特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例の要件(措法41の5の2)

損失繰越 住宅ローン

 

 

特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例とは

土地や建物を売ったときの税金の計算は、次のように行われます。

① 土地や建物を売った金額 ー 取得費と譲渡費用 = 譲渡所得

② 譲渡所得 × 税率 = 税金

住宅ローンのあるマイホームを売却したときに譲渡所得がマイナスである場合には、一定の要件を満たすものに限ってそのマイナスの金額を譲渡所得以外の所得給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができる。

また、損益通算を行っても控除しきれなかったマイナスの金額は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除(繰越控除)することができる。

以上2点が今回取り上げる特例の内容です。

例で考えてみます。住宅ローンのあるマイホームを売却しました。

  1. 令和2年分の給与所得が500万円の人が売却した
  2. 譲渡所得が1,500万円のマイナスであった

このようなケースにおいて、特例を適用すると次のようになります。

特例適用後の全所得金額は500万円 – 500万円 = 0となります。

そして令和3年分には1,500万円 – 500万円 = 1,000万円分他の所得から控除できるマイナス分をあと3年間繰り越すことができます。

令和3年分の給与所得が600万円であった場合、次のようになります。

特例適用後の全所得金額は600万円 – 600万円 = 0となります。

そして令和3年分には1,000万円 – 600万円 = 400万円分他の所得から控除できるマイナス分をあと2年間繰り越すことができます。

 

ただし、この特例を適用するには、一定の要件を満たす必要があります。

その条件について、以下で詳しく確認していきましょう。

特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例の要件とは

1 売却した家屋とその敷地が日本国内に所在するか

売却した家屋とその敷地土地又は土地の上に損する権利)は日本国内に所在する必要があります。

2 贈与、出資により譲渡していないか

所有していた家屋とその敷地を贈与、出資により譲渡した場合はこの特例を適用できません。

3 譲渡資産は家屋・敷地ともに譲渡した年の1月1日において所有期間が5年超か

平成28年の譲渡の場合は、その譲渡した家屋・敷地を平成22年12月31日以前に取得している必要があります。

4 譲渡資産に住んでいたか

住んでいたかというのは、生活の拠点としていたか(居住の用に供していた)と言う意味で、次の点に留意してください。

  • 転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ、単身で他に起居している場合であっても、その事情が解消したときは、その配偶者等とまた暮らすこととなる場合には、その配偶者等が住んでいる家は、その者にとっても、生活の拠点といえる。
  • 上記も含め、生活の拠点となる家が2以上ある場合には、その者が主として生活の拠点としている家のみが特例適用の対象となる。
  • 別荘等の主として趣味、娯楽、保養の目的で有する場合は特例対象外。

5 転居した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しているか

平成28年の売却の場合、平成25年1月2日以後に所有者が転居している場合にこの特例は適用できます。

6 譲渡資産は家、土地共にあなたのものか

この特例は原則として居住用の家屋に適用され、その家屋の敷地は、特例の要件をクリアする家屋の敷地である場合にこの特例を適用することができます。

次の場合には注意が必要です。

 売却するために家屋を取り壊した場合

売却するために家屋を取り壊してその敷地を売却した場合は、次の要件をすべて満たしている場合に限り、特例の適用を受けることができます。

  1. 土地等は、その家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超えるものであること。(平成28年に取り壊したのであれば、平成22年12月31日以前にその家屋を取得)
  2. 土地等の譲渡に関する契約が、その家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、転居の日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。
  3. その家屋を取り壊した後譲渡に関する契約を締結した日まで、貸付けその他の用に供していない土地等の譲渡であること

 住まいの敷地の一部を区分して売却した場合

所有者が現に居住している家屋の敷地の用に供されている土地等(上記家屋を取り壊した場合の土地を含む)の一部を区分して譲渡した場合には、その敷地がその家屋の譲渡と同時に行われたものであるときは、この特例の対象となりますが、当該譲渡が当該家屋の譲渡と同時に行われたものでないときには、この特例の対象にはなりません。

