさせる場合には、⒉日付と金額の範囲指定と⒊二以上の任意の主要な項目を組み合わせて検索できる機能を用意する必要がありません。
裏を返せば、国税調査官の求めに応じない可能性がある場合には、日付と金額の範囲指定と二以上の任意の主要な項目を組み合わせて検索できる機能を用意する必要があると言えます。
こちらも実務では、スキャナ保存のために利用するサービスが電子帳簿保存法のこの要件を具備しているか(電子帳簿保存法のスキャナ電子保存に対応しているか)を確認して使用すれば問題ないかと思います。
なお、実際の規定には、上記3つの要件以外にも、この電子保存に使用する「電子計算機処理システムの概要書その他一定の書類」の備え付けも要件に入っているのですが、自社開発のシステムやソフトでなければこの書類の備え付けは不要となりますので、一般的に利用されているサービスを使用する場合は、この要件は不要です。(電子帳簿保存法施行規則第2条⑵一)
検索機能確保の運用難易度:中
検索機能確保の難易度を評価する際は、前述のとおりそれを実現させるサービスを利用することを前提にします。
そのようなサービスを利用すれば検索する機能としては絶対にある機能ですので、その点だけ見れば導入は容易でしょう。
しかしながら、日付、金額、取引先の情報で検索を可能にするということはその情報をデータ化する必要があります。OCRの読み取りでどこまで読み取れるかによって負担が変わってきます。
弥生会計のスキャンデータ読込の解説を読むと「OCR処理は、読み取り精度を保証するものではありません。手書き文字は対象外となります。」このように記載されています。
いずれにしても正確にデータ化されているかの確認は必要になり、必要があれば補正する必要があります。
一つ一つの作業は大したことはありませんが、スキャナ保存する度に毎回しなければいけないというのはかなり面倒な作業になってくると思われます。このようなことを考えると難易度は中程度でしょう。
ここまで3つの主要な要件について説明してきました。
要件が緩和したとはいえ、難易度の高いものもいくつかありました。
要件はこれだけではなく、一つ一つは細かいですが、容易ではない要件がこの他にもまだまだ続きます。
5-4 その他の機能の確保
その他の細かい要件を一覧にすると次のようになります。
要件 | 重要書類 | 一般書類 |
---|---|---|
❶ 一定水準以上の解像度(200dpi 以上)による読み取り | ||
❷ カラー画像による読み取り(赤・緑・青それぞれ 256 階調(約 1677 万色)以上) | グレースケールでOK | |
❸ ヴァージョン管理(訂正又は削除の事実及び内容の確認等) | ||
❹ スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持 |
それぞれの要件を細かく見ていくことにしましょう。
❶ 一定水準以上の解像度(200dpi 以上)による読み取り
重要書類と一般書類ともにこの要件を満たす必要があります。
重要書類 | 一般書類 |
---|---|
実務で考えられる一般的なスキャナ機器を使うケースとスマートフォンを使うケースでこの200dpi以上の解像度以上でスキャンする方法について考えてみます。
❶-1 スキャナで保存する場合の解像度
一般的なスキャナで読み取るときには、解像度は設定できるので、200dpi以上を設定します。
(設定例)canonプリンタ
カラーの場合
グレースケールの場合でも200dpiが選択可能
❶-2 スマートフォンやデジカメ等で撮影した場合の解像度
スマートフォンやデジカメ等で撮影した場合の解像度は、A4サイズで2,388画素(ピクセル)×1,654画素(ピクセル)= 3,867,052画素(ピクセル)以上必要になります。
例えばMacではFinderの「情報を見る」で次のように表示されます。
3,024×4,034であることがわかります。単位はピクセルです。
Macのアプリ「プレビュー」でも次のようにサイズを確認できます。
実務では、おそらくスキャナ保存のアプリなどを使用することにした場合、電子帳簿に対応していることを確認し、対応していれば、この要件はシステム上でクリアするようスキャンまたは撮影できるようにになってると思います。
例えばMFクラウド経費の場合は、このような解説をしていました。
一定の解像度以上での読み取りの導入難易度:低い
スキャナはスキャンする前にスキャナの設定を決めておけば自動で要件がクリアされる点で容易です。スマホやデジカメの撮影も今のものであれば、普通に撮影していれば要件はクリアされる点を考慮すれば難易度は低いでしょう。
❷ カラー画像による読み取り(赤・緑・青それぞれ 256 階調(約 1677 万色)以上)
これは重要書類に適用され、一般書類はグレースケールでよいことになっています。
重要書類 | 一般書類 |
---|---|
グレースケールでOK |
❷-1 スキャナでの読み取りの場合
256階調(1677万色)とは、RGB各色8bitという意味で24bit画像と呼ぶそうです。
ちなみに私が自宅で使っている安いCanonの複合機のスキャナ仕様をみると次のようにこのように24bit、各色8bitに対応していることがわかります。
(参考)Canonの仕様ページ
おそらく一般流通している多くのスキャナはこの要件をクリアしていると思いますが、一度スキャン前に調べてみて要件を超えていることを確認しておきましょう。
❷-2 スマホやデジカメ等での写真を利用する場合
スマホやデジカメで撮影した場合は、基本的には.jpegで保存することで各色8bit、24bit画像に対応します。
jpegファイルになっていればこの要件はクリアしていることになります。
また、写真データが持っているexif※情報にもこの情報が格納されています。
※ExifとはExchangeable Image File Formatの略で、撮影データやカメラの設定データを画像データに保存できるデジタルカメラ用のフォーマットです。いちいち撮影データのメモをとらなくても、画像ファイル内に自動的に撮影日時、シャッタースピード、絞り値、露出補正値、ISO感度、レンズの焦点距離、ホワイトバランスなどの撮影データが記録されます。撮影データはカメラ本体で表示できるほか、カメラの付属ソフトや市販ソフトなどのExifに対応する画像ソフトでも参照することができます。
Macの「プレビュー」アプリでexif情報を表示すると次のように表示されます。
カラーモデルがRGBで、ビット深度が8、つまりRGB各色8bitであることがわかります。
❷-3 256階調以上での読み取りの導入難易度:低い
スキャナの場合は、対応したスキャナを購入すればいいし、一般流通しているスキャナは一般的にはこの要件をクリアしていることを考えれば容易です。
また、写真の場合は、jpegで保存していれば要件はクリアされるのでこれも容易です。よって導入難易度は低いでしょう。
❸ ヴァージョン管理(訂正又は削除の事実及び内容の確認等)
スキャナ保存の要件であるヴァージョン管理とは、次に掲げることを全て満たすものである必要があると国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答の問32では解説しています。詳しくは同問33をご覧ください。
- ① スキャナで読み取った電子データは必ず初版として保存し、既に保存されているデータを改訂したもの以外は第2版以降として保存されないこと。
- ② 更新処理ができるのは一番新しいヴァージョンのみとすること。
- ③ 削除は物理的に行わず、削除フラグを立てるなど形式的に行うこととし、全ての版及び 訂正した場合は訂正前の内容が確認できること。
- ④ 削除されたデータについても検索を行うことができること。
このヴァージョン管理は重要書類と一般書類に共通して必要な要件です。
重要書類 | 一般書類 |
---|---|
ヴァージョン管理の導入難易度:低い
この要件をクリアしているサービスを利用すれば、この要件をクリアするために特別ユーザーが何かしなければならないストレスは少ないと思われるので難易度は低いでしょう。
❹ スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持
これは重要書類のみに必要な要件です。
重要書類 | 一般書類 |
---|---|
取扱通達の4-27では、例えばスキャン文書と帳簿の双方に伝票番号、取引案件番号、工事番号等を付し、その番号を指定することで、その番号を呼び出したときにスキャン文書と帳簿双方の内容を確認できる方法で関連性を確認できるとしています。
また結果的に取引に至らなかった見積書など、帳簿との関連性がないものも関連性がない書類として確認できるようにする必要があります。
国税関係書類(スキャン文書) | 国税関係帳簿(帳簿) |
---|---|
契約書 | 契約に基づいて行われた取引に関連する帳簿(例:売上の場合は売掛金 元帳等)等 |
領収書 | 経費帳、現金出納帳等 |
請求書 | 買掛金元帳、仕入帳、経費帳等 |
納品書 | 買掛金元帳、仕入帳等 |
領収書控 | 売上帳、現金出納帳等 |
請求書控 | 売掛金元帳、売上帳、得意先元帳等 |
(引用:取扱通達の4-28)
相互関連性の保持の難易度:低い
電子データと帳簿が紐づいているサービスを利用すればハードルは低いでしょう。ただし、取引に至らなかった見積書など、帳簿との関連性がないものは帳簿と紐づきませんので、通常の経費精算ソフトでは帳簿との関連性がない書類を電子保存することはできないでしょう。
その他の要件については、細かかったと思いますが、令和5年度の税制改正で、解像度・階調・大きさ情報の保存が廃止されたので、個人的にはかなり簡素化された印象です。
このあたりをしっかり理解した上で実際の運用では、この要件を効率的にクリアしてくれているクラウドサービスを選定するということが効率的にこのスキャン保存を運用する近道になると思われます。