 家屋と所有者と敷地の所有者が異なっている場合

家屋の所有者と敷地の所有者が異なっている場合、原則として敷地の所有者にはこの特例を適用することはできません。

ただし、次の要件を満たしていればこの特例を適用することができます。

⑴ 譲渡資産の要件
  1. 家屋と土地等の所有期間が、譲渡した年の1月1日において5年を超えていること。
  2. 家屋とともにその敷地が譲渡されているものであること。
  3. 家屋にその家屋の所有者と敷地の所有者がともに居住していること。(住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合は、その住まなくなった日の直前に住んでいたかで判断する)
⑵ その他の要件
  1. 譲渡した家屋と土地等の所有者のそれぞれが、その譲渡の契約を締結した日の前日において譲渡する資産に係る住宅借入金等の金額があること。
  2. 譲渡家屋の所有者と敷地の所有者が、ともにこの特例を適用して確定申告をしていること。

詳しくはこちらをクリックし、41の5の2-4を参照

7 売却先(買主)は第三者か

売却先(買主)が次に該当する場合は、この特例を適用することはできません。

  1. 譲渡者の配偶者・直系血族(祖父母、父母、子、孫等)
  2. 譲渡者の1.以外の親族で譲渡者と生計を一にしている
  3. 譲渡者の1.以外の親族で家屋が譲渡された後、譲渡者とその家屋に居住する者
  4. 譲渡者と婚姻の届出をしていないが、婚姻関係と同様の事情にある者及び婚姻関係と同様の事情にある者の親族でその者と生計を一にしている者(いわゆる内縁関係者等)
  5. 譲渡者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者及びその者の親族でその者と生計を一にしている者(1.〜4.に該当する者を除く)
  6. 譲渡者、譲渡者の1.、2.及び3.に該当する親族、譲渡者の使用人及びその使用人の親族でその使用人と生計を一にしている者並びに4.及び5.に該当する者(以下これらを「同族関係者」といいます。)を判定の基礎となる株主等とした場合に次の要件に該当することとなる法人(会社以外の医療法人などを含みます。)
  • ⑴ 同族関係者の有する株式の数若しくは金額又は一定の議決権の数が発行済株式の総数   若しくは総額又は一定の議決権の総数の50%超である法人
  • ⑵ 同族関係者及び⑴の法人の有する株式の数若しくは金額又は一定の議決権の数が発行済株式の総数若しくは総額又は一定の議決権の総数の50%超である法人
  • ⑶ 同族関係者及び⑴・⑵の法人の有する株式の数若しくは金額又は一定の議決権の数が発行済株式の総数若しくは総額又は一定の議決権の総数の50%超である法人

8 店舗兼住宅等の場合、居住用部分のみに適用しているか

居住用住宅と店舗等が併用されているような家屋を売却した場合は、居住用部分のみが特例の対象になります。

なお、居住用部分が全体の90%以上であるときは、全体を居住用に使っていたものとしてこの特例を受けることができます。

9 譲渡契約を締結した日の前日に譲渡した資産に償還期間10年以上の住宅借入金を有するか

譲渡契約を締結した日の前日において、譲渡した資産に係る住宅用の家屋の新築もしくは取得又はその家屋の敷地等の取得に要する資金に充てるために国内に営業所を有する一定の金融機関又は独立行政法人住宅金融支援機構から借り入れた借入金等で契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされている住宅借入金等の残高を有する必要があります。

ここでいう10年以上の期間とは、借入金等の債務を負っている期間をいうのではなく、最初の返済又は支払の時から返済又は支払が終了する時までの期間をいいます。

10 譲渡した年の前年、前々年に居住用財産関係の特例の適用を受けていないか

譲渡した年の前年、前々年に次の特例を受けている場合は、この特例を適用することができません。

  1. 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の税率の特例(措法31)
  2. 居住用財産を譲渡した場合の3000万円控除の特例(措法35)
  3. 特定の居住用財産の買換え(交換)の特例(措法36の2、36の5)

11 譲渡した年の前年以前3年以内に譲渡損失の損益通算の特例の適用を受けていないか

譲渡した年の前年以前3年以内にこの特例(措法41の5の2)、または居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5)を受けている場合は、この特例を適用することができません。

12 その他

繰越控除の適用を受ける適用初年度以降3年間のうち合計所得金額が3000万円を超えた年分については繰越控除の特例を受けることができません。

まとめ

以上のように特定居住用財産の譲渡損失繰越の特例を受けるための要件はかなり細かく決まっていますが、一つ一つのチェック項目はそれほど複雑なものはありませんので一つ一つ確認しながら誤りのないように慎重に進めていきましょう。

 

執筆者 ジャパンネクス株式会社代表 元国税調査官 税理士 海野 耕作

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