うーん、正直要件が多すぎて覚えてられないほどね…

スキャナ保存するのに必要な要件の中でいくつか実務ではどう運用するか迷うもの、実際に運用することを考えたときに手間がかかりそうなものがあったと思います。それがスキャナ保存導入のハードルになります。いわばスキャナ保存のデメリットです。
ここでもう一度スキャナ保存のデメリットを整理したいと思います。
6 電子帳簿保存法 スキャナ電子保存の3つのデメリット
スキャナ電子保存のデメリットは主に3つ挙げられます。
- 要件をクリアするための人的コスト
- 要件をクリアするための費用負担
- 電子帳簿保存のためのサービスを利用している場合のサービスが終了するリスク
一つ一つ見ていくことにしましょう。
6-1 要件をクリアするための人的コスト
これまでスキャナ保存するための要件を長々説明してきましたが、要するにこれだけたくさんの要件をクリアする必要があるのです。これをするのはすべて「人」です。
もう一度スキャナ保存するための要件とその導入難易度を一覧で示します。
要件 | 難易度 |
---|---|
入力期間の制限(書類の受領等後又は業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに入力) | 低〜高 |
タイムスタンプ等の付与 | 低 |
見読可能装置(14 インチ以上のカラーディスプレイ、 4ポイント文字の認識等)の備付け | 低 |
検索機能の確保 | 中 |
一定水準以上の解像度(200dpi 以上)による読み取り | 低 |
カラー画像による読み取り(赤・緑・青それぞれ 256 階調(約 1677 万色)以上) | 低 |
ヴァージョン管理(訂正又は削除の事実及び内容の確認等) | 低 |
スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持 | 低 |
評価が低いとなっているのものは、電子帳簿保存に対応したサービスを利用するなどしてほぼ何もせず自動的にクリアされるものなので、デメリットにはなりにくい部分です。
デメリットとなる難易度中〜高の要件をピックアップしてみます。
要件 | 難易度 |
---|---|
⑴ 事務処理規程の作成 | 高 |
⑵ おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプ | 高 |
⑶ 最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプ | 中 |
⑷ 検索機能の確保 | 中 |
もう一度なぜ難易度が高いかをここでおさらいしておきましょう。
領収書等の国税関係書類の作成又は受領からその入力までの各事務の処理に関する規程を作成ということですが、これはかなり面倒でしょう。
サンプルをみていただければ、それがわかると思います。愕然とするはずです。
おおむね7営業日以内にいつ何時でもスキャン+タイムスタンプ等の処理をしなければならないというのも経理体制が相当しっかりしていないとほとんど不可能だと思われます。
事務処理規程を設けていれば最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプすればよいことになりますが、2ヶ月後に不測の事態が起きて訂正する必要が出るということも加藤成としてはありますし、事務サイクル的には2ヶ月を過ぎている会社も少なくないと思われますので、一律に2ヶ月以内に処理するというのは7営業日以内に比べれば楽ですが、少なからず負担だと思われます。
検索機能の確保のためにサービスを利用した場合、日付、金額、支払先の欄はすべて埋まっている必要がありますので、空欄になっているものはすべて補完入力する必要があります。
手書きの領収書等もありますので現状すべてのデータをOCRで読み込めるほど技術は進んでいません。必ず手入力が生じます。(入力してくれるサービスもありますがもちろん有料です。)数が多くなればかなり面倒です。
レシートは真っ直ぐに保管されておらず、丸まったり、折り曲げたりされた状態であることが多いでしょう。それをスマホで撮影するとなったら伸ばして撮影する必要があり、それも一苦労です。
複合機でスキャンする場合もそのデバイスによってはスキャナ本体のボタンでスキャンする場合に、無線LANで自分のPCに保存できなかったり、設定が面倒であったりと使い勝手が悪かったりするととたんに面倒になります。
このように人がスキャナ電子保存をするときにスキャン自体が負担に感じることが少なくないというデメリットです。
電子帳簿保存法が改正され、スキャナ保存の要件が緩和してもこれだけのハードルがまだ存在します。
6-2 要件をクリアするための費用負担
人的負担を減らすためには何らかのシステムを利用することが多くなるかと思います。
自社開発することはできませんので、クラウドソフトなどのスキャナ保存用のサービスを利用することになるでしょう。
そうなるとソフトの利用料が発生しますので、その費用を負担する必要があります。
6-3 スキャナ保存用のサービスが終了するリスク
クラウドソフトなどのスキャナ保存に対応したサービスを利用していた場合、法人で最長10年、個人事業主で最長7年のスキャナ保存したデータを保存する義務がありますが、会社は未来永劫続くものではありませんので、途中でサービスが終了になった場合、果たして電子データをすべて出力して、他のサービスに移すということが現実的に可能なのかという疑問があります。
そのサービスの利用を前提で電子帳簿保存を行なっていたわけですから、そのサービスが終了した場合どのような対応をしなければならないか未知数です。これは起きるかわかりませんが、起きたらかなりの負担になることは間違いないでしょう。

要件やデメリットが多すぎてスキャナ保存の導入メリットと導入コストを比較することが難しいわ。一体どうしたらいいの?

そうですよね。
結局のところ、スキャナ保存を適用するとして場合、どうするのが一番効率的かを整理してみたいと思います。それが自社で可能ならば導入が見えてくると思います。
7 スキャナ電子保存を最も簡単に導入する方法を考察
先に検討した導入難易度が低いものは導入の妨げにはならないので、前述した次の表に挙げられた難易度中または高の項目を攻略できれば一気に導入に舵を切れるので、その可能性をここでは考察したいと思います。
要件 | 難易度 |
---|---|
⑴ 事務処理規定の作成 | 高 |
⑵ おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプ | 高 |
⑶ 最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプ | 中 |
⑷ 検索機能の確保 | 中 |
⑴ 事務処理規程の作成を攻略
事務処理規程は、最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプを獲得するために必要であることは、これまで度々説明してきました。
これを作成しない方法はたった一つ。
ただこれは⑵で7営業日以内に全て処理は、難易度高いとなっているので、事務処理規程を作るという難易度「高」を一つ減らすことができますが、⑵の難易度「高」をしなければならないことに変わりはありません。
⑵ おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプを攻略
すべての重要書類をおおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプは、この期間内に処理できないことが必ず出てくるのではないかと思います。
1ヶ月分をまとめて処理しているということが往々にある中、スキャナ保存だけは7営業日以内というのはイレギュラーであり、かつ慌ただしくなり、事務処理に支障を来すおそれが高いように思えます。
⑶ 最長2ヶ月以内の業務サイクル後おおむね7営業日以内のスキャン+タイムスタンプの攻略
これは、淡々とこれをこなすしかありません。
重要書類の場合は、最長でこの期間までしか処理期限を伸ばすことはできません。しくしくとやるしかありません。
ただ2ヶ月間の処理は事務サイクルとしては決して短くはありませんので、しっかりとこの期間内にやるというように割り切ってやれば、事務処理が滞ることなく、経理もリアルタイムに近い報告ができるというメリットもありますので、これをやり切ると決めるというのは会社にとってはプラスになるのではないかと思います。
⑷ 検索機能の確保の攻略
スキャンしたときにOCRで日付、金額、取引先がすべて自動で正確に取得できればまったく負担はないわけですが、現在の技術だと完全にこれを行うのは無理なようです。
一つはこの読み取り機能が優れたサービスを使うことです。そうすれば、負担はかなり軽減されます。
もう一つは人の手で入力してくれるサービスを使うという手があります。もちろん費用負担はその分増えます。ちなみにMFクラウド経費だと1件あたり20円で入力してくれるそうです。

うーん、結局どうするのがいいのかしら?

小規模の会社がスキャナ保存を導入するなら次の方法のいずれかになると思います。
スキャナ保存の最も現実的な攻略法
個人的には次に挙げる2つの方法のいずれかを選択するのが妥当であろうと思います。
対象書類をすべてスキャナ対応する方法 | できる書類だけスキャナ対応する方法 |
|
|
一つ一つ見ていきましょう。
⒈ 事務処理規程を作る
事務処理規程を作るのは面倒ですが、一度作ってしまえば2ヶ月+おおむね7営業日以内の入力期限を手にできます。毎回おおむね7営業日以内に比べれば負担は小さいと思います。
とはいえ事務処理規程を作るはかなりの労力だと思います。なんとか頑張るしかありません。
⒉ 7営業日以内にスキャナ保存できるものだけ対応する
事務処理規程を作成するのがやはり面倒な場合は、取引があった時からおおむね7営業日以内にスキャナ保存処理できるものだけ行うという方法です。
この方法が個人的には最も容易に導入でき、スキャナ保存のメリットもかなり享受できる方法だと思います。
例えば、テレワークしている従業員の経費精算時に、支出から7営業日以内にスキャナ保存してもらえれば、領収書の現物を会社とやりとりするコストが削減されます。
この部分が省略できるだけでもかなり効率化が進むのではないかと思います。
⒊ 可能な限り入力事項を自動で取得できるサービスを利用する
日付、金額、取引先は保存しなければならないデータです。
これを可能な限り自動で取得できるものを探しましょう。
毎回のことなので、チリが積もっていきます。少しでもよいサービスを利用することが肝要でしょう。費用負担も考える必要があろうかと思いますので、コスパのいいサービスと言い換えてもいいかもしれません。

これがスキャナ保存をするにあたって最も効率的な方法です。
導入する気になりましたか?

懇切丁寧な解説ありがとうございました。
会社の現状を考えて検討したいと思います。
8 電子帳簿保存法 スキャナ保存のまとめ
ここまででスキャナ電子保存の要件を詳しく解説してきました。
そしてメリットとデメリットを洗い出しました。
今回のメリットとデメリットを比較して、メリットの方が大きければ導入に舵を切った方がよいでしょう。しかしながらデメリットの方が大きければ当然の帰結として今回は見送るという選択をせざるをえません。
みなさんよく吟味して、自身の会社に良い方を選択してください。それが良い結果に結びつくことを願っています。
スキャナ保存 個人的なぶっちゃけ総評
令和3年度の税制改正で改善されたと言っても、やはり書類の大きさ情報の保存というのがかなりネックとなり、個人的には導入する気にはなりませんでした。
しかしながら令和5年度で大きさ情報の保存が廃止されたのはかなり大きいと思います。
個人的には、これまでスキャナ保存は導入してきませんでしたが、今回の改正で社内でスキャナ保存の導入に舵を切りたいと思えるものでした。
最後にその他の注意を要する項目を解説してこの長い解説を終えたいと思います。
9 電子帳簿保存法 その他の注意事項
9-1 重加算税の加重措置が追加
スキャナ保存が行われた国税関係書類の電子データに関して、隠蔽又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されました。
これは不正を行わなければ関係ありませんので、このような規定があるという程度に抑えておけばいいでしょう。
9-2 要件に即した保存がされていなかった場合
例えば、事務処理規程を作らずおおむね7営業日を超えてスキャンしていたといったように要件を守っておらず、その元資料も破棄していた場合はどうなるのでしょうか。
それは税法で決められている保存すべき帳簿書類が保存できていないことになります。対象となっている帳簿書類と同じモノを紙で保存していれば問題ありませんが、そうでない場合は、税法に定められているとおりに保存されていないことになります。
その場合、税務上大きな問題となるのは次の2つです。
9-2-1 青色申告取り消し
青色申告の要件として、法定の帳簿の備え付けと一定期間の帳簿書類の保存が必要になりますが、それが法令どおりに行われていないことになりますので、要件に違反しており、取消しの理由になります。
青色申告が取り消されても文句は言えません。
そして青色申告でなくなると最悪の場合は、推計で課税標準を決められてしまうということも視野に入ってきます。
税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、…その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計して、これをすることができる(法人税法131条)
9-2-2 消費税の仕入税額控除の否認
消費税の申告・納税義務がある場合、仕入税額控除が認められないケースがあります。
違反していた書類が支払いに関するモノであった場合、仕入税額控除の適用を受けるためには、法定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が要件とされています。
(参考)No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項
これがないということになりますので、仕入税額控除が否認されても文句は言えません。
9-3 今回紹介したスキャナ保存はいつから適用できるのか
この「保存が行われる」とは、実際にスキャナ保存が行われることを意味しており、具体的には、スキャン+タイムスタンプ(代替策含む)が 完了した日がスキャナ保存の行われた日となります。
したがって、その業務の処理に係る通常の期間を最長の2か月で設定している場合は、最も早いもので、おおむね令和5年10月末頃に作成又は受領した国税関係書類について令和6年1月1日以後に入力が完了した場合には、その国税関係書類については、 「令和6年1月1日以後にスキャナ保存が行われる国税関係書類」に該当します。
(参考:国税庁発行の電子帳簿保存法一問一答問65)
2024年以降の新電子帳簿保存法のすべてを理解したい方はこちらをご覧ください。

(2023年7月6日現在すべての改訂作業が完了しておりませんので、一部2022年以降の解説となっているものがあります。)
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